- 作成日 : 2025年12月2日
建設工事の契約書で建設業法第19条が重要なのはなぜか?16の記載事項やひな形、改正内容まで解説
建設工事を発注する際、建設業法第19条は、工事の大小にかかわらず全ての建設工事で書面契約を義務付け、記載すべき16項目を定めた、トラブル防止の根幹となる条文です。
この記事では、建設業法第19条の重要性、法律で定められた具体的な記載事項、契約書がない場合のリスクについて、分かりやすく解説します。
目次
そもそも建設業法第19条とは何か?
全ての建設工事において、当事者間の合意内容を書面(または電磁的記録)に残し、署名または記名押印して相互に交付することを義務付けた、建設工事請負契約の基本原則を定めた条文です。
この規定は、口約束による「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、工事内容、金額、工期といった契約の根幹に関わる事項について、発注者と受注者双方の権利と義務を明確にすることを目的としています。たとえ数万円の小規模な工事であっても、この書面契約の義務に例外はありません。
法律で定められた16の記載事項とは何か?
工事内容や金額、工期といった基本情報から、紛争解決方法まで、契約書に必ず記載しなければならない16の項目が定められています。
これらは、建設業法第19条第1項で具体的に列挙されており、契約書を作成する上での最低限の必須項目です。
建設工事請負契約書 必須記載事項一覧
| 項目 | |
|---|---|
| 1 | 工事内容 |
| 2 | 請負代金の額 |
| 3 | 工事着手の時期及び工事完成の時期 |
| 4 | 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容 |
| 5 | 前金払や出来高払の定めをするときは、その支払の時期及び方法 |
| 6 | 設計変更や工事中止の場合の工期や代金の変更、損害の負担に関する定め |
| 7 | 天災など不可抗力による工期変更や損害の負担に関する定め |
| 8 | 価格等の変動に基づく請負代金の額又は工事内容の変更(スライド条項) |
| 9 | 工事の施工により第三者が損害を受けた場合の賠償金の負担に関する定め |
| 10 | 発注者が資材提供や機械貸与をするときは、その内容及び方法に関する定め |
| 11 | 工事完成の検査の時期・方法及び引渡しの時期 |
| 12 | 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法 |
| 13 | 契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)に関する定め |
| 14 | 履行遅滞の場合における遅延利息、違約金その他の損害金 |
| 15 | 契約に関する紛争の解決方法 |
| 16 | その他国土交通省令で定める事項 |
特に注意すべき項目①:第8号(スライド条項)
第8号は、工事期間中に予期せぬ資材価格の高騰や急激なインフレが起きた場合に、請負代金を見直すことができるルール(スライド条項)に関する定めです。近年の法改正により、この条項を契約書に盛り込むことがより一層重視されるようになりました。これにより、実際に価格変動が起きた際には発注者・受注者が誠実に協議することが求められ、一方がリスクを負うことを防ぎ、公正な取引を促します。
特に注意すべき項目②:第13号(契約不適合責任)
第13号は、完成した工事の目的物(建物など)に、契約内容と異なる不具合が見つかった場合の、受注者の責任(修補、代金減額、損害賠償など)に関する定めです。2020年の民法改正で「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へと名称と内容が変わりました。どのような場合に、どのような責任を負うのかを明確に定めておくことは、発注者の権利を守る上で非常に重要です。
契約書がない場合、どのようなリスクがあるか?
受注者(建設業者)は建設業法違反として行政処分の対象となる可能性があり、発注者側にも追加費用や工期遅延といった深刻なトラブルに発展する大きなリスクがあります。
受注者側のリスク(行政処分)
書面契約の義務を怠った建設業者は、建設業法違反として、国土交通大臣や都道府県知事から指示処分や、悪質な場合には営業停止処分といった重い行政処分を受ける可能性があります。
発注者側のリスク(トラブル発生)
発注者にとって、契約書がないことは以下のようなリスクに直結します。
- 追加費用の発生:工事の範囲が曖昧なため、「これは契約に含まれていない」として、後から高額な追加費用を請求される。
- 工期の遅延:明確な完成時期が定められていないため、工事が長引いても法的な責任を問いにくい。
- 品質の不担保:完成後の不具合(契約不適合)が見つかった際の、修補や損害賠償のルールが不明確になる。
契約書は、建設業者を縛るためだけでなく、発注者自身を守るためにも不可欠なものなのです。
最近の法改正で何が変わったか?
働き方改革や近年の経済情勢の変化に対応するため、書類のデジタル化(電子契約)が認められ、資材価格高騰に対応するためのスライド条項の記載がより重視されるようになりました。
2020年の建設業法改正では、相手方の承諾があれば、これまで書面が原則だった契約書を電子データで交付することが可能になりました。また、2024年の改正では、インフレ等に対応するため、スライド条項(第19条第1項第8号)の適用について、契約時に協議のテーブルに着くことを促す内容が盛り込まれるなど、より実情に即した運用が目指されています。
「建設業法第19条の3」とは何か?
元請負人が下請負人に対して、不当に低い請負代金で契約を強いることを禁止する、下請契約の適正化に関する条文です。
第19条が全ての建設工事請負契約の基本ルールであるのに対し、第19条の3は、特に元請と下請の間の力関係の差を背景とした不公正な取引を防止することに焦点を当てています。発注者が直接関わることは少ないですが、建設業界全体の健全性を保つための重要な規定です。なお、見積もりに必要な期間を与えなければならないことについては、第20条4項に定められています。
契約書のひな形はどこで入手できるか?
国土交通省や建設業関連団体が、法律の要件を満たした「建設工事標準請負契約約款」を公式に提供しており、誰でも無料でダウンロードできます。
国土交通省のウェブサイトで「建設工事標準請負契約約款」と検索すれば、WordやPDF形式でひな形を入手できます。これらのひな形は、法律で定められた16項目を網羅しているだけでなく、長年の実務に基づいて公正な内容となっているため、これを基に契約書を作成するのが最も安全で確実な方法といえます。
書面契約が、トラブルを防ぎ信頼関係を築く
本記事では、建設業法第19条における契約書の重要性と、その記載事項について解説しました。
工事の請負契約を書面で交わすことは、法律上の義務であると同時に、発注者と受注者双方を予期せぬトラブルから守るための最も確実な手段です。口約束に頼らず、建設業法第19条の規定を満たした正式な契約書を締結することが、建設会社との良好なパートナーシップを築き、安心して工事を進めるための第一歩といえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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