経理システム導入の「かんどころ」|連載 #3 クリアな目標設定でシステム選定をスムーズに

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『経理システム導入の「かんどころ」』は、経理業務のデジタル化をテーマに掲げ、プロジェクト推進のコアとなる考え方や進め方について5回の連載でご紹介します。
本連載は、会計・経理・人事のBPO※1およびコンサルティングサービスを25年以上行っている、CSアカウンティング株式会社 代表取締役の中尾先生にご担当いただきました。

第3回では、会計システム、人事システムなどを選ぶときの流れやコツをお伝えします。システム選定基準やコスト決めに悩む方のご参考になれば幸いです。

※1:BPOとはビジネス・プロセス・アウトソーシングの略称。業務の一部または業務プロセスの全体を外部委託するアウトソーシング形態を指します。

▼経理システム導入の「かんどころ」シリーズ記事
連載 #1 ゼロベースで理想の経理像を描いてみよう
連載 #2 プロジェクトメンバーが成功を左右する
連載 #3 クリアな目標設定でシステム選定をスムーズに(本記事)
連載 #4 経理業務のデジタル化はマスタ設定が鍵
連載 #5 システムは使いたおそう

システム選定で押さえたい基準は「自社の目標が達成できるか?」

いざシステム選定を開始してみると、会計に特化したシステムから人事労務と連携が得意なシステムまで、豊富な選択肢を前に悩んでしまう方も多いと思います。判断基準が多くて困ってしまう場合は、シンプルに連載第1回」で掲げた目標を達成できるかどうかを基準にしてみましょう。

反対にいえば、システム選定の段階であれこれ迷ってしまうということは、プロジェクトスタート時の目標設定があいまいな可能性があると思います。今一度、自社が成し遂げたいことは何か?改善したい課題は何だったのか?を、見つめ直すことをおすすめします。

そもそも目標が決まっていなければ、ただの機能比較になってしまいます。システム導入が目的となり、「ただ機能が多くて1番安ければいい」などと安易に考えてしまうと、本質的な経理のデジタル化は実現できないと思います。

おさえておきたい3つの選定ポイント

自社が掲げた「やりたいこと」が実現できるかどうか、目標達成に近づけるかという基準が最も重要になりますが、併せて考えたい選定時のポイントをご紹介します。

特にバックオフィスに関わるシステムは、法改正対応やコストの考え方が鍵となりますし、経理・会計システムは全社に影響を与えるものです。導入後に慌てないためにも、具体的な選定ポイントを一緒に確認してみましょう。

1.日本の商慣習や法改正対応の有無

システム選定の際は、日本の法律に細やかに対応しているかどうかを確認することが大切です。例えば、近年では電子帳簿保存法インボイス制度の法改正がありましたが、インボイス制度導入時に消費税コードの設定やインボイス判定があるシステムを導入した企業は、法対応がスムーズだったと思います。

今後は、電子インボイスの国際規格であるPeppol(ぺポル)」に対応できるかという視点も重要でしょう。

また、現行の法令に対応しやすい機能が備わっていることはもちろん、法改正が発生したときに、スムーズに新機能を開発してくれるか?という点も大切です。

日本ならではの商慣習の例:
例えば、消費税に関して言うと、コードが多岐にわたることが挙げられます。旧税率、軽減税率、個別対応方式への対応区分、リバースチャージ対応、居住用賃貸建物対応…などなど、消費税に関しては多数の改正に対応が必要で、まずはそれらの柔軟性が鍵になります。合わせて、申告書が自動生成されるかも、業務効率性の観点では重要です。

また、日本ならではの商習慣の一つとして、請求のタイミングを1月単位等にまとめて請求をすることもあげられます。まとめての請求に対応しているかどうか、相手先によっては都度請求に対応しているシステムかといったことも、選定に際しての判断材料となるでしょう。

2.コンポーネント型か統合型か

経理・会計システムは、必要な部門の基盤システムだけを組み合わせていくコンポーネント型ERPと、生産販売・財務会計・人事労務など企業が保有するヒト・モノ・金・情報のすべてをワンシステムで管理する統合型ERPに大別できます。システム選定の際に、コンポーネント型にすべきか、統合型のどちらを選べばいいかと悩む場合もあるでしょう。

「経理のやり方に最適化させる」「人事評価制度もワンシステムで対応したい」などと実務面の使い勝手を優先するなら、コンポーネント型が最適化しやすいと思います。ただし、コンポーネント型はマスタが複数に分かれるため、データの一元管理を実現したい企業であれば、統合型に軍配があがります。

どちらがいい・悪いの話ではなく、ここでも「自社の目標が達成できる」システムを選ぶことが重要です。例えば、経理会計のマスタ情報を更新する際、他のマスタを手作業で更新する工数を削減したい場合は統合型を選ぶことになります。一方、管理会計でプロジェクト単位のデータを取得したいなどとピンポイントで実現したいことがあれば、コンポーネント型が適している場合もあります。他にも、企業規模やグローバル展開の有無によってもケースバイケースです。

「AとBのどちらが優れているか」という基準ではなく、「自社のやりたいことを実現するには、AとBのどちらが適しているか」と考えると良いと思います。

3.連携性・業務効率化

システム選定の際に必ず確認いただきたいのは、システムの連携性です。どのシステムと連携させるかは企業によって異なりますが、人事や会計など、どのシステムと連携が必要なのか、連携方法はデータベース連携なのか、API連携で問題ないかなど、連携の柔軟性について検討しましょう。

