- 更新日 : 2025年12月5日
メンター制度は意味ない?メリット・デメリットや失敗しない導入手順、実施のポイントなども解説
メンター制度は、先輩社員が新入社員・若手従業員の悩みを聞き、成長を支援する制度です。
企業の人事担当者のなかには、「メンター制度は意味ない」という話を聞き、導入を迷っている人がいるかもしれません。
本記事では、メンター制度が本当に「意味ない」か判断できるよう、制度の概要や導入するメリット・デメリット、導入手順や成功させるポイントなどを解説します。
メンター制度とは?
メンター制度とは、先輩社員が新入社員・若手従業員の相談役になり、成長をサポートする制度です。「メンター」とは先輩社員を指す言葉で、新入社員や若手社員は「メンティー」と呼ばれます。
具体的な活動としては、チャットツールで気軽に相談できる体制の構築や、定期的な面談の実施などが挙げられます。メンティーの成長を支援できるほか、職場のコミュニケーションの活性化も期待できる制度です。
厚生労働省がメンター制度の導入マニュアルを公開しており、国も企業の人材育成施策の一環として、導入を支援していると言えます。
メンター制度は意味ない?
メンター制度は、導入手順や運用方法を誤らなければ、効果的な取り組みになります。
しかし、実際に導入している企業はそれほど多くありません。労務行政研究所の2022年度の調査では、メンター制度を実施した企業は38.0%に留まっています。
加えて「メンターの負担が重くなる」「面談が形式的になり、目的がわからなくなる」などの声を聞くと、導入をためらうかもしれません。
しかし、そうした声が上がる場合「目的があいまい」「ルールが整備されていない」など、運用面で不備があるため機能していない可能性があります。
メンター制度を形骸化させず、効果的な取り組みにするには、導入手順や実施のポイントを事前に理解することが大切です。
ほかの制度との違い
メンター制度以外にも、人事労務の施策を指す用語はいくつか存在します。それぞれの定義を比較し、違いを明確にしておきましょう。
| 用語 | 定義 |
|---|---|
| メンター制度 | 先輩社員が相談役となり、新入社員の業務やキャリア形成などを支援する制度 |
| OJT | 実際の業務を通じて、上司が部下に業務の知識・技術を指導する教育方法 |
| エルダー制度 | 新入社員と入社年数の近い先輩社員が、業務を通じて新入社員に仕事の進め方を指導する制度。OJTと似ているが、新入社員のメンタルサポートも含まれる |
| コーチング | 対話を通じて相手の自発的な行動を促し、潜在能力を引き出すことで、目標達成を支援する手法 |
| ティーチング | 業務の知識やノウハウを直接教えて、相手の目標達成を支援する手法 |
自社に合った適切な人材育成を行うために、各用語の意味を正確に押さえておきましょう。
メンター制度を導入するメリット
メンター制度は「意味がない」と言われることもありますが、適切に運用すればメリットが得られます。ここからは、メンター制度を導入するメリットを3点解説します。
離職率を抑えることができる
メンター制度を導入すると、新入社員や若手社員に明確な相談相手ができ、人間関係で悩みにくくなります。結果、離職率を抑えられる可能性があります。
社員の人間関係に関する悩みは、早期離職につながりやすい原因のひとつです。株式会社リクルートマネジメントソリューションズが2023年に行った調査でも、前職の退職理由として人間関係が多く挙げられていました。

出典:【調査発表】新人・若手の早期離職に関する実態調査|プレスリリース| 人材育成・研修のリクルートマネジメントソリューションズ
上図は、入社1~3年目の正社員に前職の退職理由を調査した結果です。「職場の人間関係がよくない、合わない」(14.5%)は第3位であり、離職の原因になりやすいことが伺えます。
メンター制度を導入することで、新入社員や若手社員が気軽に相談できるため、悩みをひとりで抱え込みにくくなります。
また、上司や同僚との付き合い方も相談することで、メンティーがほかの社員と良好な関係を築きやすくなる点もメリットです。
従業員の指導力を向上することができる
メンターを担当する従業員は、メンティーの相談対応や面談を通じて、自然と指導力が向上します。的確なアドバイスができるようになるほか、相手の話を深く聞く「傾聴力」も磨かれるため、マネジメント層で必要なスキルを早期から養えます。
たとえば、社内に中間管理職が少なく、マネジメントのスキルを若手へ伝えにくい組織において、メンター制度は効果的な取り組みと言えるでしょう。
社内のコミュニケーションの活性化につながる
