- 更新日 : 2025年9月24日
不動産屋は一人で開業できる?成功させるポイントや流れを紹介
自分の力で挑戦できる「一人での不動産開業」に、大きな可能性を感じていませんか。会社員時代のしがらみなく、自由な働き方ができるのは大きな魅力です。しかし、営業から経理、総務まで全てを一人でこなすには、特有の難しさも存在します。この記事では、一人で不動産屋を開業する現実的なメリット・デメリットから、失敗を避けるための具体的な準備まで、専門家が丁寧に解説します。
目次
不動産屋は一人でも開業できる
結論から言えば、不動産屋は一人でも開業できます。ただし、そのためにはクリアすべき必須の条件があります。
一人開業に必須の条件
一人で不動産屋を開業する場合、代表者自身が「宅地建物取引士(宅建士)」の資格を保有している必要があります。
宅地建物取引業法第31条の3では、事務所ごとに「業務に従事する者」5名につき1名以上の「専任の宅建士」を置くことが定められています。
この人数には社長や役員、パートタイムの従業員も含まれます。一人開業の場合は、自分自身がその唯一の専任の宅建士となるため、資格が不可欠なのです。
一人開業での法人と個人事業主
経営形態は、「法人」と「個人事業主」のどちらかを選択します。個人事業主は、税務署に開業届を出すだけで始められ、設立費用もほとんどかからない手軽さが魅力です。しかし、事業の責任を全て個人で負うためリスクは高くなります。
一方、法人は設立費用がかかりますが、社会的な信用度が高く、金融機関からの融資などで有利になるのが大きなメリットです。
また、税金の面でも違いがあります。一般的に、事業の利益が年間800万円~900万円を超えてくると、個人事業主の税率よりも法人の税率の方が低くなる傾向にあります。ただし、法人は社会保険への加入が必須になるなど、税金以外のコストも増えるため、一概にどちらが得とは言えません。
不動産屋の業務形態
不動産業には様々な業務形態があります。一人で開業する場合は、自身のスキルや経験、資金力に合った事業モデルを選ぶことが成功の鍵です。
賃貸仲介業・売買仲介業
物件を「貸したい人・売りたい人」と「借りたい人・買いたい人」をつなぐ、最も一般的な業務です。在庫を抱えるリスクがなく、比較的少ない資金で始められるため、一人での開業に最も向いている形態と言えます。ただし、競争が激しいため、後述する専門分野の確立が不可欠です。
賃貸管理業
オーナーに代わって物件を管理する業務です。毎月安定した管理手数料が入るため、事業の安定に繋がります。しかし、入居者からのクレーム対応や家賃滞納の督促など、24時間365日対応が求められる場面もあり、一人ですべてをこなすのは大きな労力がかかります。
不動産コンサルティング業
不動産の有効活用や投資に関する専門的なアドバイスを提供します。高い専門知識と実績が求められますが、成功すれば大きな収益を得られる可能性があります。業界で豊富な経験を積んだベテラン向けの業務形態です。
不動産デベロッパー
自社で土地を仕入れてマンションや戸建てを建設・販売する事業です。一般的に多額の資金と専門知識が必要となるため、一人でゼロから始めるにはハードルが高い業務形態だといえます。
一人で不動産屋を開業するメリットとデメリット
一人での開業には、特有の光と影があります。両方を理解し、自分に合った働き方かを見極めましょう。
一人で開業するメリット
高い利益率
仲介業においては、仲介手数料などの売上が会社の売上に直結します。もちろん、そこから広告費や家賃といった経費は差し引かれますが、従業員がいないため、人件費という大きな固定費がない分、利益率は高くなる傾向にあります。
例えば、会社員時代に仲介手数料100万円の契約を成立させても、自身の給与への反映は一部ですが、独立すれば経費を差し引いた大部分が自分の取り分となります。一件あたりの利益が格段に大きくなるのが最大の魅力です。
自由な働き方
営業時間や休日、営業スタイルなど、全てを自分で決められます。「今月は目標を達成したから、来週は少し長めに休もう」「このお客様とはじっくり関係を築きたいから、効率よりも対話を重視しよう」といった判断も自由です。自分の価値観やライフスタイルに合わせた、理想の働き方を追求できます。
経費を抑えられる
最大の固定費である人件費がかからないのが大きな強みです。さらに、事務所を自宅兼事務所にすれば家賃の負担も大幅に軽減できます。ただし、事務所は、法令の趣旨として継続的に業務を行える独立した区画である必要があります。広告宣伝費や交際費なども、自分の判断で最適化できるため、無駄なコストを徹底的に削減し、利益を最大化することが可能です。
迅速な意思決定
上司への報告は一切必要ありません。目の前のお客様にとって最善だと思った提案や、効果的だと感じた広告戦略を、その場ですぐに実行に移せます。このスピード感は、変化の速い市場において大きな武器となります。
一人で開業するデメリット
