- 作成日 : 2025年6月16日
親の会社を継ぐメリット・デメリットやタイミング、手続きを解説
「親の会社を継ぐ」ということは、多くの経営者やその後継者候補の方々にとって、人生の大きな岐路となる決断です。長年、家族が築き上げてきた会社を引き継ぐことには、大きな期待と共に、見えないプレッシャーや不安が伴うこともあるでしょう。
この記事では、親の会社を継ぐことの意味合いから、事前に考えるべきこと、具体的なメリット・デメリット、リスク、最適なタイミング、必要な準備や手続き、そして成功へのポイントまで、幅広く、そして分かりやすく解説していきます。
目次
親の会社の引き継ぎとは
親の会社の引き継ぎとは、一般的に「事業承継」と呼ばれるものの一つの形態で、創業者や現経営者である親から、その子どもへ会社の経営権や資産(株式など)を引き継ぐことを指します。
これは単に社長という役職を引き継ぐだけでなく、会社の理念や文化、従業員、取引先との関係、そして時には借入金なども含めた、会社全体を受け継ぐプロセスです。他のM&A(企業の合併・買収)とは異なり、家族・親族間で行われるため、感情的な側面や特有の配慮が必要になる点が特徴と言えるでしょう。
事業継承についてより詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。
親の会社を継ぐ前に考えるべき重要な5つのこと
後継者として「会社を継ぐ」と決断する前に、立ち止まってじっくり考えるべき大切な点がいくつかあります。感情や勢いだけで進むのではなく、以下の点を冷静に評価することが、後悔のない選択につながります。
- 自身の覚悟と適性
まず、ご自身が本当に経営者になりたいのか、その覚悟があるのかを問い直してみましょう。会社の未来を背負い、従業員の生活を守る責任は重大です。また、経営に必要なリーダーシップ、決断力、コミュニケーション能力などの適性があるか、客観的に見つめることも大切です。 - 会社の経営状況と将来性
引き継ぐ会社の現状を正確に把握することが不可欠です。財務状況(資産、負債、収益性)、主力事業の強み・弱み、市場でのポジション、そして将来性などを、時には専門家も交えて詳細に分析しましょう。課題がある場合は、それを乗り越えられる見込みがあるかも重要な判断材料です。 - 現経営者(親)との関係性と経営方針
現経営者である親御さんとの関係性は良好でしょうか。引き継ぎ後も円滑なコミュニケーションが取れるか、経営方針についてどの程度意見が一致しているか、あるいは異なる場合にどう歩み寄れるかは、スムーズな承継の鍵となります。干渉されすぎることなく、自分のビジョンを実現できる環境かを見極める必要があります。 - 他の家族・親族との関係
兄弟姉妹など、他の相続人となる可能性のある家族との関係も考慮が必要です。株式や資産の分配、役職などを巡って、後々トラブルにならないよう、事前に話し合い、合意形成を図っておくことが望ましいでしょう。 - 個人のライフプランとの整合性
会社経営は、ご自身の時間や生活に大きな影響を与えます。家族との時間、趣味、将来設計など、個人のライフプランと、経営者としての責任や役割が両立できるか、長期的な視点で検討しましょう。
親の会社を継ぐメリット・デメリット
親の会社を継ぐことには、光と影、両方の側面があります。メリットとデメリットを理解し、比較検討することが重要です。
メリット | デメリット |
---|---|
ゼロから起業するより、既存の事業基盤(顧客、従業員、設備、ノウハウ等)があるため、早期に事業を軌道に乗せやすい。 | 古参従業員や既存のやり方を変えることへの抵抗が大きく、新しい取り組みを進めにくい場合がある。 |
実績のある会社は、金融機関からの信用度が高く、資金調達が比較的容易な場合がある。 | 「親の七光り」と見られたり、先代と比較されたりするプレッシャーを感じやすい。 |
親である現経営者から、経営に関する知識や経験、人脈などのサポートを受けやすい。 | 引き継いでから初めて、帳簿に表れない債務保証や訴訟リスク、人間関係の問題などが発覚することがある。 |
(親族内承継の場合)外部株主が少ない、あるいはいない場合が多く、経営に関する意思決定を迅速に行いやすい。 | 家族経営であるがゆえに、経営判断に私情が入りやすく、公私混同を招くリスクがある。 |
後継者が親族であることで、従業員や長年の取引先が安心感を覚え、関係性を維持しやすいことがある。 | 株式の相続や経営方針などを巡って、他の親族との間に対立が生じる可能性がある。 |
長年地域や業界で培ってきた会社の社会的信用を引き継ぐことができる。 | 本来やりたかった別のキャリアを諦めることになるかもしれない。 |
親の会社を引き継ぐリスク
メリット・デメリットに加えて、特に注意すべきリスクについても理解しておきましょう。
連帯保証債務の引き継ぎリスク
