- 作成日 : 2025年6月20日
一人親方が加入すべき保険とは?労災・健康・年金の基本知識
一人親方にとって保険への加入は、身体の安全や生活を守るために欠かせない備えです。特に建設業など危険を伴う現場では、労災保険(特別加入)や国民健康保険、国民年金といった制度への加入が重要となります。
これらに未加入のままだと、万が一のケガや病気、老後の生活資金に大きなリスクが伴います。本記事では、一人親方が加入すべき保険の種類や加入方法、費用の目安についてわかりやすく解説します。
目次
一人親方が加入すべき保険とは?
一人親方が仕事を続けるうえで加入すべき保険には、大きく分けて以下の3種類があります。
- 労災保険(特別加入):業務中の事故や怪我に備える保険
- 国民健康保険:医療費の自己負担を軽減するための保険
- 国民年金:老後の生活を支える年金制度
労災保険(特別加入)
労災保険は、仕事中や通勤中に起きた事故やケガ、病気などに対して、治療費や休業中の補償が受けられる保険制度です。通常、労働者を雇用している企業が加入しますが、一人親方のように「労働者ではないけれど業務上の危険にさらされる立場」の方でも、一定の条件を満たすことで「特別加入」という形で加入できます。
一人親方の現場での事故は命にかかわるケースもあるため、労災保険の加入は必須といえます。
国民健康保険
国民健康保険は、自営業者やフリーランスなど、会社員として健康保険に加入していない人が加入する医療保険制度です。業務外の病気やケガで医療機関を利用する際、医療費の自己負担を原則3割に抑えることができる制度です。
建設現場では、重い荷物の持ち運びや高所作業など、身体への負担が大きい仕事が多くあります。そのため、万が一のときに備えて医療費負担を抑えられる健康保険は必要不可欠です。
加入手続きは、お住まいの市区町村役場で行います。保険料は前年の所得に応じて決まり、自治体ごとに算出方法が異なります。
国民年金
国民年金は、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人に加入義務がある公的年金制度です。一人親方も例外ではなく、国民年金に加入していないと老後の基礎年金を受け取れません。
また、障害を負った場合の「障害基礎年金」や、家族が亡くなった場合の「遺族基礎年金」も含まれており、生活の基盤を守る重要な制度です。
2025年度の国民年金保険料は、月額17,510円です。前年度から若干の増額があり、毎年見直しが行われます。所得が少ない方には「保険料免除」や「納付猶予」などの制度もあります。
一人親方の労災保険(特別加入)の詳細や費用
建設業の一人親方の場合、自分自身が現場に出て危険な作業を行うため、業務中の事故リスクが非常に高くなります。そのため、多くの元請け会社が、労災保険に加入していない一人親方には仕事を発注しない傾向にあります。
つまり、労災保険の特別加入は、「安心のため」だけでなく「仕事を確保するため」にも、実質的には欠かせない制度になっています。
特別加入の対象者
一人親方として労災保険に特別加入できるのは、以下のような条件を満たす方です。
- 建設業などの現場で作業に従事していること
- 労働者を雇用していないこと(もしくは常時使用していないこと)
労災保険の特別加入は、個人で直接手続きすることはできず、加入団体(労働保険事務組合など)を通じて加入する必要があります。
労災保険の補償内容
労災保険の特別加入をすると、以下のような補償を受けることができます。
- 療養(治療)補償給付:病院での治療費がかかりません(原則全額カバー)
- 休業補償給付:働けない期間中に、給付基礎日額の約80%が支給される(条件付き)
- 障害補償給付・遺族補償給付:後遺障害や死亡の場合に支給される
加入していないと、これらすべてを自己負担でまかなうことになります。
労災保険の保険料とその目安
労災保険の保険料は、「給付基礎日額(※)」に応じて決まります。
給付基礎日額とは、ケガや病気で働けなくなった場合の補償金額の基準となる1日あたりの金額で、次の中から自分で選ぶことができます。
給付基礎日額 | 年間保険料(建設業の場合) |
---|---|
3,500円 | 約21,700円 |
7,000円 | 約43,400円 |
10,000円 | 約62,000円 |
20,000円 | 約123,900円 |
(※金額は年度や業種により変動があります)
基本的に、日額が高くなるほど補償も手厚くなりますが、保険料も比例して高くなります。現場でのリスクやご自身の生活費を考えて、無理のない範囲で設定しましょう。
また、加入にあたっては、労働保険事務組合への「組合費」も必要です。月額500円〜1,000円程度が一般的で、団体によって異なります。
