- 作成日 : 2025年4月25日
一人親方が新型コロナに感染したら労災保険が使える?5類移行の今は?取り扱いを解説
新型コロナウイルスは4類から5類感染症に移行しましたが、5類に移行後の今も、業務で感染した場合は労災保険の対象です。一人親方として現場で働く方々にとって、依然として感染する可能性のある新型コロナによる収入の減少や仕事の中断は大きな問題です。「工事の中止で収入がなくなった」「療養中は働けない」「休業補償を受けられるのか?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
この記事では、一人親方が新型コロナに感染した場合に労災保険が適用されるかどうかケース別に詳しく解説します。また、収入減少による補償や申請方法についても解説します。
目次
一人親方がコロナに感染したら労災保険が使える?
新型コロナウイルスが5類に移行後も、業務で感染した場合は労災保険の対象となります。療養や休業が必要と認められた場合も適用され、取り扱いに変更はありません。
一人親方が新型コロナウイルスによる労災保険の適用を受けるには、業務中の感染であることが必要です。しかし、新型コロナの感染経路は特定が難しく、ケースごとの判断が求められます。
また、一人親方は一般的な労災保険の対象外ですが、労災保険の特別加入制度を利用し、加入団体を通じて労災保険に加入していれば補償を受けられる可能性があります。
労災認定のポイント
労災認定を受けるためには、「感染経路」「業務起因性」「診断書の提出」が重要になります。
- 感染経路:同僚や現場関係者に感染者がいるか、業務中に感染リスクの高い状況があったか。
- 業務起因性:勤務状況や職場環境の記録、同僚の感染状況の確認。
- 診断書の提出:医師による診断や休業の必要に関する意見書。
労災保険の申請を考えている方は、感染が業務によるものである証拠をしっかりと集め、適切な手続きを進めることが重要です。
一人親方がコロナに感染して労災認定されるケース
具体的にみていきましょう。一人親方が新型コロナに感染し、労災保険が認められる可能性があるケースには以下のような状況があります。
建築現場でクラスターが発生した場合
同じ現場で働いていた職人の多くが感染し、業務中の接触が原因と考えられる場合には、労災保険の適用が認められる可能性があります。
感染リスクの高い環境で業務を行っていた場合
密閉空間や換気が十分でない作業場で長時間作業をしていた場合、感染リスクが高まるため、業務起因性が認められることがあります。
また、病院や介護施設など感染リスクの高い工事現場で作業し、現場の従業員や入所者との接触が多かった場合などは、業務中の感染と判断されやすくなります。
建設業におけるコロナ感染の労災認定事例
建設業で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定の事例として、以下のような事例があります。
事例1:作業車の同乗による感染
Eさんは、勤務中に同僚と作業車に同乗し、その同僚が後に新型コロナウイルスに感染していることが確認されました。Eさんは業務中の密接な接触が原因で感染したと判断され、労災保険の支給が決定されました。
事例2:工事現場の事務所内での感染
Bさんは、発症前14日間に工事現場の事務室で施工状況を管理する業務に従事していました。当該事務室ではBさん以外にも新型コロナウイルスに感染した者が勤務していたことが確認され、業務環境が感染リスクの高い状態であったため、労災認定がなされました。
事例3:建設作業員の現場感染
Cさんは、建設現場で他の作業員と共同作業をしていた際、同僚の中に感染者が発生。クラスターが確認されたことから、Cさんの感染は業務に起因すると認められ、労災保険の適用が決定されました。
これらのケースでは、感染経路を証明できる証拠(職場での感染状況や濃厚接触者の有無など)が重要になります。
参考:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る労災認定事例|厚生労働省
一人親方がコロナに感染し労災認定が難しいケース
一方で、以下のような場合は労災保険の適用が難しいことがあります。
感染経路が特定できない場合
新型コロナは潜伏期間があり、感染した時期や場所を特定するのが難しいため、業務外で感染した可能性が否定できない、どこで感染したかわからない場合には労災が認められにくくなります。
ただし、感染経路が特定できない場合でも、個別に業務起因性を判断し因果関係が認められれば、労災の対象となることもあります。
プライベートで感染した可能性がある場合
家庭内感染や通勤途中での感染など、仕事とは関係ない場所(プライベート)で感染した可能性が高いと考えられる場合は、労災として認められません。
申請時に証拠が不足している場合
労災申請には、感染経路や業務上の関連性を示す書類の提出が求められます。例えば、現場での感染者情報や医師の診断書がない場合、書類の作成ができず、認定が難しくなることがあります。
一人親方がコロナ感染した場合の労災補償の内容
一人親方が仕事中に新型コロナウイルスに感染し、労災と認められた場合、特別労災(特別加入制度)により以下の補償を受けることができます。
- 療養補償給付(治療費の全額補償):病院での診察・PCR検査代・入院・薬代など、コロナの治療にかかったお金は全額補償されます。自己負担はありません。
例)診察料、入院費、薬代PCR検査代 など - 休業補償給付(休業4日目以降、給付基礎日額の80%):コロナに感染して仕事ができない間の生活費をカバーする補償です。休業4日目から、1日あたり給付基礎日額の80%が支給されます。給付基礎日額は、特別加入時に自分で16段階の中から選ぶ仕組みで、例えば日額10,000円を選んだ場合、1日あたり8,000円が補償されます。給付基礎日額を高く設定すると、受け取れる補償額も増えますが、その分保険料も高くなるためバランスを考えることが大切です。
