- 作成日 : 2025年12月2日
建設業法の専任技術者違反とは?罰則や違反事例、発注者が知るべきリスクまで解説
建設工事を発注する際、その建設業者が適正に「専任技術者」を配置しているかは、企業の技術力とコンプライアンスを測る上で非常に重要な指標です。この専任技術者の不在や名義貸しといった違反行為は、建設業法における最も重い罰則の一つである、営業停止や許可取消しに直結します。
この記事では、建設業の専門家として、どのような行為が専任技術者違反にあたるのか、その罰則や具体的な違反事例、そして工事を発注する皆様が知っておくべきリスクについて、分かりやすく解説します。
目次
そもそも建設業法の「専任技術者」とは何か?
各営業所に常勤し、請負契約の適正な締結や履行を技術的な側面から保証する、建設業許可の取得・維持に不可欠な技術責任者のことです。(建設業法 第7条第2号、第15条第2号)
建設業の許可は、工事を適正に行うための技術力があることを証明しなければ取得できません。専任技術者は、その技術力の中核を担う存在として、許可を受けたい業種ごとに、すべての営業所に常勤で配置することが義務付けられています。
主任技術者・監理技術者との違い
混同されがちですが、役割が異なります。
- 専任技術者: 営業所に所属し、契約や見積もりなど、営業活動全体を技術的に支える役職。
- 主任技術者/監理技術者: 個別の工事現場に配置され、施工管理を行う現場の技術責任者。
どのような行為が専任技術者に関する違反となるか?(違反事例)
主に「不在(未設置)」「名義貸し」「常勤性の欠如」の3つのケースが、代表的な違反事例です。これらは、国土交通省が公表する監督処分事例でも頻繁に見られます。
① 専任技術者の不在(未設置)
資格を持つ技術者が退職したにもかかわらず、代わりとなる後任者を配置せずに営業を続け、許可を維持している状態です。これは、許可の根幹となる技術的要件を満たしていない、最も基本的な違反です。
② 名義貸し
実際にはその会社で全く勤務していない、あるいは既に関わりのない技術者の名前だけを借りて、あたかも在籍しているかのように偽って許可を申請・維持する行為です。これは極めて悪質な違反行為と見なされます。
③ 常勤性の欠如(非専任)
専任技術者として登録されている人物が、他の会社の代表取締役を兼務していたり、勤務地である営業所から著しく離れた場所に居住していて、常識的に毎日通勤することが不可能であったりする場合など、常勤性が認められないケースです。専任技術者は、その営業所の営業時間中は、原則として常時勤務している必要があります。近年ではICTを活用し、常時連絡が取れる等の一定の要件を満たせばテレワークが認められる場合もあります。しかし、実態として管理ができていない場合は違反となります。
専任技術者違反にはどのような罰則があるか?
監督行政庁(国土交通大臣または都道府県知事)による指示処分、1年以内の営業停止、そして最も重い建設業許可の取消しといった、段階的な行政処分が科されます。
行政処分(指示・営業停止・許可取消し)
建設業法第28条および第29条に基づき、違反の悪質性や情状に応じて、以下の処分が下されます。
- 指示処分: まず、違反状態を是正するように行政から指示が出されます。
- 営業停止命令: 指示に従わない場合や、違反が悪質である場合(特に名義貸しなど)、公共の利益を害すると判断されると、1年以内の期間を定めて営業の全部または一部の停止が命じられます。
- 許可の取消し: 営業停止処分に違反した場合や、不正な手段で許可を受けたことが判明した場合など、最も重い処分として建設業許可が取り消されます。
これらの処分は、企業の事業継続に致命的な影響を与える、非常に厳しいものです。
刑事罰の可能性
許可申請の際に、専任技術者がいるように装うなど虚偽の申請を行った場合、建設業法第50条に基づき「6ヶ月以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」という刑事罰が科される可能性もあります。
違反が発覚する経緯は?
行政による定期的な立入検査や、元従業員・取引関係者などからの内部告発(通報)によって発覚することが多いです。
建設業法違反に関する調査は、警察ではなく、主に国土交通省や都道府県といった監督行政庁が行います。告発や通報をきっかけに、事前の通知なく営業所に立入検査が行われ、雇用関係の書類や出勤簿、契約書などの確認を通じて違反の事実が調査されます。
発注者として知っておくべきリスクは何か?
