- 作成日 : 2025年6月24日
水道施設工事とは?管工事・土木一式との違いから許可・資格まで解説
上水道や下水道などの水インフラは、住民の生活と産業を支える「生命線」です。しかし「水道施設工事」と「管工事」「土木一式工事」の境界や、必要な建設業許可・技術者資格は複雑で、誤解が多い分野です。この記事では、水道施設工事を検討する一人親方や中小建設業者が直面しがちな疑問を整理し、2025年の法改正を踏まえて安全かつ合法に事業を進めるための実践知識を解説します。
目次
水道施設工事とは?
水道施設工事は、建設業法において「上水道、工業用水道等のための取水、浄水、配水等の施設及び下水処理場内の処理設備を築造、設置する工事」と定められています。ポイントは、「公衆が利用する水道」のための施設、または下水処理場「内」の設備に関する工事であるという点です。具体的には、水源から浄水場へ、浄水場から各家庭や工場の手前の配水管(道路などに埋設されている本管)までをつなぐインフラ部分と、下水を処理する施設内の設備が対象となります。
水道施設工事の具体例
以下のような工事が水道施設工事に該当します。
- 取水施設工事: 河川やダムなどから水道用水を取り入れるための設備(取水塔、取水堰、取水ポンプなど)を建設する工事。
- 浄水施設工事: 取り入れた水を飲用に適した水質にするための施設(沈殿池、ろ過池、消毒設備など)を建設する工事。
- 配水施設工事: 浄水された水を各地域へ送るための施設(配水池、ポンプ場など)や、道路などに埋設される配水管(本管)を布設する工事。
- 下水処理設備工事: 下水処理場内において、下水を浄化するための各種設備(反応タンク、最終沈殿池、汚泥処理設備など)を設置する工事。
これらの例からわかるように、水道施設工事は水を「つくり・運び・浄化する」工程全体を受け持ちます。
水道施設工事と管工事との違いは?
水道施設工事と管工事は、建設業法上では明確に区別されており、許可の種類も異なります。
水道施設工事:公共インフラとしての役割
水道施設工事が主に扱うのは、前述の通り「公衆の利用に供される水道」のためのインフラ部分です。具体的には、取水場、浄水場、配水場といった施設そのものや、そこから各家庭やビルの敷地境界近くまでを結ぶ公道下の配水管(水道本管)の敷設・維持管理が中心となります。
下水道に関しても、下水処理場「内」の設備工事が対象です。公共性が高く、自治体などが発注元となるケースが多いのが特徴です。
管工事:建物内の配管設備が中心
一方、管工事は「家屋その他の敷地内の配管工事及び上水道等の配水小管、下水道の配水枝管等の設置工事」と定義されています。ポイントは、「建物内」や「敷地内」の配管工事であるという点です。具体的には、公道下の配水管(水道本管)から分岐して、個々の建物や敷地内に引き込むための給水管(配水小管、配水枝管)の設置や、建物内の給排水設備、空調、ガスなどの配管工事が管工事に該当します。下水道についても、敷地内の排水設備や、公共下水道への接続部分(取付管など)の工事は管工事に含まれます。
混同しやすいケースとその判断基準
最も混同しやすいのが、道路に埋設されている「配水管」に関する工事です。基本的には、公道下の比較的大規模な配水管(本管)の布設は「水道施設工事」、本管から分岐して各敷地に引き込むための比較的小規模な配水管(配水小管・配水枝管)や、敷地内の配管は「管工事」と区別されます。
発注者が自治体で、不特定多数の人が利用する水道インフラの根幹に関わる工事であれば水道施設工事、個人や特定の事業者のための建物・敷地内の配管工事であれば管工事、と考えるとわかりやすいでしょう。
工事契約の内容や設計図書で、どちらの業種に該当する工事なのかを確認することが大切です。
水道施設工事と土木一式工事との違いは?
