【前編】判断に迷う仕訳を起こせる会計術著者・山岡信一郎先生直伝!新人経理の仕事をバージョンアップするための5カ条プラス1

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会社の活動を数字で記録する経理の仕事。管理業務がメインになるためルーティンワークが多く、時に「自分の仕事は何の役に立っているのだろう」とモヤモヤしてしまうこともあるでしょう。それが新人ともなれば、なおのこと。

しかし、視点を変えれば経理の仕事は奥深く、やりがいに溢れているもの――そう語るのは、『判断に迷う仕訳を起こせる会計術』などの著者で知られ、経理実務にも精通している会計士の山岡信一郎先生です。

今回は、山岡先生の書籍をバイブルとして仰ぐマネーフォワード財務経理本部(取材当時)の杉浦が聞き手となり、山岡先生が考える経理業務の心得を教えてもらいました。「新人経理の仕事をバージョンアップするための5カ条プラス1」として、前・後編にわたりお届けします。

取材協力:
取材ご協力:公認会計士 山岡 信一郎氏公認会計士/株式会社ヴェリタス・アカウンティング 代表取締役社長/イー・ギャランティ株式会社 社外監査役/プロネクサス総合研究所 ディスクロージャー基本問題研究会委員。1993年慶應義塾大学経済学部卒業。94年、監査法人ト―マツ(現有限責任監査法人ト―マツ)入所、上場企業各社の財務諸表監査をはじめ、株式公開支援業務、デュー・デリジェンス、不正調査、内部統制構築支援業務等に従事。2007年より現職。企業会計全般、内部統制・内部監査、IFRSなどを中心に、各社の会計コンサルティングをはじめ社内研修、執筆、講演に活躍中。主著に「『おかしな数字』をパッと見抜く会計術」「判断に迷う仕訳を起こせる会計術」「決算書の前期比較術」(いずれも清文社)、他「旬刊経理情報」(中央経済社)等専門誌への論文多数。

1.ルーティンワークから一歩踏み込むと、経理の面白さが見えてくる

杉浦:まず山岡先生に伺いたいのは、経理の仕事におけるモチベーションの問題です。特に新人の場合、日々のルーティンワークに意味を見出せず、やりがいを見失いそうになるケースもあるようです。

山岡先生(以下、山岡):経理の仕事は「いかに正しい情報を上手に集められるか」そして「その情報を正しく処理するか」が求められます。これらの業務は、どうしてもルーティンワークに従って行われることが多くなりますよね。

しかし、そこでつまらないなと思わずに、どんな業務がルーティンワークに該当するのかを考えて、「業務を楽に進めるにはどんな方法があるだろう?」と考えてもらいたいです。そうすると、選択肢として機械化やシステム化が浮上してくるなど効率化の余地が出てきます。ルーティンワークのうち機械やシステムに移行できるものはどんどん移行して、人間にしかできない経理の仕事に注力することができれば、きっとやりがいを感じられるはずだと思っているんです。

杉浦:私もルーティンワークが嫌いで、効率化ばかり考えていたタイプです。マネーフォワードのサービスも、人手を要する工数を減らすことを目指して作られていますが、さまざまなサービスや機能が拡充されている昨今、採用しない手はないですよね。

山岡:そう思います。ただ、一方で、機械やシステムに任せていい業務なのかどうかを選別することも肝心です。「便利そうだから」と何でもかんでも自動化しようとして、理由が曖昧なまま採用してしまうと後々問題になります。

2.「数字の背景にある意図」を知る

杉浦:安直な機械化、システム化によって、経理の仕事においてはどのような問題が生じるでしょうか?

山岡:経理には判断が必要な業務がたくさんあります。たとえば、機械装置を購入したとしましょう。この時、請求書領収書などといった社外資料だけで、ただ「機械装置」として仕訳を起こすだけでよいと思いますか。その機械装置が「何に使われるか」の情報も考えないと正しい仕訳は起こせませんよね。販売目的で購入すれば「棚卸資産」、社内利用目的であれば有形固定資産の「機械装置」、研究開発目的であれば、「研究開発費」として処理しないといけませんから。

