- 作成日 : 2025年9月24日
不動産業を独立開業したら年収はいくら?主な収入源や収入増のポイント
不動産業界で独立を考えた時、関心事の一つは「年収はいくらになるのか」ではないでしょうか。「成功すれば高収入も可能」と聞く一方で、会社員時代より収入が減るリスクに不安を感じるかもしれません。
この記事では、独立後の年収について気になる目安や主な収入源を解説します。収益を伸ばしていくための、現実的な方法も紹介します。
目次
不動産業で独立後の年収の目安
独立後の年収を考える上で、まずは最新の公的な統計データから、そのリアルな姿を正確に把握することが重要です。
国税庁の「令和5年分 申告所得税標本調査」によると、主に賃貸オーナーなどを含む「不動産所得者」の平均所得は約445万円です。
また、同じく国税庁が発表した「令和5年分 民間給与実態統計調査」によると、不動産業、物品賃貸業で働く会社員の平均給与は469万円です。同調査では「不動産所得者」のうち所得1,000万円を超える層が11.6%存在することも示されており、成功すれば高い収入を得られる可能性が分かります。
これらは独立した仲介業者や鑑定士の所得(事業所得)とは異なりますが、不動産に関わる所得の一つの目安となるでしょう。
ただし、独立後の年収は平均値で測るのではなく、自身の事業内容や努力次第で、会社員時代を大きく下回るリスクと、大きく上回る可能性の両方を持つ自分次第の世界であると理解することが大切です。
出典:令和5年分 申告所得税標本調査|国税庁
出典:令和5年分民間給与実態統計調査結果について|国税庁
職種ごとに見る不動産の主な収入源
不動産業で独立すると言っても、その働き方は様々です。ここでは、代表的な3つの職種を取り上げ、それぞれのビジネスモデルと収入源の特徴を解説します。
不動産仲介(売買・賃貸)
主な収入源は、仲介手数料です。一件あたりの手数料が高額な売買仲介は、少ない契約数で大きな収益を上げられる可能性があります。ただし、成果がなければ収入はゼロという成果報酬型のため、収入は不安定になりがちです。
不動産鑑定士
主な収入源は鑑定報酬です。公的評価で安定した基盤を築きつつ、民間評価で高単価の案件を受注することで、高収入を目指します。専門性が高く、競合も少ないため、一度軌道に乗れば安定しやすいですが、顧客獲得には営業力と人脈が不可欠です。
不動産管理
主な収入源は、オーナーから受け取る月々の管理手数料です。管理戸数を増やすことで、安定したストック収入を築けるのが最大の魅力です。しかし、利益率は比較的低く、大きな収益を上げるには時間がかかります。また、入居者対応など、手間のかかる業務も多いのが特徴です。
不動産業で独立後の年収を決める要素
独立後の年収は、個人の能力や戦略によって大きく変わります。特に重要な5つの要素を見ていきましょう。
専門分野
「単身女性向けの賃貸仲介」「相続案件専門の売買仲介」「企業の倉庫探しに特化」など特定の分野に特化することで、他社との差別化が図れ、価格競争に巻き込まれにくくなります。
専門性が高まれば、顧客からの信頼も得やすく「高くても、あなたにお願いしたい」という状況が生まれます。結果として、一件あたりの業務単価を高く設定でき、年収向上につながるでしょう。
営業力と集客力
会社員時代は待っていても仕事が来たかもしれませんが、独立後はそうはいきません。どんなに優れたスキルがあっても、お客様がいなければ収益はゼロです。
自ら顧客を見つける営業力や、ウェブサイトやSNSを活用して問い合わせを生み出す集客力は、年収に直結する最も重要なスキルです。専門家であると同時に、優れたマーケターでなければならないのです。
開業するエリア
不動産の価格や取引量が地域によって大きく異なるため、開業するエリアは年収を左右する大きな要因です。人口が多く、取引が活発な都市部は高収入のチャンスがありますが、その分競合も多く、家賃などの経費も高くなります。
一方で、地方では単価は低くても、競合が少なく地域一番の専門家になれる可能性もあります。自身の専門分野や戦略に合ったエリアを選ぶことが重要です。
経営の形態
法人と個人事業主では、税金の計算方法や経費にできる範囲が異なります。一般的に、事業の利益が大きくなるほど、法人の方が税負担を抑えやすくなるため、手元に残るお金に影響を与えます。
ただし、法人の場合は社会保険料の負担も増えるため、単純な税率だけでなく、全体の資金繰りを考慮して選択する必要があります。
健康状態
特に一人で開業する場合、自身の健康状態はそのまま事業の業績に反映されます。体調を崩して1ヶ月働けなくなれば、その月の収入はゼロになることも考えられます。
安定して高いパフォーマンスを維持するための資本は、自身の身体です。日々の健康管理も、年収を維持・向上させるための重要な自己管理能力と言えるでしょう。
不動産業で独立する時に必要な初期費用
高い年収を目指す前に、まずは事業を始めるための初期費用がどれくらいかかるのかを把握しておきましょう。
保証協会への加入費用
多くの不動産事業者が加入する保証協会には、入会金や会費、弁済業務保証金分担金などが必要です。加入する協会や地域によって異なりますが、一般的に100万円〜170万円程度が目安となります。
事務所の契約費用
事務所を借りる場合、数ヶ月分の家賃に相当する保証金(敷金)や礼金、初月家賃、仲介手数料などが必要です。これらの費用は、東京23区内か地方都市か、駅からの距離や広さによって大きく変動します。
備品や法人設立などの諸経費
パソコンや複合機、デスクといったオフィス備品の購入費のほか、法人を設立する場合は定款認証や登録免許税などの法定費用(合同会社で約6万円~、株式会社で約20万円~)と、司法書士への依頼費用などが必要になります。
不動産独立で年収を増やすためのポイント