中小企業では、経営者が会社の借入金に対して個人で連帯保証しているケースが多くあります。事業承継に伴い、この連帯保証も後継者が引き継ぐことになる可能性があります。会社の業績が悪化した場合、個人資産にまで影響が及ぶリスクを認識しておく必要があります。(近年、経営者保証に依存しない融資を促す動きもありますが、依然として注意は必要です。)
相続問題のリスク
会社の株式も相続財産です。他の相続人(兄弟姉妹など)がいる場合、遺産分割協議が難航し、株式が分散してしまうリスクがあります。株式が分散すると、安定した経営権の確保が難しくなる可能性があります。
時代遅れのビジネスモデルのリスク
親の代では成功していたビジネスモデルが、市場環境の変化によって通用しなくなっている可能性があります。引き継いだものの、事業の抜本的な改革が必要となり、大きな困難に直面するリスクがあります。
人材流出のリスク
経営者の交代は、従業員にとって大きな変化です。新しい経営方針への不安や、先代経営者への想いなどから、優秀な人材が流出してしまうリスクも考慮に入れる必要があります。
親の会社を引き継ぐタイミング
事業承継のタイミングは、画一的に決まるものではなく、様々な要因を考慮して慎重に判断すべきです。
現経営者(親)の年齢や健康状態
親御さんが元気で判断力のあるうちに、計画的に承継を進めるのが理想です。病気などで突然経営が困難になると、準備不足のまま引き継ぐことになり、混乱を招きかねません。一般的には、60代〜70代前半で具体的な承継計画に着手するケースが多いようです。
後継者(子ども)の年齢や経験
後継者自身が、経営者としての経験やスキルを十分に積んでいるか、精神的に成熟しているかも重要な要素です。社内外での経験を積み、経営を担えるだけの準備が整ったタイミングを見計らう必要があります。
会社の経営状況や市場環境
会社の業績が良い時期や、市場が安定している時期の方が、承継後の経営はスムーズに進みやすいでしょう。逆に、業績が悪化している場合や、大きな事業転換が必要な場合は、承継のタイミングや方法を慎重に検討する必要があります。
相続税・贈与税対策
会社の株式評価額は、会社の業績や景気によって変動します。株価が比較的低いタイミングで株式を移転(生前贈与など)することで、税負担を軽減できる可能性があります。税理士などの専門家と相談し、計画的に進めることが重要です。
親の会社を引き継ぐ前にすべき準備
スムーズな事業承継のためには、周到な準備が不可欠です。
- 事業承継計画の策定
いつ、誰に、どのように事業を引き継ぐのか、具体的な計画を親子間、そして関係者間で共有します。会社の現状分析、後継者の育成計画、株式や資産の移転方法、相続対策などを盛り込み、長期的な視点で策定しましょう。 - 後継者教育(帝王学)
座学だけでなく、実際に社内の様々な部署を経験したり、他社での修行をしたりするなど、経営者としての知識、スキル、経験を積むための期間を設けます。リーダーシップ、財務、労務、マーケティングなど、幅広い分野を学ぶ必要があります。 - 経営状況の見える化
会社の財務状況、事業内容、組織体制、強み・弱みなどを、客観的なデータに基づいて正確に把握し、親子間・関係者間で共有します。「どんぶり勘定」ではなく、誰が見ても理解できるように情報を整理しておくことが大切です。 - 社内外の関係者への根回し
従業員、役員、取引先、金融機関など、主要なステークホルダーに対して、後継者の存在を徐々に周知し、信頼関係を構築していきます。突然の交代ではなく、時間をかけて理解と協力を得られるように努めましょう。 - 株式・資産の整理と相続対策
誰がどのくらいの株式を保有しているのかを明確にし、後継者にスムーズに株式を集中させるための計画(生前贈与、遺言、種類株式の活用など)を立てます。相続税の試算と納税資金の準備も必要に応じて行います。
親の会社を継ぐための手続き
実際に会社を引き継ぐ際には、法的な手続きや届出が必要になります。主な流れは以下の通りですが、会社の形態(株式会社、合同会社など)や状況によって異なりますので、専門家への相談が必須です。
- 株式の移転
後継者に会社の株式を移転します。方法としては、生前贈与、相続、株式譲渡(売買)などがあります。どの方法を選択するかによって、税金(贈与税、相続税、所得税など)が変わってきます。株式譲渡契約書の作成や、株主名簿の書き換えなどが必要です。 - 役員の変更
後継者が代表取締役に就任し、現経営者が退任するなどの役員変更を行います。株主総会や取締役会での決議を経て、法務局へ役員変更登記を申請する必要があります。 - 許認可の引き継ぎ
事業に必要な許認可がある場合、名義変更や再取得の手続きが必要になることがあります。業種によって手続きが異なるため、関係省庁や専門家への確認が必要です。 - 各種契約の名義変更
金融機関との借入契約、不動産の賃貸借契約、重要な取引基本契約など、代表者名義となっている契約の名義変更手続きを行います。 - 関係各所への届出
税務署、社会保険事務所、労働基準監督署など、関係各所への代表者変更に関する届出が必要になる場合があります。
