• 作成日 : 2025年10月6日

事業売却の方法を徹底解説!手順や成功の4つのポイントをわかりやすく紹介

突然、経営の方向転換や資金需要に直面したとき、「事業売却」という選択肢を検討する経営者の方は少なくありません。

  • 事業売却と会社売却の違いがわからない
  • 売却の具体的な流れや注意点を知りたい
  • 成功させるためのポイントを押さえておきたい

このように悩む方も多いのではないでしょうか。

本記事では、事業売却の基本的な仕組みや会社売却との違い、検討される理由から、実際の手順【7STEP】までをわかりやすく解説します。

さらに、売却のメリット・デメリットや成功に導く4つのポイントも整理しているため、初めての方にもわかりやすい内容になっています。

経営資源の最適化や事業承継の手段として重要な選択肢となるため、ぜひ最後までご覧ください。

事業売却とは?

事業売却とは、会社が営む事業の一部または全部を第三者に譲り渡す取引のことです。会社法上は『事業譲渡』と呼ばれるが、実務では事業売却と呼ばれます。

株式譲渡が会社全体の経営権を移転させるのに対し、事業売却は特定の事業単位を切り離して行う点が大きな特徴です。

売却対象には設備や在庫、営業権、取引先との契約など多様な資産や権利が含まれるため、企業は必要に応じて柔軟に範囲を設定できます。また、事業売却は採算が合わない事業やノンコア事業のみを手放せるため、経営資源を効率的に再配分する手段として活用されます。

撤退という消極的な行為ではなく、経営資源を集中させるための前向きな戦略として位置づけられるのも大きなポイントです。

事業売却と会社売却の違い

事業売却は特定の事業のみを譲渡するものであり、会社自体は存続します。

一方、会社売却は株式譲渡によって経営権全体を移転させる取引であり、契約や許認可もそのまま承継されます。

さらに、事業譲渡という形態も存在し、事業売却と似ていますが、個別契約や従業員の同意といった煩雑な承継手続きが必要です。

これに対して株式譲渡は、株主が保有する株式を譲渡するだけで経営権が移転するため手続きは簡便ですが、負債もすべて引き継がれる点に注意しましょう。

項目事業売却(事業譲渡)会社売却(株式譲渡)
譲渡対象特定の事業のみを譲渡(会社自体は存続)株式を譲渡することで会社全体(経営権)を移転
契約・許認可の承継個別契約ごとに相手方の承諾が必要、従業員の同意も必要契約・許認可は会社単位でそのまま承継される
消費税の課税譲渡資産に対して原則課税対象(例:在庫・固定資産)株式譲渡は非課税

事業売却を検討する主な理由

事業売却を検討する主な理由は、主に次の4つです。ここでは、企業が事業売却の検討を行う理由について詳しく解説します。

経営資源を集中させたい

不採算事業やノンコア事業を切り離すことで、本業に人材・資金・時間を集中させられます。成長分野にリソースを投下することで、企業全体の競争力を高めることが可能です。

実際に、中小企業では不採算店舗を売却して主力事業に専念するケースや、大手メーカーが地方工場を売却して研究開発に集中する事例もあります。赤字事業を手放すことで筋肉質な経営体制を構築し、企業価値を向上させる狙いもあります。

赤字や不採算事業を整理したい

採算が取れない事業やシナジーが薄い部門を売却することで、全体の収益性を改善できます。

不採算部門のみを切り離せるため、残った事業の利益率を高めやすくなります。中小企業では赤字事業を抱えると後継者や買い手を見つけにくくなるため、事業売却が有効な整理手段です。

後継者問題を解決したい

中小企業では経営者の高齢化に伴い、後継者不在の問題が深刻化しています。

親族や社内に後継者がいない場合でも、事業売却によって第三者に経営を引き継ぐことが可能です。これにより廃業を回避し、従業員の雇用や取引先との関係を維持できます。

実際に、後継者がいない企業の約半数が事業売却に関心を示しているとも言われています。

業界再編や資金調達を行いたい

競争環境の変化や業界再編に直面した際、単独での生き残りが難しい企業は、規模の大きな企業への売却を選択することがあります。

売却益を借入金の返済や新規投資に充てることで、財務体質の改善や成長戦略に活用できます。大企業でも非主力事業を売却し、資金を重点分野に再配分する例は少なくありません。