メンター制度を実施することで、新入社員と先輩社員が対話する機会を創出し、社内のコミュニケーションを活性化させやすくなる点がメリットです。
新入社員が、メンター制度を通じて先輩社員と打ち解けることで、日頃から業務上の不明点を聞きやすくなります。新入社員は不明点を解消しながら、スムーズに仕事を進められるため、組織の生産性向上を実現可能です。
また「営業部門のメンターと開発部門のメンティー」のように、異なる部署の社員同士で話してもらうことで、新たな気付きを得られる可能性もあります。
たとえば、営業部門のメンターが、開発部門のメンティーから新製品の工夫点を聞くことで、商談でより効果的にアピールできるかもしれません。
部門を超えて交流させると新たなビジネスチャンスが生まれ、売上が増加する可能性も秘めています。
メンター制度を導入するデメリット
ここからは、メンター制度を導入するデメリットを3点解説します。
デメリットを理解しておかないと、せっかく導入したメンター制度が「意味ない」と言われるものになってしまう可能性があります。
メンターに選任された従業員の負担が大きくなる
メンターに選任された従業員は、通常業務に加えてメンティーとのコミュニケーションや面談などを行うため、負担が大きくなります。
業務工数が圧迫されるほか、コミュニケーションが苦手なメンターは精神的に疲弊する可能性もあります。
特に、ひとりのメンターが複数のメンティーを担当する場合は注意が必要です。日々の相談対応で大きな負担がかかり、最悪の場合、メンター自身が離職するリスクがあります。
メンター制度を実施する前に、メンティーとのコミュニケーションや面談の実施に要する工数を見積もることが大切です。
そのうえで、メンターの業務量や大まかな残業時間などを確認し、無理なく稼働できると判断してから実施しましょう。
メンターとの相性が悪いとメンティーのストレスがたまる
メンターとメンティーの性格や価値観が大きく異なり、相性が悪いと、メンティーに精神的な負担がかかります。メンティーがメンターに対して「高圧的で相談しづらい」「悩みを聞いてもらえない」と感じると、メンターの存在が苦痛になってしまいます。
両者のミスマッチを避けるには、マッチングの段階で性格や価値観が合うか、よく検討することが大切です。「お互いにストイックなタイプ」「二人とも物静か」など、可能な限り性格が似ている社員同士をマッチングさせましょう。
また、面談でメンターが一方的に話したり、語気が強かったりすると高圧的な印象を与えやすくなります。制度の開始前にメンター研修を実施し、傾聴の方法や柔らかい話し方などを教えることも大切です。
メンターのモチベーションを保つ工夫が必要
メンターのモチベーションが低下すると、メンター制度の活動より通常業務を優先しやすくなります。メンティーからの相談への対応が遅れたり、面談の準備不足が多くなったりするため、メンター制度の効果が低下します。
効果的なメンター制度を実施するには、メンターのモチベーションを保つ工夫が必要です。具体的には、メンター手当の支給や人事評価への反映など、何らかのインセンティブを設け
る必要があります。
インセンティブを導入するには、給与規定や評価制度の調整も並行して実施しなければなりません。そのため、制度を構築するまでに手間がかかりやすい点がデメリットです。
失敗しないメンター制度の導入手順
メンター制度を効果的に運用するためには、適切な導入手順を踏むことが重要です。ここからは、失敗しないメンター制度の導入手順を、6ステップに分けて解説します。
1. 目的を明確化して全社に周知する
まず、メンター制度を導入する目的を明確化します。目的が明確であれば、それを達成するためのルールを具体的に決めやすくなり、制度に意義が生まれます。
たとえば「他社がやっているから」というあいまいな目的では、実施する際のルールに落とし込めず、形骸化した制度になるでしょう。結果として、社員がメンター制度に真剣に取り組まなくなります。
「新卒の1年以内離職率を15%→10%に低下させる」のように、数値を含めた具体的な目標を立てると、制度の内容を決めやすくなります。
また、メンター制度の目的が決まったら、経営層から現場のスタッフまで全員に周知しましょう。社員からの理解を得たうえで導入を進めると、後で実施を反対されるリスクを防げます。
2. ルールを策定する
メンター制度のルールを策定することで、メンターの行動基準が明確になり、よりメンター制度の質を担保しやすくなります。
ルールの策定においては、以下の項目を決めましょう。
- メンター制度の対象者(入社◯年目など)
- 実施期間
- メンティーの業務進捗に関する報告の有無
- 面談の頻度や時間