親の会社を継いで成功するための重要なポイント
無事に会社を引き継いだ後、経営者として成功を収めるためには、以下の点が重要になります。
- 明確なビジョンとリーダーシップ
自分がこの会社をどうしていきたいのか、明確なビジョンを示し、従業員を導いていくリーダーシップが求められます。先代のやり方を尊重しつつも、時代に合わせて変えるべき点は変えていく決断力が必要です。 - 従業員とのコミュニケーション
積極的に従業員とコミュニケーションを取り、意見を聞き、信頼関係を築くことが大切です。特に、先代から仕えてくれているベテラン従業員の経験や知識は貴重な財産です。敬意を払い、協力を仰ぎましょう。 - 守るべきものと変えるべきものの見極め
会社の理念や強み、大切にしてきた文化など、守るべきものはしっかりと継承します。一方で、非効率な業務プロセスや時代に合わない慣習などは、勇気を持って改革していく必要があります。 - 外部の専門家の活用
経営判断に迷ったときや、専門的な知識が必要なときは、弁護士、税理士、公認会計士、中小企業診断士、M&Aアドバイザーなどの専門家の意見を積極的に求めましょう。客観的な視点は、正しい判断に役立ちます。 - 財務状況の継続的な把握と改善
常に会社の財務状況を正確に把握し、健全なキャッシュ・フローを維持することが経営の基本です。必要に応じて、コスト削減や新たな収益源の確保など、財務体質の強化に取り組みます。
親の会社を継いだ後によくある課題と解決策
事業承継後には、特有の課題が発生することも少なくありません。よくある課題とその解決策のヒントをいくつかご紹介します。
課題1:古参従業員との軋轢・抵抗
新しい経営方針や変化に対して、古参従業員から反発を受けることがあります。
解決策:一方的に押し付けるのではなく、丁寧に説明し、対話を重ねることが重要です。彼らの経験や意見に耳を傾け、尊重する姿勢を示しましょう。小さな成功体験を積み重ねることで、徐々に信頼を得ていくことが大切です。
課題2:先代経営者(親)からの過干渉
良かれと思って、親御さんが経営に口出ししすぎてしまうケースがあります。
解決策:事前に役割分担や権限について明確に話し合っておくことが重要です。感謝の気持ちを伝えつつも、経営の最終的な意思決定は自分が行うという線引きを明確に示しましょう。相談役として適度な距離感を保つよう、粘り強くコミュニケーションを取ります。
課題3:資金繰りの悪化
引き継いだ事業の業績が思ったように伸びなかったり、予期せぬ支出が発生したりして、資金繰りが厳しくなることがあります。
解決策:早めに金融機関や専門家に相談しましょう。経営改善計画を策定し、コスト削減や売上向上策を実行します。利用できる補助金や融資制度がないかも確認しましょう。
課題4:自身の経営能力への不安
実際に経営を始めてみると、経験不足や知識不足から、自信を失ってしまうことがあります。
解決策:一人で抱え込まず、信頼できる役員や従業員、外部の専門家、経営者仲間などに相談しましょう。セミナーに参加したり、書籍を読んだりして、学び続ける姿勢も重要です。
親の会社を継ぐ際の相談窓口
親の会社を継ぐという決断は、一人で悩まず、専門家や支援機関に相談することが非常に重要です。以下のような相談窓口があります。
税理士・公認会計士:株式評価、相続税・贈与税対策、財務分析など、税務・会計に関する専門的なアドバイスが受けられます。顧問税理士がいる場合は、まず相談してみましょう。
弁護士:遺産分割協議、株式譲渡契約、役員変更登記、法的なリスク管理など、法律に関する相談に対応してくれます。
金融機関:事業承継ローンや経営改善に関する相談、資金調達のサポートなどが受けられます。
M&A仲介会社・アドバイザリー:親族内承継だけでなく、第三者への承継(M&A)も視野に入れる場合や、企業価値評価、交渉などの専門的なサポートが必要な場合に相談できます。
商工会議所・商工会:地域に根差した経営相談や、専門家紹介、セミナー開催などの支援を行っています。
事業承継・引継ぎ支援センター:国が設置する公的な相談窓口で、事業承継に関する幅広い相談に無料で対応しており、専門家の紹介なども行っています。
タイミングや課題を見極めて親の会社を継ぐか考えよう
親の会社を継ぐことは、単なる職業選択ではなく、家族の歴史や多くの人々の生活を背負う、非常に重みのある決断です。この記事では、その決断を前に考えるべきこと、メリット・デメリット、リスク、タイミング、準備、手続き、そして成功のポイントについて解説してきました。
親の会社を継ぐ道は、決して平坦ではありませんが、準備をしっかり行い、覚悟を持って臨めば、会社をさらに発展させ、大きなやりがいを得ることも可能です。まずは、信頼できる相手に相談してみることから始めてみるのもよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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