「決算はもっと早く締めたい。しかし、現実にはなかなか難しい」──属人化、紙文化、部門間の情報の遅延など、経理部門が抱える課題は根深い。
過去、当社にて開催したセミナー「単体10→4営業日、連結13→5営業日へ!“業務見直し”と“仕組み化”で実現した月次&年次決算早期化のリアル」では、当社 執行役員 グループCAOの松岡俊が、月次決算日数を短縮してきた当社経理本部の取り組みを実務目線で語った。本記事ではその要点を振り返る。
株式会社マネーフォワード
執行役員 グループCAO(Chief Accounting Officer) 公認会計士
松岡 俊
1998年ソニー株式会社入社。各種会計業務に従事し、決算早期化、基幹システム、新会計基準対応プロジェクト等に携わる。英国において約5年間にわたる海外勤務経験をもつ。2019年4月より当社参画。『マネーフォワード クラウド』を活用した「月次決算早期化プロジェクト」を立ち上げや、コロナ禍の「完全リモートワークでの決算」など、各種業務改善を実行。中小企業診断士、税理士、ITストラテジスト及び公認会計士試験(2020年登録)に合格。
なぜ日程短縮に取り組むのか
松岡はまず、日程短縮の目的をメンバーに腹落ちさせる重要性を指摘した。「これをなぜやるのか、プロジェクトメンバーに説明できないと、納得感が得られない」という。
最も重要な目的は、経営陣の意思決定サイクルの加速だ。改善前、当社では月末の締めから事業部への実績報告完了まで10営業日ほどを要しており、実績を踏まえた次の打ち手につなげにくいという課題があった(この10営業日は単体決算の締め7営業日に管理会計レポート作成3営業日を加えた日数にあたる)。松岡は財務情報を生鮮食品にたとえ、「日数が経てば経つほど、鮮度が落ちて経営者にとっての価値が無くなってしまう」と説明する。また、大幅な短縮を目指すことは既存プロセスの抜本的な見直しのきっかけにもなるという。
意外な効果として、松岡は残業時間の減少を挙げた。月初は確かに業務負荷は高いが、締めが早まったことで有給取得数も増加し、従業員満足度の向上につながったという。さらに、締めから事業部への報告までの期間が短くなることで、事業部側からの違和感の指摘を早期に受け取れるようになり、ミスの発見・修正にもつながっている。「事業のことは事業サイドが最もよく理解している。経理内部のチェックだけでは限界がある」と松岡は指摘する。
最後に、日程短縮によって付加価値業務に費やせる営業日そのものが増えるという効果も語られた。松岡自身、年間60回超の登壇活動を行っているが、これも日程短縮を実現したからこそ可能になったと振り返った。
生産管理の考え方を経理に応用する
松岡は続いて、日程短縮を「どのように進めるか」に話を移した。着目したのは、経理業務を「財務諸表という“モノ”をつくり上げる製造工程」と捉える視点だ。原材料は各部署から届くデータ、ツールはソフトウェア、完成品は財務諸表──こう見立てると、生産管理で用いられる考え方を応用できる領域が多いという。
ボトルネックの可視化
最初のポイントは、現状のボトルネックを正確に把握することだ。松岡は朝食作りを例に挙げた。目玉焼き(2分)、トースト(5分)、盛り付け(5分)という3つの工程があるとしたら、トーストと盛り付けの工程(いわゆるクリティカルパス)を改善しない限り、全体の所要時間(10分)は短縮できない。目玉焼きの工程が2分から4分に遅れても、あるいは1分に改善しても、トーストと盛り付けに合計10分かかる以上、全体の時間は変わらないというわけだ。

経理業務にも、給与計算、請求書処理、立替経費精算、原価計算など多数のプロセスがあり、それぞれに前後関係が存在する。松岡は「リソースには限りがあるため、全工程をまんべんなく上から順に改善していくのではなく、まず現状をガントチャートなどで可視化し、ボトルネックがどこにあるのかを見極めることが重要だ」と述べる。当社でも、まず現状をガントチャートで可視化して前後関係を明らかにし、どこを改善すれば全体の工程短縮につながるのかを確認したうえで、1つずつ改善を進めていったという。
ECRSの4原則を順に検討する
続いて紹介したのが、生産管理で用いられる改善フレームワーク「ECRS」である。Eliminate(廃止)、Combine(結合)、Rearrange(再編成)、Simplify(簡素化)の順に、効果の高いものから検討していくという考え方だ。

Eliminate(廃止)について、松岡は「業務自体を廃止できないかを検討するのが最も効果が高い」と説明する。実際には使われていない報告書や、開示への影響が小さい振り替え処理などは、廃止を検討する対象になり得るという。
Combine(結合)の事例として紹介したのは、当社グループにおける会計システムの標準化だ。20数社あるグループ会社の国内経理業務を親会社が受託し、同じシステム(マネーフォワード クラウド会計Plus)・同じ勘定科目コード・同じ標準プロセスで処理している。固定資産の減価償却処理も、専任担当1名が固定資産管理システム(マネーフォワード クラウド固定資産)を使って全社分をまとめて処理する体制に変え、専門特化によって品質とスピードの両方が向上したという。
Rearrange(再編成)の代表例が、部門間のデータ連携の見直しだ。受取請求書処理では、以前は紙の請求書に手書き・押印で承認し、経理が口座番号を含めてすべて手打ちで入力していたが、請求書受領・債務管理システム(マネーフォワード クラウド債務支払)を使い、現場での請求書電子化・電子承認から会計システムへのデータ自動連携までを一本化する形に変えた。

