- 作成日 : 2025年12月2日
建設工事の建設業法違反とは?契約書なし(未契約)での着工の罰則や違反事例を解説
建設工事を発注する際、「契約書を交わさずに着工する」「口約束で追加工事を依頼する」といった行為は、建設業法における重大な違反にあたる可能性があります。これらの違反は、建設業者だけでなく、発注者にとっても深刻なトラブルの原因となります。
この記事では、建設業の専門家として、どのような行為が建設業法の違反となるのか、契約書なしで着工した場合の罰則、そして発注者が知っておくべきリスクについて分かりやすく解説します。
目次
そもそも建設業法が定める「請負工事」とは何か?
当事者の一方(建設業者)が、ある仕事(建設工事)の完成を約束し、相手方(発注者)がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを内容とする契約に基づく工事のことです。
建設業法でいう「建設工事」とは、土木一式工事や建築一式工事をはじめとする全29業種の工事を指します。この法律は、単に資材を納入するだけの物品販売契約や、測量・設計といった業務委託契約は対象とせず、あくまで「工事を完成させること」を目的とした請負契約に適用されるのが特徴です。
なぜ契約書なし(未契約)での着工は違反となるか?
建設業法第19条で、工事の規模や金額にかかわらず、すべての建設工事において書面(電磁的記録によるものを含みます)による契約締結が厳格に義務付けられているためです。
建設工事は、完成までに長期間を要し、多くの関係者が関わる複雑な取引です。そのため、口約束による「言った・言わない」のトラブル(追加費用の発生、工期の遅延、品質問題など)を防ぎ、当事者双方の権利と義務を明確にする目的で、法律によって書面契約が義務化されています。
工事請負契約書が「必要ない場合」は存在するのか?
建設業法上、契約書が必要ない建設工事は存在しません。よく「500万円未満の軽微な工事なら不要」と誤解されがちですが、これは「建設業の許可がなくても請け負える工事」の基準であり、契約書作成の義務とは全く関係ありません。たとえ数万円の小規模な修繕工事であっても、法律上は書面での契約が必要です。
契約書には何を記載する必要があるか?
工事内容、請負代金、工期など、建設業法第19条第1項で定められた16の項目を記載する必要があります。
これらの項目が一つでも欠けていると、法律の要件を満たした正式な契約書とは認められず、建設業法違反となる可能性があります。
建設工事請負契約書 必須記載事項一覧
- 工事内容
- 請負代金の額
- 工事着手の時期及び工事完成の時期
- 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
- 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
- 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
- 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
- 価格等の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
- 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
- 発注者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
- 発注者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
- 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
- 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任(契約不適合責任)又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
- 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
- 契約に関する紛争の解決方法
- その他国土交通省令で定める事項
どのような行為が建設業法違反にあたるか?(違反事例)
契約書を交わさない「未契約着工」のほか、不当に低い請負代金での契約や、一方的な追加工事の要求などが典型的な違反事例として挙げられます。
- 契約書を交わさない・記載事項の不備:
最も多く、最も基本的な違反です。口約束や、必須事項が抜けた簡単な注文書・請書だけで工事を始める行為が該当します。 - 不当に低い請負代金の強要:
元請負人がその優越的な地位を利用して、通常の工事価格より著しく低い金額で下請負人に契約を強いる行為です。 - 一方的な追加工事・やり直しの要求:
発注者が、契約書に基づかない追加工事や仕様変更を、書面による合意なく一方的に指示する行為です。これにより生じた費用の負担を巡り、深刻なトラブルに発展することが少なくありません。 - 不当な工期の押し付け:
建設業者が適正な見積もりを行うために必要な期間を与えずに契約を急がせたり、明らかに無理のある短い工期を設定したりする行為も、公正な取引を阻害する違反行為と見なされます。
請負契約に違反した場合の罰則は?
建設業法違反として、指示処分や1年以内の営業停止、建設業許可の取消しといった重い行政処分が科される可能性があります。
行政処分
国土交通大臣や都道府県知事は、法令に違反した建設業者に対して、まず是正を求める「指示処分」を行います。これに従わない場合や、違反が悪質である場合には、「営業停止命令」や、最も重い処分として「建設業許可の取消し」が行われることがあります。これらは建設業者の事業継続そのものを揺るがす、極めて厳しい罰則です。
罰則
第19条違反そのものに直接的な罰金規定はありませんが、営業停止命令等の処分に違反して営業を続けた場合などには、懲役や罰金といった刑事罰が科されます。
発注者として注意すべき点は何か?
安易な口約束を避け、必ず法律の要件を満たした契約書を締結すること、そして建設業者に不当な要求をしないという、コンプライアンス意識を持つことが重要です。
建設業法は、建設業者を規制するだけでなく、発注者の行動も規律しています。契約書を交わさずに工事を進めることは、建設業者を法令違反の状態に置くと同時に、発注者自身を「追加費用」「工期遅延」「品質問題」といった大きなリスクに晒す行為です。
公正な取引関係を築くことが、結果として工事の品質を確保し、トラブルを未然に防ぐ最も確実な方法といえるでしょう。
適正な請負契約が、双方のリスクを防ぐ
本記事では、建設業法における請負契約違反、特に契約書なしでの着工がもたらすリスクや罰則について解説しました。
建設工事の請負契約を書面で交わすことは、法律上の義務であると同時に、発注者と受注者双方を予期せぬトラブルから守るための最も確実な手段です。口約束に頼らず、建設業法第19条の規定を満たした正式な契約書を締結することが、建設会社との良好なパートナーシップを築き、安心して工事を進めるための第一歩といえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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