土木一式工事も、河川工事や道路工事など、水道施設工事と関連性の高い分野を扱います。ここでは、土木一式工事と水道施設工事の関係性、そして専門工事としての水道施設工事の位置づけを整理します。
土木一式工事の範囲と特徴
土木一式工事は、「総合的な企画、指導、調整のもとに土木工作物を建設する工事」と定義されています。個別の専門工事(例えば、水道施設工事、舗装工事、トンネル工事など)を単独で請け負うのではなく、複数の専門工事を組み合わせて大規模な土木構造物(ダム、トンネル、橋、道路、河川構造物など)を建設する場合に適用される業種です。
元請として工事全体をマネジメントする役割を担うことが多く、個別の専門工事に関する深い知識だけでなく、プロジェクト全体を管理する能力が求められます。
水道施設工事は土木系の「専門工事」
建設業法では、建設工事を「土木一式工事」「建築一式工事」の2つの一式工事と、それ以外の27の「専門工事」に分類しています。
水道施設工事は、この27の専門工事の1つであり、土木分野に属する専門工事として位置づけられています。つまり、土木一式工事が扱う大規模プロジェクトの一部として、水道施設の建設が含まれることはありますが、水道施設工事そのものを専門的に請け負う場合は、「水道施設工事業」の許可が必要となるのです。
一式工事と専門工事の判断ポイント
土木一式工事の許可を持っていれば、あらゆる土木系の専門工事を請け負えるわけではありません。原則として、単独の専門工事を請け負う場合は、その専門工事の業種許可が必要です。例えば、ダム建設工事(土木一式)の一部として浄水場を建設する場合は土木一式工事の許可で可能ですが、浄水場の建設工事だけを単独で請け負う場合は、水道施設工事業の許可が必要となります。
請け負う工事の内容が、総合的なマネジメントを伴う一式工事なのか、特定の専門分野に特化した工事なのかを見極めることが大切です。
水道施設工事に必要な建設業許可とは?
水道施設工事を含む建設工事を請け負う場合、一定規模以上の工事では建設業法に基づく許可が必要になります。
建設業許可が必要となるケース
建設業の許可が必要となるのは、請負金額が一件あたり500万円(消費税込み)以上の建設工事を請け負う場合です。建築一式工事の場合は1,500万円以上または延べ面積150㎡以上の木造住宅工事が基準ですが、水道施設工事を含む専門工事では、500万円がボーダーラインとなります。
この金額に満たない「軽微な建設工事」のみを請け負う場合は、必ずしも建設業許可は必要ありません。しかし、将来的に事業を拡大し、より大きな規模の工事を請け負うためには、許可取得を検討する必要があります。
許可の種類:「水道施設工事業」
水道施設工事を500万円以上で請け負う場合に必要となるのは、29種類ある建設業許可の業種区分のうち、「水道施設工事業」の許可です。前述の通り、「管工事業」や「土木一式工事業」の許可では、原則として水道施設工事を500万円以上で請け負うことはできません。自社が請け負いたい工事の種類に合わせて、適切な業種の許可を取得することが不可欠です。
知事許可と大臣許可の違い
建設業許可には、営業所の所在地によって「知事許可」と「国土交通大臣許可」の2種類があります。
- 知事許可: 営業所が1つの都道府県内のみにある場合に申請します。
- 大臣許可: 営業所が2つ以上の都道府県にまたがって存在する場合に申請します。
事業展開の範囲に応じて、どちらの許可が必要になるかを確認しましょう。
一般建設業と特定建設業の違い
さらに、許可には「一般建設業」と「特定建設業」の区分があります。これは、元請として工事を請け負う際に、下請に出す金額の規模によって区別されます。
- 一般建設業: 下請に出す金額が一件あたり合計4,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)未満の場合、または下請に出さない場合に必要です。
- 特定建設業: 元請として受注した工事で、下請に出す金額が一件あたり合計4,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)以上となる場合に必要です。
特定建設業の許可は、一般建設業よりも財産的基礎や技術者の要件が厳しくなります。自社の受注形態や事業規模に合わせて、適切な区分の許可を取得する必要があります。
水道施設工事に必要な資格とは?
