- 作成日 : 2025年6月16日
建設業のM&A動向は?メリットや成功のポイント、事例などを解説
建設業界を取り巻く環境は、人手不足や高齢化、事業承継問題、デジタル化の遅れなど、多くの課題に直面しています。これらの課題解決の手段として、近年注目されているのがM&A(合併・買収)です。
この記事では、建設業におけるM&Aの動向、メリット・デメリット、成功させるためのポイント、そして実際の事例について詳しく解説します。
目次
建設業の現状と課題
日本の建設業界は、社会インフラを支える基幹産業でありながら、多くの構造的な課題を抱えています。これらの課題が、M&Aの動向にも大きな影響を与えています。
人手不足・高齢化
最も深刻な課題の一つが、慢性的な人手不足と就業者の高齢化です。特に、現場を支える技能労働者や、専門的な知識を持つ技術者の不足は深刻で、プロジェクトの実行や品質確保に支障をきたすケースも少なくありません。また、若年層の入職者が少ない一方で、経験豊富なベテラン層が次々と引退時期を迎えており、技術やノウハウの継承が大きな課題となっています。
事業承継の困難さ
中小企業が大多数を占める建設業界では、経営者の高齢化に伴う事業承継問題も深刻です。多くの場合、親族内や従業員の中に適切な後継者が見つからず、黒字経営でありながら廃業を選択せざるを得ない企業も少なくありません。これは、個々の企業の存続だけでなく、地域社会の雇用や経済にとっても大きな損失となります。
デジタル化の遅れ
他の産業と比較して、建設業界ではデジタル技術の活用が遅れている側面があります。設計・施工管理におけるBIM/CIMの導入や、現場作業の効率化を図るICT建機の活用、情報共有プラットフォームの導入などが進められていますが、特に中小企業においては、導入コストや人材育成の面でハードルが高いのが現状です。この遅れが、生産性の向上を妨げる一因ともなっています。
資材価格・人件費の高騰
近年、世界的な需要増や供給網の混乱などにより、建設資材の価格が高騰しています。加えて、人手不足を背景とした人件費の上昇圧力も強まっており、建設会社の収益性を圧迫しています。コスト増加分を適切に価格転嫁することが難しい場合も多く、経営の安定化に向けた課題となっています。
市場環境の変化と規制対応
2024年4月から建設業にも適用された時間外労働の上限規制は、長時間労働が常態化していた業界にとって大きな転換点です。
労働時間の削減と生産性向上の両立が急務となっており、業務プロセスの見直しや効率化投資が不可欠です。また、公共投資の動向や、脱炭素化、インフラ老朽化対策といった社会的な要請の変化も、建設会社の事業戦略に影響を与えています。
これらの課題は、それぞれが独立しているわけではなく、相互に関連し合っています。例えば、人手不足は人件費の高騰を招き、高齢化は事業承継問題を深刻化させます。また、後継者が見つからない中小企業では、DX化や働き方改革への投資余力がなく、ますます厳しい状況に追い込まれるという悪循環も起こり得ます。2024年問題のような外部からの規制強化は、こうした既存の課題への対応を待ったなしで迫る要因となり、結果として、課題解決の有力な手段としてM&Aが注目される背景となっているのです。
建設業のM&Aの動向
建設業界におけるM&Aは、前述したような業界特有の課題を背景に、近年活発化しています。その動向にはいくつかの特徴が見られます。
事業承継型M&Aの多さ
依然として、M&Aの最も主要な動機となっているのが事業承継です。後継者が見つからない中小企業の経営者が、会社の存続と従業員の雇用を守るために、第三者への株式譲渡や事業譲渡を選択するケースが非常に多く見られます。売り手となるのは、業績自体は安定しているものの、経営者の高齢化や健康問題などを抱える企業が多い傾向にあります。
成長戦略としてのM&Aの増加
一方で、買い手企業側では、単なる規模拡大だけでなく、より戦略的な目的を持ったM&Aが増えています。
- 人材獲得
深刻な人手不足に対応するため、有資格者や経験豊富な技術者、技能労働者をまとめて確保する目的での買収が目立ちます。これは、自社での採用・育成には時間とコストがかかるため、即戦力となる人材を迅速に獲得できるM&Aが有効な手段と認識されているからです。 - エリア拡大
新たな地域市場への進出や、既存エリアでのシェア拡大を目指し、その地域に基盤を持つ企業を買収する動きも活発です。これにより、地理的な制約を超えて事業を展開することが可能になります。 - 新規分野・許認可取得
