• 作成日 : 2025年8月19日

予想EPSとは?EPSの基本や計算方法、調べ方を解説

株式投資において、企業の将来性を見極めることは成果を出すための基本です。数ある指標の中でも、企業の収益性と成長性を判断する上で欠かせないのが「予想EPS」です。この指標を正しく理解し、活用することで、投資判断の精度を高めることが期待できます。

この記事では、予想EPSの基本的な意味から、計算方法、調べ方、そして実際の投資にどう活かすのかまでを解説していきます。

予想EPSとは?

予想EPSは、企業の将来的な収益力を測るための財務指標です。これは過去の実績ではなく、未来の利益を予測した数値であるため、株価の先行指標として多くの投資家から注目されています。

EPS(1株当たり利益)の基本

まず、予想EPSを理解する前提として、EPS(Earnings Per Share)について説明します。EPSは「1株当たり利益」と訳され、企業が1年間で上げた当期純利益を発行済株式数で割ることで算出される数値です。

つまり、企業が1株あたりどれくらいの利益を生み出したかを示しており、企業の収益力を判断するための基本的な指標となります。EPSが高いほど、その企業は効率的に利益を上げていると評価できます。

予想EPSが示すもの

予想EPS(Forecasted EPS)とは、文字通り、将来の事業年度におけるEPSの予測値です。過去の実績値ではなく、企業自身やアナリストが公表する「将来の利益予想」を用いて計算されます。

株式投資は、企業の過去ではなく未来の価値に対して行われる活動です。株価は、過去の実績ではなく、市場がその企業の将来性(未来の収益力)をどう評価しているかによって決まります。このため、株価の割安・割高を判断するPER(株価収益率)などの評価指標では、過去のEPSではなく、未来を映す予想EPSが計算の基礎として用いられるのです。

誰がEPSを予想するの?

予想EPSの情報源は、主に2種類に大別されます。

一つは、企業自身が発表する「会社予想」です。これは企業の公式な業績見通しであり、決算短信などで公表されます。

もう一つが、証券会社や調査機関の金融アナリストが独自に分析して算出する「アナリスト予想」です。そして、複数のアナリスト予想の平均値を取ったものを「コンセンサス予想」と呼びます。コンセンサス予想は、個々のアナリストの見方の偏りをならし、より客観的な市場の期待値を反映していると考えられるため、プロの投資家も重視しています。

企業は、しばしば達成可能な範囲で保守的な会社予想を出す傾向があります。一方でアナリストは、より現実に即した数値を予測しようとします。この会社予想とコンセンサス予想の間に生まれるギャップこそ、投資機会やリスクの源泉となるのです。

なぜ予想EPSが投資判断に不可欠なのか

予想EPSは単なる未来の予測値ではありません。多くの市場参加者が企業の将来価値を評価する際の共通言語のようなものであり、株価形成に直接的な影響を与えます。この指標がなぜ投資判断に欠かせないのか、その理由を深く掘り下げてみましょう。

株価の先行指標としての側面

株価は、企業の現在の業績だけでなく、将来の成長期待を織り込んで形成されます。投資家は「将来この会社はもっと儲かるだろう」と判断すれば、現在の株価が割高に見えても株式を購入します。その「将来の儲け」を数値化したものが予想EPSです。

したがって、予想EPSが上方修正されると、企業の成長期待が高まり株価が上昇しやすく、逆に下方修正されると、失望感から株価が下落する傾向にあります。このように、株価の動きを予測する上で参考になるのです。

企業の成長性を測るものさし

企業の価値は、その成長性にかかっているといっても過言ではありません。予想EPSの推移を確認することは、企業の成長ストーリーが順調に進んでいるかを確認する有効な手段です。

例えば、毎年一貫して予想EPSが上昇している企業は、安定した成長を続けていると評価できます。また、期初に立てられた予想から、四半期ごとにどれだけ実績が上振れているか、あるいは下振れているかを見ることで、経営の安定度や計画達成能力も推し量れます。

予想EPSの計算方法

予想EPSがどのように算出されるのか、その仕組みを理解しておくと、指標への理解がより一層深まります。計算式自体はシンプルですが、その元となる数値がどこから来るのかを知ることが大切です。

基本的な計算式

予想EPSの計算式は、EPSの計算式と考え方は同じです。アナリストなどが予測した「来期の予想当期純利益」を「発行済株式数」で割ることで算出します。

予想EPS = 予想当期純利益 ÷ 発行済株式数

この計算式で使われる「予想当期純利益」は、複数のアナリストの予測値を集計した平均値(コンセンサス予想)が用いられるのが一般的です。

計算に必要な数値の入手方法

個人投資家が自ら予想当期純利益を精密に計算することは困難です。そのため、通常は企業自身が発表する業績予想や、証券会社、経済情報サイトが提供する情報を利用します。

企業の業績予想は、決算短信などのIR資料で確認できます。発行済株式数も同様にIR資料に記載されています。しかし、最も手軽なのは、すでに計算済みの予想EPSの数値を、後に紹介するような情報源から直接確認する方法です。

