• 作成日 : 2025年8月19日

会社の解散から清算までの手続き、費用を解説

会社を法的に消滅させるためには、「解散」と「清算」という2つの段階を経た手続きが必要です。解散が事業活動の停止を意味するのに対し、清算はその後の財産整理や債務の弁済を行う、いわば「後片付け」の作業となります。

この記事では、この解散から清算結了までの具体的な手続きの流れと、登記費用や専門家への報酬といった費用の全体像などをわかりやすく解説します。

会社の解散とは?

会社の解散とは、法人がその主たる事業活動を停止し、最終的に法人格を消滅させるための法的手続きの開始点を指します。これは、単に事業を止める「廃業」や一時的に活動を休止する「休眠」とは異なり、会社を法的に完全に畳むための第一段階です。

解散が決議されただけでは、会社の法人格は直ちになくなりません。解散後は、会社の財産を整理する「清算」という手続きに入り、この清算がすべて完了して「清算結了」の登記がなされた時点で、初めて法的に会社が消滅します。

解散・清算・倒産・廃業の違い

会社の活動を終えるという文脈では類似した言葉がいくつか存在しますが、その法的な意味合いは大きく異なります。

用語法的状態主目的最終結果
解散清算手続きの開始事業活動の停止と財産整理の準備清算会社へ移行
清算清算の目的の範囲で存続債権回収、債務弁済、残余財産の分配法人格の消滅
破産裁判所の管理下で財産を整理債権者への公平な配当法人格の消滅
廃業・休眠法人格は存続事業活動の停止会社の登記は存続

この中で解散から清算結了までの期間、会社は「清算株式会社」という特殊な法的地位に置かれます。この期間、会社は新たな営業活動を行うことはできず、その権限は清算を遂行するために必要な範囲に限定されます。

この法的な枠組みは、会社の資産が不適切に処分されることを防ぎ、債権者をはじめとする利害関係者の利益を保護しながら、秩序ある退出を確保するために設けられています。

法人格が消滅するまで

法人が完全に消滅するまでの道のりは、一連の法的手続きによって構成されます。

まず、株主総会で「解散」が決定されると、会社は通常の営業活動を終え、「清算株式会社」となります。次に、選任された「清算人」が中心となり、資産の現金化や債務の弁済といった「清算手続き」を進めます。

すべての財産整理が完了し、株主総会で決算報告が承認されると「清算結了」となり、最終的に法務局へ清算結了登記を申請することで、会社の登記簿が閉鎖され、法人格が完全に消滅します。

会社を解散する理由

会社の解散理由は、経営者の判断による「任意解散」と、法律で強制される「強制解散」、解散と判断される「みなし解散」の3種類に大別されます。解散は、会社法で定められた理由以外では認められません。

任意解散

任意解散で最も一般的なのは、株主総会の特別決議によるものです。後継者が見つからない、あるいは経営が悪化したといった状況を背景に、経営者が事業の継続は困難だと判断した場合に選択されます。

強制解散

一方、強制解散は会社の意思とは関係なく、法律の規定によって解散させられるものです。裁判所から破産手続の開始決定を受けたり、解散を命じられたりする場合が該当します。

みなし解散

また、最後の登記から12年間変更がない株式会社は「みなし解散」と判断されることがあります。官報での公告後、2ヶ月以内に事業を継続している旨の届出がなければ、登記官が職権で『みなし解散』の登記を行い、会社は解散したものとみなされます。

会社を解散するメリット

解散は事業の終わりを意味しますが、状況によっては、傷口が広がる前に事業を整理し、経営者自身が次の一歩を踏み出すための前向きな決断ともいえます。

利益がなくても発生する金銭的な負担からの解放

会社は赤字でも、法人住民税の「均等割」が課されるため、存在するだけで毎年税負担が生じます。解散して清算手続きを終えれば法人格が消滅し、この均等割の支払い義務がなくなります。また、従業員を雇用している場合の社会保険料の会社負担もなくなり、継続的な資金の流出を止めることができます。

手間と費用がかかる管理義務の解消

会社を維持するには、役員の任期ごとに必要な「役員変更登記」や、売上がなくても毎年義務付けられる税務申告が必要です。これらの手続きには専門家への報酬などが発生します。解散すれば、こうした定期的な事務作業の手間と費用から完全に解放され、登記を怠った場合の過料のリスクもなくすことができます。