特定の専門工事(例:電気、管、空調、解体、リニューアル)への進出や、特定の建設業許可、あるいは公共工事への参加に必要な経営事項審査(経審)の評点向上などを目的としたM&Aも行われています。これにより、事業ポートフォリオの多角化や受注機会の拡大を図ることができます。 - シナジー・規模の追求
複数の企業が統合することで、資材の共同購入によるコスト削減、営業力の強化、技術ノウハウの共有、大型案件への対応力向上といったシナジー効果を期待するM&Aも増えています。特に、2024年問題への対応やDX推進には一定の企業規模が有利に働くため、規模拡大を志向する動きは今後も続くと考えられます。
買い手・売り手の特性
売り手は前述の通り、後継者問題を抱える中小企業が多いですが、買い手は多様化しています。大手・中堅のゼネコンやサブコンが同業他社を買収するケースに加え、周辺業種(不動産開発、ビルメンテナンス、プラントエンジニアリング、環境関連など)の企業が、建設機能の内製化や事業領域の拡大を目的として建設会社を買収する異業種間のM&Aも増えています。また、近年では投資ファンドが買い手となるケースも見られます。
主な取引形態
中小企業のM&Aでは、会社全体を包括的に引き継ぐ「株式譲渡」が最も一般的な手法です。これにより、建設業許可や従業員、取引関係などをスムーズに承継できます。特定の事業部門や資産のみを取得したい場合には、「事業譲渡」が選択されることもあります。
近年の動向として特筆すべきは、単に企業規模を大きくするだけでなく、特定の「専門性」を獲得しようとする動きが強まっている点です。例えば、ゼネコンが電気工事会社や管工事会社を買収したり、土木工事に強い企業が建築工事の会社を買収したりするケースです。これは、建設プロジェクトが複雑化し、顧客がワンストップでのサービス提供を求める傾向が強まる中で、自社に不足している専門分野を補完し、対応力を高めようとする戦略的な意図の表れと言えるでしょう。業界の細分化が進む中で、特定のニッチ分野や成長分野(リニューアル、環境関連工事など)での強みを持つ企業への関心が高まっていることがうかがえます。
建設業のM&Aメリット・デメリット
M&Aを検討する際には、その利点と潜在的なリスクの両方を十分に理解しておくことが重要です。ここでは、買い手側と売り手側、それぞれの立場から見た主なメリット・デメリットを整理します。
買い手のメリット・デメリット
メリット
- 人材・有資格者の迅速な確保
M&Aは、採用や育成に時間のかかる熟練技術者、施工管理者、各種有資格者などを即座に獲得できる最も効果的な手段の一つです。人手不足が深刻な建設業界において、これは非常に大きな利点となります。 - 事業エリアの拡大
対象企業が持つ営業基盤やネットワークを活用することで、新たな地域市場へスムーズに進出したり、既存エリアでのプレゼンスを強化したりできます。 - 新規事業分野への進出・多角化
自社にはない専門分野(例:リニューアル、特殊土木、設備工事)のノウハウや許認可を持つ企業を買収することで、事業領域を広げ、収益源を多角化できます。 - シナジー効果の創出
両社の経営資源(技術、人材、設備、購買力、販売網など)を組み合わせることで、コスト削減、売上増加、技術力向上などの相乗効果が期待できます。これにより、企業全体の競争力強化につながります。 - 実績・顧客基盤の獲得
対象企業が築き上げてきた工事実績や、優良な顧客基盤、取引先との関係性を引き継ぐことができます。これは、新規参入や事業拡大において時間と労力を大幅に節約できるメリットとなります。
デメリット
- 組織・人材統合の難しさ
異なる文化や制度を持つ組織を一つにまとめるプロセス(PMI:Post Merger Integration)は容易ではありません。従業員のモチベーション低下や、主要人材の流出を招くリスクがあります。 - 企業文化の衝突リスク
長年培われてきた企業文化や価値観の違いが、統合後の組織運営において摩擦を生む可能性があります。コミュニケーション不足や一方的な押し付けは、従業員の反発を招きかねません。 - 簿外債務・偶発債務の発覚リスク
事前のデューデリジェンス(買収監査)で把握しきれなかった未払いの残業代、訴訟リスク、瑕疵担保責任などの隠れた負債が、買収後に発覚する可能性があります。 - 主要人材・顧客の流出リスク
M&Aをきっかけに、対象企業のキーパーソンや、主要な取引先が離れてしまうリスクがあります。特に、創業オーナーや特定の技術者への依存度が高い企業の場合、その影響は大きくなります。 - 高値掴みのリスク
