経理システム導入の「かんどころ」|連載 #4 経理業務のデジタル化はマスタ設定が鍵

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『経理システム導入の「かんどころ」』は、経理業務のデジタル化をテーマに掲げ、プロジェクト推進のコアとなる考え方や進め方について5回の連載でご紹介します。
本連載は、会計・経理・人事のBPO※1およびコンサルティングサービスを25年以上行っている、CSアカウンティング株式会社 代表取締役の中尾先生にご担当いただきました。

第4回では、システム導入時のマスタ設定の重要性についてお伝えします。マスタ設定を途中で諦めてしまうと、便利なシステムを最大限に活用できなくなってしまいます。具体的な設定ポイントを一緒に確認しながら、自社に適したマスタ設定を進めましょう。

※1:BPOとはビジネス・プロセス・アウトソーシングの略称。業務の一部または業務プロセスの全体を外部委託するアウトソーシング形態を指します。

▼経理システム導入の「かんどころ」シリーズ記事
連載 #1 ゼロベースで理想の経理像を描いてみよう
連載 #2 プロジェクトメンバーが成功を左右する
連載 #3 クリアな目標設定でシステム選定をスムーズに
連載 #4 経理業務のデジタル化はマスタ設定が鍵(本記事)
連載 #5 システムは使いたおそう

システム導入は「マスタ設定」が鍵

システム導入の際、「マスタ設定」がプロジェクトの成否を分けると言っても過言ではありません。

例えば、
・部門データの集計単位を個人にするかどうか、
消費税の集計ミスを防ぐために特定の勘定科目の設定ルールを設ける、
……など、さまざまな設定があります。はじめに適切な設定を行うことで、システム活用時のパフォーマンスが向上します。

他にも、飲食代の申請時、1人1万円以下の場合は交際費から除かれる飲食費に仕訳するルールを設定しておく、といったルール設定も、社員への説明コストと差し戻しの回数を削減でき、業務効率アップにつながります。

これらの設定を漏れなく行うためには、社内で日常的に頻発しているミスを事前に洗い出すことが必要です。本連載コラムの「連載 #2 プロジェクトメンバーが成功を左右する」を参考にしながら、予め業務の詳細を文書化しておきましょう。

逆に言えば、システム導入時にマスタ設定が不十分な場合、せっかくのシステムを使いこなせず余計な作業やミスが増える要因となるということです。企業が実現したいことが明確であれば、おのずと設定方法は決まるはずですから、目標から逆算してシステムを最大限活用できる設定を進めていきましょう。

マスタ設定のチェックポイント

経理・会計システムのマスタ設定のチェックポイントについて、具体例とともにご紹介します。

チェックポイント1:経費と会計システムが異なる場合は勘定科目をあわせる

経費と会計で別々のシステムを使用している場合は、設定時に必ず勘定科目を揃えましょう。勘定科目がずれていると、毎回CSVデータを取り出してから情報を書き換えてインポートさせるなど、その都度作業が発生してしまいます。

せっかく便利なシステムを導入したにも関わらず、連携機能を活用しきれていない企業は少なくありません。コンポーネント型を利用する場合は特に、複数のマスタ設定をあわせることが重要です。

チェックポイント2:プロジェクトの発令番号

プロジェクトの発令番号をもたせる場合も、経費精算と会計と債務、債権などのシステムで番号を統一するようにしましょう。同じ会社名が複数件登録されてしまい、どのマスタ情報が正しいか分からなくなると、結局Excelを併用せざるを得なくなってしまいます。人力で対応するしかありませんが根気よく設定しきることが大切です。

チェックポイント3:処理ミスを減らすための勘定科目設定の工夫

例えば、消費税の処理に関して、慶弔見舞金のお香典を登録する際、いつも誤って課税コードをつけてしまう場合は、あらかじめ慶弔見舞金の科目(補助科目を設定しているケースも多い)を必ず非課税設定しておくと運用時のミスを防げます。ちょっとした勘定科目のマスタ設定を工夫することで、作業の手戻りが減ることも多いです。その都度、経理担当者が修正する手間を減らすためにも、マスタ設定を変更したほうが早いでしょう。

