- 作成日 : 2025年10月6日
個人M&Aは失敗が多い?原因と影響・成功のポイント・具体的な方法を徹底解説
個人M&Aとは、会社員や個人投資家が中小企業や小規模事業を買収し、経営者として事業を承継する形態のことです。
後継者不足が深刻化する日本において、数百万円規模から挑戦できる点や既存の仕組みを引き継ぐことができる利点から注目を集めています。
一方で「失敗が多い」と言われるのも現実です。財務調査の甘さや資金調達の難しさ、経営ノウハウ不足、従業員や顧客との信頼関係構築の失敗など、多くのリスクが潜んでいます。
本記事では、個人M&Aの概要から失敗原因と影響、成功のための具体的な対策や方法までを徹底解説します。これから個人M&Aに挑戦したい方や、事業承継を検討する経営者の方に役立つ内容です。
目次
個人M&Aとは|失敗が多いと言われるのは本当?
個人M&Aとは、会社員や個人投資家といった個人が、中小企業や小規模事業を買収するM&Aの形態のことです。
日本では深刻な後継者不足が続いており、廃業を避けて事業承継を実現する手段として、個人に対しても門戸が開かれるようになってきました。近年はマッチングサイトや仲介会社の登場により、会社員や副業希望者でも案件にアクセスできる環境が整っています。
数百万円規模から挑戦できる点や、低資金で経営者になれる可能性があることも注目を集める理由です。国内のM&A件数は年々増加しており、個人が関与する事例も増加傾向にあります。
会社員や個人投資家に広がる背景
個人M&Aが広がる背景として、副業解禁や早期退職金の活用により、会社員が小規模事業を買収して独立や副業に挑戦する「スモールM&A」が注目されています。
また、後継者不足に悩む中小企業が多いことから、個人にとっても買収のチャンスが増えてきました。マッチングサイトの普及により、数百万円単位から案件にアクセスできるようになったことも普及を後押ししています。
さらに、コロナ禍をきっかけに「安定収入の確保」や「収益の多角化」を狙う個人投資家の需要も高まっています。
ゼロからの起業よりもハードルが低い理由
個人M&Aは、ゼロからの起業と比べて参入のハードルが低いとされています。
すでに顧客基盤や従業員、仕組みが整った事業を引き継ぐことができるため、立ち上げにかかるリスクを軽減できる点が大きな魅力です。初期投資や立ち上げに必要な時間やコストを省略でき、数百万円規模で取得可能な案件もあることから、低資金で経営者になれる可能性があります。
また、起業時の最大の不安要素である「収益が出るまでの無収入期間」を回避でき、黒字経営の企業を承継すれば安定したキャッシュフローを得られる点もメリットです。
個人M&Aは「失敗が多い」と言われる現実
一方で、個人M&Aは「失敗が多い」と言われる現実も存在します。とくに会社員によるM&Aでは失敗率が高いと指摘されることがあり、その原因は多岐にわたります。
原因 | 理由 |
---|---|
財務状況や簿外債務の確認不足 | リース債務や退職給付引当金などを見逃すと、想定外の負担が発生 |
従業員や顧客との関係構築の失敗 | 信頼関係を築けず、離職や顧客離れを招くケースが多い |
業界理解やビジネスモデルの不十分な把握 | 買収した事業の特性を理解せずに参入すると、経営が軌道に乗らない |
資金調達や融資条件の厳しさ | 高金利融資の負担が経営を圧迫することも少なくない |
経営者思考への転換不足 | 会社員感覚のまま経営を進めてしまい、意思決定やリスク管理が不十分 |
これらの失敗が積み重なると、従業員の解雇や事業閉鎖、さらには個人資産の損失といった深刻な影響を招く可能性があります。
個人M&Aが失敗する主な原因
個人M&Aは低資金から経営者になれる魅力がある一方で、失敗に至るリスクも少なくありません。以下では、具体的な失敗要因を5つ解説します。
デューデリジェンス不足(財務・法務・ビジネス調査の甘さ)
個人M&Aの失敗でとくに多いのが、デューデリジェンス不足です。
簿外債務であるリース債務や退職給付引当金などを確認せずに買収し、想定外の負債を抱えてしまう事例があります。財務諸表やキャッシュフローを精査しなければ実態を正確に把握できず、表面的な情報に依存した結果、損失につながるケースも珍しくありません。
さらに、売掛金の不良債権や契約終了といったリスクを事前に見逃し、買収後に大きな問題として発覚することもあります。