EPSが増加するタイミング

EPSが上昇する局面は、主に以下の二つの要因によってもたらされます。

1. 当期純利益の増加

企業の根源的な成長を示すのが、当期純利益の増加です。売上が好調であったり、原価の削減や経費の効率化に成功したりすると、利益は増加します。

その結果、計算式の分子である当期純利益が大きくなるため、EPSは上昇します。これは、事業活動が順調に進んでいる証であり、投資家にとっては最も好ましいEPSの上昇理由と言えるでしょう。

2. 発行済株式総数の減少

利益額が変わらなくても、発行済株式総数が減れば、1株当たりの利益は増加し、EPSは上昇します。発行済株式総数が減少する主なケースは以下の通りです。

自社株買い(自己株式取得)

企業が市場から自社の株式を買い戻すことです。買い戻した株式を消却すると、発行済株式総数が減少します。これは、1株当たりの価値を高める効果があるため、株主還元策の一環として実施されることが多く、株価にとっても好材料と見なされる傾向にあります。

EPSが減少するタイミング

一方で、EPSが低下する局面もあり、その要因を理解しておくことも重要です。

1. 当期純利益の減少

売上の低迷、コストの増加、あるいは特別な損失の発生などにより、当期純利益が減少するとEPSは直接的に低下します。これは企業の収益力が悪化していることを示唆するため、投資家からは懸念材料と見なされます。

2. 発行済株式総数の増加

当期純利益が変わらない、あるいは増加していても、それ以上に発行済株式総数が増加すると、1株当たりの利益が「希薄化」し、EPSは低下します。発行済株式総数が増加する主なケースには以下のようなものがあります。

増資(新株発行)

企業が資金調達のために新たに株式を発行することです。特に、特定の第三者に新株を割り当てる「第三者割当増資」や、広く一般の投資家に新株を募集する「公募増資」などがこれに該当します。事業拡大のための前向きな資金調達であっても、短期的には1株当たりの価値が薄まるため、EPSは低下します。

ストックオプション(新株予約権)の行使

役員や従業員に付与されたストックオプションが権利行使されると、新たに株式が発行され、発行済株式総数が増加するため、EPSの低下要因となります。

予想EPSの調べ方

予想EPSは、さまざまな場所で手軽に確認できます。自分で計算しなくても、信頼できる情報源から最新の数値を入手することで効率的に情報を得ることが可能なのです。ここでは、代表的な調べ方を3つ紹介します。

証券会社のウェブサイトやツール

普段利用している証券会社のウェブサイトや取引ツールが、最も身近で便利な情報源です。

個別銘柄の詳細情報ページには、現在の株価やPER、PBRといった指標と並んで、今期や来期の予想EPSが掲載されていることがほとんどです。主要な証券会社では、複数のアナリストの予想平均値である「コンセンサス」の数値も提供しており、客観的な視点での評価を確認できます。

企業が発表するIR情報(決算短信など)

企業が公式に発表する情報を確認することも一つの方法です。企業は四半期ごとに決算を発表し、その際に「決算短信」という資料を開示します。

この資料の中には、年間の業績予想が含まれており、そこから会社自身が考える予想当期純利益を知ることができます。この会社の予想値を基に、自分でEPSを計算することも可能です。一次情報であるため信頼性が高いですが、市場の期待(アナリスト予想)とは乖離がある場合もあります。

ニュースサイトや情報ポータル

日本経済新聞社のウェブサイトや、Yahoo!ファイナンス、株探(かぶたん)といった株式情報ポータルサイトでも、個別銘柄の予想EPSを確認できます。これらのサイトは、各社の情報をまとめて比較しやすく表示してくれる利点があります。また、業績修正(予想値の変更)があった際にはニュースとして速報が流れることも多く、タイムリーな情報収集に役立ちます。

予想EPSの活用方法

予想EPSの数値をただ眺めるだけでは不十分です。他の指標と組み合わせたり、時系列で変化を追ったりすることで、初めて投資判断に活かすことができます。ここでは、より実践的な活用方法を解説します。

PER(株価収益率)と組み合わせた分析

予想EPSは、株価の割安度を測る指標であるPER(株価収益率)を計算する際に用いられます。PERは「株価 ÷ EPS」で計算されますが、このEPSに予想EPSを用いることで「予想PER」が算出できます。

予想PERは、企業の将来の利益から見て現在の株価が割安か割高かを判断する指標です。予想EPSが伸びているにもかかわらず予想PERが低い水準にあれば、その株は将来的に評価が見直され、株価が上昇する可能性があると考えることができます。

成長率(コンセンサス変化)の推移を確認する

一つの時点での予想EPSの数値だけでなく、その変化率や推移を見ることが大切です。3ヶ月前、半年前の予想EPSと比較して、現在の予想値がどのように変化しているかを確認しましょう。

もしアナリストたちの予想(コンセンサス)が継続的に上方修正されているのであれば、市場の期待が着実に高まっている証拠です。逆に、徐々に下方修正されている場合は、企業の成長に何らかの陰りが見えている可能性を示唆しており、注意深く見守る必要があります。

