- 作成日 : 2025年12月2日
工事請負契約書は建設業法でなぜ必要か?記載事項、違反のリスク、テンプレートまで解説
建設工事を依頼する際、「昔からの付き合いだから」「簡単な工事だから」といった理由で、口約束や簡単な書類だけで済ませていないでしょうか。建設業法では、工事の規模にかかわらず、必ず「工事請負契約書」(契約内容を記載した書面または電子契約)で締結することが義務付けられています。
この記事では、建設業の専門家として、なぜ工事請負契約書が重要なのか、法律で定められた16の記載事項、そして契約書がない場合のリスクについて、発注者の皆様が知っておくべきポイントを分かりやすく解説します。
目次
そもそも工事請負契約書はなぜ必要か?
建設業法第19条で、すべての建設工事において、当事者間の合意内容を書面(またはそれに代わる電磁的記録)に残し、相互に交付することが義務付けられているためです。
建設工事は、完成までに長期間を要し、多くの関係者が関わる複雑な取引です。そのため、口約束による「言った・言わない」のトラブル(工事内容の認識違い、金額の争い、工期の遅延など)を未然に防ぎ、発注者と受注者双方の権利と義務を明確にする目的で、法律によって書面契約が厳格に義務化されています。
契約書が「必要ない場合」は存在するのか?
建設業法上、工事請負契約書が不要な建設工事は存在しません。
よく「500万円未満の軽微な工事なら不要」と誤解されがちですが、これは「建設業の許可がなくても請け負える工事」の基準であり、契約書作成の義務とは全く関係ありません。たとえ数万円の小規模なリフォームであっても、法律上は書面での契約が必要です。
契約書には何を記載する必要があるか?(16の記載事項)
工事内容や請負代金、工期など、建設業法第19条第1項で定められた以下の16項目を契約書に記載する必要があります。
これらの項目が一つでも欠けていると、法律の要件を満たした正式な契約書とは認められず、建設業法違反となる可能性があります。
建設工事請負契約書 必須記載事項一覧
- 工事内容
- 請負代金の額
- 工事着手の時期及び工事完成の時期
- 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
- 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
- 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
- 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
- 価格等の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
- 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
- 発注者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
- 発注者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
- 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
- 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任(契約不適合責任)又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
- 各事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
- 契約に関する紛争の解決方法
- その他国土交通省令で定める事項
請負契約に違反するとどうなるか?
建設業者は建設業法違反として行政処分の対象となる可能性があり、発注者側にも追加費用や工期遅延といった深刻なトラブルに発展する大きなリスクがあります。
建設業者側の罰則(行政処分)
書面契約の義務を怠った建設業者は、建設業法違反として、国土交通大臣や都道府県知事から指示処分や、悪質な場合には営業停止処分といった重い行政処分を受ける可能性があります。これは建設業者の事業継続そのものを揺るがす、極めて厳しい罰則です。
発注者側のリスク
発注者にとって、契約書がないことは以下のようなリスクに直結します。
- 追加費用の発生:工事の範囲が曖昧なため、「これは契約に含まれていない」として、後から高額な追加費用を請求される。
- 工期の遅延:明確な完成時期が定められていないため、工事が長引いても法的な責任を問いにくい。
- 品質の不担保:完成後の不具合(契約不適合)が見つかった際の、修補や損害賠償のルールが不明確になる。
契約書は、建設業者を縛るためだけでなく、発注者自身を守るためにも不可欠なものなのです。
契約書のテンプレート(ひな形)はどこで入手できるか?
国土交通省が「建設工事標準請負契約約款」を公式に提供しており、誰でも無料でダウンロードできます。
この標準約款は、法律の要件を網羅しているだけでなく、長年の実務に基づいて発注者・受注者双方にとって公正な内容となっています。そのため、特別な事情がない限り、このひな形を基に契約書を作成するのが最も安全で確実な方法です。
インターネットで「建設工事標準請負契約約款」と検索すれば、国土交通省のウェブサイトなどから、WordやPDF形式で約款のデータをダウンロードできます。
また、マネーフォワードでも工事請負契約書のテンプレートを無料で提供しています。
適正な工事請負契約書が、信頼関係の礎となる
本記事では、建設業法における工事請負契約書の重要性とその記載事項について解説しました。
工事の請負契約を書面で交わすことは、法律上の義務であると同時に、発注者と受注者双方を予期せぬトラブルから守るための最も確実な手段です。口約束に頼らず、建設業法が定める事項を網羅した正式な工事請負契約書を締結することが、建設会社との良好なパートナーシップを築き、安心して工事を進めるための第一歩といえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
バックオフィス業務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
造園施工管理技士1級は難しい?合格率や勉強法、仕事内容を解説
1級造園施工管理技士は「難しい」と言われます。造園業界において価値の高い国家資格ですが、取得難易度が高いことも広く知られています。具体的に何が難しく、どう対策すれば良いのでしょうか? この記事では、造園施工管理技士1級の難しさの背景にある試…
詳しくみる建設工事の契約書はなぜ必要か?建設業法が定める記載事項やルールを分かりやすく解説
建設工事を依頼する際、「昔からの付き合いだから」「簡単な工事だから」といった理由で、口約束や簡単な書類だけで済ませていないでしょうか。建設業法では、工事の規模にかかわらず、必ず書面で契約を締結することが義務付けられています。 この記事では、…
詳しくみる2級管工事施工管理技士は難しい?合格率や受験資格、取得のメリットを解説
2級管工事施工管理技士は、主任技術者として現場の施工管理を担当できる国家資格です。国土交通省が管轄し、配管工事を管理する専門技術者の能力を認定するものです。この資格を取得することで、工事の安全管理や品質管理、工程管理を担う責任を果たせます。…
詳しくみる建設業法の主任技術者とは?必要な資格、専任・兼務のルールや金額要件まで解説
建設工事を発注する際、建設会社から「主任技術者を配置します」という説明を受けることがあります。この主任技術者とは、工事の品質と安全を確保するため、建設業法に基づき全ての現場に配置が義務付けられている、いわば「現場の技術責任者」です。 この記…
詳しくみる建設業法の工期と契約日はどう決める?着工前契約のルールや契約工期と実施工期との違いを解説
建設工事の契約において、「契約日」と「工期」の関係は、建設業法によって厳格にルールが定められています。特に「契約書を交わす前に着工する」ことは重大な法令違反であり、発注者・建設業者双方にとって大きなリスクとなります。 この記事では、建設業の…
詳しくみる1級建築施工管理技士の実務経験証明書の書き方は?記入例と注意点を解説
1級建築施工管理技士は、建設プロジェクトにおいて施工計画から品質管理、安全管理まで多岐にわたる業務を統括する、非常に重要な国家資格です。この資格を取得することは、キャリアアップはもちろんのこと、建設業界における自身の市場価値を高める上で非常…
詳しくみる