会社を解散するための要件

会社は社会的な存在であり、その消滅は取引先や従業員など多くの関係者に影響を与えるため、解散となる事由(要件)は会社法で厳格に定められています。

これらの要件は、会社の定款の定めや株主の意思、あるいは法的な命令に基づくものであり、いずれかの要件を満たさなければ会社を解散させることはできません。

会社法第471条は、株式会社が解散するための要件として、以下の7つの事由を挙げています。

  1. 定款で定めた存続期間の満了
    会社の定款で存続期間が定められており、その期間が満了した場合。
  2. 定款で定めた解散事由の発生
    定款に「特定の事業が終了した時」など、解散の条件が定められており、その条件が成就した場合。
  3. 株主総会の決議
    株主の意思により解散を決定する場合。
  4. 合併
    他の会社との合併により、当該会社が消滅する場合。
  5. 破産手続開始の決定
    裁判所から破産手続開始の決定を受けた場合。
  6. 解散を命ずる裁判
    会社の存続が公益に反するなどの理由で、裁判所から解散命令が出された場合。
  7. みなし解散
    最後の登記から12年以上経過した休眠会社が、法務大臣の公告後も所定の届出を行わなかった場合。

上記7つの事由のうち、経営者の意思によって会社を畳む場合に用いられるのが「株主総会の決議」です。会社の解散は、その存立の根幹を揺るがす重大な意思決定であるため、通常の普通決議よりも可決要件が厳しい「特別決議」が求められます。

特別決議を成立させるには、議決権を行使できる株主の過半数が出席した株主総会において、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。この高いハードルは、少数株主の利益を保護し、一部の株主の安易な判断で会社が解散されることを防ぐための法的要請です。

会社の解散後に行う会社清算とは?

会社を解散すると、その法人格を法的に消滅させるための「清算手続き」に入ります。この期間、会社は「清算株式会社」として、通常の事業活動ではなく財産の整理だけを行います。

清算を行う清算人

この手続きで中心的な役割を担うのが「清算人」です。

通常は解散前の代表取締役などが就任し、会社の財産を現金化して債権者に支払いを済ませ、最終的に残った財産を株主に分配するまでの一連の業務を執行します。清算人は、全ての利害関係者に対して公平でなければならず、重い責任を負います。

清算中は会社に制限がかかる

清算中の会社の活動は、厳しく制限されます。通常の営業活動は一切できず、清算の目的を達成するために必要な行為しか許されません。

例えば、在庫を売却して現金に換えることはできますが、新たに商品を仕入れて販売するような事業は行えません。これは、会社の財産を不用意に減らさず、債権者への弁済を確実にするための重要な決まりです。

通常清算と特別清算

会社の清算手続きは、その会社の財産状況によって「通常清算」と「特別清算」の二つに大別されます。どちらの手続きを選択するかは、会社の資産と負債のバランスによって決まり、法的な義務も伴います。

資産が負債を上回る場合の「通常清算」

通常清算は、会社の資産をすべて現金化した際に、負債(債務)の全額を弁済できる見込みがある、いわゆる資産超過の状態で行われる手続きです。

この手続きの大きな特徴は、裁判所の監督を受けずに、会社が選任した清算人が主体となって自主的に進められる点です。手続きが比較的簡素であるため、多くの健全な会社の解散・清算でこの方法が採用されます。

債務超過の疑いがある場合の「特別清算」

一方、会社の負債が資産を上回る「債務超過」の疑いがある場合には、特別清算という手続きが選択されます。清算人は、清算手続きの途中で債務超過の疑いが生じた場合、裁判所に特別清算の申立てを行う法的義務を負います。

特別清算は、裁判所の厳格な監督下で行われる倒産手続きの一種であり、株式会社のみが対象となります。債権者の利益を保護し、公平な清算を実現するために、裁判所が手続き全体を監視します。

特別清算と破産手続きの相違点

特別清算は債務超過の疑いがある場合の手続きですが、同じく債務超過状態を整理する「破産」とは異なります。

最大の相違点は、手続きの主導権です。破産では裁判所が選任した「破産管財人」が会社の財産管理処分権を完全に掌握しますが、特別清算では原則として会社が選任した「清算人」が手続きを進めることができます。

これにより、会社の実情をよく知る経営陣が関与しやすく、債権者との間で柔軟な交渉を行うことが可能です。このため、特別清算は実務上、親会社による子会社整理などで、グループイメージへの影響を抑える目的で選択されることもあります。

