
『経理システム導入の「かんどころ」』は、経理業務のデジタル化をテーマに掲げ、プロジェクト推進のコアとなる考え方や進め方について5回の連載でご紹介します。
本連載は、会計・経理・人事のBPO※1およびコンサルティングサービスを25年以上行っている、CSアカウンティング株式会社 代表取締役の中尾先生にご担当いただきました。
第1回では、日ごろCSアカウンティング株式会社に寄せられる経理・会計部門のよくある悩みをご紹介しつつ、経理業務のデジタル化の「はじめの一歩」の踏み出し方を解説します。本記事が皆さまの業務改善やデジタル化のきっかけになれば幸いです。
※1:BPOとはビジネス・プロセス・アウトソーシングの略称。業務の一部または業務プロセスの全体を外部委託するアウトソーシング形態を指します。
▼経理システム導入の「かんどころ」シリーズ記事
連載 #1 ゼロベースで理想の経理像を描いてみよう(本記事)
連載 #2 プロジェクトメンバーが成功を左右する
連載 #3 クリアな目標設定でシステム選定をスムーズに
連載 #4 経理業務のデジタル化はマスタ設定が鍵
連載 #5 システムは使いたおそう
目次
経理・会計のよくある悩み
会計・経理・人事のアウトソーシングを行っている当社には、日ごろ次のような相談が寄せられます。
「経理担当者が退職したため、業務のやり方がわからなくなりました。急ぎでアウトソーシングを依頼できますか?」
「経理業務を効率化したいのですが、アドバイスをいただけますか?」
経理や会計などのバックオフィスは “人” に依存しやすく、業務の詳細を把握できていない企業は少なくありません。「経理部門の部長になったが部下の仕事が分からない」「経理担当者に任せきりで業務に口出しができない」など、お悩みの方もいらっしゃると思います。
これらの相談に加えて、上場など成長を目指す課程でアウトソーシングに関心を持つ企業や、社内DXプロジェクトがきっかけで、システム投資やBPOのご相談に来られる企業もいらっしゃいます。企業成長のために積極的な企業の場合でも、バックオフィスの現状をヒアリングしていくと似たような課題にぶつかるケースは非常に多いです。
人に依存しすぎるリスク
経理業務が属人的になり、ブラックボックス化してしまうと、さまざまな問題が出てきます。例えば、担当者が休みづらくなったり、業務が偏ってしまったりするのが典型例です。経理や人事などバックオフィス人材は欠員補充も難しいため、担当者が辞めてしまうと企業に与えるインパクトも大きいでしょう。担当者の不在時に慌てないためにも、本来は「人に仕事がつく」状態を避けるべきです。
他にも、業務を担当者まかせにすることで、業務の標準化が難しくなる場合があります。属人化すると業務の進め方が正しいかどうか、業務効率の良し悪しの判断ができないためです。
業務の質を判断する術がないと周りが口出しできなくなり、業務改善を促しづらくなります。完全なるブラックボックス化という課題です。
内部統制の観点でも問題あり
担当者の頭の中に情報がブラックボックス化していると、引継ぎの際にも不便です。仮に、前任が“Excel職人”であれば、引継ぎ時に無数のExcelファイルが負の遺産として残されることもしばしば。残された人たちはお手上げ状態でしょう。
さらに、経理や会計業務を人に依存しすぎる組織体制では、不正リスクも付きまといます。担当者が企業のお金を着服してしまった事件では、業務が属人化していたケースが多いようです。これらの懸念点を考慮すると、経理・会計業務のデジタル化は重要なテーマといえるでしょう。
課題は明確でも「変化すること」は難しい
課題に気付いていても、人が変化することは非常に難しいものです。システムだけで完結する業務を、あえて紙やExcel作業で行っているケースも多く見られます。
例えば、業務効率のご相談を受けた際に、システム連携や活用方法をお伝えすると、「やり方は知ってるんですけどね……」と、言葉を濁す方もいらっしゃいます。
特定の人に業務を任せっぱなしだったり、Excel職人になりすぎたりするのはよくないと気付いていても、実際の現場は忙しくて時間がないのです。システムにマスタ設定をすることは面倒ですし、日常業務に追われて余裕がないと変化したくても難しい現実があるのだと思います。
中には、担当者まかせにしているため業務効率の良し悪しを測る基準がなく、自社の本質的な課題に気付いていない企業もいらっしゃいます。あるいは、多少の残業をすれば、どうにか業務がこなせるため、あえて変化を避けている方もいるようです。
はじめの一歩は「ゼロベースで理想を描くこと」
人間は変化を嫌うものですが、前に進むためには、まずゼロベースで理想の状態を描いてみることをおすすめします。例えば、今から新しい会社を作るとしたら、皆さんはどんな経理・会計システムを導入しますか? 理想の業務フローや人員体制について、まっさらな状態で一度書き出してみてください。