同様に、原価計算は勤怠管理システム(マネーフォワード クラウド勤怠)と連携した原価管理システム(マネーフォワード クラウド個別原価)上でエンジニアが自ら工数を入力する形に、連結決算はグループ各社の会計システム(マネーフォワード クラウド会計Plus)から連結会計システム(マネーフォワード クラウド連結会計)、そして開示システムまでをAPIで一気通貫につなぐ体制に、管理会計は会計システムから管理会計システム(Manageboard)へAPI連携する形に、それぞれ切り替えている。松岡は「単体決算だけを早めても、その先の管理会計・連結会計が別部門の仕事として取り残されれば、全体の効率は上がらない」とし、管理会計・連結会計・開示の要件を見据えて単体プロセスを逆算思考で設計することが日程短縮の鍵になると指摘する。
業務の平準化もRearrange(再編成)の一環だ。銀行預金の照合や株式・外貨の評価など、本来もっと早く着手できる業務を月中や第1営業日に前倒しし、月初に偏っていた業務量の山を崩していったという。この考え方は年度末決算にも適用されており、月次決算でも可能な限り年度末に近い処理を行うことで、年に1回しか発生しない処理が期末に集中する事態を避けているという。
Simplify(簡素化)については、経費精算のルールブックを例に挙げた。正確性や品質を求めるあまり必要以上に複雑になっているケースが多いため、BPO運営チームと毎月点検しながら継続的にシンプル化を進め、請求書・経費の処理スピードを大幅に向上させたという。
当社における日程短縮の実績
各種改善の結果、当社の月次決算は単体7営業日から4営業日へ短縮された。改善前は単体決算の締めに7営業日、続く管理会計レポートの作成に3営業日を要し、事業部への実績報告が完了するまでに合計10営業日ほどかかっていたが、現在は単体決算の締めが4営業日となり、管理会計レポートもほぼ同時(15分程度)に完成する。連結決算も、単体決算が締まった翌日にあたる第5営業日で完了する体制になった。この結果、月末の締めから連結決算完了までの全体の日数は、改善前の13営業日から5営業日へ短縮されている。

松岡は、2023年のインボイス制度導入前の段階で、すでに単体決算の4営業日での締めを実現していたと明かした。ただし当時は締め作業が夜21時頃まで及んでいたという。その後もシステム連携の強化や原価管理システムの導入などの改善を積み重ねた結果、現在は同じ第4営業日でも締め時間が14時にまで早まっている。プロセスの標準化と改善に責任を持つ「プロセスオーナー部」を設置し、専門部署が継続的な改善をリードしている点も特徴だ。

改善の効果は数値にも表れている。2019年当時と比較して残業時間は約65%削減され、経理本部の従業員満足度サーベイのスコアも約40%向上した(5点満点中3.2→4.6まで改善)。全従業員数に対する経理担当者の人数比率も、IT・通信業の平均的なベンチマークである1.7%に対し、当社は2017年頃2.5%とベンチマークより多くの人員を要していたが、現在は0.6%まで下がっている。松岡は「日程短縮によって経理が大変になる、残業が増えるというイメージを持たれがちだが、実際は逆だということが数字からも言える」と述べた。

今後の展望──「第4営業日はゴールではない」
松岡は、日程短縮は一度達成すれば終わりではなく、継続的な改善活動だと繰り返し強調した。クラウドサービスは新機能が次々にリリースされるため、目標を達成した後も貪欲に取り入れ、プロセスを変え続ける姿勢が重要だという。
現在は、連結キャッシュ・フロー表や関係会社間取引の消去など、まだ表計算での作業が残る領域にマネーフォワード クラウド連結会計の新機能を取り入れる対応を進めているほか、有価証券報告書の早期化にも取り組んでいる。金融庁が求める株主総会期日前の早期提出に向け、当社はまず2025年11月期株主総会の1週間前提出、最終的には2〜3週間の前倒しを目指す。従来は表計算で管理していた投資有価証券の台帳を統一フォーマットのデータベース化し、締め後に開示資料が自動生成される仕組みを整備した結果、従来2か月以上を要していた作業が第5営業日には完了する体制になったという。
※編集注:本記事の公開時点において、マネーフォワード クラウド連結会計の新機能を用いた対応は完了しており、連結会計における表計算での作業領域は解消されている。また、有価証券報告書の早期化についても、目標としていた「株主総会1週間前の開示」をすでに達成している。
生成AIの活用も進めている。議事メモ作成、増減分析のコメント自動化、開示資料ドラフトのチェックなどにすでにAIを組み込んでおり、今後は経費承認などの処理そのものにも生成AIを組み込んでいく方針だという。
まとめ
松岡は最後に、3つのポイントを挙げてセミナーを締めた。第一に、日程短縮は経営課題であり、働き方改革にも直結するということ。第二に、その実現の鍵はECRS、そして部門横断でのデータ連携の再編成にあるということ。第三に、早期化は一度きりの取り組みではなく、逆算思考でプロセス全体を継続的に見直す活動だということだ。
「経理部門というとバックオフィスの範囲までと考えられがちだが、この枠を超えた付加価値活動に時間を割くためにも、月初の締め作業を高速化することが何より重要だと考えている」と松岡は語った。日程短縮を単発の目標として終わらせず、逆算思考でプロセス全体を見直し続ける姿勢こそが、意思決定の高速化と経理部門の付加価値向上を同時に実現する鍵になりそうだ。
※本記事は、2025年7月17日に開催されたセミナー「単体10→4営業日、連結13→5営業日へ!“業務見直し”と“仕組み化”で実現した月次&年次決算早期化のリアル」をもとに構成しています。
※掲載している情報は記事更新時点のものです。
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。