同業他社との比較

投資を検討している企業の予想EPSが、同じ業界のライバル企業と比較してどうなのかを比べることも有効な分析方法です。業界全体の景気が良ければ、多くの企業の予想EPSは上昇傾向にあるでしょう。

その中で、業界平均を上回る高い成長率を示している企業は、競争優位性を持っていると判断できます。業界内でのポジションや成長力の違いを把握することで、より有望な投資先を選び出す手助けとなります。

予想EPSを利用する上での注意点

予想EPSは非常に便利な指標ですが、万能ではありません。その特性を理解し、いくつかの注意点を念頭に置いて利用することが、リスク管理につながります。

あくまで「予想」であることの認識

最も基本的な注意点は、予想EPSが確定した未来の数値ではないということです。

これはアナリストによる専門的な分析に基づいた予測値ですが、実際の業績は経済情勢の急変や不測の事態によって、予想から大きく乖離する可能性があります。この数値を過信せず、あくまで参考情報の一つとして捉え、他の多角的な分析と合わせて判断する姿勢が求められます。

業績修正による変動リスク

企業は、期中に業績の見通しを変更することがあります。これを「業績予想の修正」と呼びます。

当初の予想よりも業績が好調であれば上方修正、不調であれば下方修正が発表されます。この業績予想の修正が発表されると、それを織り込む形で予想EPSも大きく変動し、株価に急激な影響を与えることがあります。特に、ネガティブな下方修正は株価の急落を招くリスクがあるため、常に最新の企業情報をチェックすることが大切です。

一時的な要因による影響の排除

企業の利益には、資産売却による特別利益や、災害による特別損失など、その期だけの一時的な要因が含まれることがあります。

こうした一時的な要因によって当期純利益が大きく変動すると、それに伴って予想EPSの数値も実態以上に良く見えたり、悪く見えたりすることがあります。その利益が、本業のビジネスから生み出された持続的なものなのか、それとも一時的なものなのかを区別して評価することが、企業の本質的な収益力を見誤らないために必要です。

類語との違い

EPSは強力な指標ですが、万能ではありません。企業の「安定性」を示すBPSや、「資本効率」を示すROEと組み合わせることで、初めて企業を立体的に評価できます。それぞれの指標の役割を理解しましょう。

指標日本語名何を測るか計算式(簡易版)
EPS1株当たり利益企業の収益力当期純利益 ÷ 発行済株式数
BPS1株当たり純資産企業の安定性純資産 ÷ 発行済株式数
ROE自己資本利益率資本の効率性当期純利益 ÷ 自己資本

EPSとBPS

EPSが損益計算書を基にした「フロー」の指標、つまり一定期間の収益力を示すのに対し、BPS(Book-value Per Share)は貸借対照表を基にした「ストック」の指標、つまりある時点での資産的な安定性を示します。

BPSは、企業の純資産(総資産から負債を引いたもの)を1株当たりで示したもので、「解散価値」とも呼ばれます。BPSが高い企業は財務基盤が強固であると評価されます。EPSが高くてもBPSが低い企業は、借入に頼った収益拡大でリスクが高いかもしれません。逆にBPSが高くてもEPSが低い企業は、資産を持て余している可能性があります。両者を併せて見ることで、企業の健全性を総合的に判断できます。

EPSとROE

EPSが1株当たりの利益の「絶対額」を示すのに対し、ROE(Return on Equity)は、株主から集めたお金(自己資本)をどれだけ効率的に使って利益を生み出しているかという「効率性」を示します。

ROEは「当期純利益 ÷ 自己資本」で計算され、「EPS ÷ BPS」という形でも表せます。同じEPSを稼いでいても、より少ない自己資本で達成している企業の方がROEは高くなり、経営効率が良いと評価されます。高いROEを維持している企業は、優れたビジネスモデルや経営手腕を持つ証であり、多くの著名な投資家が重視する指標です。

3つの指標で企業を立体的に評価する方法

優れた投資対象となる企業は、これら3つの指標がバランス良く優れている傾向があります。

  1. 高く、成長しているEPS(収益力があり、事業が伸びている。)
  2. 安定して、増加しているBPS(財務が健全で、利益を内部に蓄積できている。)
  3. 高く、安定しているROE(本を効率的に活用し、質の高い利益を生み出している。)

これらの指標を組み合わせることで、企業の収益性、安定性、効率性を多角的に評価し、より確度の高い投資判断を下すことが可能になります。

 予想EPSを理解して株価や業績予想に活用しよう

この記事では、株式投資における「予想EPS」について、その基本的な意味から調べ方、実践的な活用法、そして注意点までを網羅的に解説しました。

予想EPSは、企業の将来の1株当たり利益を予測した数値であり、株価の先行指標として、また企業の成長性を測るものさしとして機能します。証券会社のツールや情報サイトで手軽に確認でき、予想PERの算出や成長率の推移分析、同業他社比較などに活用することで、投資判断の精度を高められます。

ただし、あくまで「予想」であることを忘れず、業績修正のリスクや一時的な利益変動の可能性も考慮に入れることが肝心です。


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