買収競争が激化したり、評価を誤ったりすると、適正価格以上の金額で買収してしまう可能性があります。期待したシナジーが実現できなければ、投資回収が困難になることもあります。
売り手のメリット・デメリット
メリット
- 後継者問題の解決
親族や社内に後継者がいない場合でも、M&Aによって事業を信頼できる第三者に引き継ぐことができ、会社の存続を図れます。廃業を回避し、長年築き上げてきた事業を守ることができます。 - 創業者利潤・リタイアメント資金の確保
会社の株式や事業を売却することで、オーナー経営者はまとまった資金を得ることができます。これは、引退後の生活資金や、新たな事業への挑戦資金となり得ます。 - 従業員の雇用維持
廃業すれば従業員は職を失いますが、M&Aであれば、買い手企業の下で雇用が継続される可能性が高まります。従業員の生活を守ることは、多くの経営者にとって重要な考慮事項です。 - 大手傘下での事業成長
資金力やネットワークを持つ企業の傘下に入ることで、自社だけでは難しかった設備投資、技術開発、人材採用、販路拡大などが可能になり、事業のさらなる成長が期待できます。 - 個人保証の解除
中小企業の場合、経営者が会社の借入金に対して個人保証を提供しているケースが多くありますが、M&Aにより、この個人保証から解放されることが一般的です。経営者の個人的なリスクを解消できます。
デメリット
- 経営権の喪失・社名や文化の変更可能性
当然ながら、株式を売却すれば経営権は買い手に移ります。社名、経営方針、組織体制、企業文化などが変更される可能性があります。自ら育ててきた会社への愛着が強い場合、これは心理的な抵抗となり得ます。 - 従業員の処遇変更の可能性
買い手企業の意向により、従業員の給与体系、役職、勤務条件などが変わる可能性があります。必ずしも悪い方向に変わるとは限りませんが、変化に対する不安が生じることは避けられません。 - 希望条件に合う買い手が見つからない可能性
自社の事業や文化を理解し、従業員を大切にしてくれる、かつ希望する価格や条件で引き継いでくれる買い手が、すぐに見つかるとは限りません。 - 交渉中の情報漏洩リスク
M&Aの検討・交渉プロセスにおいて、従業員や取引先に情報が漏れると、不安や憶測を呼び、事業に悪影響を及ぼす可能性があります。 - 会社への愛着からの心理的抵抗
長年経営してきた会社を手放すことに対して、寂しさや喪失感といった感情的な抵抗を感じることがあります。
建設業のM&Aの相場価格
M&Aを検討する上で、自社や買収対象企業の価値がどのくらいになるのかは非常に重要です。このセクションでは、建設業のM&Aにおける企業価値評価の考え方や、価格相場の目安について解説します。
M&Aにおける企業の売買価格(企業価値)は、売り手と買い手の交渉によって最終的に決定されますが、その交渉の基礎となるのが企業価値評価です。建設業のM&Aにおいても、いくつかの評価方法が組み合わせて用いられるのが一般的です。
主な企業価値評価の方法
企業価値評価は、会社の状況や評価の目的によって様々なアプローチがありますが、主に以下の3つの方法が用いられます。
- コストアプローチ
会社の貸借対照表(バランスシート)に着目する計算手法で、そのうち純資産価額方式は資産から負債を差し引いた純資産額を基準に評価する方法です。特に、土地や建物、建設機械などの有形資産を多く保有する企業の場合、この純資産が評価のベースとなることが多いです。ただし、帳簿上の価格(簿価)ではなく、現在の市場価値(時価)で資産・負債を評価し直した「時価純資産」を用いるのが一般的です。この方法は客観性が高い一方で、会社の将来の収益力を直接反映しないという側面があります。 - インカムアプローチ
会社が将来生み出すと期待される収益やキャッシュ・フローを現在価値に割り引いて評価する方法です。代表的な手法にDCF(Discounted Cash Flow)法があります。安定した収益力があり、将来性が見込める企業の評価に適していますが、将来の収益予測の精度に評価額が大きく左右されるという特徴があります。 - マーケットアプローチ
上場している同業他社や、過去に行われた類似のM&A事例と比較して、相対的な価値を評価する方法です。市場での評価を反映できる点がメリットですが、特に非上場の中小企業の場合、比較対象として適切な企業や事例を見つけるのが難しい場合があります。
「のれん(営業権)」の考え方
実際のM&A価格は、多くの場合、時価純資産額に「のれん(営業権)」と呼ばれる無形の価値を加算して算出されます。のれんとは、企業のブランド力、技術力、顧客基盤、従業員の質、許認可など、貸借対照表には表れない超過収益力を評価したものです。