業務量が膨大になる
営業、物件の写真撮影や図面作成、物件調査、契約書作成、経理、広告作成、ウェブサイト更新など、会社の全ての業務を一人でこなす必要があります。お客様への対応に集中したいのに、山積みの事務作業に追われるという事態に陥りがちです。時間管理を徹底しないと、すぐに手が回らなくなります。
収入が不安定になりやすい
自分が病気や怪我で動けなくなると、収入は完全にゼロになります。会社員のように、毎月決まった給料が保証されているわけではないため、常に成果を出し続けるプレッシャーとの戦いです。収入がない月が続くと、精神的な焦りから無理な営業に走ってしまうリスクも潜んでいます。
相談相手がいない孤独感
難しいクレーム対応や、大きな金額が動く契約の判断を迫られた時、気軽に相談できる同僚がいません。成功した喜びを分かち合う相手もいないのです。経営の判断を全て一人で行う精神的な負担は、想像以上に大きいものです。
社会的信用を得にくい
大手や複数人の会社と比べて、個人で始めたばかりの不動産屋は、お客様や金融機関からの信用を得るのに時間がかかる場合があります。特に高額な不動産を売買するお客様にとっては、会社の規模や実績も安心材料の一つです。「一人だけの会社に、大切な資産を任せて大丈夫だろうか」という不安を、丁寧な仕事で一つずつ解消していく必要があります。
一人で不動産屋を開業する場合の資金
一人での開業はコストを抑えやすいですが、それでもまとまった資金は必要です。計画的な資金準備が成功の鍵を握ります。
開業に必要な初期費用
不動産開業の初期費用は、事業の規模や事務所の立地によって大きく異なります。ここでは、一般的に必要となる費用の項目を解説します。
営業保証金または保証協会への加入費用
多くの事業者が加入する保証協会の場合、弁済業務保証金分担金(60万円)や入会金や会費などが必要です。合計の初期負担は都道府県や協会の組合せで大きく異なり、目安としてはおおむね100万〜170万円程度を想定しておくと安全ですが、事前に確認しても良いでしょう。
事務所の契約・内装費用
自宅兼事務所でない場合は、事務所を借りるための保証金や礼金、前家賃などが必要です。都心部であれば50万円~100万円以上かかることも珍しくありません。
法人設立費用
法人として開業する場合、株式会社であれば最低15万円、合同会社であれば最低6万円の登録免許税などがかかります。専門家に依頼する場合は、別途手数料も必要です。
備品・設備費用
デスクや椅子、パソコン、複合機、電話回線など、業務に必要な備品の購入費用です。これらは、中古品を活用するなど工夫次第で抑えられます。
一人で不動産屋開業を成功させるポイント
専門分野を決める
大手と同じように「何でも扱います」という姿勢では、価格競争に巻き込まれるだけです。「〇〇エリアの中古マンション専門」「単身女性向けの賃貸専門」など、自分が最も詳しく、情熱を注げる専門分野を決め、「このことならあの人に聞こう」と思われる存在を目指しましょう。
ITツールで業務を効率化する
一人ですべての業務をこなすには、ITツールの活用がおすすめです。顧客管理(CRM)、会計ソフト、電子契約システムなどを積極的に導入し、事務作業や移動時間を徹底的に削減しましょう。削減して生まれた時間を、お客様との対話や自分にしかできない専門的な業務に集中させることが重要です。
相談できる相手を見つける
一人で悩みを抱え込むのは危険です。同じように独立した不動産屋の先輩や、地域の商工会、信頼できる弁護士や税理士など、いつでも相談できる社外のネットワークを開業前から築いておきましょう。客観的なアドバイスが、難しい経営判断の助けになります。
健康管理も仕事のうち
一人開業では、あなた自身が会社そのものです。体調を崩して働けなくなれば、事業は完全にストップし、収入も途絶えます。十分な睡眠をとり、定期的に運動するなど、自身の健康を維持することは、最も重要なリスク管理の一つです。
未経験から不動産開業を目指す現実的な道筋
不動産業界での実務経験がない状態から一人での開業を目指すのは、非常にハードルが高い挑戦です。ここでは、未経験者が経験不足を補うための現実的な選択肢を紹介します。
1. まずは宅建士資格の取得
実務経験の有無にかかわらず、一人で開業するには宅建士の資格が絶対に必要です。まずは資格試験に合格することが、すべてのスタートラインとなります。
2. 経験不足を補う
宅建士の資格は知識の証明にはなりますが、それだけでは実務の壁は越えられません。ここからは、その経験不足を補うための代表的な選択肢を紹介します。
不動産会社への就職
最も確実な方法は、一度不動産会社に就職し、数年間実務経験を積むことです。日々の業務を通じて、営業のノウハウ、契約書作成などの事務処理、業界の慣習などを体系的に学ぶことができます。将来の独立に必要なスキルと人脈を、給料をもらいながら築ける貴重な機会です。
フランチャイズへの加盟
