- 作成日 : 2025年6月13日
劣後ローンとは?種類やメリット、申請方法を解説!
企業の成長戦略やM&Aを進める上で、資金調達は避けて通れない重要なテーマです。様々な選択肢がある中で、「劣後ローン」という言葉を耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか? 少し専門的に聞こえるかもしれませんが、企業の財務状況を改善し、さらなる成長を後押しする可能性を秘めた資金調達方法の一つです。
この記事では、劣後ローンとは何か、普通の融資とはどう違うのか、そしてどのようなメリットや注意点があるのかを、わかりやすく解説していきます。
目次
劣後ローンとは?
劣後ローンとは、簡単に言うと、もし会社が倒産してしまった場合に、お金を返してもらう順番(弁済順位)が、他の一般的な借入金(普通融資など)よりも後回しになる、という特別な約束事がついたローンのことです。「劣後する」というのは、この「順番が後になる」という意味合いです。
この特性から、金融機関によっては、劣後ローンで調達した資金を「自己資本に近いもの(みなし自己資本)」として評価してくれる場合があります。つまり、帳簿上は負債であっても、実質的には会社の資本を厚くする効果が期待できる、というわけです。
普通融資との違い
では、具体的に普通融資(シニアローンとも呼ばれます)と劣後ローンは何が違うのでしょうか?主な違いを表にまとめてみました。
| 比較項目 | 劣後ローン | 普通融資(シニアローン) |
|---|---|---|
| 返済の優先順位 | 低い(他の債務より後回し) | 高い(優先的に返済される) |
| 金利 | 一般的に高め | 劣後ローンに比べると一般的 |
| 審査のポイント | 事業の成長性や計画の実現可能性を重視する傾向 | 担保や保証、過去の財務実績を重視する傾向 |
| 財務諸表上の扱い | 負債 | 負債 |
| 金融機関の評価 | 自己資本に近いものとみなされることがある | 純粋な負債として評価される |
| リスク | 貸し手のリスクが高い | 貸し手のリスクが(劣後ローンよりは)低い |
このように、劣後ローンは返済順位が低い分、貸し手にとってはリスクが高くなります。そのため、金利は普通融資よりも高めに設定されるのが一般的です。しかし、借り手にとっては、財務体質を強化できるなどのメリットがあるため、特定の状況下で有効な選択肢となり得ます。
劣後ローンの種類
劣後ローンと一言で言っても、いくつかの種類があります。特に中小企業や中堅企業にとって活用しやすいのが、日本政策金融公庫などが提供する「資本性ローン(挑戦支援資本強化特例制度など)」です。
これは、特定の条件(例:業績が赤字の場合に金利負担が軽減される、一定期間元本の返済が据え置かれるなど)が付与されており、まさに自己資本を強化する目的で設計されていることが多いローンです。民間の金融機関が独自の劣後ローン商品を提供しているケースや、M&Aのファイナンススキームの一部として、投資ファンドなどが劣後ローンを提供することもあります。
利用を検討する際は、どの機関がどのような条件で提供しているのか、自社のニーズに合っているかを確認することが大切です。
劣後ローンのメリット
ここでは、企業が劣後ローンを活用することで、どのような恩恵を受けられるのか、その利点について掘り下げていきます。
劣後ローンを活用することには、主に以下のようなメリットが考えられます。
- 財務体質の強化(自己資本比率の向上)
先ほど触れたように、劣後ローンは金融機関から「みなし自己資本」として評価されることがあります。これにより、自己資本比率が見かけ上向上し、財務の安定性が増したとみなされやすくなります。これは、他の金融機関からの信用力向上にも繋がる可能性があります。 - 追加融資の受けやすさ向上
財務体質が強化されることで、金融機関からの信頼度が高まり、普通融資などの追加的な資金調達がしやすくなる効果が期待できます。劣後ローンでまず財務基盤を固め、その上で必要な運転資金や設備投資資金を普通融資で調達する、といった戦略も可能になります。 - 柔軟な返済条件の可能性
特に資本性ローンの場合、業績連動型の金利設定や、期限一括返済(満期まで利息のみ支払い、元本は最後にまとめて返済する)といった、通常の融資よりも柔軟な返済条件が設定されていることがあります。これにより、事業が軌道に乗るまでのキャッシュ・フロー負担を軽減できる可能性があります。 - 担保や個人保証への依存度軽減
劣後ローンの審査では、担保や経営者の個人保証もさることながら、事業計画の将来性や実現可能性がより重視される傾向にあります。そのため、十分な担保を提供できない場合や、経営者保証を避けたい場合でも、資金調達の可能性が残されています(ただし、全く不要というわけではありません)。
劣後ローンのデメリット
一方で、劣後ローンには注意すべき点、つまりデメリットも存在します。メリットだけでなく、これらの点も理解した上で検討することが重要です。
メリットがある一方で、劣後ローンには以下のようなデメリットも存在します。
- 金利が比較的高め
