• 作成日 : 2025年10月6日

M&Aスケジュールの進め方|売り手が知っておくべき流れを徹底解説

事業を売却したいけれど「どれくらい時間がかかるのか」「どんな順番で進めればいいのか」と不安を抱える経営者の方は少なくありません。

M&Aはスケジュールを誤ると条件交渉や資金繰りに影響が出るため、事前の準備は欠かせない要素です。本記事では、売り手が安心して進められるよう、準備・交渉・契約・PMI(Post Merger Integration/統合)までの流れや注意点をわかりやすく解説します。

M&Aのスケジュールとは?

M&Aのスケジュールは案件の内容や関係者の状況によって異なります。一般的には準備→交渉→デューデリジェンス(買収監査/DD)→契約→クロージング(譲渡実行)→PMIという流れで進むことが多いとされているようです。

準備段階では売却・買収の目的や条件整理を行い、交渉によって基本合意を結んだ後、対象企業の実態を把握するためにデューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスの期間は範囲や規模によりますが、標準的には1〜2か月程度が見込まれます。

契約締結後にクロージングが行われ、その後はPMIとして統合作業に移る場合もあるようです。全体の所要期間は半年〜1年半程度が目安とされ、平均すると約1年程度です。案件によっては3〜6か月で完了するケースもあれば、調整が難航し2年以上かかるケースもあります。

なぜスケジュール管理が重要なのか

売り手側にとってM&Aのスケジュール管理は極めて重要です。プロセスが長期化すると、市場環境や業績が変動し、当初の売却計画や目的に影響が及ぶ可能性があります。

情報の扱いを誤れば従業員や取引先など関係者に不安を与え、信頼関係の低下につながるリスクも否定できません。

こうした影響を防ぐためには、各段階の進行状況を把握し、計画的に取引を進めることが求められます。特に情報管理は徹底し、伝える相手やタイミングを慎重に判断することで、社内外の安心感を維持しながら交渉を進められるでしょう。

M&Aの準備フェーズでの7つのステップとポイント

M&Aを成功させるには、売り手が段階的に準備を進めることが重要となります。公的機関や専門機関が示す知見を参考にしつつ、実務上広くいわれる取り組みも含めて整理すると、プロセスをより円滑に進めやすくなります。

①M&Aの目的と目標を明確にする

日本M&Aセンターでは、中小企業の事業承継や成長戦略としてのM&Aが行われる背景を示し、解決したい経営課題を明確にすることが重要とされています。

売り手としては、事業承継で会社の存続を優先するのか、資金調達で経営を安定させるのかで選ぶスキームも変わるのです。

地方の製造業では「技術と雇用を残したい」という理由で承継型M&Aが増えています。目的を言語化することで、社内の合意形成や外部への説明もしやすくなります。

②M&A仲介会社・アドバイザーを選定する

中小企業庁のM&Aガイドラインでは、仲介者・FAの選定にあたって、業務範囲や契約内容、手数料体系、実績、利用者の声などを確認した上で複数社を比較検討することが重要です。実務では、経験や専門性の高さだけでなく、担当者との相性も確認しておく必要があります。

また、IT企業の売却では同業界の案件実績を持つ仲介会社が、価格算定や買い手探索に強みを発揮するケースがあります。

契約書のチェックや金融機関との調整まで任せられる体制があれば、売り手は本業に集中できるため、信頼できるパートナーを確保すること自体がリスク回避になるでしょう。

③M&Aスキームを検討する

M&Aの代表的手法には株式譲渡・事業譲渡・会社分割・合併などがあり、目的や税務上の取扱いを踏まえて選定する必要があります。

株式譲渡は手続きが比較的簡易で、中小企業M&Aの多くで採用されています。事業譲渡は不要部分を切り離せる柔軟さがある一方、契約や従業員の同意が欠かせません。

会社分割は包括承継できる点で有利ですが、債権者保護手続きなど負担が大きいとされます。飲食業のように複数事業を持つ会社では、売りたい店舗だけを事業譲渡する事例も見られます。

④売却希望条件・譲歩条件を明確にする

実務では事前の整理が交渉効率を左右するといわれます。

売却価格の目標値と最低限確保したい金額をあらかじめ設定し、借入返済分などの必須要件を加えてアドバイザーに伝える形が一般的です。

条件をすべて主張するのではなく、譲歩できる範囲も把握しておくと合意形成が早まります。希望価格を超えられない代わりに、従業員の雇用維持を条件にするなど、柔軟な組み合わせが交渉の着地点につながります。

⑤売却の可能性・予想売買価格・買い手候補を確認する

スキームによって価格評価の基準や留意点が異なることが示されています。売り手はまず簡易的な評価でも価格帯を把握することが大切です。

小売業の場合、立地や顧客基盤によって大きく評価が変わるため、同業への売却では高値が期待できます。一方で異業種や投資ファンドでは、収益改善を前提にした評価となる場合もあります。

