- 作成日 : 2025年12月2日
建設業法の施工体制台帳とは?作成義務となる金額や書き方、添付書類まで解説
建設工事を元請として受注し、下請業者に工事の一部を発注する際、建設業法で「施工体制台帳」の作成が義務付けられていることをご存知でしょうか。この書類は、工事の全体像を明確にし、適正な施工を確保するための非常に重要なものです。
この記事では、建設業の専門家として、施工体制台帳の作成が義務付けられる下請契約の金額、具体的な書き方、そして添付書類について分かりやすく解説します。
目次
そもそも建設業法の「施工体制台帳」とは何か?
元請負人が、工事に関わる全ての下請負人の名称や工事内容などを記載し、工事全体の施工体制を明確にするために作成・備え付けが義務付けられている書類です。(建設業法 第24条の8)
この台帳は、工事に関わる全ての業者を一覧化することで、責任の所在を明確にし、無許可業者への発注や一括下請負(丸投げ)といった違法行為を防ぐ目的があります。発注者や監督行政庁は、この施工体制台帳を見ることで、工事がどのような体制で、法律を守って適正に進められているかを確認できます。
施工体制台帳の作成義務はいつ発生するか?
発注者から直接工事を請け負った元請負人が、その工事の一部を他の建設業者に下請発注した場合に、作成義務が発生します。
作成義務が発生する下請契約の金額
- 公共工事の場合:
下請契約の金額にかかわらず、必ず作成する必要があります。 - 民間工事の場合:
下請契約の合計額が5,000万円(建築一式工事の場合は8,000万円)以上となる場合に、作成義務が発生します。
| 工事の種類 | 下請契約の合計額 | 施工体制台帳の作成義務 |
|---|---|---|
| 公共工事 | 金額にかかわらず | 必要 |
| 民間工事 | 5,000万円未満(建築一式は8,000万円未満) | 不要 |
| 民間工事 | 5,000万円以上(建築一式は8,000万円以上) | 必要 |
【注意点】
この金額は、1社への発注額ではなく、1件の工事における下請契約の合計額で判断されます。例えば、A社に3,000万円、B社に2,000万円で下請発注した場合、合計が5,000万円となり、5,000万円以上となるため、施工体制台帳の作成義務が発生します。
施工体制台帳の書き方は?
国土交通省が定める公式の様式(フォーマット)に従って、元請負人、全ての下請負人、そして工事内容に関する情報を正確に記載します。
様式のダウンロード方法
施工体制台帳の最新の様式は、国土交通省のウェブサイトから誰でも無料でダウンロードできます。「施工体制台帳 様式 国土交通省」などのキーワードで検索すると、ExcelやPDF形式のファイルが見つかります。
主な記載事項
施工体制台帳には、以下のような情報を詳細に記載する必要があります。
施工体制台帳に必要な添付書類は何か?
施工体制台帳に記載した内容が事実であることを証明するため、下請負人との契約書や、各社の建設業許可通知書の写しなどを添付する必要があります。
これらは、台帳本体と合わせて工事現場に保管し、発注者から求められた際には提示できるようにしておく必要があります。
主な添付書類一覧
- 元請負人と全ての下請負人との間で締結した請負契約書の写し
- 全ての下請負人の建設業許可通知書の写し
- 2次以下の下請契約がある場合、各下請負人から提出された再下請負通知書
- 元請負人が注文住宅を建設する場合、下請負人が宅地建物取引業者であるときは、その免許証の写し
- 下請負人が主任技術者を設置する場合、その資格を証明する書類(免許証など)と、自社との雇用関係を証明する書類(健康保険被保険者証など)の写し
※添付書類の最新の要件については、国土交通省のガイドラインや、発注者である各行政機関の指示を必ずご確認ください。
施工体制台帳の作成を怠った場合の罰則は?
施工体制台帳の作成義務を怠ったり、虚偽の記載をしたりした場合、建設業法違反として監督行政庁(国土交通大臣や都道府県知事)から指示処分や営業停止命令といった重い行政処分を受ける可能性があります。
施工体制台帳の作成は、建設業法で定められた元請負人の重要な義務です。この義務の不履行は、適正な施工体制の確保を怠ったと見なされ、厳しいペナルティの対象となります。
具体的には、まず是正を求める「指示処分」が下され、それに従わない場合や違反が悪質である場合には、最長1年間の「営業停止命令」が下されることもあります。これらは企業の信頼と経営に直接的な打撃を与える、非常に重い処分です。
適正な施工体制の構築と記録が、元請の責任
本記事では、建設業法における施工体制台帳について、その作成義務から書き方、添付書類までを解説しました。
施工体制台帳は、単なる事務書類ではなく、元請負人が工事全体の責任者として、適法かつ適切な施工体制を構築していることを証明するための重要な証拠です。特に公共工事や大規模な民間工事を受注する元請負人にとって、この台帳の正確な作成と管理は、法令遵守と企業の信頼性を保つ上で不可欠といえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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