- 更新日 : 2025年10月6日
所有と経営の分離とは?メリットやデメリットについてわかりやすく解説
- 「所有と経営って具体的に何が違うの?」
- 「所有と経営が分離されていなかったら、どんな問題が起こるの?」
- 「所有と経営を分離した場合のメリットやデメリットを知りたい」
上記のように、所有と経営の分離について悩んでいる方もいるでしょう。
本記事では、所有と経営の分離の定義やメリット、デメリットについて、わかりやすく解説します。
また、所有と経営の分離の具体的な方法についても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
所有と経営の分離とは
所有と経営の分離とは、会社の所有者と経営者がそれぞれ別の人物であることを意味します。
所有と経営を分離することで、会社が直面しがちな後継者問題や成長の壁といった課題を解決できる可能性があります。所有と経営の分離は、中小企業にとっても検討すべき選択肢と言えるでしょう。
所有者(株主)の役割
所有と経営の分離において、会社の所有者である株主は、単なる出資者ではありません。
株主は会社に資金を出資して所有権を持ち、経営者を選任したり、会社の方針について最終的な決定権を持っています。
また、経営者が不適切な運営をしていないか監視する役割も担います。万が一、経営者が株主に不利益となる行為をした場合は、株主は経営者を解任することが可能です。株主が経営を監視することで、会社は株主の利益を守る運営が続けられます。
経営者(取締役・社長)の役割
経営者とは、所有者から経営を任されたプロフェッショナルであり、会社の舵取りを担う人物です。
経営者は会社の利益を生み出す責任があり、経営戦略や事業計画を立案・実行します。さらに、株主から選任された事業運営の責任者として、日々の経営方針を決定し、事業を推進することが役割です。
経営者は専門的な知識と経験を活かして会社の成長を目指し、所有者である株主の期待に応え、企業の価値を高めていきます。
所有と経営の分離のメリット
所有と経営の分離のメリットは、専門性の向上や資金調達のしやすさです。たとえば、経営の専門家が企業を運営することで効率性が高まり、株式発行を通じて多額の資金を集められるようになります。
所有と経営の分離のメリットは、以下の通りです。
専門性の向上
所有と経営の分離は、経営の専門性を高め、会社の競争力を強化するメリットがあります。
専門的な知識や経験を持つプロフェッショナルを外部から経営陣として迎えることで、会社運営の効率化や成長が見込めます。
創業者が感情に左右されず、客観的な視点で意思決定を行いやすくなる点も大きな利点です。
経営者が引退したり交代する場合でも、後継者として血縁関係にとらわれず、能力のある人材を選びやすくなります。
資金調達の円滑化
所有と経営の分離は、大規模な資金調達を可能にし、企業の成長を加速させるものです。
株式を公開することで、不特定多数の投資家が会社の所有者(株主)となり、莫大な資金を調達できるようになります。株式公開の結果、銀行からの融資だけでは難しかった大規模な設備投資や事業拡大も可能となります。
会社の将来性を信じる多くの人々から直接資金を集めることができ、資金調達の選択肢が広がり、経営の自由度も高まるという利点があります。
リスクの分散
所有と経営を分離することで、会社のリスクを分散し、成長と安定性の両立がしやすくなります。
会社に何か問題が発生した場合でも、株主が負う責任やリスクは出資した金額の範囲内に限定(有限責任)されます。株主が負う責任やリスクが分散することで、多くの人が安心して出資でき、大規模な資金が集まりやすくなります。
たとえ経営が不振になり、経営者が交代した場合でも、会社ならではの継続性が保たれやすいという利点もあります。
コーポレートガバナンス強化
所有と経営の分離は、コーポレートガバナンスを強化し、会社の健全な運営を促します。経営者が第三者である株主や取締役会によって監視され、不正が起こりにくくなるためです。
株主が経営陣の活動をチェックする機能が働くことで、経営の透明性が高まります。不正リスクの低減にもつながり、投資家や社会からの信頼を得やすくなるメリットもあります。所有と経営の分離は、会社が健全で公正な経営を保つ上でも重要な要素なのです。
所有と経営の分離のデメリット
所有と経営が分離されると、株主と経営者の間で利害が対立したり、目標が一致しなくなる恐れがあります。さらに、経営を監視するための費用が増えるリスクも生じます。
所有と経営の分離のデメリットは、以下の通りです。
所有者と経営者の利害対立
所有と経営を分離すると、所有者と経営者の間で利害が対立することがあります。
株主は会社の長期的な成長や株価の上昇を期待するものです。一方で、経営者は自身の報酬や地位を守るために、短期的な利益の追求やリスクの低い経営を優先する場合があります。
所有者と経営者の利害対立は、エージェンシー問題(代理人問題)と呼ばれます。所有と経営を分離するときには、エージェンシー問題について、とくに注意しなければなりません。
監視コストの増大
所有と経営が分離されると、経営者の行動を監視するためのコストが増加します。
