• 更新日 : 2025年8月20日

時間外労働の上限規制とは?2024年の変更点を厚生労働省の指針をもとにわかりやすく解説

2019年4月から施行されている改正労働基準法により、労働時間に関するルールが大きく変わりました。その中でも特に重要なのが、時間外労働(残業)の上限規制です。

これまで法律上は残業時間の上限が明確でなく、過労死や長時間労働が社会問題となっていました。そこで、働く人の健康を守り、ワークライフバランスを実現するために、法律で残業時間の上限が罰則付きで定められたのです。

この記事では、人事労務担当者から経営者、管理職の方まで、必ず知っておくべき労働時間の上限規制の基本から、2024年4月に適用された業種のルール、企業が取るべき対策まで、わかりやすく解説します。

時間外労働の上限規制とは

時間外労働の上限は、原則として「月45時間・年360時間」と法律で定められています。臨時的な特別な事情がない限り、この上限を超えることはできません。

時間外労働には、法定休日に行った労働は含まれませんが、法定外休日に行った労働は含まれる点に注意が必要です。

1日の労働時間の上限は8時間

労働基準法では、1日の労働時間の上限は8時間と定められています。上限規制は月単位や年単位の時間を定めたものですが、その起算点はこの1日8時間を超える部分です。

また、労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与えなければならないという規定も、1日の労働時間を管理する上で遵守すべき重要なルールです。

特別条項付き36協定は年6回まで適用

臨時的な特別な事情があり、労使が合意する場合には、特別条項付き36協定を結ぶことで、月45時間を超える残業が認められます。

しかし、この特例を適用できるのは年6回までです。もし7回以上、月45時間を超える残業が発生した場合、特別条項付き36協定を締結していても法律違反となります。

特別条項で認められる上限とは

特別条項付き36協定を結んだ場合でも、無制限に残業が許されるわけではありません。以下の上限をすべて満たす必要があります。

  • 時間外労働は年720時間以内
  • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満
  • 時間外労働と休日労働の合計について、「2ヶ月平均」「3ヶ月平均」「4ヶ月平均」「5ヶ月平均」「6ヶ月平均」がすべて1ヶ月あたり80時間以内

例えば、「年720時間」の範囲内であっても、ある月の残業と休日労働の合計が100時間を超えれば法律違反となります。

時間外労働の上限規制の変更点【2024年4月施行】

これまで、業務の特殊性から上限規制の適用が5年間猶予されていた以下の業種についても、2024年4月1日から新しいルールが適用されています。通称、2024年問題とも呼ばれ、各業界で対応が急がれています。

建設業

建設業においては、災害の復旧・復興事業を除き、時間外労働は原則として「月45時間以内」「年間360時間以内」に制限されています。特別条項付き36協定を締結した場合でも、年間の上限は720時間以内となります。

ただし、災害の復旧・復興事業に従事する場合は、月100時間未満、平均80時間以内の規制は適用されません。

運送業

原則として、時間外労働の上限は年960時間となります。

月100時間未満、平均80時間以内の規制は適用されません。また、月45時間を超える回数制限もありません。

医師

勤務する医療機関や業務内容によってA・B・Cの3つの水準に分かれ、それぞれ異なる上限時間が適用されます。原則として時間外労働の上限は年960時間(A水準)となりますが、地域医療の確保などのために長時間労働が必要となる特定の医師には、特例的に年1,860時間(B・C水準)の上限が適用されます。

時間外労働の上限規制が適用除外となるケース

働き方改革による上限規制は多くの労働者に適用されますが、業務の特性などから、一部適用が除外されるケースがあります。

新技術・新商品等の研究開発業務

新技術・新商品等の研究開発業務は、時期によって業務量が大きく変動し、個人の裁量に委ねる部分が大きいため、厚生労働省の規定により時間外労働の上限規制の適用除外とされています。

ただし、適用除外とはいえ、時間外・休日労働時間が月100時間を超えた労働者に対しては、医師による面接指導が義務付けられています。

労働基準法第41条に該当する者

以下の労働者は、労働時間、休憩、休日に関する規定の適用が除外されるため、時間外労働の上限規制も適用されません。

  • 管理監督者
    経営者と一体的な立場で、労働時間などの裁量を持ち、地位にふさわしい待遇を受けている者。ただし、「名ばかり管理職」は認められず、実態に基づき判断されます。また、深夜労働の割増賃金は支払う必要があります。
  • 監視・断続的労働従事者
    監視業務や、手待ち時間の長い断続的な業務で、労働基準監督署の許可を得た者。
  • 農業、畜産業、水産業、養蚕業の従事者
    天候など自然条件に左右される業務の特性から、適用が除外されています。

参考:労働基準法|e-Gov 法令検索

時間外労働の上限規制に関する厚生労働省の指針

厚生労働省は、各業種への上限規制適用にあたって、詳細なガイドラインやQ&Aを公開しています。特に2024年から適用が始まった業種については、円滑な移行を支援するための情報提供が積極的に行われています。制度の解釈に迷った際は、厚生労働省のウェブサイトやリーフレットで最新の公式情報を確認することが、誤った対応を防ぐ上で非常に重要です。

参考:時間外労働の上限規制 | 働き方改革特設サイト | 厚生労働省

時間外労働の上限規制に違反した場合の罰則

時間外労働の上限規制に違反して労働者に法定時間を超える労働をさせた場合、企業(および労務管理の責任者)には、6ヶ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科される可能性があります。労働基準監督署による監督指導も強化されており、「知らなかった」では済まされない厳しい対応が取られます。

時間外労働の上限規制を守るための企業側の対策

上限規制を遵守し、健全な経営を続けるためには、企業側も積極的な対策を講じる必要があります。ここでは、企業が取り組むべき具体的な方法を紹介します。

労働時間の正確な把握

まずは、労働時間を正確に把握することがすべての基本です。タイムカードやICカード、PCのログなど、客観的な記録による勤怠管理を徹底しましょう。自己申告制の場合は、実態との乖離がないか、サービス残業が横行していないかを定期的に確認する仕組みが必要です。正確な労働時間管理が、上限超過のリスクを未然に防ぎます。

36協定の見直し

現在締結している36協定が、最新の法律に適合しているか再確認しましょう。特に、特別条項の内容が、年720時間や月100時間未満、複数月平均80時間以内といった上限を満たしているか、厳密にチェックする必要があります。必要であれば、協定内容を見直し、労働者の代表と誠実に協議の上、改めて締結し直すことが大切です。

業務プロセスの見直し

長時間労働の根本的な原因となっている業務プロセスを見直すことも不可欠です。無駄な会議の削減、ITツールの導入による業務自動化、担当業務の平準化などを進め、限られた時間の中で生産性を高める工夫が求められます。全社的に業務効率化に取り組むことで、残業を減らし、働きやすい職場環境を実現できます。

労働時間の上限規制を遵守しましょう

労働時間の上限規制は、単に労働時間を短くすることだけが目的ではありません。労働者一人ひとりの健康を守り、生産性の高い働き方を促し、企業と社会全体の持続的な成長を支えるための重要な基盤です。2024年からの適用範囲拡大により、すべての企業がこの規制と真剣に向き合う時代となりました。自社の労働時間管理体制を今一度見直し、法律を遵守することはもちろん、社員が健康で意欲的に働き続けられる環境を構築していくことが、これからの企業経営において重要です。


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