契約した建設業者が行政処分を受けることによる工事の中断リスクや、コンプライアンス違反の業者と取引していたことによる自社の信用の低下が挙げられます。
工事の遅延
建設業法上、営業停止処分を受けても、処分前に契約済みの工事については施工を継続・完成させることが認められています(建設業法 第29条の3)。しかし、発注者にはこの事実を知った日から30日以内であれば、無条件で契約を解除できる権利が与えられます。これにより、工期の大幅な遅延はもちろん、代わりの業者を探すための追加の時間とコストが発生する可能性があります。
品質への懸念と信頼性の問題
そもそも専任技術者が適正に配置されていないということは、その会社の技術的な管理体制に不備があることを意味します。これは、工事の品質に問題が生じるリスクが高い状態といえます。
また、例えば500万円以上の許可が必要な工事を、専任技術者違反によって実質的に無許可状態となっている業者に発注していたという事実は、発注者側の業者選定や管理体制の甘さを問われ、自社の社会的信用に影響を与える可能性もゼロではありません。
適正な技術者配置が、信頼できる工事の最低条件
本記事では、建設業法における専任技術者の違反について、その事例や罰則、発注者側のリスクを解説しました。
専任技術者の適正な配置は、建設業許可の根幹をなす、企業の技術力とコンプライアンス意識の表れです。不在や名義貸しといった違反行為は、営業停止や許可取消しという、企業の存続を揺るがすほどの重い罰則に直結します。
発注者の皆様も、自社の重要なプロジェクトを安心して任せるために、取引先の建設業者がこうした基本的なルールを遵守しているかを確認する視点を持つことが、結果として自社の事業を守る上で不可欠といえるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
バックオフィス業務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
建設業許可を取得するには?必要な種類、500万円の基準、取得条件から更新まで解説
建設業許可は、建設業を営む上で法令遵守と社会的信用を得るための重要な資格です。一定規模以上の工事を請け負うには、この許可を必ず取得しなければなりません。 この記事では、建設業の専門家として、建設業許可とは何か、どのような種類があるのか、そし…
詳しくみる建設工事の見積期間はどれくらい設けるべきか?建設業法上のルール、土日の扱いや罰則まで解説
建設工事を発注する際、建設業法で定められた「見積期間」を建設会社に提供する義務があることをご存知でしょうか。このルールを知らずに短い期間で見積もりを要求してしまうと、トラブルの原因となったり、法律に抵触したりする可能性があります。 この記事…
詳しくみる建設業法の「500万円の壁」とは?許可不要の工事、分割契約の違法性や抜け道のリスクまで解説
建設工事を発注する際によく耳にする「500万円」という金額。これは、建設業法において、建設業の許可を持つ業者でなければ請け負うことができない工事と、許可がなくても請け負える「軽微な建設工事」とを分ける、非常に重要な基準額です。 この記事では…
詳しくみる建設業法第7条第2号イロハとは?専任技術者の実務経験要件と15条との違いを解説
建設業の許可を取得する際に必ず登場する「建設業法第7条第2号イロハ」という言葉。これは、建設業の一般許可における「専任技術者」の資格要件のうち、国家資格ではなく実務経験に関する規定を指すものです。 この記事では、建設業の専門家として、この少…
詳しくみる1級建築施工管理技士の実務経験証明書の書き方は?記入例と注意点を解説
1級建築施工管理技士は、建設プロジェクトにおいて施工計画から品質管理、安全管理まで多岐にわたる業務を統括する、非常に重要な国家資格です。この資格を取得することは、キャリアアップはもちろんのこと、建設業界における自身の市場価値を高める上で非常…
詳しくみる建設工事の契約書で建設業法第19条が重要なのはなぜか?16の記載事項やひな形、改正内容まで解説
建設工事を発注する際、建設業法第19条は、工事の大小にかかわらず全ての建設工事で書面契約を義務付け、記載すべき16項目を定めた、トラブル防止の根幹となる条文です。 この記事では、建設業法第19条の重要性、法律で定められた具体的な記載事項、契…
詳しくみる