会社解散から清算の手続き

会社の解散から清算結了に至るまでには、会社法や税法に基づいた数多くの手続きを、定められた期限内に正確に実行していく必要があります。以下に、標準的な株式会社の通常清算における一連の流れを解説します。

1. 株主総会での解散決議と清算人の選任

すべての手続きは、株主総会で会社の解散を決議することから始まります。

前述の通り、この解散決議は議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成を要する「特別決議」です。この総会で、解散後の清算事務を担当する「清算人」も同時に選任するのが一般的です。通常は、解散前の代表取締役が清算人に就任します。

2. 解散および清算人の登記

株主総会で解散が決議された日から2週間以内に、会社の本店所在地を管轄する法務局へ「解散の登記」と「清算人選任の登記」を申請します。

この登記によって、会社が清算段階に入ったことが公的に示されます。申請には、株主総会議事録や定款などの書類が必要です。

3. 関係各所への解散の届出

法務局での登記と並行して、様々な行政機関へ解散した旨を届け出る必要があります。届出先は、税務署、都道府県税事務所、市区町村役場、年金事務所、ハローワーク、労働基準監督署など多岐にわたります。

提出書類や期限は各機関で異なるため、漏れなく対応することが求められます。例えば、年金事務所への届出は解散登記から5日以内、ハローワークへの届出は事業廃止から10日以内など、非常にタイトなスケジュールが設定されています。

4. 債権者保護手続き(官報公告・個別催告)

会社に対して債権を持つ者を保護するため、法律で定められた手続きです。清算人は、解散後遅滞なく、官報に「解散公告」を掲載し、債権者に対して2ヶ月以上の期間内に債権を申し出るよう呼びかけます。

また、会社が把握している既知の債権者には、個別に催告書を送付します。この2ヶ月間の公告期間が、清算手続き全体の最短期間を決定づける要因となります。

5. 財産目録・貸借対照表の作成と承認

清算人は就任後、遅滞なく会社の財産を調査し、解散日時点での財産目録と貸借対照表を作成します。これらの書類は、会社の財産状況を正確に把握し、その後の清算計画の基礎となるものです。作成後、株主総会に提出し、その承認を得て会社に保管します。

6. 資産の現金化、債務の弁済、残余財産の分配

官報公告の期間が満了し、債権者が確定した後、清算人は本格的な財産整理に着手します。

売掛金などの債権を回収し、不動産や有価証券などの資産を売却して現金化します。そして、その資金をもって買掛金借入金などの債務を弁済します。すべての債務を完済してもなお財産が残る場合、これを「残余財産」として、株主の持株比率に応じて分配します。

7. 税務申告(解散・清算中・清算確定)

清算期間中、会社は複数回の税務申告が必要です。まず、事業年度開始日から解散日までの期間について「解散確定申告」を、解散日の翌日から2ヶ月以内に行います。

清算手続きが1年以上にわたる場合は、解散日の翌日から1年ごとに「清算中の確定申告」が必要です。そして、残余財産がすべて確定したら、その確定日の翌日から1ヶ月以内に「清算確定申告」を行います。

8. 決算報告書の承認と清算結了登記

すべての清算事務が完了したら、清算人はその内容をまとめた「決算報告書」を作成します。この決算報告書を株主総会に提出し、承認を得ることで、会社法上、会社の法人格は実質的に消滅します(会社法第507条)。

そして、この株主総会の承認日から2週間以内に、法務局へ「清算結了の登記」を申請します。この登記をもって、会社の登記簿は閉鎖され、法的に完全に存在しなくなります。

会社解散から清算までにかかる期間

会社の解散から清算結了までの期間は、法的に定められた最短期間と、会社の個別事情によって変動する実質的な期間の二つの側面から理解する必要があります。

最低でも2ヶ月以上かかる

会社清算の手続きには、法律によって定められた待機期間が存在します。会社法第499条の規定により、解散した会社は債権者保護のために官報で解散の事実を公告し、債権者に債権を申し出るための期間を設けなければなりません。

この申し出期間は「2ヶ月を下回ることができない」と定められています。この期間中は、原則として債務の弁済が禁止されるため、清算手続きを完了させることができません。したがって、どんなにスムーズに手続きが進んだとしても、会社の解散から清算結了までには最低でも2ヶ月強の期間を要します。