買い手候補の種類によってシナジーやリスクの性質は異なり、想定する相手像を持つことが実務で推奨されるでしょう。売却可能性を早めに確認することが、その後の戦略の現実性を高めます。

⑥秘密保持契約(NDA)の締結と必要資料の整理

ガイドラインでは、契約締結後には秘密保持条項などの影響で柔軟な対応が難しくなる場合があるとされており、実務上は交渉開始前にNDAを結ぶのが通例とされています。これにより情報漏洩や不適切な利用を防ぎ、安心して資料を渡す前提が整います。

最初は会社名を伏せたノンネーム資料を提示し、興味を持った相手に概要書、さらに詳細情報を段階的に開示する流れが一般的です。

決算書や従業員数、主要取引先といった基本資料は事前に整理することで、買い手からの信頼を得やすくなります。売り手にとって資料の整備は交渉力を高める要素にもなります。

⑦M&A補助金の活用と申請スケジュールを確認する

事業承継・M&A補助金では、株式譲渡や事業譲渡・吸収合併・吸収分割等が対象となり、仲介手数料やデューデリジェンス費用などが補助の範囲に含まれます。

補助率や上限額も設定され、PMIに関する費用も支援対象とされています。申請にはGビズIDプライムの取得と電子申請システムの利用が必須です。制度の利用には準備期間を要するため、申請期限を見据えたスケジュール設計が欠かせません。

過去には申請が遅れて補助金を活用できなかった事例もあり、早めの対応が有効とされています。

参考:中小M&Aガイドライン(第3版) -第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-|中小企業庁|

売り手が知っておくべきM&A交渉フェーズの5つのステップ

M&A交渉は形式的に見えても、実際には相手企業との駆け引きや信頼関係づくりが欠かせません。どの段階で何を意識すべきか理解しておくと、不利な条件を避けやすくなります。

①秘密保持契約の締結と情報開示

情報を開示する前に必ず交わされるのが秘密保持契約です。署名が済むまでのやり取りは、対象を特定できないノンネーム資料やティーザーに限られるのが一般的でしょう。

NDA後に初めて決算書や事業計画などの詳細が渡されます。中小企業の取引でもこの流れは共通しており、情報漏えいを防ぐための基本ルールです。

売り手側はどこまで出すかを調整することで、後の交渉を優位に進められることもあります。

②トップ面談にて信頼関係を構築する

候補先が絞られた段階で行われるトップ面談では、数字以上に「人となり」や価値観の確認が重視されます。

経営者同士が直接話すことで、文化や考え方の違いが浮き彫りになり、今後の判断材料になるからです。実務の現場では、この段階で違和感が出て交渉が止まるケースも少なくありません。

売り手にとっては、誠実に応じながら相手の姿勢を見極める場でもあります。必ずしも契約に直結するわけではないものの、その後の展開に響きやすいステップです。

③条件交渉と意向表明書(LOI)の取り交わし

トップ面談を経て、買い手は意向表明書を提出します。ここには買収価格の目安や譲渡スキームの方向性が記載され、次の基本合意に進む前の重要な足がかりとなるのです。

LOIは一般に法的拘束力を持ちませんが、独占交渉権や秘密保持など一部は効力を持たせることがあります。

売り手側は複数候補のLOIを比較する場面も多く、金額だけでなく従業員の処遇や事業の将来像が選定の視点になることもあります。早い段階でこの視点を押さえると、後の条件修正を避けやすくなるでしょう。

④基本合意書(MOU/LOI)の締結と注意点の確認

条件交渉の結果を整理し、特定の買い手と進めることを確認するのが基本合意書です。基本合意書は場合によってはLOIともいわれます。価格帯やスケジュール、デューデリジェンスの範囲といった事項が盛り込まれ、実務では交渉の地図として扱われます。

全体としては法的拘束力が弱いものの、独占交渉権や秘密保持など一部の条項は効力を持つため注意が必要です。

特に中小企業M&Aでは、独占交渉期間が長すぎて売り手が不利になる事例もあります。専門家の目を入れて、拘束範囲や条件を慎重に見極めることが望まれます。

⑤デューデリジェンスを行う

基本合意がまとまると、買い手は弁護士や会計士を中心にデューデリジェンスを実施します。財務・法務・税務・事業の調査が基本ですが、労務やITなど分野を広げる場合もあります。

調査の結果、条件修正や契約中止に至ることも現実には起こり得るのです。売り手が早い段階から資料を整備しておくと、交渉の信頼性が高まりやすく、調査もスムーズに進みます。

DDは単なる形式ではなく、双方が安心して最終契約に向かうための必須工程です。

最終契約(SPAなど)とクロージング|売り手が押さえるべき契約内容と手続き

M&Aは最終局面に入ると、一気に現実味を帯びてきます。契約の細部をどう詰めるか、そしてクロージングまでに何を整えておくか。売り手にとっては、ここをどう乗り切るかが成否を左右します。