独立後の事業を成長させ、収益性を高めていくためには、戦略的な取り組みが必要です。ここでは、年収を継続的に伸ばしていくための具体的な方法を詳しく解説します。
専門分野に特化する
「なんでもやります」という姿勢ではなく、自身の得意な分野に特化しましょう。例えば、「タワーマンション専門」「相続・空き家問題専門」「外国籍のお客様専門」など、ターゲットを絞ることで、自身の専門性が際立ちます。
専門性が高まれば、難しい案件や高単価な依頼が集まりやすくなり、一件あたりの利益率が向上します。結果として、少ない労力で効率的に収益を上げることができるでしょう。
紹介の仕組みをつくる
広告費をかけずに優良な顧客と出会う最善の方法は、紹介です。そのためには、弁護士や税理士、司法書士といった専門家や既存のお客様との間に、継続的に紹介をもらえるような信頼関係を築く必要があります。
ただ待つだけでなく、定期的に有益な情報を提供したり、こちらからも積極的に専門家を紹介したりと、日頃から与える姿勢を大切にすることが、長期的な紹介ネットワークの構築に繋がります。
ITツールと外注で効率化する
一人または少人数で多くの案件をこなすには、ITツールや外注の活用がおすすめです。顧客管理(CRM)や会計ソフト、電子契約システムなどを導入して事務作業の手間を省きましょう。
また、物件の写真撮影や図面作成といった専門的な作業は、外部のプロに外注することも有効です。創出した時間を、自分にしかできない付加価値の高い業務に集中させることが、時間あたりの収益性を最大化します。
情報発信で自分の価値を上げる
ブログやSNS、セミナーなどを通じて、自身の専門知識を積極的に社会へ発信しましょう。「この分野なら、あの人が一番詳しい」という専門家としてのブランド(第一想起)を確立できれば、お客様は価格ではなく「あなたにお願いしたい」という理由であなたの会社を選んでくれます。
情報発信は自身の知識を整理する良い機会にもなり、結果としてサービスの質を高め、単価を上げることにも繋がります。
収入の柱を増やす
仲介手数料のような、一度きりのフロー収入だけに頼るのは不安定です。事業が安定してきたら、賃貸管理手数料やコンサルティング契約など、毎月継続的に入ってくるストック収入の柱を育てることを考えましょう。複数の収入源を持つことが、景気の波に左右されない安定した経営基盤をつくります。
税金の知識を身につける
売上から経費を差し引いたものが利益ですが、そこからさらに税金が引かれたものが、最終的に手元に残るお金です。青色申告の活用や適切な法人化による所得分散など、税金の知識を身につけることは、手元に残るお金を最大化するために不可欠な経営スキルです。顧問税理士と相談しながら、最適なタックスプランニングを行いましょう。
データを見て営業する
勘や経験だけに頼らず、客観的なデータに基づいて営業戦略を立てることも重要です。どの広告からの問い合わせが成約に繋がりやすいのか、どのエリア・価格帯の物件が人気なのかといったデータを分析し、費用対効果の高いところにリソースを集中させることで、無駄な経費を削減し、収益性を高めることができます。
顧客と長く付き合う
一度取引のあったお客様は、最も大切な資産です。引渡し後も定期的に連絡を取り、リフォームや資産の組み換えの相談に乗るなど、長期的な関係を築きましょう。お客様一人あたりの生涯価値(LTV)を高める視点を持つことが、顧客獲得コストの削減と、安定した紹介の獲得に繋がります。
不動産業の独立1年目の収入を安定させるには
多くの人がつまずく独立1年目の収入の壁。この厳しい時期を乗り越えるには、攻めの営業だけでなく、事業の足元を固める守りの戦略が不可欠です。
独立1年目の収入が不安定な理由
なぜ、独立1年目は収入が不安定になりがちなのでしょうか。主な理由は2つあります。第一に、開業当初は知名度や実績がなく、お客様からの信頼を得て、実際に契約に至るまでには相応の時間がかかるからです。
第二に、不動産業の収益は、入金までにタイムラグが生じる場合があります。特に、不動産売買の仲介では、契約成立から買主のローン審査や登記手続きなどを経て決済(引渡し)となるまで数ヶ月かかることもあり、その間の収入は発生しません。このキャッシュフローの時間差を理解しておくことが重要です。
運転資金の重要性
この収入のない期間を乗り切るために不可欠なのが、運転資金です。売上がなくても事業を継続できる資金的な余裕は、精神的な焦りをなくし、冷静な経営判断を可能にします。
事業計画によって必要な額は異なりますが、一般的には、最低でも3ヶ月から半年分の運転資金を用意しておくことが推奨されています。これを一つの目安として、自社の収支計画に基づき慎重に計算しましょう。
安定した収入源を確保する
独立当初は、大きな一発を狙うよりも、まずは安定したキャッシュフローを生み出す仕事の比率を高めるのが賢明な戦略です。
例えば、不動産鑑定士であれば、公募や入札を通じて公的評価を受注し、安定した収益基盤とすることも一つの戦略です。報酬は民間評価に比べて比較的安価な傾向にありますが、経営の安定に寄与する可能性があります。
不動産業で独立したら日々の積み重ねで理想の年収を目指そう
不動産業界での独立は、高い収入だけでなく、自分らしい働き方を実現できる大きな魅力があります。しかし、その道は決して平坦ではなく、会社員時代にはなかった経営者としての視点が求められます。
大切なのは、単に収入を追いかけるだけでなく、どのような専門家になり、どのような働き方を実現したいかというビジョンです。この記事で解説したポイントを参考に、自身の理想とするキャリアプランを描いてみましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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