「支払はステーブルコインで」―海外の取引先や拠点から求められたら?

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電子帳簿保存法インボイス制度、新リース会計基準。ここ数年、経理財務部門は次々と「制度変更への対応」を迫られてきました。しかし、経理部門をはじめとするバックオフィス担当者が気づきにくい変化が、決済インフラの領域で静かに起きています。それが「ステーブルコイン」です。

「ステーブルコインは暗号資産でしょ?」とお考えの方も多いかもしれません。現在、ステーブルコインは海外の取引先やグループ企業間での決済手段として注目が高まっています。ステーブルコインの本質は、投機的な暗号資産ではなく、「より速く・安く・プログラマブルな決済手段」です。銀行振込や国際送金という、経理財務部門が毎日使っている決済インフラそのものの変革が起きつつあります。

電子帳簿保存法やインボイス制度は「制度が先に来て、現場がそれに対応する」という順序でしたが、ステーブルコインに関しては少し異なります。ビジネスの現場が先に動き、制度・会計基準が後を追う形で変化が進んでいます。

※本記事はステーブルコイン・デジタル通貨に関するビジネスにおける気づきを提供するものです。個別の投資・会計・税務判断については、監督官庁の最新情報を参照いただくとともに専門家にご相談ください。

【執筆者】
株式会社マネーフォワード
ERPドメインリサーチャー
合江 篤

2019年に株式会社マネーフォワードに入社。Fintech研究所にて金融制度、年金制度、海外金融サービス動向を中心とする調査研究をはじめ、弊社Fintech研究所Blogにおける海外Fintech企業の動向の発信や、金融財政事情などの金融専門誌への寄稿などを行う。

2022年から電子帳簿保存法・インボイス制度対応など法制度関連のマーケティング施策に従事。2024年12月からERPマーケティング本部にて企業のバックオフィス業務効率化・DXを推進する取り組みや、企業の経理・財務領域を中心としたバックオフィスパーソンへの情報発信を行っている。

なぜ今、「決済インフラ」が再注目されるのか

銀行振込で海外に送金する場合、複数の銀行を経由するため手数料がかかり、着金までに数日を要することもあります。2015年前後からは米国や英国を中心に「ノンバンク」と呼ばれる新興の金融サービスを提供する企業などによって、企業間や個人間の決済コストを削減するサービスの潮流がみられました。一方でこれらのサービスを国際的な企業間取引の決済手段として活用する実例は限定的でした。

ステーブルコインは法定通貨に価格を連動させた(たとえば「1コイン=1ドル」に固定した)デジタル通貨であり、ブロックチェーン上で決済情報が移転するため、送金が数分・1ドル未満で完了します。価格変動を前提とした暗号資産ではなく、「デジタルのお金を送る技術」として機能することが特徴です。

米国のある金融機関の調査によると、過去値ではあるが2025年におけるステーブルコインの発行額は2,800億ドルに増加するとしており、2030年には総発行額が1.9兆ドル以上になると見込まれています。ステーブルコインを商取引や現実世界で決済手段として利用する場面は今後も増えそうです。

制度整備における日米の対比

ステーブルコインの法整備について、日本は遅れているというイメージを持つ方もいるかもしれません。

しかしながら、日本は2022年に資金決済に関する法律(資金決済法)を改正し、法定通貨担保型のステーブルコインを「電子決済手段」と定義しました。投機性の強い「暗号資産」とは法的に区別するという枠組みを、日本は欧州とともに主要国に先駆けて整備した国のひとつです。この法律は2023年6月に施行されています。(※1)

一方の米国では、長年にわたって連邦レベルでの法的な枠組みが存在しませんでした。2025年7月に米国初の包括的なステーブルコイン連邦規制の枠組みとなる「GENIUS法」が確立された経緯があります。

ステーブルコインの普及という観点では、GENIUS法の成立こそがマイルストーンになるとの意見もあります。世界のステーブルコイン市場の99%以上が米ドル建てで流通していることがその背景にあると考えられます。(※2)今後は法的な枠組みが整ったことで、グローバル企業が本格的に導入を進める土台が整ったといえるでしょう。

海外では「決済インフラ」として使われ始めている

GENIUS法の成立を受け、米国・欧州の企業財務の現場では実装フェーズへの移行が始まっています。米国の企業で注目されている「ステーブルコインの活用メリット」について、3つの観点で見てみましょう。

① クロスボーダーB2B決済のコスト削減

海外取引先への支払いにステーブルコインを活用するケースが増えています。あるコンサルティングファームの調査によると、従来の国際送金と比べ、利用企業の41%が少なくとも10%のコスト削減を達成したというデータがあります。

② グループ企業間における決済の効率化

複数国に拠点を持つ企業では、子会社間の決済などにステーブルコインを活用することができます。従来は各国の銀行口座を事前に資金で満たしておく必要がありましたが、ステーブルコインを使えばリアルタイムに資金を移動させることができます。営業時間外・週末でも送金できる点も、グローバルな財務管理にとって大きなメリットです。