建設業の中小企業のM&Aにおいては、この「のれん」を「営業利益」または「EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)」の何年分かで評価することが一般的です。よく目安として「時価純資産 + 営業利益の2~5年分」といった計算式が用いられますが、これはあくまで簡易的な目安であり、個別の企業の状況によって大きく変動します。
企業価値に影響を与える要因
最終的なM&A価格は、上記の評価方法による理論値だけでなく、以下のような様々な要因を考慮した上で、買い手と売り手の交渉によって決まります。
- 収益性と将来性
安定した利益を上げているか、今後も成長が見込めるかは最も重要な要素です。 - 有資格者・技術者の数と質
建設業許可の維持や、特定の工事の受注に不可欠な有資格者(例:施工管理技士、建築士)や、経験豊富な技術者の存在は、企業価値を大きく高めます。 - 建設業許可の種類・等級
保有している建設業許可の種類(一般/特定、業種)や、公共工事の入札に関わる経営事項審査(経審)の評点は、受注能力に直結するため評価に影響します。 - 工事実績・技術力・ブランド力
- 難易度の高い工事の実績、独自の工法や技術、地域での評判や信頼性なども、のれんとして評価されます。
- 顧客基盤・受注残高
- 安定した取引先や、将来の売上が見込める受注残高の状況も重要です。
- 財務状況・負債
借入金の状況、未払金、訴訟リスクなどの負債やリスク要因は、評価を下げる要因となります。
特に現在の建設業界においては、深刻な人手不足を背景に、「人材」の価値が相対的に高まっていると考えられます。単に利益が出ているだけでなく、質の高い技術者や技能労働者をどれだけ抱えているか、そしてその定着率が高いかが、買い手にとって非常に重要な評価ポイントとなっています。
建設業のM&Aを成功させるためのポイント
M&Aを成功に導くためには、事前の準備から統合後のプロセスまで、押さえるべき重要なポイントがいくつかあります。ここでは、その具体的な進め方や注意点について解説します。
M&Aは、単に契約を締結すれば終わりではありません。期待した成果を得るためには、プロセス全体を通じて慎重な検討と計画的な実行が不可欠です。
M&A戦略の明確化と事前準備
まず、なぜM&Aを行うのか、その目的を明確にすることが全ての出発点です。買い手であれば、事業エリア拡大、人材獲得、新規分野進出、シナジー創出など、具体的な目標を設定します。売り手であれば、後継者問題の解決、創業者利益の確保、従業員の雇用維持など、何を最優先事項とするかを定めます。目的が明確であれば、どのような相手を探すべきか(ターゲット像)、どのような条件で交渉すべきかが見えてきます。
買い手は、自社の戦略に合致する理想的な買収対象企業の条件(規模、地域、専門分野、財務状況など)を具体化します。一方、売り手は、自社の強み(技術力、人材、顧客基盤など)と弱み(後継者不在、財務課題など)を客観的に把握し、適正な企業価値を理解しておくことが重要です。また、M&Aプロセスに必要な財務諸表、許認可証、契約書などの資料を事前に整理しておくことも、スムーズな進行につながります。
徹底したデューデリジェンス(買収監査)
デューデリジェンス(DD)は、買収対象企業の価値やリスクを詳細に調査するプロセスであり、M&Aの成否を左右する極めて重要なステップです。買い手は、専門家(公認会計士、弁護士など)の協力を得ながら、対象企業の財務状況、法務リスク、事業内容、人事労務、ITシステムなどを徹底的に精査します。
建設業特有のDD項目としては、建設業許可の有効性や更新状況、過去の工事における瑕疵(欠陥)や訴訟のリスク、工事代金の未回収リスク、労働関連法規(特に残業時間管理など)の遵守状況、主要な取引先や下請業者との契約内容などが挙げられます。ここで潜在的なリスク(簿外債務、偶発債務など)を発見できれば、買収価格の交渉や、リスク回避のための契約条項の設定に役立ちます。DDを疎かにすると、買収後に想定外の問題が発覚し、大きな損失を被る可能性があります。
買収後の統合(PMI)計画の重要性
M&Aの真の価値は、契約締結後、両社がうまく融合し、期待されたシナジー効果を発揮できるかどうかにかかっています。この統合プロセスをPMIと呼びますが、成功のためには、契約締結前からPMI計画を策定しておくことが重要です。