返済順位が低いというリスクを貸し手が負うため、そのリスクプレミアムとして、普通融資よりも金利が高く設定されるのが一般的です。長期的に見ると、利払い負担が大きくなる可能性があります。 - 依然として負債であること
「みなし自己資本」として扱われることがあるとはいえ、会計上はあくまでも「負債」です。返済義務があることに変わりはなく、将来的なキャッシュ・フローを圧迫する要因にもなり得ます。 - 契約条件の複雑さ
劣後特約(返済順位が低いことを定める条項)をはじめ、財務制限条項(一定の財務状態を維持することを求める条項)など、普通融資よりも契約内容が複雑になることがあります。内容を十分に理解しないまま契約すると、後々トラブルになる可能性も否定できません。 - 万が一(倒産時)のリスク
これは主に貸し手のリスクになりますが、会社の経営が立ち行かなくなり、法的な整理手続きに入った場合、劣後ローンは他の債権者への返済が終わった後でなければ、ほとんど、あるいは全く返済されないリスクがあります。
劣後ローンの申請方法
実際に劣後ローンを利用したいと考えた場合、どのような手順で申請を進めることになるのでしょうか。一般的な流れを見ていきましょう。
劣後ローンの申請プロセスは、利用する金融機関や具体的な商品によって多少異なりますが、おおむね以下のような流れで進みます。
- 事前相談
まずは、劣後ローンを取り扱っている金融機関(日本政策金融公庫、取引銀行など)の窓口に相談し、自社の状況や資金使途を説明します。利用可能性や条件について、担当者と意見交換をしましょう。 - 書類準備
申請に必要な書類を準備します。どのような書類が必要になるかは、次のセクションで詳しく説明します。事業計画書などは特に重要になりますので、時間をかけてしっかりと作成する必要があります。 - 申し込み
準備した書類一式を金融機関に提出し、正式に申し込みを行います。 - 審査
金融機関による審査が行われます。事業計画の妥当性、返済能力、財務状況などが詳細にチェックされます。普通融資よりも審査期間が長くなる傾向があります。 - 契約・融資実行
審査に通れば、融資契約を締結します。契約内容を十分に確認し、署名・捺印後、指定の口座に融資金が振り込まれます。
劣後ローンの必要書類
劣後ローンの申請にあたっては、様々な書類の提出が求められます。ここでは、一般的に必要とされる主な書類をリストアップします。
金融機関によって詳細は異なりますが、劣後ローンの申請には、一般的に以下のような書類が必要となります。
特に事業計画書は、なぜ劣後ローンが必要なのか、調達した資金をどのように活用し、将来的にどのように収益を上げて返済していくのかを具体的に示す、非常に重要な書類となります。
劣後ローン利用時の注意点
最後に、劣後ローンの利用を決定する前に、特に気をつけておきたいポイントをいくつか確認しておきましょう。
劣後ローンは有効な資金調達手段ですが、利用にあたっては以下の点に注意が必要です。
- 契約内容の十分な理解:金利、返済期間、期限前返済の可否、劣後特約、各種制限条項など、契約書の内容は隅々まで確認し、不明な点は必ず解消しておきましょう。特に、どのような場合に他の債務より返済が後回しになるのか(劣後事由)は正確に把握しておく必要があります。
- 将来の資金調達への影響:劣後ローンがあることが、将来的に他の融資(特に普通融資)を受ける際に、有利に働くこともあれば、逆に条件交渉に影響を与える可能性もゼロではありません。長期的な資金調達計画全体の中で、劣後ローンの位置づけを考えておくことが望ましいでしょう。
- 金利負担のシミュレーション:普通融資よりも金利が高い傾向があるため、将来にわたる利払い負担がどの程度になるのか、事前にしっかりとシミュレーションしておくことが大切です。事業計画の中で、その利払いが無理なく吸収できるかを確認しましょう。
- 専門家への相談:劣後ローンは仕組みがやや複雑なため、不明な点や不安な点があれば、税理士、公認会計士、弁護士、中小企業診断士などの専門家に相談することをおすすめします。客観的なアドバイスを受けることで、より適切な判断が可能になります。
劣後ローンを理解し、最適な資金調達戦略を立てよう
この記事では、M&Aなどにも関わる企業担当者様に向けて、劣後ローンの基本的な知識からメリット・デメリット、申請方法や注意点までを解説してきました。
劣後ローンは、企業の財務状況や成長戦略によっては非常に有効な選択肢となり得ます。しかし、全ての企業にとって最適とは限りません。自社の置かれた状況、資金の使い道、将来の展望などを総合的に考慮し、他の資金調達方法(普通融資、増資、補助金・助成金など)とも比較検討しながら、最適な方法を選択することが重要です。
資金調達は専門的な知識が求められる分野です。不明な点や判断に迷うことがあれば、決して自己判断せず、信頼できる金融機関の担当者や、会計・財務の専門家にご相談ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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