- 障害補償給付(後遺症が残った場合):コロナ感染後、重い後遺症(後遺障害)が残った場合は、障害補償給付を受けることができます。後遺障害の程度に応じて、一時金や年金の形で補償が支給されます。
例)重い呼吸障害が続く、倦怠感や味覚・嗅覚障害が治らない、仕事に支障が出るような後遺症が続く など - 遺族補償給付(死亡した場合の遺族への給付):コロナ感染が原因で亡くなってしまった場合、遺族に給付金が支払われます。遺族補償年金または一時金が支給されるほか、葬儀費用も補償されます。これは、遺族が生活に困らないようにするための支援です。
一人親方が新型コロナに感染したら?労災保険の申請方法
一人親方として働いていると、業務中に新型コロナウイルスに感染する可能性があります。感染が確認された場合、どのように労災保険を申請すればよいのでしょうか?ここでは、具体的な流れを紹介します。
工事現場で何人が新型コロナに感染したか確認する
新型コロナに感染した場合、まず工事現場で他に感染者が出ていないかを確認します。労災認定を受けるためには、「仕事が原因で感染した」という事実が重要です。
同じ現場で複数の感染者が出ている場合、業務上の感染と認定されやすくなります。なお、現場で他に感染者がいない場合は、基本的に労災として認められません。
また、過去14日間の勤務状況や接触履歴を整理し、感染経路を明確にすることが労災認定のポイントになります。具体的には、次のような情報を収集しておきましょう。
- 勤務していた現場の名称、場所、工事内容
- 一緒に作業した職人の名前や勤務状況
- 感染が疑われる接触機会(休憩所、事務所内での打ち合わせなど)
病院でコロナ陽性と判明したら、「労災保険を使う」と病院に伝える
新型コロナの症状が現れたら、まず病院を受診しPCR検査を受けます。陽性が判明したら、病院の受付で「労災保険を使う」と伝えましょう。これにより、労災保険の適用を前提とした診断書を作成してもらうことができます。
労災保険を利用する場合、通常の健康保険とは異なる取り扱いとなります。病院側も手続きを知っているケースが多いため、最初に申し出ることでスムーズに手続きが進みます。診断書には、以下の情報が含まれる必要があります。
- 診断日、病名(新型コロナウイルス感染症)
- 療養期間の目安
- 医師の所見(感染経路の推定など)
労災保険の加入団体に連絡する
一人親方の場合、労災保険に加入している団体を通じて申請を行います。加入している労災保険団体に連絡し、必要な書類を確認しましょう。一般的に、労災申請には以下の書類が必要になります。
- 労災保険の申請書(労働基準監督署への提出書類)
- 診断書(病院から取得)
- 勤務状況や感染経路に関する説明書
- 給与明細や収入の証明書(休業補償申請時)
申請書の作成には、勤務状況や感染の状況を詳しく記載する必要があります。特に、業務上の感染であることを証明するための資料を準備しておくことが大切です。
また、一人親方が元請会社の労災を利用する場合も同じように状況を詳しく伝えましょう。元請け会社との契約内容によっては休業補償や特別手当が支給される場合もあります。
一人親方のコロナ感染による支援制度はある?
一人親方がコロナ感染により収入が減少した場合に利用できる補償や制度として、以下のものがあります。
休業補償給付
休業補償給付は労災保険から支給されるもので、仕事中のケガや病気で働くことができない場合の所得補償として給付されます。
一人親方の場合は現場での作業中のケガのほか、コロナ感染が仕事中と認められた場合に支給されます。金額は給付基礎日額の60%のほか、特別支給金20%と併せて、合計80%が支給されます。
障害基礎年金
障害基礎年金は、コロナと診断され1年6カ月経過した時点で2級以上の障害状態にある場合に国民年金から支給されます。
手続きには、最初に受診した病院の証明書や1年6か月経過した時点の診断書などが必要で、支給額は2級の場合が年額約80万円、1級の場合が年額約100万円です。ただし、障害基礎年金と労災保険はどちらとも満額を受け取ることはできず、障害基礎年金を受け取ると労災保険が減額調整されます。
建設国保の傷病手当金
一人親方が加入している医療保険が建設国保の場合は、傷病手当金の受給ができるかもしれません。一人親方は個人事業主のため健康保険には加入することができず、市町村の国民健康保険又は建設国保に加入することが一般的です。
国民健康保険には、原則として所得補償の傷病手当金はありませんが、建設国保は独自の給付として、傷病手当金などの所得保障給付を行っている場合があります。
支給対象となるかどうかや手続き方法などは各建設国保ごとに異なるため、問い合わせをしてみると良いでしょう。
国や自治体の給付金(補助金)
一人親方が病気やケガなどで働くことができない場合や、事業の継続のために資金が必要な場合には、国や自治体から給付金(補助金)が支給されることがあります。
給付金や補助金の種類はさまざまで、支給要件などが細かく定められています。また、申請期限が設けられているものもあり、期限を過ぎると受け付けてもらえない場合があります。
具体的にどのような給付金や助成金が対象になるかは、各自治体の窓口で相談するか、専門家のアドバイスを受けてみると良いでしょう。)自治体によっては、一般に知られていない独自の支援制度を設けている可能性があるため、まずは相談してみることをお勧めします。
新型コロナに感染したら労災保険の適切な対応を進めよう
新型コロナに感染した場合、一人親方は自身で労災申請を進めなければなりません。感染経路を明確にし、必要な書類を準備することが大切です。また、労災保険のほかにも、自治体の給付金や助成金を活用できる可能性があります。
事前に補償制度の内容を理解し、いざという時に備えておくことが、安心して働くためのポイントとなります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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