業務効率化の観点では、経費精算の際に定期券利用分を自動で除外して計算ができるか、AI-OCR機能で請求書領収書データを読み取れるか、といった基準も挙げられます。

また、画面のデザインや使い勝手もポイントになります。例えばチェックする立場の視点では、添付された領収書や請求書の画像と、明細や仕訳の情報を同じ画面で左右並べて表示できると、領収書の内容と仕訳を同時に確認・編集できるため、直感的な操作が可能です。このような視認性を高めたインターフェースも作業効率化の観点では重要です。

プロジェクトの最初に掲げた目標が、例えば「経費担当者の業務工数を10%削減する」だとしたら、これらの細かい機能も考慮すべき項目になるはずです。

システム選定時の「コスト」の考え方

システム選定の際、法対応やシステム連携の柔軟性に加えて、どのくらいの費用を投資すべきか悩む方も多いと思います。システム選定時の「コスト」の考え方について、いくつかアドバイスをしたいと思います。

費用対効果の仮説を立ててみよう

システム導入プロジェクトで予算を調整するときは、導入効果について仮説を立ててみましょう。例えば、Excelで作成した請求書を印刷して、押印と確認の後に封入作業をしている企業であれば、その業務にかかっている時間を計測します。仮に、100万円相当の時間数を削減できるなら、システム導入に100万円かけても良さそうだと判断ができます。

費用対効果の計算をせずに、「他社では会計システムにいくらかかっているそうだ」「このプランが1番売れているようだ」などと、他者軸でコストを決めてしまうと費用対効果は得られません。自社にとって、どのくらいの費用対効果があるかを、実態を見ながら計算をして、見積もりをとるとスムーズだと思います。

バックオフィスは売上に直結しない部門だからこそ、封入作業の時間や郵送代など細かい数値も計算することで、投資すべきコストを決めやすくなります。また、システムのダブりや、作業の重複なども費用対効果の計算対象に入れると良いでしょう。

成長や変化への備えも忘れずに

システム選定時のコストの考え方について、もう1つポイントになるのが、企業成長や変化への備えです。導入時の社員数で計算したうえで、数年後に社員数が増えた場合の費用も計算しておきましょう。社員数が増減した際、会社の社員数でカウントするのか、それとも実際にシステムを利用した人数でカウントするのかによって、かかる費用が変動します。そのため、先々の企業成長や変動要素まで加味して、想定コストを計算しておくと安心です。

また、導入後に万が一システムを入れ替えたいときに、予想外にスイッチングコストがかかる場合もあります。そのため、電子帳簿保存法の対応で保管してきた資料等は新システムにどのように移行するのか?など、細かい点も確認しておけると安心です。

このように、目先の導入費用だけでなく、先々かかる可能性のあるコストにも目を向けて、全体のバランスを考慮しながら決めるのが理想です。

システム選定のスケジュールは6ヶ月が目安

システム選定におけるスケジュールは、導入準備、選定、導入の3ステップを約6ヶ月で進めるのが1つの目安です。目標設定と業務の文書化に1~2ヶ月、システム選定に2ヶ月、導入と初期設定に2ヶ月程度だと、中だるみせずに進められると思います。

ありがちな失敗としては、既存システムの更新期限や契約期限に間に合わず、新システムと二重で費用負担が発生するケースです。多くの場合、既存システムの保守切れや契約更新タイミングに合わせて、新システムを導入することになるため、更新・解約タイミングから逆算してスケジューリングを行いましょう。

とはいえ、極端にスケジュールに余裕を持たせると、間延びしてプロジェクトがしまらなくなってしまいます。これらを考慮すると、個人的には6ヶ月程度がちょうど良いと考えています。

機能選定で迷ったときは「目標設定」に何度も立ち返ろう

システムの機能比較をしていると、ついつい「あれもこれも」となってしまいがちです。非常に優れた経理・会計システムが多いがゆえ、便利な機能が日々生まれており、選定する側も迷ってしまいます。

そこで、忘れてはならないのは「自社が実現したいことは何か?」が、1番大事ということです。たくさんカスタマイズしたい、あの機能もこの機能も外せないと欲張らずに、自社が絶対に成し遂げたい目標から逆算して、冷静に機能選びを行いましょう。

一見便利そうな機能でも、管理が難しかったり、入力が手間で使わなくなったりするものです。収拾がつかなくなったときは、何度でも、最初の目標設定に立ち返ることをおすすめします。

自社の目標と先々の変化に適応できるシステムを

経理・会計システムの種類は多く、便利な機能が日々開発されています。目標を決めずに表面上の機能比較をしたり、導入時点の企業状態だけを見て選定したりすると、後から困ってしまうかもしれません。

機能や目先のコストにまどわされず、常に「自社の目標が実現できるかどうか」という基準で、システム選びを進めるのが大切です。また、企業が成長して変化し続けることを考慮して、先々にかかるコストも加味しながら選定を進めると安心でしょう。

迷ったときは何度でも、はじめの目標設定に立ち返り、自社の基準をもとにシステム選定に取り組んでいただければと思います。

▼経理システム導入の「かんどころ」シリーズ記事
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連載 #3 クリアな目標設定でシステム選定をスムーズに(本記事)
連載 #4 経理業務のデジタル化はマスタ設定が鍵
連載 #5 システムは使いたおそう

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