手続き期限備考
株主総会での解散決議解散日清算人も同時に選任するのが一般的
解散・清算人就任の登記解散日から2週間以内法務局へ申請
官報への解散公告解散後、遅滞なく掲載から最低2ヶ月間は清算結了不可
解散確定申告解散日の翌日から2ヶ月以内税務署等へ申告
債権・債務の整理官報公告期間終了後資産の売却、債務の弁済
清算確定申告残余財産確定の翌日から1ヶ月以内税務署へ申告
決算報告書の承認清算事務完了後株主総会で承認
清算結了登記決算報告承認日から2週間以内法務局へ申請。これで法人格が消滅

手続きが長期化するケース

法的な最短期間は2ヶ月強ですが、実際の清算期間は会社の状況によって大きく異なります。一般的には3ヶ月から半年程度で完了するケースが多いものの、1年以上、場合によっては数年を要することもあります。

手続きが長期化する主な要因は、法的な期限ではなく、事業上の現実に根差しています。例えば、不動産や特殊な機械設備など、売却に時間がかかる資産を保有している場合、現金化が進まない限り債務の弁済ができず、清算を結了できません。

また、取引先との間に債権の額を巡る争いがある、多数の従業員の退職手続きに手間取る、税務調査が入るなどの不測の事態も、期間を大幅に延長させる要因となります。

会社解散から清算にかかる費用

会社の解散・清算には、登記や公告に必要な法定費用、専門家へ支払う報酬、そして事業所の原状回復費用など、様々なコストが発生します。

登記や公告にかかる法定費用

これらは、手続きを進める上で必ず発生する実費です。

登録免許税

法務局での登記申請時に納める税金です。「解散及び清算人選任の登記」で39,000円(解散30,000円+清算人選任9,000円)、「清算結了の登記」で2,000円、合計で41,000円が必要です。

官報公告費用

債権者保護手続きのために官報に解散公告を掲載する費用です。掲載する行数によって変動しますが、一般的には約32,000円から40,000円程度が目安となります。

司法書士や税理士など専門家への依頼費用

複雑な法務・税務手続きを正確に進めるためには、専門家の支援が不可欠です。その報酬は、依頼する業務の範囲や会社の状況によって大きく異なります。

司法書士報酬

解散・清算結了の登記申請を依頼する場合、70,000円から120,000円程度が相場です。

税理士報酬

解散確定申告や清算確定申告など、複数回にわたる特殊な税務申告を依頼する場合、80,000円から数十万円の費用がかかります。会社の資産・負債が複雑な場合は、さらに高額になる可能性があります。

弁護士費用

債権者との交渉や紛争解決、あるいは特別清算手続が必要な場合は弁護士への依頼が必須となり、その費用は事案の難易度に応じて変動します。

項目費用の目安内容
登録免許税41,000円解散・清算人選任登記(39,000円)と清算結了登記(2,000円)の合計
官報公告費用約32,000円~40,000円官報への解散公告掲載料
司法書士報酬約70,000円~120,000円登記申請手続きの代行費用
税理士報酬約80,000円~数十万円解散・清算に関わる税務申告の代行費用
その他諸費用実費事務所の原状回復費用、資産の処分費用、各種証明書の取得費用など

これらの費用を合計すると、専門家への依頼を含めた総額は、単純なケースでも40万円から50万円程度になることが一般的です。法定費用自体は比較的小額ですが、手続きの正確性を担保し、清算人の法的責任リスクを回避するためには、専門家への報酬が実質的な主要コストとなると認識しておくべきです。

会社の解散から清算までの流れを理解し手続きを行おう

この記事では、会社の解散を決議してから、清算手続きを経て法人格が完全に消滅するまでの一連の流れと、それに伴う費用などについて解説しました。

解散・清算は、株主総会の特別決議から始まり、登記申請、債権者保護手続き、税務申告など、法務と税務にまたがる複数の手続きを正確に進める必要があります。ご自身で全てを行うことも不可能ではありませんが、手続きの複雑さや法的な正確性を考慮すると、多くの時間と手間を要するでしょう。

会社の解散は、経営者として事業に一区切りをつけ、関係者への影響を最小限に抑えるための重要な経営判断です。手続きをスムーズかつ適切に進めるためにも、まずは司法書士や税理士といった専門家に相談し、自社の状況に合った進め方のアドバイスを受けることをお勧めします。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事