- 更新日 : 2025年12月5日
プロジェクトアリストテレスとは?生産性向上には心理的安全性が必要
プロジェクトアリストテレスとは、社内のさまざまなチームを対象に、どのようなチームが高い成果を生み出すのかを調査したGoogleの研究です。チームの生産性に寄与する要素を分析し、組織改善に生かせる形でまとめた研究として注目されています。
この記事では、生産性の高いチームが持つ特徴と、特に重要とされる心理的安全性を高めるポイントを紹介します。
目次
プロジェクトアリストテレスとは:Googleが実施した調査
プロジェクトアリストテレスとは、成果を出すチームが備えている条件を明らかにしたGoogleによる研究を指します。個人の能力ではなく、チーム全体の働き方や相互作用に焦点を当てている点が特徴です。
調査は特定の部門だけでなく、幅広いチームで実施されました。また、役割の異なる立場からの主観的な評価と、業績などの客観的なデータの双方の情報をもとに評価しています。チームの状態を一方向からではなく、多面的に把握できるように設計されています。
調査の結果、心理的に安心して意見を言える雰囲気や、メンバー間の強い信頼関係が効果的なチームの要因であることが明らかになりました。どのメンバーといるかよりも、互いの関係性の質こそが成果を左右すると結論づけています。
Googleが定義する「効果的なチーム」とは
効果的なチームを考える際に欠かせないのが、「効果的なチーム」の定義です。調査の前提として押さえておくべきGoogleが示した定義について解説します。
チームの定義
効果的なチームを理解するには、まずはチームを定義する必要があります。チームは組織内での役割やタスクの性質によって関係性が異なるためです。
Googleの分類では、意思決定や課題解決を共同で進める集団をチーム、情報交換を主とする集団をワークグループとしています。それぞれを区別することで、成果に結びつく要素を議論するときの軸が明確になります。
効果的なチームの定義
Googleがチームのパフォーマンスを評価しようとした際、コード量やバグ修正数といった定量指標を使って検討していました。しかし、定量指標のみでは十分にチームの実力を評価できないことが明らかになりました。
そこで、定量指標では測れない部分を捉えるため、マネージャー・メンバー・チームリーダーそれぞれのポジションによる、以下のような定性的な評価も取り入れています。
- マネージャー:売上などの業績
- メンバー:ビジョンや当事者意識などの全体・個人の問題
- チームリーダー:チーム全体の調和
評価は、以下の4つの観点で実施しています。
- マネージャーによる評価
- チームリーダーによる評価
- チームメンバーによる評価
- 四半期の売上などのノルマ
定量・定性の両面から評価することで、的確にチームの力を把握できるようにしています。
プロジェクトアリストテレスの4つの研究プロセス
プロジェクトアリストテレスは、4つの研究プロセスを繰り返し検証することで、チームの生産性向上の要因を明らかにしています。ここでは、それぞれのプロセスの実施項目について解説します。
仮説を設定する
Googleは優秀な人材がチームの成功には不可欠だと信じていましたが、明確な根拠がなかったため、データによる検証を実施しました。
そのため、プロジェクトアリストテレスでは、成功するチームに共通の要素を洗い出す作業から始めました。仮説にはチーム内の人間関係や、メンバー同士の私的な交流の有無といった行動面も含まれています。学歴や業務スキルだけでなく、一緒にランチをする機会が多いかといった、日常的な関わりも重視しています。
モニタリングを実施する
Googleは立てた仮説を検証するため、実際のチームに対する詳細なモニタリングを実施しました。モニタリングの対象は100チーム以上に及び、日常行動や人間関係のパターンまでを広範囲に観察しています。
観察項目には、社員同士のコミュニケーション頻度や社外での交流、生活リズムや思考傾向などが含まれています。社内での業務連携だけでなく、オフィス外で築かれる人間関係も、重要な分析対象となりました。チーム構成のバランスや性別比率といった、構造的な要素も記録しています。
分析して仮説を検証する