具体的には、統合後の経営体制、組織構造、業務プロセス、人事制度(給与体系、評価制度など)、ITシステムの統合方針などを事前に検討し、計画に落とし込みます。特に、企業文化の融合はデリケートな問題であり、一方的な押し付けではなく、相互理解を促進するための丁寧なコミュニケーション戦略が不可欠です。PMIの実行には専門的な知見と多大な労力が必要となるため、専任の担当者やチームを設置し、明確なスケジュールと目標(KPI)を設定して進めることが望ましいです。
関係者への丁寧なコミュニケーション
M&Aは、両社の従業員にとって大きな変化であり、不安を感じさせるものです。特に、雇用や労働条件、将来性に対する懸念は、モチベーションの低下や優秀な人材の流出につながりかねません。そのため、M&Aの目的、統合後の方針、従業員への影響などについて、適切なタイミングで、透明性を持って、誠実に説明することが極めて重要です。
従業員だけでなく、主要な取引先、金融機関、地域社会など、他のステークホルダーに対しても、丁寧なコミュニケーションを心がける必要があります。不安を取り除き、 M&A後の新しい体制に対する理解と協力を得ることが、円滑な事業継続と成長の基盤となります。
専門アドバイザーの活用
M&Aは、法務、財務、税務、労務など、多岐にわたる専門知識を必要とする複雑なプロセスです。自社だけで全てに対応するのは困難な場合が多く、経験豊富な専門家(M&A仲介会社、ファイナンシャルアドバイザー、弁護士、公認会計士、税理士など)のサポートを活用することが、成功の確率を高めます。
専門家は、適切な相手探し、企業価値評価、交渉戦略の立案、デューデリジェンスの実施、契約書の作成、PMIの計画・実行支援など、各段階で的確なアドバイスと実務サポートを提供してくれます。特に、建設業界の事情に精通したアドバイザーを選ぶことができれば、よりスムーズで効果的なM&Aの実現が期待できます。
建設業のM&Aにおいては、特に「人」に関わる統合(PMI)の重要性が際立っています。なぜなら、建設業は労働集約的な産業であり、M&Aの主な目的の一つが、まさにその「人」、すなわち熟練した技術者や有資格者を獲得することにあるからです。買収した企業の価値の源泉である優秀な人材が、統合プロセスにおけるコミュニケーション不足や処遇への不満、文化的な摩擦などによって流出してしまっては、M&Aの目的そのものが達成できなくなってしまいます。したがって、買収後の統合計画においては、物理的な資産やシステムの統合以上に、従業員の心情に配慮した丁寧なコミュニケーション、公正な人事制度の設計、企業文化の相互理解といった「ソフト面」の施策に、特に注力する必要があると言えるでしょう。
建設業のM&A事例紹介
これまでの説明をより具体的にイメージしていただくために、実際にあった建設業のM&A事例をいくつかご紹介します。
大和ハウス工業によるフジタの子会社化(2012年-2013年)
大手ハウスメーカーである大和ハウス工業が、中堅ゼネコンのフジタを株式公開買付け(TOB)などを通じて完全子会社化しました。これにより、大和ハウスグループは建設事業の強化を図りました。
コムシスホールディングスによるグループ内再編・子会社化(継続的)
情報通信建設の大手であるコムシスホールディングスは、傘下の日本コムシス、サンワコムシスエンジニアリング、つうけんなどの間で、経営効率化や事業領域拡大を目的とした吸収合併や株式交換による子会社化を複数回実施しています。これは特定の企業買収とは少し異なりますが、グループ全体でのM&A戦略の一環です。
事例や動向を元に建設業界のM&Aを成功させよう
この記事では、建設業界におけるM&Aの現状と重要性、業界が抱える課題、M&Aの動向、メリット・デメリット、価格相場、そして成功のためのポイントや事例について解説してきました。
今後の展望として、建設業界におけるM&Aの動きは、引き続き活発に推移すると予想されます。団塊世代の経営者の引退時期が本格化する中で、事業承継型のM&Aはさらに増加するでしょう。また、2024年問題への対応やDX化の推進には、一定の企業規模や投資余力が必要となるため、規模拡大や経営効率化を目的とした戦略的なM&Aも加速すると考えられます。さらに、脱炭素化やインフラ老朽化対策といった新たな市場ニーズに対応するため、特定の技術やノウハウを持つ企業をターゲットとしたM&Aも増えていく可能性があります。
建設業のM&Aは、多くの企業にとって、喫緊の課題を解決し、未来への成長基盤を築くための有効な手段となり得ます。しかし、そのプロセスは複雑であり、成功のためには慎重な検討と準備が欠かせません。
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