- 更新日 : 2025年10月6日
事業再構築補助金をM&Aで活用する方法|対象経費・手順・他の補助金も紹介
M&Aを検討する企業にとって、事業再構築補助金の活用可否や対象経費についての疑問はつきものです。
- 「補助金でM&A費用は支援されるのかわからない」
- 「対象になる場合とならない場合の違いを知りたい」
- 「採択されやすい事業計画の作り方を理解しておきたい」
上記のように悩む経営者や担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では、事業再構築補助金の概要から、M&Aに活用できるケース・できないケース、具体的な活用方法までをわかりやすく解説します。
さらに、採択されやすい事業計画のポイントや申請の流れ、他に活用できる補助金制度も紹介しているため、これからM&Aを進めたい方や補助金を賢く活用したい方に役立つ内容となっています。
補助金活用で事業成長を加速させたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
事業再構築補助金とは?
事業再構築補助金とは、コロナ禍によって売上が減少した中小企業や中堅企業を支援するために設けられた制度です。
対象となるのは、次のような「事業再構築」に取り組む企業です。
- 新分野展開
- 事業転換
- 業種転換
- 事業再編
- 国内回帰
令和3年に制度が開始されて以来、多くの企業が採択され、事業再生や新たな挑戦に活用されてきました。
事業再構築補助金の対象・対象外にあたる費用は次のとおりです。
事業再構築補助金の対象 | 主な費用 |
---|---|
対象 | 建築物費 設備費 システム構築費 技術導入費 外注費 広告宣伝費 研修費 など |
対象外 | 人件費 不動産購入費 株式購入費 旅費 など |
制度を利用する際は、対象となる経費をしっかりと確認することが重要です。
事業再構築補助金の目的と背景
事業再構築補助金の主な目的は、ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済変化に対応できるよう、中小企業の思い切った事業再構築を支援することです。これにより、日本経済全体の構造転換を促し、持続的な成長を実現する狙いがあります。
また、コロナ禍や物価高の影響で売上が減少し、現状維持が難しい企業に対しては、新規事業への挑戦を後押しする役割も担っています。
さらに、事業承継やM&Aを含む形での事業再編も支援対象とされており、幅広いケースで企業の成長や変革を後押しする制度といえるでしょう。
対象となる事業者と補助金額・補助率
対象となる事業者と補助金額・補助率は、次のとおりです。
成長分野進出枠(通常類型)
概要 | 補助上限額 | 補助率 |
---|---|---|
ポストコロナに対応し、成長分野への事業再構築を行う事業者や、国内市場縮小などの課題に直面する事業者向け | 従業員20人以下:1,500万円 (最大2,000万円) 従業員21〜50人:3,000万円 (最大4,000万円) 従業員51〜100人:4,000万円 (最大5,000万円) 従業員101人以上:6,000万円 (最大7,000万円) | 中小:1/2 (賃上げ時 2/3) 中堅:1/3 (賃上げ時 1/2) |
成長分野進出枠(GX進出類型)
概要 | 補助上限額 | 補助率 |
---|---|---|
ポストコロナに対応し、グリーン成長戦略「実行計画」14分野の課題解決に取り組む事業者向け | 従業員20人以下:3,000万円 (最大4,000万円) 従業員21〜50人:5,000万円 (最大6,000万円) 従業員51〜100人:7,000万円 (最大8,000万円) 従業員101人以上:8,000万円 (最大1億円) 中堅:1億円 (最大1.5億円) | 中小:1/2 (賃上げ時 2/3) 中堅:1/3 (賃上げ時 1/2) |
コロナ回復加速化枠(最低賃金類型)
概要 | 補助上限額 | 補助率 |
---|---|---|
コロナ禍終了後、最低賃金引上げの影響を大きく受ける事業者向け | 従業員5人以下:500万円 従業員6〜20人:1,000万円 従業員21人以上:1,500万円 | 中小:3/4 (賃上げ時 2/3) 中堅:2/3 (賃上げ時 1/2) |
引用:事業再構築補助金
M&Aに事業再構築補助金は使えるのか?