Googleは、モニタリングで得た膨大なデータをもとに、仮説の検証フェーズへと進みました。初期の分析では、メンバーの構成・スキルと成果の相関を明らかにできず、分析対象をスキル・属性から、文化・心理的側面へとシフトする必要性が示唆されました。特に、心理的安全性やチーム内の信頼関係が、成果に与える影響として注目されています。
追加検証を実施する
初期分析で明確な相関関係が得られなかったため、Googleは追加検証を行い、チーム内のルールや文化に焦点を当てました。規則では明文化されない暗黙のルールや空気感が、チームにどのような影響を与えるかを分析しています。
多面的な視点からトライ&エラーを繰り返した結果、チームの成功に不可欠な5つの要素が導き出されました。
生産性の高いチームに共通する5つの要素
生産性の高いチームには、いくつかの共通点があります。チームの成果を左右する5つの要素を押さえておくと、生産性を高められます。
心理的安全性
心理的安全性とは、意見や疑問を自由に発言しても、否定や非難をされないと感じられるチームの状態を指します。メンバーは「無知と思われるのでは」「邪魔に思われるのでは」といった不安がなく、行動に移せます。
自分のミスを率直に認めたり、気軽に質問や相談をできる安心感が職場に広がっていたりすると、健全な関係性と積極的な挑戦を促し、生産性の向上につながるでしょう。
Googleの研究では、心理的安全性こそがチームの成功要因の中で最も重要だとしています。
相互信頼
相互信頼とは、メンバーが互いに約束を守り、責任を持って仕事をやり遂げるチームの特性を指します。
相互信頼の高いチームでは、各自が自分の役割を理解し、メンバー同士が「任せても大丈夫」と感じることで、期限内に質の高い成果をあげます。一方で、信頼が欠けるチームでは、責任転嫁が起きやすくなり、生産性の低下につながるでしょう。
相互信頼は、単に誠実さだけでなく、行動で示す責任感が土台となって築かれます。Googleの調査でも、相互信頼の高いチームは生産性が安定し、個々のメンバーも仕事に自信を持ちやすいとされています。
構造と明確さ
構造と明確さとは、チームにおける役割や目標、業務プロセスが明示されている状態を指します。各メンバーが、自分に何が求められているのかを正しく理解している状態です。
目標は抽象的でなく、具体的かつ達成可能なレベルで設定される必要があります。個人ごとの目標だけでなく、チーム全体のビジョンや進行計画の共有も重要です。
Googleでは「OKR(Objectives and Key Results)」を活用し、短期・長期の目標と成果指標を全社的に共有しています。構造とプロセスが明確になると、各自の貢献が全体の成果にどのようにつながるかが見えやすくなります。
仕事の意味
仕事の意味とは、メンバーが自分の業務に対して目的や価値を見出せている状態を指します。家族を支える、スキルを磨く、チームの成果に貢献するなど、意味は人それぞれです。自分の仕事が何のためにあるのかを理解できると、日々の業務にも前向きに取り組みやすくなるでしょう。
仕事の意味を感じられるチームは、やりがいや達成感が強くなり、満足度も高まります。メンバー全員が目的意識を持つことで、チーム全体のモチベーションや生産性の向上にもつながります。
インパクト
インパクトとは、自分の仕事がチームや組織、社会に対してどのような影響を与えているかを認識できる状態を指します。メンバーが自分の仕事には意義があると感じることで、自身の成果が組織全体の目標達成や顧客への価値提供につながっていると実感でき、やりがいが生まれます。
仕事の影響力を把握できる環境では、メンバーは目の前の業務に対して、主体的かつ積極的に取り組めるでしょう。成果を可視化し、フィードバックや進捗をチーム内で共有する仕組みの整備が、インパクトの認識を高めるうえで重要です。
チームの生産性に大きく影響しない8つの要素
Googleの調査では、チームの生産性には大きく影響しない要素も明らかにされています。以下の8つの要素は、チームの生産性には強い相関がないと示されました。
- メンバーの働く場所(オフィスで近くに座る)
- 合意にもとづく意思決定
- メンバーの外交的な性格
- メンバー個人のパフォーマンス
- 担当する仕事量
- 在籍歴
- チームの規模
- 在職期間