経営ノウハウや経験の不足
経営経験のない会社員が事業を引き継いだ場合、経営をうまく回せずに失敗する例が目立ちます。
とくにビジネスモデルや業界特性に関する知識が不足していると、顧客ニーズに対応できず売上減少を招く可能性が高まります。
加えて、人材管理や経営判断の経験が乏しいことで事業拡大ができないケースも珍しくありません。会社員的な発想のまま経営を進めてしまうことが、失敗の大きな要因になっています。
資金調達の難しさと返済リスク
個人は企業に比べて信用力が低いため、金融機関からの融資が難しい傾向にあります。
融資を受けられたとしても、金利が7%前後と高く設定されることが多く、返済負担が重くなります。その結果、買収後の運営資金が不足し、事業の継続に支障をきたしてしまうのです。
不適切な資金調達を行ったことで返済困難に陥り、場合によっては買収自体が破談するケースもあります。
従業員や取引先との信頼関係の軽視
M&Aにおいては、経営者交代による従業員や取引先の心理的影響を軽視することが大きなリスクになります。
従業員の不安に対応せず離職が相次ぐと、事業継続が困難です。また、買収後のコミュニケーション不足により従業員から受け入れられず、経営改善が進まないこともあります。
さらに、取引先や顧客との信頼関係を築けなければ顧客離れを招き、売上の減少につながるリスクが高まります。人的資源の引継ぎを軽視することが、失敗の直接的な要因となるでしょう。
企業との競争で不利な立場
売り手側は、資金力や信用度の高い企業への売却を希望する傾向があります。
そのため、個人が提示できる条件よりも企業の条件が優先されやすいのが実情です。個人に回ってくる案件は、企業からの買収希望がなかったなど課題の多いものが多いケースも見られます。
資本力や経営経験、信用力の差によって競争の場面では不利になりやすく、これが失敗のリスクを高めています。
個人M&Aの失敗が及ぼす影響
個人M&Aが失敗に終わると、その影響は買い手本人だけでなく、従業員や取引先、さらには地域社会にまで広がります。以下では、具体的な影響について解説します。
買収した会社や事業が消滅するリスク
経営知識や経験が不足したまま買収することによって、事業運営が立ち行かなくなり倒産に至るケースにも注意が必要です。
買収後の統合プロセスに失敗すれば、既存のビジネスモデルが崩壊し、短期間で会社が消滅する危険性が高まります。とくに後継者不在の中小企業を引き継いだ場合、経営判断を誤ると短期間で事業を失う可能性があります。
こうした結果となれば、売り手が望んでいた「事業承継」という本来の目的も果たせません。
従業員の雇用喪失・取引先への迷惑
経営破綻により従業員が職を失えば、生活に直接的な悪影響を及ぼします。
また、取引先は突然の契約打ち切りや支払い遅延に直面し、連鎖的に経営リスクを抱える可能性があります。長年築かれた信用や地域社会とのつながりも失われ、売り手が願っていた「従業員や取引先の安心継続」は実現できません。
個人の経営失敗が広範囲に波及することで、社会的な損失につながる点も大きな問題です。
買い手本人の金銭的・精神的ダメージ
個人がM&Aに失敗した場合、多額の借入金や投資資金を回収できず、個人資産に深刻な打撃を受けます。
想定外の赤字や負債を抱え込めば、自己破産や生活基盤の崩壊に至るリスクにも注意が必要です。さらに、事業を守れなかった責任感から強い精神的ストレスを感じ、うつ状態や社会的孤立に追い込まれる可能性があります。
金銭的損失だけでなく、信用低下や人間関係の悪化など、人生全体に影響が及ぶ点が特徴です。
個人M&Aの失敗を避けるための5つのポイント
個人M&Aは低資金から経営者を目指せる一方で、失敗リスクも大きい取り組みです。しかし、次の5つの準備と対応を行うことで、そのリスクを大幅に軽減できます。ここでは、失敗を避けるために押さえておくべき5つのポイントを解説します。
十分な事前調査と専門家によるデューデリジェンス
簿外債務は表面的な財務諸表から見抜くことが難しく、リース債務や退職給付引当金、未払賞与などを見逃すと大きな負担を抱える可能性があります。そのため、弁護士や会計士、仲介会社といった専門家による十分な事前調査とデューデリジェンスが不可欠です。
事業内容やビジネスモデルを深く理解しないまま買収すると、収益構造を把握できず失敗の原因になります。情報収集リソースが限られる個人M&Aだからこそ、専門家を積極的に活用することが重要です。