M&Aにおいて事業再構築補助金が利用できるかどうかは、取引の内容やその後の事業展開によって判断されます。補助金はあくまで「事業再構築」を目的とした支援であるため、M&Aそのものの費用を直接補助するものではありません。
しかし、M&A後に新しい事業展開や業種転換などを行う場合には、一定の条件を満たせば補助対象として認められるケースがあります。以下では、利用できるケースと利用できないケースに分けて解説します。
補助金が利用できるケース
M&A後に新分野展開や業種転換といった「事業再構築」に該当する取り組みを行う場合、補助金を利用できる可能性があります。
具体的には以下のようなケースです。
対象となる経費は幅広く、主に以下が含まれます。
- 建物費
- 設備費
- システム構築費
- 知的財産関連費
- 専門家費用
- 広告宣伝費
- 研修費
また、「事前着手制度」を利用すれば、交付決定前に開始した経費も補助対象にできる場合があります。
補助金が利用できないケース
一方で、補助金の対象外となる費用も明確に定められています。代表例は以下のとおりです。
- 株式購入費、不動産購入費
- M&A仲介報酬、デューデリジェンス費用
さらに、次のような費用も対象外です。
要するに、補助金は「事業再構築」に直結する費用に限定されており、M&Aそのものの費用や周辺的なコストは補助されない仕組みになっています。
M&Aで補助金を活用できる具体的な方法
M&Aにおいては、事業再構築補助金を活用することで再編後の成長投資を支援できます。
ただし、補助対象となるのはM&A手続きそのものの費用ではなく、次のようなスキームごとの再編後に取り組む新分野展開や業種転換などの「事業再構築」に必要な投資です。
ここでは、M&Aのスキームごとに補助金の活用方法を解説します。
合併・会社分割・事業譲渡の場合
合併や会社分割、事業譲渡においても事業再構築補助金を利用できます。
とくに事業譲渡では、譲渡する側の企業も補助対象となるケースがあるため、不採算事業の整理や成長分野への集中を進めたい企業に有効です。
対象となる経費は、主に次のとおりです。
- 建築物費
- 機械装置・システム構築費
- クラウドサービス利用費
- 広告宣伝費・販売促進費
- 従業員の研修費
一方で、デューデリジェンス費用や仲介報酬といったM&A手続きそのものにかかる費用は補助対象外となる点に注意が必要です。
株式交換・株式移転の場合
株式交換や株式移転の場合は、M&A後の事業再構築に必要な費用が補助対象となります。
株式取得費用やデューデリジェンス費用などのM&A実施プロセスに関わる支出は補助の対象外ですが、再編後に行う次のような投資は対象に含まれます
- 設備導入
- システム開発
- 広告宣伝
- 技術導入
採択を受けるためには、事業計画に「新市場進出」「事業転換」「業種転換」といった再構築要件を盛り込み、コロナや物価高の影響により現状の事業継続が困難である旨を明記することが求められます。
また、事前着手制度を利用すれば、交付決定前に開始した事業でも一部費用を補助対象にできる可能性があるため、計画的な準備がポイントです。
採択されやすい事業計画の作り方
事業再構築補助金を活用する際には、計画書の内容が採択の可否を大きく左右します。採択されやすい事業計画を作成するためには、次の4つのポイントが欠かせません。
ここでは、それぞれのポイントについて解説します。
事業再構築を行うことを明記する
補助金の目的は「思い切った事業再構築」を支援することにあるため、計画書ではM&Aを通じてどのように事業再編や業態転換を実現するのかを明確に示すことが必要です。
新市場進出や業種転換、事業転換、事業再編といった具体的な再構築の類型をはっきりと記載することで、審査側に計画の妥当性が伝わりやすくなります。
また、既存事業の課題を整理し、それをM&Aによってどのように克服し、新たな事業へ展開していくのかを論理的に説明することが重要です。
コロナや物価高の影響を盛り込む
単なる成長戦略ではなく、外部環境の変化によって従来事業の継続が困難であることを示すことで、補助金活用の必要性が高まります。
とくに、コロナ禍や物価高の影響による売上減少やコスト増加、需要変化などを具体的なデータで提示することが重要です。これにより、再構築が不可欠であるとアピールでき、採択率向上につながります。
M&Aの時期・契約を明確に示す
補助事業の着手は原則として交付決定後であるため、事業計画にはM&Aのスケジュールを明示する必要があります。
「交付決定後12〜14か月以内に契約締結・事業開始」といった具体的な時期を記載することで、実現性の高い計画として評価されやすくなります。
さらに、契約内容や手続きについても具体的に記載し、事前着手制度を利用する場合はその旨を明記しておくことが重要です。
支援機関を利用する
