- 作成日 : 2025年9月9日
会社売却とは?メリットや流れ、費用を解説
会社の将来を考えたとき、「会社売却」という選択肢が頭に浮かんだことはありませんか?
後継者問題の解決、事業のさらなる成長、創業者利益の獲得など、会社売却は現代の経営者にとって多くの可能性を秘めた経営戦略の一つです。
しかし、いざ検討を始めようにも「何から手をつければいいのか」「誰に相談すればいいのか」「費用はどれくらいかかるのか」など、分からないことばかりではないでしょうか。
この記事では、そんな疑問や不安を解消するために、「会社売却とは何か?」という基本から、メリット・デメリット、手続きの全ステップ、必要な費用までを分かりやすく解説します。
会社売却とは?
会社売却の基本概念と実際の取引内容について詳しく解説します。
会社売却とは、企業の株主が保有する株式を第三者に譲渡することで、会社の経営権を移転する取引です。売却により、買い手企業は対象会社の経営権、資産、負債、従業員、事業権利などすべてを包括的に取得します。
この取引では、売り手である株主が対価として現金や買い手企業の株式を受け取り、会社の所有権が完全に移転されます。買い手にとっては既存事業の拡大や新規事業への参入手段となり、売り手にとっては創業者利益の実現や事業承継の解決策となります。
近年、後継者不足に悩む中小企業や、成長資金を必要とするスタートアップ企業において会社売却が活発化しています。特に日本では高齢化に伴う事業承継問題の解決手段として注目を集めており、政府も税制優遇措置を設けて支援しています。
会社売却と事業譲渡の違い
会社売却と事業譲渡の相違点を明確にし、それぞれの特徴を比較します。
取引対象の範囲
会社売却では株式の譲渡により会社全体が移転対象となります。これに対し事業譲渡は、会社内の特定事業部門や資産のみを切り出して譲渡する取引です。
会社売却の場合、買い手は対象会社の全ての資産・負債・権利義務を承継します。一方、事業譲渡では売り手企業が譲渡する事業資産を選択でき、不要な負債やリスクを切り離すことが可能です。
法的手続きの相違
会社売却は株式譲渡契約の締結と株主名簿の書き換えで完了する比較的シンプルな手続きです。これに対し事業売却は、個別資産の移転登記、契約関係の移転、従業員の転籍手続きなど複雑な法的手続きが必要となります。
また会社売却では、売却後も法人格が存続するため既存の許認可や契約関係がそのまま維持されます。事業売却の場合は許認可の移転手続きや取引先との契約更新が必要になるケースが多くあります。
税務上の取り扱い
税務面でも両者には大きな違いがあります。会社売却(株式譲渡)の場合、個人株主は譲渡所得として約20%の税率が適用されます。事業譲渡では売却資産の種類に応じて法人税率が適用され、売却益に対して実効税率約30%の課税となります。
また、株式譲渡での会社売却では税務上ののれんである資産調整勘定は生じませんが、事業譲渡の場合は取得した資産調整勘定が生じることがあり、その償却費は損金算入されるため、節税効果があります。
会社売却のタイミング
最適な売却時期を見極めるための判断基準と市場環境について説明します。
業績が好調な時期
会社売却の最適なタイミングとして最も重要なのは、業績が安定して成長している時期です。売上高や利益が右肩上がりの傾向にあり、将来の成長性を買い手にアピールできる状況が理想的です。
特に過去3年間の財務数値が安定しており、今後の事業計画も明確に示せる段階での売却が高い評価を得やすくなります。一時的な好業績ではなく、持続可能な収益構造が確立されていることが重要なポイントとなります。
市場環境の追い風
業界全体が成長トレンドにあり、M&A市場が活発な時期も売却の好機です。同業他社の売却事例で高い評価額が付いている場合や、業界再編の動きが加速している局面では買い手の関心も高まります。
また政府の政策支援や税制優遇措置が充実している時期も、売却を検討する良いタイミングといえます。事業承継税制の適用期限や特別控除制度の活用期間を意識した計画的な売却準備が効果的です。
個人的・企業的要因
創業者の年齢や健康状態、家族の状況など個人的要因も売却タイミングに大きく影響します。後継者が確保できない場合や、創業者が他の事業に専念したい場合には早期の売却検討が必要です。
企業側の要因としては、更なる成長のための資金需要や技術革新への対応、競合環境の変化などが売却を検討する契機となります。自社だけでは解決困難な課題を抱えている場合、大手企業との連携により解決を図る選択肢として売却が有効です。
会社売却の方法
様々な売却手法の特徴と適用場面を詳しく解説します。
株式譲渡による売却
最も一般的な会社売却の方法が株式譲渡です。株主が保有する株式を買い手企業や個人投資家に直接譲渡する取引形態で、手続きが比較的簡単で期間も短縮できるメリットがあります。
株式譲渡では譲渡価格の算定が重要なポイントとなります。純資産価額方式、類似会社比準方式、DCF法などの評価手法を組み合わせて適正な価格を算出します。特に非上場企業の場合は客観的な市場価格がないため、専門家による詳細な企業価値評価が不可欠です。
事業統合・合併による売却
規模の大きな企業間取引では、合併や会社分割を活用した売却方式も選択されます。吸収合併の場合は売り手企業が消滅し、買い手企業に全ての権利義務が承継されます。