無理のない資金計画と資金調達の工夫
個人は企業と比べて信用力や担保力が弱く、金融機関からの融資が難しいケースが多いです。借りられたとしても高金利となることが多いため、無理のない資金計画と資金調達が重要です。
買収価格に加えて、在庫費用やサーバー移行費用、テナント保証金といった追加コストも見込む必要があります。初期費用を抑える工夫として、小規模事業や競合企業が手を出さない案件を選ぶことも有効な戦略です。
経営者思考への切り替えと経営スキル習得
会社員の感覚で経営を進めると、小規模企業特有のトラブルや責任の重さに対応できず失敗につながります。経営者思考への切り替え、経営者に戦略的な判断力、人材マネジメント、資金繰りの管理、業界知識など幅広いスキルが求められます。
経営理念や社風を軽視して自分のやり方を押し付けると従業員離反を招きやすいため注意が必要です。経営スキルの不足を補うには、経営研修や前経営者のサポートを受けるなど、学び続ける姿勢が重要です。
従業員・前経営者・取引先との信頼構築
M&Aによる経営者交代は従業員に不安を与えるため、雇用の維持や待遇への配慮を示すことが求められます。前経営者との協力関係を築き、一定期間はサポートを受けながら承継を進めることでスムーズな移行が可能です。
また、小規模企業では従業員や取引先との関係が事業価値に直結するため、信頼を得る努力が欠かせません。従業員説明会の実施や取引先との継続的なコミュニケーションで、安定した経営基盤を築きましょう。
M&A後のビジョンと経営計画の明確化
M&Aは買収がゴールではなく、新たな経営のスタートです。買収後の戦略が曖昧だと期待する成果が得られず、組織に混乱を招きます。
成功するためには、将来的なビジョンや事業展開の方向性を明確にし、従業員と共有することが必要です。経営統合後の計画を具体的に策定しておけば、文化摩擦や運営の停滞を防ぎ、一体感のある経営を実現できます。
個人がM&Aで成功するための3つの方法
個人がM&Aで成功するには、資金や経験の制約を踏まえたうえで、無理のない戦略をとることが重要です。次の方法を取り入れることで、失敗リスクを抑えながら安定した経営を実現できます。ここでは、代表的な3つの方法を解説します。
小規模案件からスタートする
M&Aは必ずしも大規模な取引に限らず、100万円以下で成立する小規模案件も多く存在します。こうした案件を活用すれば、資金リスクを抑えながら経営経験を積むことが可能です。
さらに、小規模案件は競合が少ないため個人でも参入しやすく、企業が手を出しにくい領域であることから、個人にとっては有望なチャンスとなります。
後継者候補として時間をかけて関わる
いきなり経営者になるのではなく、後継者候補として一定期間現場に関わることで、従業員や取引先から信頼を得やすくなります。事前に関係を築いておくことで、引継ぎ後のトラブルを防ぎやすくなるほか、前経営者から経営ノウハウを学ぶ機会にもなります。
信頼関係を構築するプロセスは、従業員の離職防止や顧客維持にも直結し、事業の安定的な承継につながるでしょう。
仲介会社や専門家のサポートを活用する
個人では情報収集や財務分析が不十分になりやすいため、仲介会社や専門家のサポートを受けることが重要です。専門家によるデューデリジェンスを通じて、簿外債務や不良債権といったリスクを見逃さずに済みます。
仲介会社は初期相談から成約まで幅広く支援してくれるほか、中小規模のM&A案件を取り扱う会社も増えており、費用を抑えやすい点も魅力です。複数の仲介会社を比較し、信頼できる担当者を選びましょう。
個人M&Aを失敗しないためには事前準備と学びが重要!
個人M&Aは、会社員や個人投資家でも挑戦できる手段として注目されていますが、失敗率が高いという現実があります。その多くは財務調査の甘さや経営経験不足、資金調達の難しさ、従業員や取引先との信頼関係の欠如が原因です。
しかし、専門家によるデューデリジェンスや無理のない資金計画、経営スキルの習得を通じてリスクを大きく軽減できます。小規模案件からのスタートや時間をかけた承継プロセスを意識し、事前準備と学びを重ねることで、個人M&Aを成功につなげられるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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