- メンターの活動報告の有無
- トラブル発生時の相談窓口(人事部や、その他の専門窓口など)
- メンティーからの相談内容に関する守秘義務(相談内容をメンター以外の社員にも話して良いかどうか)
ルールが決まったらWord・Excelなどのドキュメントにまとめ、全社員がいつでも閲覧できるフォルダに保管しておきましょう。
3. メンターを選定する
ルールの策定が終わったら、メンターになる人を選定します。メンターは、一般的にメンティーと年齢が近すぎず離れすぎない、入社3~8年目の社員が担当します。
人事部の一方的な指名ではなく、現場管理職からの推薦や、本人の意思による立候補で決めるのが理想です。
メンターの候補者に対しては一度面談を行い、本人の意思を確認するとともに、現在の業務量からメンター活動を行う余裕があるかを確認しましょう。多忙な社員を無理にメンターにすると、制度がうまく機能しない原因になります。
また、メンターとメンティーの相性の不一致を避けるため、メンティーにしたい人のタイプも可能な限りヒアリングしておきましょう。
4. メンター向けの研修を実施する
研修を実施することで、メンターが自身の役割や必要なスキルを認識でき、メンター制度の効果が高まります。
メンター研修を実施するには、教材を使って人事部が指導したり、外部講師を呼んだりする方法が考えられます。また、日本メンター協会の「メンター養成講座」のような、公的機関の講座を受講するのも効果的です。自社のリソースや予算に応じて、適切な方法を選びましょう。
自社でメンター研修を実施する場合は、少なくとも以下の内容を盛り込みましょう。
- メンターの役割の理解
- メンティーへの傾聴の仕方
- 面談での、メンティーへの質問の仕方
- メンティーへのフィードバックの方法(業務に関する褒め方や、改善点の伝え方)
- メンティーの目標設定をサポートする方法
- 守秘義務と、人事部へ報告するべき内容の線引き
座学だけでなく模擬面談も交えて、実践的に学べるよう工夫することが大切です。
5. メンター制度を実行する
研修が終了したら、メンターとメンティーをマッチングさせ、いよいよメンター制度を実行します。
マッチングにおいては、メンター選定時のヒアリング内容を参考にしつつ、性格が近そうな社員同士を組ませましょう。可能であれば、メンティーの希望(「厳しく指導してほしい」「優しく話を聞いてほしい」など)も考慮に入れると、より効果的です。
メンター制度の実施中は、事前に決めたルールに基づき、進捗報告や面談が行われているかを確認します。報告漏れや面談の実施漏れがある場合は、早めにメンターへリマインドしましょう。
また、メンターやメンティーから、面談の進め方や相手との相性などの相談が来ることもあります。相談対応も早めに行い、メンター制度を滞りなく進められるようにしましょう。
6. 制度の効果を振り返る
メンター制度は「導入して終わり」ではありません。開始から半年や1年など、一定期間ごとに制度の効果測定と振り返りを行い、継続的に改善することが重要です。
効果測定では、メンター・メンティーの双方へアンケートをとるほか、最初に策定した目的の達成度合いを確認します。効果が思うように出ていない場合は、改善できる所がないか考えてみましょう。
たとえば「新卒の1年以内離職率を15%→10%に低下させる」という目的を設けて、達成できていない場合、メンティーの悩みに寄り添えていなかった可能性があります。メンティーへのアンケート結果を確認したり、メンターに対して改めて研修を行ったりして、新入社員の不安を取り除けるよう改善する必要があります。
より効果的なメンター制度を実施する3つのポイント
失敗しないメンター制度の導入手順に加えて、メンター制度を成功させるための3つのポイントを解説します。
実施前にキックオフを行う
キックオフとは、メンター制度を開始する前に、メンターとメンティーで顔合わせを行う場です。制度の開始前にお互いで話す機会を設けることで、メンティーが気軽にメンターへ相談しやすくなります。
キックオフでは、人事部からメンター制度の目的とルールを改めて説明し、ペア同士での自己紹介タイムを設けましょう。
可能であれば、メンターの研修の一貫として、実際のペアで模擬面談を行うのも有効です。「今後の業務で不安なこと」「キャリアで悩んでいること」などのテーマを設けて、実際に対話してもらいましょう。模擬面談によって、メンターが自身の傾聴力や対話力を確認できるほか、メンティーの性格をより深く理解できます。
模擬面談を含めたキックオフは相応の工数がかかりますが、社内の業務量から実施の余裕がある場合はぜひ開催してください。
面談の話題の例を共有する