チェックポイント4:債権管理システムの残高設定

債権管理システムは、入金消込専用の機能だけで使うこともできるし、残高を持たせることもできます。また、債権管理システムで残高を持たせているのに会計システムでも補助残高を持たせる場合もあります。会計のマスタを作ってしまうと二重管理になり、無駄が発生するので、導入時に自社の方針を定めておくと良いでしょう。

マスタ設定は経理の実務担当者が対応すると思いますが、設定の途中でお手上げ状態になり、「この業務は今までどおりExcelで対応しよう」と諦めてしまうケースも少なくありません。

設定作業の負担が大きく、大変な気持ちは分かりますが、システム導入前に掲げた目標をもう一度思い出して、最後までマスタ設定をやり抜いていただきたいです。

マスタ設定の際は、積極的に専門家にも相談を

マスタ設定の際は、まずはベンダーに協力を仰いで、設定を完了させるまで辛抱強くやり切ることが重要です。設定に不安があれば、私たちのような外部の専門家に頼っていただいても差し支えありません。私たちは日頃から、複数のシステムを使用してお客様の会計業務をサポートしているので、さまざまなパターンの設定方法を熟知しています。

はじめのうちにベンダーや専門家に相談せず、プロジェクトの佳境になってからいざ蓋を開けてみると、「まったく設定できていない」という悲劇は、残念ながら多いものです。マスタ設定は後から修正するのが大変ですし、設定が不十分なまま使い始めるとシステムの良さを実感できません。

くどいようですが、面倒がらずに、導入タイミングでしっかりと時間を確保していただければと思います。

Excel職人を撲滅しよう

既存システムから情報を引き継ぐ際のデータ加工やデータ連携について、Excelに頼りすぎて工数過多になっていませんか?Excelはとても便利なツールですが、担当者が変わったときに、属人的なExcel加工のスキルを新しい担当者が習得するのは大変です。

また、Excelで設定した計算式や入力したデータが間違っていても、それに気付くのが難しい点は、大きなデメリットといえます。システム導入前にExcelで作成している管理資料等は、システムから出力したデータをうまく活用して、改めて加工作業が発生しないよう留意すると良いでしょう。

後からマスタを変更する想定があるとベター

クラウド型システムは、バージョンアップの頻度が多く、知らないうちにできることが増えている場合が多いものです。導入当初にできなかったことも、「いつの間に……」という感じで、導入後しばらくしてからできるようになっている場合もあるので、バージョンアップ情報を見落とさないようにしましょう。

そのため、最初のマスタ設定が重要と繰り返し伝えしたものの、後からの修正をまったく受け付けない運用方針はおすすめできません。誰でもマスタ変更できる状態も問題ですが、多少なりとも、後から変更する想定をしておくとベターだと思います。

実際、管理会計の充実をさせたい企業が、マスタに「セグメント」や「プロジェクト」などの新たな項目を追加し、目的を達成したケースを目の当たりにしたことがあります。

このように、会社の状況やめざす目的に応じて、柔軟に対応できると理想的でしょう。

スケジュール管理にも意識を向けて

当然ながら、システム導入にいくらでも時間をかけられる企業ばかりではありません。マスタが鍵、多少の余裕が必要、と難しいことを言ってしまいましたが、それはそれとして、全体のタイムスケジュールに合わせて実施しなければ、既存システムと新システムの契約期間が重なってしまい、ダブルコストが発生するリスクもゼロではありません。

システム選定におけるスケジュールは、「連載 #3 クリアな目標設定でシステム選定をスムーズに」でご紹介したとおり、導入準備と選定、導入の3ステップを約6ヶ月程度を目安に進める意識で実践してみましょう。導入とマスタの初期設定をあわせて2ヶ月ほどを目安にしてみてください。

まとめ

システム導入時は設定することが多く、Excelや既存システムからデータを引き継ぐ作業に時間がかかりがちです。システムのマスタ設定が面倒になり、ついExcelで対応したくなる気持ちは痛いほど分かりますが、導入時に設定をしないと運用時に困る場面が増えてしまいます。

せっかく費用をかけてシステムを導入したのであれば、はじめに掲げた目標を思い出して、1つずつ適切なマスタを設定しましょう。1人で悩まずに、分からないことがあれば、ベンダーや私たち専門家にお気軽にご相談いただければと思います。

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