株主が経営者に対して自分たちの利益を最大限に追求しているかを確認するためです。
取締役会や監査役などの機関を設置し、経営陣の活動を監督しますが、以下のような費用がかかります。
- 監査役や社外取締役の設置費用
- 定期的な株主総会
- 報告会の開催費用 など
しかし、監視が行き過ぎると、意思決定のスピードが遅くなり、ビジネスチャンスを逃す原因にもなりかねません。
所有者としてのコミットメントの希薄化
所有と経営を分離すると、所有者が会社に対して感じる責任や思い入れが弱まることがあります。責任が弱まる理由は、創業者が経営を他者に任せることで、会社への個人的な愛着や強い思いを持ち続けることが難しくなるためです。
創業者が持っている情熱的なビジョンや理念が、外部から来た経営者にうまく伝わらなければ、会社の進むべき方向が定まらなくなる可能性もあります。
株主が会社の運営に直接関与しない場合、日々の課題や従業員のやる気に対する関心が薄れ、自分とは無関係だと感じやすくなります。創業者が持っていた情熱やビジョンによって成長してきた会社の強みが失われるおそれがあるためです。
会社の所有と経営の分離が適しているケース
所有と経営を分離すると、会社の規模拡大や資金調達、事業承継が円滑に進みます。
プロの経営者を迎えて経営効率を高めたり、株式公開や出資によって多くの資金調達が可能です。
ここからは、会社の所有と経営の分離が適しているケースについて、詳しく解説していきます。
会社の規模を拡大したいとき
会社の規模を拡大したい場合、所有と経営を分離することが重要です。会社が成長して事業内容や従業員の数が増えると、創業者や家族だけで経営を続けるのが難しくなるためです。
所有と経営を分離すると、専門的な知識と経験を持つプロの経営者に会社の運営を任せることができます。所有と経営を分離した結果、経営の効率や専門性が向上し、会社のさらなる成長につながります。
多額の資金を必要とするとき
多額の資金が必要となる新規事業への進出や大規模な設備投資をおこなう場合、所有と経営を分離することで新たな資金調達が可能になります。
たとえば、株式公開によって不特定多数の投資家から資金を集める方法が代表的です。中小企業や事業承継の場合は、ベンチャーキャピタル(VC)や事業会社からの出資を受け入れることも効果的です。
所有権の一部を譲渡すれば、資金調達と同時に、成長を加速させるためのパートナーシップも築くことができます。
事業承継を円滑に進めたいとき
事業承継を円滑に進めるためには、所有と経営を分離することが有効です。なぜなら、創業者が引退する際、社内に適切な後継者がいない場合や、親族の中に経営能力を持つ人がいない場合があるためです。
能力のある外部人材を経営者として迎え入れることで、所有と経営の分離が実現します。創業者が引退した後も会社の存続や成長を図ることができ、後継者問題の解決にもつながります。
所有と経営の分離をおこなう具体的な方法
所有と経営を分離するには、IPOや持株会社設立、M&Aといった方法があります。
IPOは多額の資金を調達できる有効な方法ですが、実施には多くの要件や準備が必要で、簡単ではありません。
中小企業の場合は、経営の効率化を目的とした持株会社の設立や、M&Aがより現実的な選択肢となるでしょう。とくにM&Aは、事業を次世代へ引き継ぐための主要な方法の一つとして、多くの中小企業で活用されています。
1. 株式公開(IPO)
株式公開(IPO)は、所有と経営を分離する最も代表的な方法の一つです。 会社の株式を証券取引所に上場させ、一般の投資家が自由に売買できるようにするためです。
これまで創業者や特定の一族が所有していた株式が市場に放出され、所有権が多くの投資家に分散します。所有権が分散されると、経営権がプロの経営陣に移譲され、所有と経営の分離が実現します。
ただし、IPOには高いハードルがあるのも事実です。上場審査は非常に厳しく、多大なコストと時間を要します。
一般的に、IPOは急成長を目指すスタートアップ企業や、さらなる事業拡大を目指す大企業に適した資金調達の手法です。
事業承継を控える中小企業の後継者にとって、IPOも選択肢の一つですが、他の事業承継手法も合わせて検討することが現実的です。
2. 持株会社(ホールディングス)の設立
持株会社を設立するという手法は、会社の所有と経営を分離する代表的な方法です。具体的には、新たに持株会社を設立し、既存の事業会社を子会社として組み入れることで実現します。
親会社である持株会社は、子会社の全株式を所有し、グループ全体の経営戦略や資金管理などを担当します。
一方、子会社はそれぞれ自社の事業運営に専念することが可能です。持株会社設立の結果、持株会社が「所有」を担当し、子会社の経営陣が「経営」を担うという役割分担が明確になります。グループ全体の経営効率を高めることができるでしょう。
3. M&A(株式譲渡)
M&Aは、会社を売却するときに、所有と経営を分ける現実的な方法です。M&Aは、中小企業の事業承継でもよく使われています。
たとえば、創業者が持つ株式を第三者(買収会社や新しい経営者)に譲渡することで、創業者は会社の所有権を手放し、新しい所有者や経営陣が会社の経営権を得ます。