現状の体制を考慮しなくていいなら、いっそのこと「小口現金をなくして完全にキャッシュレスにしたい」「Excelを使わず会計システム上で業務を完結させたい」といった意見が出るのではないでしょうか。
このように、一度理想の状態を出し切ってから、改めて会社の現状と照らし合わせることで、おのずと取り組むべき方向性が見えてくると思います。
反対に、会社の現状ありきで目標を立てようとすると、「小口現金をなくしたいけど、営業部から文句言われそうだし無理だよね」「Excelをなくしたいけど、部長がExcelなしでは業務ができないって言いそうだよね」などと、諦めモードになりがちです。
会社ごとの事情があれど、ゼロベースで理想を思い浮かべることで、本来目指すべき方向を定めやすいと思います。
理想と現実のギャップから目標を立てる
ゼロベースで思い浮かべた理想と現実を見比べると、いくつか課題が見えてきます。次のステップでは、課題を1つずつ棚卸しして、優先順位を決めていきましょう。
例えば、残業が多い、業務が属人的になっている、上司が業務内容を把握できていない、帳票が一元管理できていないなど、各課題があると思います。その中で、自社はどの課題を中心に取り組むべきかを考えて、目標設定を行いましょう。
目標設定の際は、経理業務の効率化、コスト削減、経営の可視化など、さまざまな切り口が考えられます。これらは理想の状態を描くことで、より具体化しやすくなると思います。
はじめの一歩はシンプル、だけど難しい
経理業務のデジタル化を進めるために、とるべきアクションを整理すると次のようになります。
ステップ1:ゼロベースで理想を描いて、現状との差分(課題)を把握する
ステップ2:課題を文書化して明確にしながら優先順位をつける
ステップ3:自社が実現したいテーマを選び、目標設定を行う
やるべきことをステップにすると、そこまで複雑ではありませんが、実際にやると骨の折れる作業です。
何事もはじめの一歩を踏み出すのは難しいものだと思います。少しでも皆さんが前に進みやすくなるために、最後にいくつかポイントをお伝えしたいと思います。
手段と目的は分けて考えよう
ご相談内容を深掘りしていくと、目標や目的があいまいで「トップから経理業務のデジタル化を進めるように言われたから」「バックオフィスをアウトソーシングするように上に言われたから」などとお話する方もいらっしゃいます。これでは、デジタル化やアウトソーシングの手段が目的になってしまうため、非常に危うい状態です。
具体的な中身が伴わないまま物事を進めても効果を得られません。まずは、今回ご紹介したようにゼロベースで「ありたい姿」を思い浮かべてから、改めて目標設定をしてみましょう。
目標と期限はセットで定めよう
せっかく目標を定めても、期限が決まっていなければ、いずれ日常業務に忙殺されてプロジェクトが停滞してしまいます。また、目標を定めなければ、現場の意見を聞くうちにあれもこれもと要件が追加されて、当初の目標から道がそれてしまうでしょう。
経理業務のデジタル化に取り組むなら、目標と期限はセットで定めるのが大切です。当たり前のことですが、案外はじめが適当だったために、システム選定や導入で苦労されるケースも多いです。なお、はじめに掲げた目標を定期的に振り返る期日も、決めておくと後々スムーズだと思います。
目標は言語化して合意形成をとろう
目標を定める際は、きちんと言語化して合意形成をとることも大切です。プロジェクトリーダーだけでなく、全社で課題認識をあわせるためにも言語化(文書化)は重要だと考えています。
業務時間削減をめざすのか、電子帳簿保存法など法改正対応のためなのか、あるいは経理ミスを減らすためにプロジェクトを立ち上げるのか、動機は企業によってさまざまです。どんな動機であっても、「何のためにやるのか」について言葉で定義しておかないと、目標が定まらず、後から道がそれてしまうでしょう。社内のコンセンサスをとるためにも、明確に目標を言語化することが必要です。
まとめ
今回は、経理業務のデジタル化のはじめの一歩として、企業のよくある悩みと危険性についてお話しました。日常業務に追われる中で、いつものやり方を変えるのは簡単なことではありません。何から手を付けたらいいか分からない場合は、まず「ゼロベースで理想を考える」ことからはじめてみませんか?
連載第2回では、経理業務のデジタル化のプロジェクト開始時によくある悩みに焦点を当てて、メンバー選定の大切さや準備すべき内容をお伝えします。ぜひこちらから続きをご覧ください。
▼経理システム導入の「かんどころ」シリーズ記事
連載 #1 ゼロベースで理想の経理像を描いてみよう(本記事)
連載 #2 プロジェクトメンバーが成功を左右する
連載 #3 クリアな目標設定でシステム選定をスムーズに
連載 #4 経理業務のデジタル化はマスタ設定が鍵
連載 #5 システムは使いたおそう
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