労災保険(特別加入)の手続き方法
一人親方は、個人で直接労災保険に申し込むことはできません。
必ず、「労働保険事務組合」などの団体を通じて加入する形になります。
加入の流れ
- 加入希望の労働保険事務組合を探す(ネット検索や地域の建設組合など)
- 事務組合に加入の申し込みを行う
- 必要書類を提出(身分証明書、作業内容がわかるものなど)
- 保険料の見積もり・支払い
- 「労災保険加入証明書」が発行される
団体によっては、加入までに1週間程度かかる場合もあります。現場での提出期限がある場合は、余裕を持って準備しましょう。
労災保険加入のポイント
- 加入時に「組合費」や「入会金」が必要な場合があります(組合費は月額500円〜1,000円程度が一般的)
- 保険料の算定は、希望する「給付基礎日額」によって決まる(3,500円〜25,000円から選択)
一人親方の国民健康保険の詳細や費用
国民健康保険(こくみんけんこうほけん)は、自営業・フリーランス・一人親方など、会社に勤めておらず健康保険に入っていない人が加入するための公的医療保険制度です。
医療機関で受診した際、保険証を提示することで、医療費の自己負担が3割に軽減されます。手術や入院、通院などの費用がかかった場合も、大きな金銭的負担を避けることができます。
建設業に従事する一人親方の場合、身体を使う作業が中心となるため、ケガや体調不良のリスクも高めです。普段は健康であっても、万が一のときのために健康保険への加入は欠かせません。
国民健康保険の加入手続き
国民健康保険への加入は、お住まいの市区町村の役所(区役所・市役所など)で行います。
以下のような場合は、14日以内に加入手続きをする必要があります。
- 会社を辞めて健康保険を喪失したとき
- 新たに自営業を始めたとき
- 他の保険制度に加入していなかったことが判明したとき
手続きの際には、本人確認書類やマイナンバー、前の健康保険をやめた証明書などが必要になる場合があります。詳しくは自治体の窓口で確認するのが確実です。
国民健康保険料の年間費用の目安
国民健康保険の保険料は、次の3つの要素で構成されており、前年の所得などを元に計算されます。
- 所得割:前年の所得に応じて決まる
- 均等割:加入者一人あたりにかかる
- 平等割:1世帯あたりにかかる(自治体によってはなし)
たとえば、東京都新宿区の一人親方で、所得が約300万円の場合、年間保険料の目安はおおよそ36万〜43万円程度になります。
一方で、地方の市町村では10万円台〜20万円台になることもあり、住んでいる地域によって大きく異なります。
保険料は原則として年間一括または年10回で分割して納付します。口座振替やクレジットカードによる納付が可能な自治体もあります。
国民健康保険の手続き方法
健康保険に未加入の場合は、住民登録している市区町村の役所で手続きを行います。
加入の流れ
- 市区町村の国民健康保険課に出向く
- 申請書を記入
- 必要書類を提出
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- 前職の健康保険資格喪失証明書(会社を辞めた方)
- その場で保険証を受け取れる場合もある
国民健康保険の加入ポイント
- 加入からさかのぼって保険料が発生することがあるので、早めの手続きが重要
- 自治体によっては、オンラインで申請ができるところもある
国民健康保険料の支払いが難しいとき
収入が大幅に減った、災害にあった、などの事情がある場合には、「保険料の減免」や「納付の猶予」が認められることがあります。市区町村によって条件は異なりますが、困ったときは早めに役所に相談することで支援を受けられる可能性があります。
また、保険料の納付が遅れると、保険証が短期保険証に切り替わることがあります。これは有効期限が短くなるタイプの保険証で、継続的な納付が求められます。
一人親方の国民年金の詳細や費用
国民年金(こくみんねんきん)は、日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する、基礎的な年金制度です。
一人親方のように個人で仕事をしている方は、第1号被保険者として国民年金に加入する義務があります。
会社員や公務員の場合は「厚生年金」に加入していますが、自営業者やフリーランスなどは「国民年金」がベースとなります。
年金に加入していないと、老後になっても年金が支給されず、生活費をすべて自分でまかなう必要が出てきます。
また、老後の年金だけではなく、もしものときの「障害年金」や「遺族年金」も含まれており、生活の安心を支える制度です。
国民年金が支給されるとき
国民年金から支給される主な年金は次の3つです。
- 老齢基礎年金:原則として65歳から受給開始。保険料を10年以上納めた方が対象。