さらに、業界再編型のM&Aによって顧客基盤や従業員の雇用を守れるケースもあります。

事業売却の方法・手順【7STEP】

事業売却をスムーズに進めるには、次の手順に沿って行うことが重要です。ここでは、事業売却の方法とその手順を7ステップで解説します。

1.売却する事業の決定

まずは、売却の対象を明確にしましょう。

会社全体を売却するのか、一部の事業に限定するのかを判断し、収益性や将来性を踏まえて譲渡する事業と残す事業を選定します。

また、後継者不在や資金調達、経営資源の集中といった売却の目的を整理することも欠かせません。

2.財務資料・事業内容の整理

次に、買い手が判断できるだけの資料を整えましょう。

直近3〜5年分の財務諸表貸借対照表損益計算書など)を準備し、契約関係や知的財産、許認可などの法務資料を揃えます。

さらに、事業内容や強み、顧客構成、業界での立ち位置をまとめ、赤字部門や訴訟リスクといった課題も正直に開示することで、交渉をスムーズに進めやすくなります。

3.買い手候補の探し方

買い手探しは、M&A仲介会社やアドバイザーを通じて行うのが一般的です。

自社とのシナジー効果が期待できる企業を中心に検討するほか、M&Aマッチングプラットフォームを利用する方法もあります。候補とのやり取りは機密保持契約を結んだ上で進め、同業だけでなく異業種の企業が有望となる場合も視野に入れましょう。

4.基本合意書の締結

買い手候補が決まったら、売却条件(価格、スキーム、スケジュールなど)について大枠で合意します。

基本合意書には独占交渉権や秘密保持に関する条項を盛り込むのが一般的です。なお、この段階の価格はデューデリジェンス後に確定するため、仮条件にとどまります。

5.デューデリジェンス(買い手による調査)

買い手は専門家を通じて、財務、法務、税務、労務、ビジネス面を詳細に調査します。

隠れた債務や法的トラブルの有無を精査し、その結果によって最終的な価格や条件が見直される可能性があります。

6.契約締結

調査を経て条件が確定したら、株式譲渡契約や事業譲渡契約を締結します。

契約内容には表明保証や違約金に関する取り決めが含まれ、買い手と売り手双方の法務・税務専門家が関与してリスクを最小化します。

7.移転手続き・関係者への通知

最後に、売却対象が株式であれば株主名簿の書き換え、事業譲渡であれば資産や契約の移転手続きを行います。

その上で、従業員や取引先、金融機関といった関係者に適切なタイミングで通知します。従業員については、労働契約の承継に本人同意が必要となる場合があるため注意が必要です。

引継ぎ業務を丁寧に行い、事業の継続性を確保しましょう。

事業売却のメリット

事業売却には、売り手と買い手それぞれに異なるメリットがあります。ここでは、双方の立場から具体的なメリットを解説します。

売り手側のメリット

売り手側にとって、事業売却は経営資源の最適化や財務改善の手段として重要な意味を持ちます。

まず、不採算事業やノンコア事業を切り離すことで、本業へ資源を集中でき、経営効率化につながります。さらに、商号を残すことで会社のブランドや歴史を維持できるのも大きな魅力です。

売却によって得られる資金は、新規事業投資や財務改善に活用可能で、資金調達の有効な方法となります。また、後継者問題の解決手段としても有効で、従業員の雇用を守りつつ事業継続を図れる点も安心材料です。

売り手側のメリット内容
経営資源の最適化不採算・ノンコア事業を切り離し、本業へ集中できる
経営効率化資源を集約し、筋肉質な経営体制を実現
ブランド・商号維持会社の名前や歴史を残すことが可能
財務改善・資金調達売却資金を新規投資や財務強化に活用できる
後継者問題の解決従業員の雇用を守りつつ事業継続が可能

買い手側のメリット

買い手側にとっても、事業売却は大きな魅力を持つ選択肢です。必要な資産や負債だけを選んで取得できるため、不要なリスクを回避しやすく、特に簿外負債を引き継がない点は大きな安心材料となります。

また、既存のノウハウや顧客基盤、ブランドを一気に獲得できるため、新規事業をゼロから立ち上げるよりも短期間で市場展開が可能です。さらに、競合他社を取り込むことで市場シェアを拡大し、事業成長を加速できる点も魅力です。

買い手側のメリット内容
リスク回避必要な資産・負債だけを選んで取得可能
簿外負債を引き継がない安全性が高く、不要なリスクを回避できる
ノウハウ・顧客基盤獲得ブランド・顧客を短期間で確保できる
市場参入リスクの軽減ゼロから立ち上げるよりスピーディーな展開が可能
市場シェア拡大競合を取り込み、事業成長を加速できる

事業売却のデメリット

事業売却は経営戦略の一環として有効な手段ですが、売り手側・買い手側の双方に注意すべきデメリットがあります。ここでは、それぞれの立場から考えられる主な課題を解説します。

売り手側のデメリット

売り手にとって最大の負担は、手続きの煩雑さです。事業売却では、個別の財産や契約を1件ずつ承継する必要があり、株式譲渡のように包括的な移転ができません。そのため、賃貸契約や取引契約ごとの承継作業に多大な時間と労力を要します。

さらに、売却対象事業ごとの財務諸表を作成する必要があり、間接費の配分などで作業が複雑化します。譲渡対価には消費税が課税されるため、最終的な手取り額が減少してしまうのです。

また、従業員や取引先に不安を与えたり、情報漏えいによって信頼性が損なわれたりするリスクも存在します。交渉や調整の過程で経営資源が消耗される点も見逃せない課題です。