面談で使える話題の例を共有することで、メンターが「何を話せば良いのかわからない」と悩む機会を減らせます。
たとえば、面談でメンティーの仕事の悩みばかり聞いていると、メンターが「いつもこの内容で良いのかな」と不安を抱く可能性があります。
面談における話題の例を共有すると、メンターがさまざまな視点で対話でき、メンティーの成長を多面的に支援することが可能です。面談で話す内容の例としては、以下が挙げられます。
- 現在の業務で悩んでいること
- 上司や同僚とのコミュニケーションで困っていること
- 将来のキャリアプランや、達成するために必要なスキル
- メンターの業務上の経験談(失敗談や成功体験など)
話題の例はドキュメントにまとめて、メンターがいつでも参照できる場所に保管しておきましょう。ただし、共有した内容はあくまで「話題の例」であり、話すことを強制していない旨も伝えておきましょう。
メンターへのインセンティブを設ける
インセンティブを設けることで、メンターのモチベーションを高められ、より真剣にメンティーに向き合ってもらえます。結果的に、メンティーの成長を促しやすくなり、効果的なメンター制度を実現可能です。
インセンティブには「メンター手当」のような金銭的なものだけでなく「人事評価への反映」「ベストメンター表彰」など非金銭的なものもあります。
金銭的なインセンティブは、面談や相談対応にかかる標準的な工数を算出したうえで、ほかの手当とのバランスを考慮して額を決定しましょう。
人事評価や表彰に反映させる場合は、メンティーの成長度合いや定着率、メンティーからの感謝の声などを評価基準にすることで、公平性と納得感を高められます。
金銭的・非金銭的のどちらにしても、メンターとしての貢献が正当に評価される仕組みを構築できると、制度の継続性も高められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
退職金制度はどうやってつくる・廃止するのか 制度比較や注意点を詳細解説
昨今の企業では、退職金の制度は廃止される、または設置されない傾向にあります。 かつての終身雇用が当たり前だった世の中では、退職金は給与の一部として、後払いされるものという認識がありましたが、最近では認識が変わってきています。 一部では、労働…
詳しくみるアウティングの意味は?具体例や違法性、企業の対応・防止策を解説 | 給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
アウティングとは、性のあり方について本人の同意を得ずに第三者が暴露することを意味する言葉です。性のあり方について自分自身で他者に伝える「カミングアウト」と対になる言葉としても使われています。事例や問題点、アウティングされたら、あるいは、して…
詳しくみる実務経験証明書の依頼文の書き方!トラブルを避ける発行依頼のコツ
実務経験証明書は、転職活動や研修受講などにおいて、自身の職務経験を証明するために必要不可欠な書類です。療育分野では、児童指導員やサービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、相談支援専門員として働いた期間を示す書類の提出が求められることがあり…
詳しくみる異文化理解とは?メリットやよくある失敗例、企業の取り組みを解説 | 給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
外国人労働者が増える中、異文化理解の重要性が高まっています。異文化理解とは、異なる人種の人と英語でコミュニケーションし意思疎通を図ることだけではありません。 本記事では、異文化理解の意味や異文化を理解するためのポイントについて解説します。メ…
詳しくみるアサーションとは?意味や種類、コミュニケーションとしての使い方を解説 | 給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
アサーションとは、近年注目されているコミュニケーション手法の1つです。お互いに尊重されるべきという考えのもとに、言うべきことは言い、聞くべきことは聞くコミュニケーションのやり方を指します。アグレッシブとノン・アサーティブ、アサーティブの3種…
詳しくみるハンズオンとは?意味は?支援の仕方・形式を解説! | 給与計算ソフト「マネーフォワード クラウド給与」
ハンズオンとは、投資やM&Aなどで投資先・買収先に役員などを派遣し、マネジメントに深く関与することです。このほか、IT分野でエンジニアが実際に体験しながら学習することを指す場合もあります。 本記事では投資・M&Aの場面におけ…
詳しくみる