水道施設工事においては、建設業法に基づき、工事現場に主任技術者または監理技術者を配置することが義務付けられています。これらの技術者になるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
主任技術者
主任技術者は、請負金額に関わらず全ての工事現場に配置しなければなりません。(※専任が必要かどうかは請負金額等によります)現場の施工計画作成や工程・品質・安全の管理といった技術的な管理全般を担当します。
主任技術者になるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
- 国家資格の保有者:
- 1級または2級土木施工管理技士(種別:土木)※二次検定合格者
- 技術士(上下水道部門、または総合技術監理部門「上下水道」)
- (旧)1級または2級土木施工管理技士 ※平成28年度までの合格者
- 特定技能検定合格者(一定の条件あり) など
- 指定学科卒業+実務経験:
- 大学・高等専門学校(高専)の指定学科(土木工学、都市工学、衛生工学など)卒業後、3年以上の実務経験
- 高等学校・中等教育学校の指定学科卒業後、5年以上の実務経験
- 実務経験:
- 学歴を問わず、水道施設工事に関して10年以上の実務経験
監理技術者
監理技術者は、元請の特定建設業者が受注した大規模な工事(例:下請への発注総額が4,500万円以上)において、主任技術者に代わって配置が義務付けられる、より上位の技術者です。
監理技術者は、主任技術者の職務に加えて、下請業者に対する指導監督なども行い、より高度な技術管理を担います。
監理技術者になるためには、主任技術者よりも厳しい要件が求められ、基本的には以下のいずれかを満たす必要があります。
- 1級国家資格の保有者
- 1級土木施工管理技士(種別:土木)※二次検定合格者
- 技術士(上下水道部門、または総合技術監理部門「上下水道」)
- (旧)1級土木施工管理技士 ※平成28年度までの合格者
- 大臣認定者
学歴や実務経験による認定制度は複雑なため、詳細は国土交通省の情報を確認ください。
特定建設業許可の取得を目指す場合や、大規模な元請工事を受注する可能性がある場合は、1級国家資格の取得が実質的に必要となると考えられます。
水道施設工事の今後の展望と事業者が意識すべきこと
社会を支える重要なインフラである水道施設は、今後どのように変化していくのでしょうか。水道施設工事業の将来性と、事業者が今後意識していくべき点について解説します。
老朽化対策の高まり
日本の多くの水道施設は、高度経済成長期に集中的に整備されたものが多く、現在、老朽化が進行しています。耐用年数を超えた水道管や施設の更新、耐震化対策は、喫緊の課題であり、今後も継続的に安定した工事需要が見込まれます。災害に強いインフラ構築という観点からも、その重要性はますます高まっています。
技術者の確保と育成
安定した需要が見込まれる一方で、建設業界全体で課題となっているのが、技術者不足と高齢化です。特に、専門的な知識や技術が求められる水道施設工事においては、経験豊富な技術者の確保と、若手技術者の育成が急務となっています。資格取得支援や働きやすい環境整備などを通じて、人材を確保・育成していく取り組みが、企業の持続的な成長には欠かせません。
新技術・工法の導入
近年では、ICT(情報通信技術)を活用した維持管理システムや、非開削工法(道路を掘らずに管を更新する技術)など、新しい技術や工法が開発・導入されています。これらの技術を積極的に取り入れ、施工の効率化、コスト削減、安全性の向上を図ることも、競争力を維持・強化する上で大切になります。技術動向を常に把握し、対応していく姿勢が求められます。
水道施設工事の許可・資格を理解し、事業を発展させるために
この記事では、「水道施設工事」とは何か、その定義や具体例、「管工事」や「土木一式工事」との違いについて解説しました。
さらに、事業を行う上で欠かせない建設業許可(水道施設工事業)の取得要件や、工事現場に必要な主任技術者・監理技術者の資格要件についても詳しく見てきました。水道施設工事は、公共性の高い重要なインフラ整備であり、今後も安定した需要が見込まれる分野です。
しかし、その工事を適正に請け負い、事業を継続・発展させていくためには、建設業法で定められたルール、特に許可と資格に関する要件を正しく理解し、遵守することが何よりも大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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