売り手側のデメリット内容
手続きの煩雑さ賃貸契約・取引契約を1件ずつ承継する必要がある
財務諸表の作成負担事業ごとに財務諸表を作成、間接費配分で複雑化
消費税の課税譲渡対価に課税され、手取り額が減少する
ステークホルダーの不安従業員・取引先に不安を与え、関係悪化のリスク
情報漏えいのリスク信頼性の低下につながる可能性がある
経営資源の消耗調整・交渉で時間と労力を奪われる

買い手側のデメリット

買い手にとっても事業売却にはリスクがあります。まず、事業買収では消費税を支払う必要があり、株式譲渡と比べてコスト負担が大きくなります。さらに、繰越欠損金の引継ぎができないため、節税効果を得にくい点もデメリットです。

また、許認可の再取得や契約の個別移管が必要であり、事務手続きが煩雑化します。買収後には主要従業員や顧客が離脱する可能性があり、収益計画が想定どおりに進まないリスクも存在します。そのため、株式譲渡と比べて法律的・事務的な負担が大きいのが実情です。

買い手側のデメリット内容
コスト負担の増加消費税を支払う必要があり、株式譲渡より高コスト
節税効果の欠如繰越欠損金の引継ぎができず節税効果を得にくい
許認可・契約移管再取得や個別承継が必要で、手続きが煩雑
人材・顧客離脱リスク主要人材や顧客が流出し、収益計画が崩れる可能性
法務・事務的負担株式譲渡に比べ、手続きや調整の負担が大きい

事業売却を成功させるための4つのポイント

事業売却を円滑に進め、満足のいく結果を得るためには、次のような事前の準備と慎重な対応が欠かせません。ここでは、成功につなげるために押さえておきたい4つの重要なポイントを解説します。

売却目的を明確にする

事業売却を検討する際は、まず目的を明確にすることが必要です。

経営資源を主力事業に集中させるために不採算事業を切り離すケースや、後継者問題を解決するために第三者へ事業を譲渡し、雇用や取引先との関係を維持するケースがあります。

業界再編や競争環境の変化に対応し、より大きな企業に事業を譲渡することで事業継続を図る方法もあります。また、売却益を資金調達や借入金返済に充てることで、財務改善や成長投資を実現することも可能です。

目的が不明確なままでは、交渉や手続きの方向性がぶれ、売却がスムーズに進まないリスクが高まります。自社にとって最優先すべき事項(雇用維持か資金確保かなど)を早めに整理しておきましょう。

財務内容を整理しておく

買い手は必ず財務状況を確認するため、事業別財務諸表(貸借対照表・損益計算書)の準備が欠かせません。簿外負債や含み損が残っていると、デューデリジェンスで懸念され、取引が破談となる恐れがあります。

一方で、財務を整理し透明性を高めておけば、たとえ赤字事業であっても買い手の安心感が増し、売却の可能性が広がります。財務状況がクリーンであるほど評価は高まり、売却価格の上昇につながることも少なくありません。

顧問税理士や会計士に相談し、早めに財務を精査しておくことが重要です。

情報漏洩に注意する

売却交渉の過程では多くの事業情報を外部に提供するため、秘密保持契約(NDA)の締結は不可欠です。情報公開のタイミングを誤ると、社員や取引先に過度な不安を与え、離職や契約見直しにつながるリスクがあります。

特にデューデリジェンスの段階では大量の資料を開示するため、情報管理体制を事前に整備しておくことが必要です。一般的には仲介会社や専門家を通じ、売却先候補に限定して情報を提供する形が取られます。

徹底した管理により、信頼を損なわずに交渉を進めましょう。

専門家に早めに相談する

事業売却の進め方や税務上の影響は複雑であり、専門的な知識が欠かせません。

主に次のような専門家に早めに相談することで、最適なスキーム(事業譲渡か株式譲渡か)を検討しましょう。

  • 会計士
  • 税理士
  • 弁護士
  • M&A仲介会社

また、買い手候補の探索や契約書の作成、株主総会決議といった手続きも専門家の支援によりスムーズに進みます。さらに、デューデリジェンス対応での交渉力が高まり、売却後の税金や従業員の処遇についても具体的なアドバイスを受けられます。

トラブルを未然に防ぐために、可能な限り早めに相談することがおすすめです。

事業売却の方法を正しく理解しよう

事業売却は、経営資源の最適化や後継者問題の解決、業界再編や資金調達の手段として、企業の持続的な成長に重要な選択肢です。

不採算事業を切り離し、本業へ集中することで筋肉質な経営を実現できる一方、買い手にとってもノウハウや顧客基盤を短期間で獲得できる大きなメリットがあります。ただし、契約承継の煩雑さや従業員・取引先への影響など、売り手・買い手双方にリスクが伴う点は注意が必要です。

成功には、売却の目的を明確にし、財務や事業情報を整理した上で、情報漏洩に細心の注意を払いながら進めることが欠かせません。

事業売却を行う際には、自社の状況を正しく把握し、計画的に進めましょう。


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