新設合併では両社が新会社に統合され、統合効果の最大化を図ることができます。ただし合併には株主総会の特別決議が必要で、手続きが複雑になる点に注意が必要です。
MBOとEBO
経営陣による買収(MBO)は、現在の経営陣が会社を買い取る手法です。経営の継続性が保たれ、従業員の雇用不安も軽減できるメリットがあります。
従業員による買収(EBO)では、従業員が組合を組織して会社を買い取ります。どちらの手法も買収資金の調達が課題となりますが、金融機関の融資やファンドからの出資により実現可能性が高まっています。
IPOによる株式公開
株式公開(IPO)は市場での株式売却を可能にする方法です。上場により流動性が確保され、段階的な売却も可能になります。ただし上場維持コストや開示義務などの負担も発生するため、中長期的な戦略が重要です。
上場準備には通常2~3年の期間を要し、厳格な監査や内部統制の整備が必要となります。市場環境や業績の安定性なども上場成功の重要な要因となります。
IPOについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
会社売却のメリット
売却により得られる様々な利益と機会について具体的に説明します。
創業者利益の実現
長年にわたって築き上げた企業価値を現金化できることは、会社売却の最大のメリットです。創業時からの投資や努力に対する対価を一括で受け取ることができ、個人の財産形成や新たな事業投資の原資となります。
特に株式公開が困難な中小企業においては、会社売却が創業者にとって唯一の投資回収手段となるケースも多くあります。売却代金により経済的自由を獲得し、次の人生設計を描くことが可能になります。
事業承継問題の解決
後継者不足に悩む中小企業にとって、会社売却は最も現実的な事業承継手段です。適切な買い手を見つけることで、従業員の雇用を維持しながら事業の継続を図ることができます。
親族内承継や従業員承継と比較して、買い手企業の経営資源を活用した事業拡大の可能性も期待できます。特に大手企業による買収の場合は、販売チャネルの拡大や技術力の向上など、シナジー効果による成長加速が見込まれます。
経営リスクからの解放
会社経営には常に倒産リスクや個人保証の負担が伴います。売却により経営責任から解放され、精神的な負担を大幅に軽減できます。
また業界の構造変化や技術革新への対応など、個人では解決困難な課題を大手企業の資源により克服できる可能性があります。特に資金力や人材の制約により成長が阻害されている場合、売却により飛躍的な発展が期待できます。
従業員への恩恵
適切な買い手企業への売却により、従業員の雇用安定や処遇改善が実現できます。大手企業グループの一員となることで、研修制度や福利厚生の充実、キャリアアップの機会拡大などのメリットが生まれます。
また売却対価の一部を従業員への特別賞与として還元することで、長年の貢献に報いることも可能です。従業員持株制度を導入していた場合は、従業員も売却益を享受できます。
会社売却のデメリット
売却に伴うリスクや制約事項について詳しく解説します。
経営権の喪失
会社売却により創業者は経営権を完全に失います。長年にわたって築き上げた企業文化や経営方針が変更される可能性があり、売却後の会社の方向性をコントロールできなくなります。
特に創業者にとって会社は自分の分身のような存在であり、他人の手に委ねることへの心理的抵抗は大きなものがあります。売却後も一定期間の経営関与を条件とする場合もありますが、最終的な決定権は買い手に移転します。
従業員への影響
買い手企業の経営方針により、従業員の処遇や労働条件が変更される可能性があります。事業統合に伴うリストラや配置転換、企業文化の変化により従業員の士気低下が懸念されます。
また売却の検討段階で情報が漏洩した場合、優秀な人材の流出や取引先との関係悪化を招くリスクもあります。売却プロセスでは情報管理と従業員への適切な説明が重要となります。
売却価格の妥当性
非上場企業の株式には客観的な市場価格が存在しないため、売却価格の妥当性判断が困難です。評価方法や前提条件により価格は大きく変動し、売り手と買い手の期待値に大きな乖離が生じることもあります。
また市場環境や業界動向の変化により、売却時期によって価格が大幅に変動するリスクもあります。タイミングを逸することで、期待した売却価格を大幅に下回る結果となる可能性があります。
取引先・顧客への影響
会社売却により取引先や顧客との関係に変化が生じる可能性があります。特に創業者の個人的な信頼関係に基づく取引の場合、売却後の関係維持が困難になることがあります。
競合他社による買収の場合は、取引先が取引継続を敬遠するリスクもあります。売却発表のタイミングや買い手企業の選定において、既存関係への影響を慎重に検討することが必要です。
会社売却にかかる税金と費用
売却に伴う税務上の取り扱いと各種費用について詳しく説明します。
株式譲渡所得税
個人株主が株式を売却した場合の税金は譲渡所得として取り扱われ、売却価格から取得費と譲渡費用を控除した譲渡益に対して課税されます。税率は所得税15%、住民税5%の合計20%(復興特別所得税含む20.315%)です。