- 障害基礎年金:病気やケガで生活や仕事に支障が出たときに支給されます。
- 遺族基礎年金:加入者が亡くなったとき、子のある配偶者や子に支給されます。
これらの年金は、保険料を納めていることが前提となります。未納期間が多いと、受け取れなかったり、金額が減ったりするので注意が必要です。
国民年金の月額保険料と年間の費用
2025年度の国民年金保険料は、月額17,510円です。年額では210,120円になります。
この金額は全国一律で、前年の所得や住んでいる地域によって変動することはありません。ただし、保険料は毎年見直されるため、翌年度以降に値上がりする可能性もあります。
保険料の支払いは、次のような方法から選べます。
- 毎月支払う(口座振替、納付書など)
- 半年払い、1年払い(まとめて払うことで割引あり)
- クレジットカード払い(手続きが必要)
まとめて支払うと割引が適用されるため、資金に余裕がある方にはおすすめです。
国民年金の手続き方法
国民年金は、お住まいの市区町村の年金窓口または最寄りの年金事務所で手続きを行います。
加入の流れ
- 年金窓口または事務所へ行く
- 加入申込書を記入
- 必要書類を提出(本人確認書類など)
- 支払い方法を選択(納付書・口座振替・クレジットカード)
国民年金の加入ポイント
- 年金手帳は廃止され、現在は「基礎年金番号通知書」で管理されています
- 免除や猶予を希望する場合は、同時に申請書を出せます
国民年金の支払いが難しいとき
収入が少ない、失業したばかり、学生であるなどの事情がある方には、次のような支援制度があります。
- 保険料免除制度:全額・4分の3・半額・4分の1の4段階。所得に応じて申請可能。
- 納付猶予制度:50歳未満が対象。一定の所得以下であれば納付を後回しにできる。
- 学生納付特例制度:学生の間だけ保険料を納付猶予できる。
これらの制度は、手続きをすれば保険料の未納にはなりません。免除や猶予の期間も、将来年金を受け取るときの対象期間としてカウントされるため、決して放置せず、市区町村の窓口で申請することが大切です。
一人親方の保険未加入のリスク
一人親方として保険に加入していない場合にはさまざまなリスクがあります。以下に代表的な例を紹介します。
ケガや病気による収入減
労災保険や健康保険に加入していない場合、仕事中やプライベートで負った怪我や病気に対して、公的な補償を受けることができません。
たとえば、現場で転倒して骨折し、2か月間仕事ができなくなったとします。この間に収入が途絶えてしまっても、労災保険に加入をしていなければ療養費や休業補償が受けられないため、自力で治療費や生活費をまかなう必要があります。
手術や入院をともなうようなケースでは、数十万円から百万円を超える負担になることもあります。
老後の備えができない
国民年金に未加入、または長期間未納のままだと、将来65歳になっても老齢基礎年金を受け取れない可能性があります。
国民年金は、保険料の納付期間が10年以上なければ原則として受給資格がありません。また、納付額に応じて受給額が変動するため、未納や免除が多いと年金額が大きく減ってしまいます。
老後に仕事ができなくなったとき、年金がない・少ないという状況は、経済的な不安につながりかねません。
元請けから仕事を断られることも
建設現場では、「労災保険の加入証明書」の提出が求められるケースが一般的になっています。
特に元請け企業では、安全管理体制の一環として、一人親方にも労災保険への加入を求めるのが当たり前になりつつあります。
未加入のままだと、「保険に入っていない方には仕事をお願いできません」と断られてしまうこともあり、結果的に収入機会が減ってしまうことにもつながります。
家族にも影響が及ぶ可能性
一人親方が働けなくなった場合、その影響は本人だけではなく、家族にも及びます。
たとえば、医療費がかさんで生活費が不足したり、年金が受け取れず老後に子どもに負担をかけたりするケースも考えられます。
遺族年金などの制度も、国民年金保険料を納付していないと受給対象外になります。将来にわたって家族を守るためにも、保険の加入は大切な備えとなります。
一人親方でも必要な保険に加入しよう
建設現場で働く一人親方にとって、保険への加入は「万が一に備える」だけでなく、「安定して仕事を続けるため」にも大切なことです。
仕事中のケガや事故、病気、老後の生活といった、誰にでも起こり得るリスクに備えるには、公的な保険制度をうまく利用することが第一歩です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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