- 更新日 : 2025年10月22日
一人親方の請負金額「500万円」の壁とは?正しい計算方法と建設業許可の要否を解説
一人親方として事業を営む上で、請負金額は極めて重要な節目です。結論から言うと、一件の請負金額が消費税込みで500万円以上の工事を請け負う場合、原則として建設業許可が必要になります。もし無許可で請け負ってしまうと、厳しい罰則の対象となる可能性があります。
この記事では、一人親方なら必ず知っておくべき「500万円の壁」について、正しい計算方法、許可が不要な「軽微な建設工事」の定義、そして混同しやすい「常用契約」との違いまで、専門家がわかりやすく解説します。ご自身の事業を守り、さらなるステップアップを目指すための参考にしてください。
目次
そもそも「500万円の壁」とは何か?
建設業界で働く一人親方が、事業規模を考える際に必ず意識するのが「500万円の壁」です。これは建設業法によって定められた、建設業許可が必要になるかどうかのボーダーラインを指します。
税込500万円以上の工事には建設業許可が必要
建設業を営む場合、元請・下請を問わず、一件の工事請負契約の金額が500万円(消費税込み)以上になる工事を施工するには、建設業許可を取得しなければなりません。
なお、建築一式工事の場合は例外があり、1件の請負代金が1,500万円(消費税込み)以上、または延べ面積150㎡以上の木造住宅工事が許可の対象となります。 多くの一人親方は専門工事業(大工、とび、内装など)を営んでいるため、まずは「税込500万円」という金額を基準に覚えておくことが重要です。
根拠となる法律「建設業法」
このルールは、建設業法第3条に定められ、工事ごとの請負限度額は建設業法施行令において規定されています。建設業法は、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進することを目的とした法律です。一定規模以上の工事を請け負う者には、技術力や経営能力を担保するための許可を義務付けているのです。
許可が不要な「軽微な建設工事」の定義
逆に言えば、以下の「軽微な建設工事」のみを請け負う場合は、建設業許可は不要です。
- 建築一式工事以外の場合
- 1件の請負代金の額が500万円に満たない工事(消費税込み)
- 建築一式工事の場合
- 1件の請負代金の額が1,500万円に満たない工事(消費税込み)
- 延べ面積が150㎡に満たない木造住宅工事
多くの一人親方は、この「軽微な建設工事」の範囲内で事業を行っています。
請負金額500万円の正しい計算方法とは?
「500万円」という金額の計算方法を間違えると、意図せず法律違反を犯してしまう可能性があります。特に重要なポイントは「消費税」と「材料費」の扱いです。
判断基準は「税込」金額
建設業許可の要否を判断する際の請負金額は、契約書に記載された消費税込みの総額で判断します。税抜金額で判断するわけではないため、絶対に間違えないようにしましょう。
【具体例】
契約書の請負金額(税込) | 税抜金額(参考) | 建設業許可 |
---|---|---|
499万円 | 453.6万円 | 不要 |
500万円 | 454.5万円 | 必要 |
501万円 | 455.4万円 | 必要 |
このように、契約金額が499万9999円までなら許可は不要ですが、500万円ちょうどになった瞬間に許可が必要となります。見積もりや契約の際には、消費税込みの総額を常に意識することが不可欠です。
材料費は請負金額に含まれるか?
原則として、材料費も請負金額に含めて計算します。もし、元請業者や施主から材料が提供(無償支給)される場合、その材料の市場価格と運送費を請負金額に合算して判断する必要があります。
- 自分で材料を用意する場合: 材料費+工事費=請負金額
- 材料を支給される場合: (支給される材料の市場価格+運送費)+工事費=請負金額
「手間賃だけだから大丈夫」という安易な判断は危険です。
工事を分割しても合計金額で判断される
500万円以上の工事を、許可逃れのために意図的に400万円と200万円など、複数の契約に分割することは認められません。正当な理由なく契約を分割した場合、全体の合計額で判断されます。
もし無許可で500万円以上の工事を請け負ったら?
万が一、建設業許可がないまま500万円以上の工事を請け負ってしまった場合、厳しい罰則が科せられる可能性があります。
厳しい罰則のリスク
建設業法第47条に基づき、「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」という重い罰則が科される可能性があります。また、無許可営業で処分を受けると、その後5年間は建設業許可を取得できなくなります。
いわゆる「抜け道」は存在しない
「バレなければ大丈夫」「みんなやっている」といった考えは非常に危険です。コンプライアンス(法令遵守)が厳しく問われる現代において、無許可営業のリスクは計り知れません。いわゆる「抜け道」を探すのではなく、法律を正しく理解し、誠実に事業を運営することが、結果的に事業を長く続ける秘訣です。
「常用」と「請負」の違いは何か?
一人親方が現場で働く形態として「請負」のほかに「常用」があります。この二つを混同すると、「偽装請負」という別の問題に発展する可能性があるため注意が必要です。
- 請負契約とは
- 「仕事の完成」を目的とする契約です。一人親方は事業者として、納期内に成果物を完成させる責任を負います。現場での作業方法や時間配分などは、基本的に自らの裁量で決定します。
- 常用契約(準委任契約)とは
- 特定の作業に対して、自身の労働力や技術力を時間単位で提供する契約です。「職人さんを1日18,000円でお願いする」といったケースがこれにあたります。この場合、仕事の完成責任は負いません。
問題となるのは、実態は元請の指示通りに動く「労働者」に近いにもかかわらず、形式だけ「請負契約」を結ぶ偽装請負です。これは、元請が社会保険料の負担を逃れるために行われることが多く、労働者保護の観点から厳しく監視されています。一人親方自身も、偽装請負に加担しないよう、契約内容をしっかり確認することが大切です。
500万円超えが見えたら?建設業許可を取得するメリット
「500万円の壁」はリスクであると同時に、事業を拡大するチャンスでもあります。建設業許可の取得は、手間や費用がかかる一方で、それを上回る大きなメリットがあります。
- メリット1:高額な工事を受注でき、年収アップに直結 500万円以上の大規模な工事を請け負えるようになり、売上と利益を大幅に伸ばすことが可能です。
- メリット2:社会的信用度が格段に向上 許可業者であることは、経営能力や技術力の公的な証明です。金融機関からの融資や、顧客からの信頼獲得において非常に有利になります。
- メリット3:元請からの受注機会が増える コンプライアンスを重視する大手ゼネコンなどは、許可業者でなければ取引しないケースがほとんどです。仕事の幅が大きく広がります。
一人親方が許可を取得するための主な要件
建設業許可を取得するには、いくつかの要件をクリアする必要があります。
これらの要件を満たし、都道府県の窓口に必要書類を提出することで、許可を取得できます。行政書士などの専門家に相談するのも一つの方法です。
税込500万円の壁を理解し、事業の未来を描こう
一人親方にとって、請負金額「税込500万円」というラインは、事業の方向性を左右する重要な節目です。まずは、「税込金額で判断する」「材料費も含む」という正しい計算方法を常に意識し、無許可営業のリスクを確実に回避しましょう。
そして、もしあなたの事業が順調に成長し、500万円を超える案件が見えてきたのであれば、それは建設業許可を取得し、次のステージへ進む絶好のタイミングかもしれません。許可取得は、あなたの技術と経験を公的に証明し、より大きなビジネスチャンスを掴むための強力な武器となります。法律を正しく理解し、計画的な事業運営を心がけましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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