取得費が不明な場合は売却価格の5%を取得費として算定できますが、実際の取得費が判明している場合でも、実際の取得費と売却価格の5%のうち、より有利な方を用いることができます。創業者の場合は設立時の出資額が取得費となり、長期間の保有により大きな譲渡益が発生することが一般的です。
法人税の取り扱い
法人株主が株式を売却する場合は、売却益に対して法人税が課税されます。実効税率は約30%となり、個人株主の税率と比較して高くなります。
ただし、100%グループ内での株式保有関係を変える場合などはグループ法人税制が適用され、株式の売却益を繰り延べることができるという特例措置があり、税務専門家による詳細な検討が必要です。
各種手数料と費用
会社売却には様々な専門家費用が発生します。M&Aアドバイザリー費用は売却価格の3~5%程度が一般的で、成功報酬として支払われることが多くなっています。
その他にも公認会計士による財務デューデリジェンス費用、弁護士による法務チェック費用、税理士による税務アドバイス費用などが必要です。売却規模により異なりますが、総額で売却価格の5~10%程度の費用を見込んでおく必要があります。
費用項目 | 概算金額 | 備考 |
---|---|---|
M&Aアドバイザリー | 売却価格の3~5% | 成功報酬制が多い |
財務DD | 200~500万円 | 企業規模により変動 |
法務DD | 100~300万円 | 契約書等の精査費用 |
税務アドバイス | 50~200万円 | 税務戦略立案費用 |
登記費用 | 10~50万円 | 株式譲渡登記等 |
節税対策
売却時期の調整により、他の所得との損益通算や退職所得控除の活用なども検討できます。複数年にわたる分割売却により税負担の平準化を図る手法もありますが、買い手の意向との調整が必要となります。
会社売却の流れ
売却プロセスの各段階における具体的な手続きと留意点を説明します。
売却準備段階
売却の意思決定後、まず企業価値の向上と売却資料の準備を行います。財務諸表の整備、事業計画の策定、組織体制の見直しなど、買い手にとって魅力的な投資対象とするための準備作業が重要です。
この段階でM&Aアドバイザーの選定も行います。業界に精通し、豊富な売却実績を持つアドバイザーの協力により、適切な売却戦略を立案することができます。アドバイザー選定では手数料体系だけでなく、実績や専門性を総合的に評価することが大切です。
買い手候補の選定
事業のシナジー効果が期待できる買い手と、投資リターンを求める買い手の両方を候補として検討します。同業他社、上下流企業、異業種からの新規参入企業など、様々な角度から買い手候補をリストアップします。
候補企業に対しては守秘義務契約(NDA)を締結した上で、企業概要書を提示して初期的な関心度を確認します。複数の候補企業との並行交渉により、より良い条件での売却を目指します。
デューデリジェンス
買い手候補による詳細調査であるデューデリジェンスでは、財務、法務、税務、事業面での精査が行われます。売り手側は必要資料の準備と、調査に対する誠実な対応が求められます。
この過程で発見された問題点は売却価格の調整要因となるため、事前の準備段階で可能な限り問題を解消しておくことが重要です。また調査期間中の情報管理も重要で、通常業務への影響を最小限に抑える配慮が必要です。
最終交渉と契約締結
デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な売却条件の交渉を行います。売却価格だけでなく、支払い方法、従業員の処遇、売却後の関与条件など、様々な事項について合意形成を図ります。
株式譲渡契約書の作成では、表明保証条項や補償条項の内容が重要なポイントとなります。売却後のトラブルを避けるため、契約条件の詳細については弁護士による十分な検討が必要です。
クロージング
契約締結後、売却代金の支払いと株式の譲渡手続きを同時に実行するクロージングを行います。株主名簿の書き換え、取締役の変更登記など、必要な手続きを完了させます。
クロージング後も一定期間は売り手による引き継ぎ協力が必要となることが一般的です。円滑な事業承継のため、買い手企業との良好な関係維持に努めることが重要です。
成功する会社売却のために
会社売却の成功には綿密な準備と適切な専門家の選定が不可欠です。売却を検討し始めたら、まず自社の強みと課題を客観的に分析し、企業価値向上のための具体的な施策を実行することから始めましょう。
財務面では過去数年間の業績安定化と将来の成長戦略の明確化が重要です。また法務面では契約書の整備、知的財産権の確保、労務問題の解消など、買い手が安心して投資できる環境を整えることが必要です。
買い手選定では価格だけでなく、事業シナジーや企業文化の適合性も重視しましょう。従業員や取引先にとってもメリットのある売却となるよう、買い手企業の経営方針や将来ビジョンを十分に確認することが大切です。
近年のM&A市場では、単なる事業承継だけでなく、成長戦略の一環としての売却も増加しています。デジタル化の進展やESG経営の重要性の高まりなど、社会情勢の変化も売却価値に大きく影響するため、時代の流れを見据えた準備が求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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