M&Aには、単なる会社の売却よりも多くのメリットがあります。従業員の雇用や取引先との関係を維持しやすくなることが挙げられます。
自社とシナジー効果が期待できる企業に株式を譲渡すれば、買収した企業の経営資源や販路を活用して、自社の事業をさらに発展させられます。
後継者が見つからない場合でも、M&Aを活用することで、大切な会社を存続させ、従業員や取引先の信頼を守れるため、事業承継の有力な選択肢となるでしょう。
また、M&Aの企業価値評価について、下記の記事で詳しく解説しています。M&Aの企業価値評価について知りたい方は、ぜひご覧ください。
所有と経営の分離をおこなう場合に専門家の助言が必要な理由
所有と経営を分離するには、法務や税務や財務など幅広い専門知識が必要なため、専門家の助言が欠かせません。
手続きに一つでも不備があると、後々大きな問題が生じるリスクがあります。専門家のサポートを受ければ、手続きを円滑に進め、将来的なトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
以下では、専門家の助言が必要な4つの理由について詳しく解説します。
1. 複雑な法務・税務
所有と経営を分離する際には、専門家の助言が不可欠です。株式譲渡や組織再編には、会社法や税法に関する複雑な手続きが必要となるためです。
専門家の助言がなければ、思わぬ課税や法的なトラブルに直面する可能性があります。
とくに税務面では、公認会計士や税理士が、相続税や贈与税、法人税などについて、税負担を法律の範囲内で最小限に抑えるための具体的なアドバイスをしてくれます。専門家のサポートを受けることで、所有と経営の分離を安全かつスムーズに進めることが可能です。
2. 適切な企業価値評価
所有と経営を分離する際には、企業価値を適切に評価することが不可欠です。会社の価値を客観的に評価することが、株式の適正な譲渡価格や事業承継の条件を決めるうえで重要だからです。
専門家は、企業の財務状況や市場環境を詳細に分析して企業の価値を算出します。専門家による正確な評価は、公正な取引を実現し、将来的なトラブルの防止にも役立ちます。
3.円滑な交渉の仲介
円滑な交渉の仲介も、専門家の助言を求める大きな理由です。 会社の価値を客観的に評価することは、適正な株式の譲渡価格や事業承継の条件を決定するために欠かせません。
M&Aコンサルタントや専門家は、企業の財務状況や市場環境を分析し、企業の正確な価値を算出します。
当事者間では感情的な対立が起こりやすいため、専門家が中立的な立場で交渉を仲介することで、公正で円満な合意形成を実現しやすくなります。
4.リスク管理
所有と経営を分離するときには、潜在的なリスクを事前に特定して対策を講じることが重要です。分離の過程で簿外債務や過去の訴訟リスクといった隠れた問題が見つかる可能性があるためです。
専門家のサポートを受けることで、事前にリスクを洗い出し、適切に対処できます。
専門家の対応により、将来のトラブルを未然に防ぎ、分離のプロセスを安全に進めることができます。
助言を求めるべき専門家
所有と経営を分離する場合は、専門家のアドバイスが大切です。弁護士や税理士、M&Aコンサルタントなどに相談することで、法務面や税務面でのリスクを避けることができ、手続きをスムーズに進められます。
所有と経営の分離をおこなう際に、専門家がどのような場面で役立つかを以下の表にまとめました。
専門家 | 役割 | 具体的な業務 |
---|---|---|
弁護士 | 法的な側面から事業を守る | 契約書の作成・確認 法的リスクの洗い出し 法的トラブルへの対応 株主総会・取締役会の手続きサポート |
公認会計士・ 税理士 | 財務・税務面でサポート | 企業価値の評価 税務アドバイス(譲渡益課税など) 財務デューデリジェンスの支援 |
M&A仲介会社・ コンサルタント | M&Aのプロセス全体を支援 | 譲渡先候補の選定 交渉の仲介 プロセス管理(手続き全般) 自社に合った相手企業とのマッチング |
所有と経営の分離に関するまとめ
所有と経営の分離は、中小企業が直面している課題を解決し、会社の成長を促進するための方法の一つです。
所有と経営の役割を明確にすれば、それぞれの専門性を十分に発揮できるようになります。
分離には、経営の専門性が高まることや資金調達がしやすくなること、メリットがあります。一方で、利害の対立や監視コストの増加といったデメリットにも注意しなければなりません。
分離の手段としては、IPO(株式公開)や持株会社の設立、M&A(企業の合併・買収)などがあります。中小企業の場合、事業承継のためにM&Aや持株会社設立を選ぶのが現実的でしょう。
所有と経営の分離を進める際には手続きが複雑で、専門的な知識が必要となります。自社に合った最適な方法を見つけて、安全かつ円滑に所有と経営の分離を進めるには、まず専門家に相談することをおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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