事業計画の作成にあたっては、次のような認定経営革新等支援機関の確認を受けることが必須となっています。
- 税理士
- 公認会計士
- 中小企業診断士
- 金融機関 など
支援機関に相談することで、シナジー効果や収益性、投資回収の根拠といった採択率を高める要素を計画書に盛り込めます。
また、補助額が3,000万円を超える場合には金融機関の確認も必要になるため、早めに支援体制を整えておくことが重要です。
事業再構築補助金の申請手順【3STEP】
事業再構築補助金を申請するには、準備から提出までの流れを正しく理解し、確実に進めることが大切です。申請は電子申請のみとなるため、次の3つのステップに分けて行う必要があります。
ここでは、申請の基本的な流れを解説します。
1.GビズIDプライムの取得
補助金の申請はすべて電子申請で行うため、GビズIDプライムのアカウント取得が必須です。
申請書と印鑑証明書を事務局へ郵送すると、約1週間で利用可能となります。このIDは補助金の申請だけでなく、行政手続きや社会保険の申請でも利用できるため、早めに取得しておくことがおすすめです。
2.事業計画書の作成
申請にはA4で10〜15枚程度の事業計画書を作成する必要があります。
フォーマットは自由ですが、会社概要、市場動向、コロナや物価高の影響、事業再構築の具体的内容、収益計画、スケジュールなどを盛り込むことが必要です。
また、認定支援機関の確認書が必須であり、自社だけで作成するのは難しいため、税理士や中小企業診断士などの専門家を活用することをおすすめします。
3.電子申請
準備が整ったら、電子申請システムを通じて必要書類を提出します。
必要となる書類は、決算書や事業計画書、支援機関確認書などを含めて約20種類に及びます。提出期限を守ることはもちろん、書類の不備や遅延は不採択に直結するため、事前に添付書類確認シートを活用しながら漏れなく準備することが重要です。
M&Aに活用できるその他の補助金制度3選
M&Aを活用する際には、事業再構築補助金以外にも公的支援を受けられる次のような制度があります。
ここでは、代表的な3つの補助金制度を紹介します。
事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、M&Aにかかる手続き費用を幅広く補助対象としている制度です。デューデリジェンス費用や仲介手数料、専門家報酬などが対象となり、売り手支援型と買い手支援型の双方で利用可能です。
補助率は原則2/3以内で、売り手支援型の一部では1/2以内となる場合もあります。補助上限額は300万円、下限額は50万円と定められており、さらに廃業費用についても上限150万円まで支援されます。
事業は次の4つに分類されており、公的支援によってM&Aに伴うコストを大幅に削減できるのが特徴です。
- 経営革新事業
- 専門家活用事業
- 廃業
- 再チャレンジ事業
東京都事業承継支援助成金
東京都中小企業振興公社が提供する東京都事業承継支援助成金は、事業承継に必要な専門家費用や、新たな取り組みに必要な費用を助成対象としています。
M&A仲介業者との契約費用も対象となりますが、成功報酬は対象外です。助成上限額は200万円、下限額は20万円に設定されており、第三者承継、すなわちM&Aを進める場合にとくに活用しやすい制度といえます。
東京都独自の助成制度ですが、他の自治体でも同様の支援が用意されているケースがあるため、地域ごとの制度を確認することが有効です。
地方自治体が独自で提供する補助金
地方自治体や経済団体が独自に設けるM&A関連の補助金を活用することもおすすめです。
内容や条件は地域ごとに異なり、都市部では競争力強化や特定業種向けの補助が充実している傾向があります。一方、地方部では後継者不足の解消や地域振興を目的とした補助金が多く設定されています。
最新情報は商工会議所や地域の経済団体が提供しているため、申請前に情報収集を徹底することが重要です。
M&Aと補助金を賢く活用して事業成長を加速させよう
M&Aを進める際に事業再構築補助金をはじめとした各種補助金を活用することで、再編後の設備投資や新規事業への挑戦を資金面から支援できます。
補助対象は建物費やシステム構築費、広告宣伝費など幅広く、採択されやすい事業計画を整えることで活用の可能性が高まります。一方で、仲介手数料や株式取得費用などは対象外となるため注意が必要です。
また、事業承継・引継ぎ補助金や自治体独自の助成制度を組み合わせれば、M&Aに伴う負担をより軽減できます。自社にあった制度を選び、専門家と連携しながら計画的に進めることで、補助金を賢く活用し事業成長を加速させましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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