すぐにでも開業したいという場合は、大手不動産会社のフランチャイズに加盟する方法もあります。加盟金やロイヤリティはかかりますが、本部のブランド力や知名度を利用できるため、集客面で有利です。また、充実した研修制度や業務システムが提供されるため、未経験でも比較的スムーズに事業を軌道に乗せることができます。
一人で不動産屋を開業するまでの流れ
実際に一人で開業するまでの道のりを、5つのステップで解説します。
ステップ1. 資格取得と事業計画
まずは、自身が宅建士の資格を取得していることが大前提です。その上で、「誰に(顧客層)」「何を(物件種別)」「どこで(エリア)」を徹底的に絞り込んだ事業計画を練りましょう。
一人ですべてをカバーするのは不可能です。事業計画の段階で「やらないこと」を決めるのが、一人開業成功の第一歩です。
ステップ2. 資金の準備と経営形態の決定
事業計画に基づき、必要な開業資金・運転資金を計算し、自己資金で不足する場合は日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」などを活用して資金調達に動きます。ただし、この制度は新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方が対象で、自己資金や返済能力などの審査要件もあるため、利用できるか事前に確認が必要です。
同時に、法人として設立するのか、個人事業主として始めるのかを正式に決定し、手続きの準備に入ります。
ステップ3. 事務所と仕事道具の準備
事務所を借りるか、自宅兼事務所にするかを決め、物件を契約します。自宅兼事務所はコストを抑えられますが、住居スペースと明確に区切るなど、宅地建物取引業法上の要件を満たす必要があります。
申請時に事務所の写真提出が求められるため、看板や必要な備品もこの段階で揃えておきましょう。同時に、パソコンや複合機、業務に必要なITツールなども導入します。
ステップ4. 免許申請と協会への加入
事務所の準備が整ったら、管轄の行政庁へ宅地建物取引業免許の申請を行います。申請から免許交付まで、1ヶ月〜2ヶ月程度は見込んでおきましょう。
免許が下りる通知を受けたら、保証協会へ加入し、必要な費用を納付します。この手続きが完了して、ようやく営業が開始できます。
ステップ5. 集客の準備
免許の申請と並行して、集客の準備を進めましょう。ウェブサイトの開設やSNSのアカウント作成、名刺やパンフレットの作成、地域の関連業者への挨拶回りなど、開業後すぐにスタートダッシュが切れるように動くことが重要です。
一人不動産屋の集客方法
会社の看板に頼れない一人不動産屋にとって、集客は事業の成否を分ける最重要課題です。
Webサイトやブログでの集客
自社のウェブサイトやブログは、あなた自身の専門性や人柄を伝える最も重要なツールです。物件情報だけでなく、専門分野に関するお役立ち情報や、地域の魅力を発信し続けることで、検索エンジンからのアクセスを集め、「この人から話を聞きたい」と思ってもらえるファンを育てましょう。
まずは週に一本、専門分野に関するブログ記事を書くことから始めるのがおすすめです。
SNSでの情報発信
SNSでは、「会社の顔」としてあなた自身の個性を積極的に発信していきましょう。日々の活動報告や、不動産に関するちょっとした豆知識、地域のお店紹介など、親近感を持ってもらえるような投稿が、お客様との信頼関係を築くきっかけになります。
きれいな物件写真だけでなく、街の風景やあなたの仕事風景などを見せると、より人間味が伝わります。
紹介に繋がる人との繋がり
一人不動産屋にとって、最も質の高い集客は「紹介」です。弁護士や税理士、司法書士といった士業の専門家や、地元の工務店、リフォーム会社などと日頃から良好な関係を築き、「不動産のことで困ったら、あの人を紹介しよう」と思ってもらえる存在になることが、安定経営の基盤となります。
ただ名刺交換をするだけでなく、相手にとって有益な情報を提供するなど、ギブの精神を大切にしましょう。
ポータルサイトの賢い使い方
大手不動産ポータルサイトは広告費がかかりますが、開業初期の知名度がない時期には有効な場合もあります。
ただし、全面的に依存するのは危険です。あくまで自社サイトへ誘導するための窓口と位置づけ、掲載する物件を絞り込むなど、費用対効果を常に検証しながら賢く利用しましょう。
一人での不動産屋開業は「準備」が全て
一人での不動産開業は、大きな自由と引き換えに、全ての責任を自身で負う働き方です。専門分野・IT・ネットワークに加え、資金・立地・人材・マーケティング・法令遵守など多面的な経営管理が必要です。この記事で解説したポイントを参考に、着実な準備を進めましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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