ただし、すべての組織に当てはまるとは限らず、他の研究では小規模チームのほうが成果が出やすいといった報告もあります。組織特性や業務内容によって、効果に差が出る可能性がある点には、注意が必要です。
職場における心理的安全性を高めるメリット
職場で心理的安全性を高めると、チームの生産性向上や、活発な意見交換による業務改善、離職率の低下などの効果が得られます。メリットを把握することで、自社のチーム運営やマネジメント改善に活用できます。
チームの生産性が向上する
心理的安全性の高い職場では、対人関係の不安が減り、業務に集中しやすくなります。自由に発言できる環境が整うと、メンバーの積極性や自分にもできるという自信が高まります。
メンバーは否定される心配がないため、アイデアの発案や挑戦への心理的ハードルが下がり、個々のパフォーマンス向上による仕事の質やスピードの改善も可能です。安心して働ける環境は、結果的に組織全体の生産性を高める要因となります。
意見交換が活発になる
心理的安全性が高いチームでは、発言に対する不安がなくなり、誰でも自由に意見を出せるようになります。率直なコミュニケーションが生まれ、建設的な議論や情報共有が日常的に行われます。
意見交換が活発になると、隠れた課題やリスクが早期に表面化し、迅速な対処が可能です。否定されない安心感により、メンバーは挑戦的なアイデアや革新的な提案を出しやすくなります。多様な意見が集まると、従来の枠にとらわれない発想が生まれ、改善へとつながります。
離職率が低くなる
心理的安全性の高い職場では、人間関係のストレスが軽減され、働きやすさが向上して離職率の低下につながります。意見を素直に言い合える環境があると、自分の居場所があるとメンバーが感じやすくなるからです。
また、上司や同僚との信頼関係が築かれていれば、悩みや不調も早期に相談しやすくなります。チームの安心感は、今の職場で働き続けたいという意識の高まりにつながり、結果として離職率が低下します。
職場での心理的安全性を高めるポイント
職場で心理的安全性を高めるには、相手を受け入れる姿勢を示すことが大切です。価値観を共有したり、感謝の言葉を伝えたりすると、メンバー同士のつながりが深まります。信頼関係を築くためには、日頃からのコミュニケーションを意識しましょう。
コミュニケーションが取りやすい環境を作る
心理的安全性を高めるには、日頃から声をかけ合える風通しのよい環境づくりが欠かせません。質問や相談をためらわない空気感があると、業務の停滞やストレスが減少します。単に「何でも聞いて」と言うだけでなく、必要なときに適切なサポートを得られる体制が、安心して意見を交わせる関係を築きます。
たとえば、会議では発言者が偏らないよう、司会者が平等に話す機会を設けることで、発言のハードルが下がるでしょう。軽い雑談やアイスブレイクを取り入れれば、緊張がほぐれ、意見を交わしやすくなります。また、アサーティブ・コミュニケーションを意識し、相手を尊重しながら自分の意見を伝える姿勢も重要です。
共通の価値観を持つ
心理的安全性を高めるには、意見を出す目的をチーム全体で共有することが重要です。たとえば、お客様に価値を届ける、成果を最大化するといった共通の価値観が、安心して発言できる土台になります。
共通の価値観があれば、自分の発言がチームや組織にどう貢献するかを意識できるため、発言への抵抗感も薄まります。共通認識があると、性格や立場の違いに関係なく、同じ方向を向いて行動しやすくなるでしょう。新人からベテランが同じ基準で意思決定できると、安心して意見を出しやすい環境になります。
感謝の気持ちを伝える
感謝の気持ちを言葉にすることは、心理的安全性を高めるための基本であり、効果的なコミュニケーション手段です。「ありがとう」「助かりました」といった感謝の一言が、相手の貢献や存在意義を認めるきっかけになります。
上司からの挨拶や感謝の言葉があるだけで、部下は安心して業務に取り組みやすくなります。日頃から感謝を伝えると、相手に敬意を示しながら信頼関係の構築が可能です。感謝の文化が根づくと、メンバー同士の協力が自然と生まれ、チーム全体の雰囲気が明るくなります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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