• 作成日 : 2025年12月2日

建設業法の「500万円の壁」とは?許可不要の工事、分割契約の違法性や抜け道のリスクまで解説

建設工事を発注する際によく耳にする「500万円」という金額。これは、建設業法において、建設業の許可を持つ業者でなければ請け負うことができない工事と、許可がなくても請け負える「軽微な建設工事」とを分ける、非常に重要な基準額です。

この記事では、建設業の専門家として、この「500万円の壁」の正しい考え方、契約を分割する「抜け道」がなぜ違法なのか、そして500万円未満の工事でも守るべきルールについて、発注者の皆様が知っておくべきポイントを分かりやすく解説します。

そもそも建設業法が定める「500万円」とは何か?

建設業の許可を持っていなくても請け負うことができる「軽微な建設工事」の上限金額です。(建設業法 第3条)

建設業法では、建設工事の品質確保や発注者の保護のため、一定規模以上の工事を請け負うには、都道府県知事や国土交通大臣から「建設業許可」を受けることを義務付けています。しかし、比較的小規模で、技術的にも簡易と考えられる工事については、許可がなくても請け負える例外が設けられており、その基準となるのが「500万円」という金額なのです。

「軽微な建設工事」の具体的な基準

  • 建築一式工事以外の場合:
    1件の工事の請負代金が500万円未満(消費税込)の工事。
  • 建築一式工事の場合:
    以下のいずれかに該当する工事。

    1. 1件の請負代金が1,500万円未満(消費税込)の工事。
    2. 請負代金にかかわらず、延べ面積が150㎡未満の木造住宅工事。

出典:建設業の許可とは|国土交通省

「500万円」の金額はどのように計算されるか?

消費税込みの金額で判断し、発注者が提供する材料費も含まれます。この金額の計算方法を誤ると、意図せず法令違反となる可能性があるため、注意が必要です。

消費税は含まれるか?

含まれます。例えば、契約金額が税抜490万円であっても、消費税(10%)を加えると539万円となり、500万円を超えるため、建設業許可が必要な工事となります。

材料費は含まれるか?

工事代金に含まれる材料費はもちろん、発注者が別途購入して建設業者に提供する材料(無償支給材)がある場合、その材料の市場価格や運送費なども請負代金の額に含めて計算する必要があります。

契約を500万円未満に分割する「抜け道」は許されるか?

建設業許可を逃れる目的で、本来一つの工事であるものを意図的に複数に分割して契約することは、法律で明確に禁止されており、罰則の対象となります。

「500万円を超えそうだから、300万円と250万円の2本の契約に分けよう」といった行為は、典型的な脱法行為です。これは、無許可業者による施工を防ぎ、工事の品質と安全を確保するという法の趣旨に反するため、厳しく禁じられています。

「正当な理由」がある分割とは?

工事の種類が全く異なる場合(例:塗装工事と電気設備工事)や、工期や工区が明確に分かれており、それぞれの工事が独立していると客観的に認められる場合などです。発注者側の予算の都合や、単に手続きを簡略化したいといった理由は「正当な理由」には該当しません。

違反した場合の罰則

この規定に違反した建設業者は、建設業法第47条に基づき、100万円以下の罰金に処せられる可能性があります。また、発注者側も、脱法行為に加担したとしてコンプライアンス上の責任を問われるリスクがあります。

500万円未満の工事でも守るべきルールはあるか?

建設業許可が不要な工事であっても、主任技術者の配置や書面による契約締結など、建設業法の多くの規定は遵守する義務があります。

許可が不要だからといって、建設業法のすべてのルールが免除されるわけではありません。

主任技術者の配置義務

金額の多寡にかかわらず、すべての建設工事現場には、その工事の技術上の管理を行う「主任技術者」を配置しなければなりません。(建設業法 第26条)

契約書の作成義務

建設業法第19条に基づき、工事の大小にかかわらず、必ず書面で契約を締結する義務があります。口約束での契約は認められていません。

施工体制台帳の作成義務は?

施工体制台帳は、元請業者が下請契約を結んだ場合に作成する書類です。公共工事以外では、下請契約の総額が5,000万円(建築一式の場合は8,000万円)以上の場合に作成義務が発生するため、500万円未満の工事で直ちに必要となるケースは少ないです。

他の金額基準(5,000万円など)との違いは?

「500万円」が許可の要否を判断する基準であるのに対し、「5,000万円」などは、許可業者が請け負える工事規模の上限(一般建設業)や、技術者の専任配置に関わる基準です。

  • 500万円(建築一式は1,500万円):
    建設業許可が「必要か、不要か」を判断する基準。
  • 5,000万円(建築一式は8,000万円):
    発注者から直接請け負う工事で、下請に出す金額がこの額未満の場合に必要となるのが「一般建設業許可」です。この額以上を下請に出す場合は、より上位の「特定建設業許可」が必要となります。

正しい理解が、コンプライアンスと品質確保の鍵

本記事では、建設業法における「500万円」という基準について、その意味や注意点を解説しました。

この「500万円の壁」は、建設業許可の要否を分ける重要なラインです。発注者としても、この基準を正しく理解し、意図的な分割契約といった「抜け道」に頼ることなく、コンプライアンスを遵守した取引を心がけることが重要です。許可が不要な小規模な工事であっても、契約書の締結といった法律上のルールを守ることが、トラブルを防ぎ、工事の品質を確保するための第一歩といえるでしょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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