①最終契約

デューデリジェンスが終われば、条件交渉はいよいよ佳境です。ここで作成される最終契約書には、譲渡価格や支払条件といった根幹部分が盛り込まれます。

表明保証や補償条項の書きぶり一つで、契約後に背負うリスクが大きく変わるため、条文の精査は欠かせません。実際の現場では、従業員処遇なども交渉の俎上に載ることが少なくありません。

ただし、これは法律で義務づけられているものではなく、あくまで一般的に調整される論点にすぎません。売り手としては、専門家の助言を仰ぎつつ、自社にとって譲れない条件と妥協できる条件を見極めることが肝要です。

②主要手続き

契約が整ったからといって、すぐに取引が成立するわけではありません。クロージングまでには、会社法467条に基づく株主総会の特別決議が必要となる場合があります。

同469条では反対株主に株式買取請求権が認められており、通知や公告の手続きも効力発生日の20日前から前日までの間に実施する必要があります。一方、債権者保護手続は合併や会社分割に比べると事業譲渡では原則不要とされているようです。

ただし、債務を引き継ぐには個別の同意が求められることが多く、価格が不当であれば詐害行為取消のリスクに直結します。許認可の承継や不動産・知的財産権の名義変更など、取引の内容次第で追加の手続きが必要になるケースも珍しくありません。

つまり、クロージングとは「契約を実行に移すための最終確認プロセス」であり、漏れがないかを一つひとつ点検していく段階なのです。

PMI|統合計画と100日プランとは

クロージングを終えた直後、企業は統合プロセスに取りかかる必要があります。PMIでは、組織の体制づくりやシステムの整理、さらには企業文化の調整まで幅広い課題を扱います。

統合計画では誰がどの業務を担うのかを明確にすることが大切で、曖昧さを残すと進行が滞りやすくなるのです。実際の統合段階では、定期的に進捗を確認し、必要なら計画を修正する姿勢も求められます。

事業譲渡の案件では、クロージング後にそのままPMIが続くスケジュールとして組み込まれることも少なくありません。短期間で軌道に乗せるためには、こうした一連の流れを事前に描いておくことが欠かせません。

各段階の期間目安

M&Aの進行スピードは案件によって大きく違います。数か月でまとまることもあれば、1年以上かけてようやくクロージングに至ることもあります。

規模の小さな案件や調整項目が少ない場合は3〜6か月程度で終わる例も見られますが、複雑な条件が絡むと2年を超えるケースもあるようです。特にデューデリジェンスや契約交渉は時間を食いやすく、ここが長引けば全体のスケジュールも押し出されます。

一方で、双方の意向が早期に一致すれば、予定よりも早く進むことも珍しくありません。目安はあくまで目安として捉え、柔軟に動ける余白を残すことが実務上は重要です。

売り手/買い手それぞれの流れ

売り手の流れはシンプルで、まず秘密保持契約を交わし、面談や資料の提示を進めます。その後、条件を詰めて最終交渉を経てクロージングへと進むのが一般的です。

買い手は少し複雑で、NDAの後にトップ面談を行い、意向表明書の提出へと移ります。次に基本合意を締結し、デューデリジェンスを実施しましょう。その結果を踏まえて最終交渉に入り、クロージングで取引を完了させます。

買い手側は調査や調整の工程が多いため、ステップ数も自然と増えることになります。

スケジュール遅延の要因と注意点

M&Aにおいては、許認可取得や株主承認・債権者保護といった法的手続きが不可欠であり、これらの対応に時間を要することでクロージングが遅れることがあります。

また、規制当局による審査や承認は厳格化しており、早期からの対応が求められるのが実務の現状です。一方で、交渉が長引く間に対象企業の業績が変動し、譲渡条件に不利な影響を及ぼす可能性があるとも一般的にいわれます。

プロセスが長期化すると秘密保持の難易度が高まり、従業員や取引先への不安が増すと指摘されるケースもあります。こうした要素が複合的に作用すると、取引自体が破談に至るリスクも否定できません。遅延要因を早期に特定し、関係者と共有することが重要です。

M&Aのスケジュールを短縮する方法

全体の進行を円滑にするには、財務資料や契約関連書類を事前に整備しておくことが有効であり、手戻りの防止に直結します。経営陣や主要株主などステークホルダーの合意形成を前もって整えることも、承認や条件交渉の迅速化に資する重要な要素です。

弁護士や会計士・M&Aアドバイザーなどの専門家を初期段階から関与させることで、法務や財務、契約関連の処理を早められることが知られています。

こうした外部知見の導入は、交渉や調整のスピードを上げる判断材料となります。内部準備と外部支援を適切に組み合わせることで、全体スケジュールを圧縮できると考えられているのです。


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