杉浦:客観的な事実だけでは仕訳は決まらない、意図を知ることが大事だ、ということですね。

山岡:その通りです。経理業務においては、どのような目的で購入したのかを正確に把握するべき場面がたくさんあります。そして、仕訳を起こす際に購入の目的や意図を正確に把握することが必要であると判断できるのは人間だけです。もしこれらの作業をシステムなどに委ねるとなると、そのシステムは事実(数字)と勘定科目を自動で結びついて会計処理します。それ自体はとても効率的で素晴らしいことなのですが、システムは意図までは汲み取れません。

杉浦:人間にしかできないことを考えるのは、簡単なようで難しい気もします。

山岡:最初から判断しようとすると難しいですよね。ですので、まずはひたすら経理全般の仕事をすることです。そうすると、徐々に人間にしかできないことが見えてくるので、それから選別を進めればいいと思います。

3.経理を極めて「経営」を体感する

杉浦:経理業務の負担を軽減する便利な機能が続々とアップデートされていますが、どんなに機能が進化しても、結局は人間による作業が必要ですよね。私は、経理のスペシャリストになれば、会社にとって必要不可欠な人材になれると思っています。

山岡:経理を極めると、会社に必要な人間かどうかという意識レベルにとどまらず、自分自身が経営者、つまり会社をコントロールする立場になった感覚が得られます。いま会社で起きていることについて、情報を数値化して集める仕事が経理です。つまり、会社のすべてを見渡せるからこそ、経理の究極は経営者目線の獲得だと言えます。

杉浦:なるほど。ただ単純に受け身で数字を集めているだけでは、職人技は身についても経営者の感覚には近づけないですよね。

山岡:そうですね。「どういう実態を表しているのか」を知ろうとする意識を持ちながら数字と向き合う必要があると思います。たとえば、売上1億円の仕訳を見て、客観的な数字だけ見るのではなく、「こういうものを売っていて、こういう活動をして得られた売上が1億円になった」と理解してはじめて、数字を通して会社全体を把握できると言えます。そうすると経営を意識できるようになるはずです。むしろ、自分が経営したいと思うかもしれません。

杉浦:経営者にも、アイデアとイノベーションだけではなく、経理のベース、つまりは簿記の知識が必要だということですね。

山岡:簿記は「ビジネスの言葉」だと言われます。複式簿記は世界共通言語ですからね。ビジネスパーソンとして、簿記を知らずしてビジネスができるのかということです。

杉浦:世の中には会計に詳しく、重要視している社長もいらっしゃいますが、彼らは現場がすごくよく見えているなと感じます。海外だと経理や財務系出身の社長が多い気がします。

山岡:もちろん、経営に必要なのは経理の知識や経験だけでないですが、少なくとも数字を把握できていれば、会社全体が見えやすくなると思います。ですから経理の仕事では、常に「いま会社で何が起こっているのか」を見に行く姿勢が重要だと思います。

杉浦:私も事業部の方や営業のもとへ話を聞きにいくように心掛けています。ただ、毎日の業務や月次決算に追われると、なかなか思うように現場を見に行けないな、と。

山岡:そうですね。ただ、時間があるときは現場に行ってもらいたいです。棚卸しの立会いに積極的に参加するようにして、どのような在庫があるのか、現場で何が起こっているのか、といった点を把握しましょう。情報や数字を漫然と待っているだけの経理も少なくありませんが、数字の情報は現場から上がってくるものだけなのか、実際に現場に出向いて確かめてほしいです。

場合によっては、社長にも情報のヒアリングが必要かもしれません。ただ、そうしたことの積み重ねによって、会社のビジョンや経済活動を深く理解できるので、きっと仕事が面白くなってくるはずです。パソコンに向かって数字を打ちこんでいるだけでは、本質的な意味での経理の仕事は務まらないと思います。

<前編のまとめ>
1.ルーティンワークから一歩踏み込むと、経理の面白さが見えてくる
2.「数字の背景にある意図」を知る
3.経理を極めて「経営」を体感する

新人経理の仕事をバージョンアップする5カ条、うち3カ条をお届けしました。後編では引き続き、残りの2カ条についてお届けします。また、インタビューの最後に、山岡先生が見てきた「優秀な経理」の共通点についてもお聞きしました。

<後編はこちら:【後編】カリスマ著者・山岡信一郎先生直伝!新人経理の仕事をバージョンアップするための5カ条プラス1

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