③ ERPと決済の自動連携

ステーブルコインによる決済は日常の支払業務だけではなく、ERPシステムとの連携を行うことで、ERPシステム側でワークフローの承認が完了したと同時に、その後の決済実行を、別の銀行ポータルにログインせずに完了させることが可能です。決済インフラがAPIで直結することで、手動での転記やデータ整合確認といった作業を削減できます。

日本の経理財務部門に「波」が来ている

先ほど述べたステーブルコインの活用に関する潮流は「海外の話」だけではなく日本国内でも動きがみられます。

2025年3月、SBI VCトレードを通じてドル建てステーブルコイン「USDC」の国内流通が始まりました。国内企業から海外取引先にUSDCでの支払い、あるいはUSDCで受け取るということが現実的な選択肢になりつつあります。(※3)

また同年10月、JPYC社が日本初の円建てステーブルコイン「JPYC」の発行を開始しました。1JPYCは1円との交換が保証されており、発行から約5カ月で累計発行額は21億円を突破、直近3カ月で約2.6倍のペースで成長しています。(※4)企業間送金や決済への応用も始まっています。

さらに注目しておきたいのが、グループ会社や海外の取引先が先に動くシナリオです。グローバルに展開する企業の海外拠点や取引先が先行し、「ステーブルコインで送金したい」「USDC決済に対応してほしい」という要望が来たとき、経理部門に知識がなければ対応できません。

「決済インフラの変化」として見たとき、経理財務部門に何が問われるか

ステーブルコインを「決済インフラの話」として捉え直すと、経理財務部門が問われることがみえてきます。

会計処理に関する法制度はまだ整備中

日本では法定通貨担保型のステーブルコインは「電子決済手段」として暗号資産とは法的に区別されていますが、貸借対照表上は「現金及び預金」ではなく「電子決済手段」として独立した科目で計上することが想定されています。なお、キャッシュ・フロー計算書上は現金として取り扱うことが、企業会計基準委員会によって2023年11月に公表されました。

企業会計基準委員会は2023年11月に実務対応報告第45号を公表しており(※5)、取得時は受渡日に券面額をもって資産計上し、期末時も券面額で貸借対照表に計上するという基本的な取扱いが定められています。ただし『現金及び預金』ではなく『電子決済手段』として独立した科目で計上することが想定されており、また2026年の法改正への対応など追加の整備は継続して審議されています。

記録・証跡の設計が問われる

ブロックチェーン上の取引記録は、オンチェーン(ブロックチェーン上)で公開・保存されますが、それをどのように社内の会計記録と紐付けるか、電子帳簿保存法上どう扱うかといった設計は、実務として考えておく必要がありそうです。

今から準備しておくべきポイント

「すぐに導入しなければならない」という段階ではありません。ただし「何も知らない」では、変化が来たときに対応できなくなります。今から意識しておく価値があることを整理します。

① 「電子決済手段」と「暗号資産」の区別を押さえる

この区別が、会計・税務処理の出発点になります。「デジタルのお金は全部暗号資産」という認識は、すでに正確ではありません。

② 会計基準の動向をウォッチする

企業会計基準委員会の動向を定期的に確認しておくことが大切です。基準が固まってから慌てるよりも、方向性を早めに把握しておく方が社内への説明もスムーズになります。

③ 自社の取引フローを「ステーブルコインが来たら」で棚卸する

海外取引や海外グループ会社との資金移動がある企業であれば、「もしステーブルコインで支払いが来たら、どの勘定科目で処理するか」「送金記録はどう管理するか」を一度考えておく価値があります。制度が整ってから考えるのではなく、仮説を持っておくことが業務対応における取り掛かりのスピードに影響します。

おわりに:「制度が来てから動く」では間に合わない可能性も

電子帳簿保存法もインボイス制度も、施行直前になって慌てて対応した企業も多かったのではないでしょうか。ステーブルコインをめぐる変化は、それとは少し性質が違います。制度より先に、ビジネスの現場が動いています。

決済インフラの変化は、経理部門が「処理する取引の種類」を変えます。仕訳・証跡管理・資金繰り計算のあり方にも、徐々に影響が及ぶとみられ、今一度「決済インフラの話」として向き合う価値がありそうです。

【出典・参考文献】
※1 出典:金融庁『金融審議会 第1回 暗号資産制度に関するワーキング・グループ 資料4「暗号資産制度について」』(金融庁、2025年)4頁、https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/angoshisanseido_wg/gijishidai/20250731/04.pdf(最終閲覧日:2026年7月15日)
※2 出典:公益財団法人 国際通貨研究所『国際通貨研レポート 中央銀行デジタル通貨とステーブルコイン 競合か共栄か』(公益財団法人 国際通貨研究所、2025年)4頁、https://www.iima.or.jp/docs/newsletter/2025/nl2025.46.pdf(最終閲覧日:2026年7月15日)
※3 出典:SBI VCトレード株式会社「【国内初】ユーエスディーシー(USDC)一般向け取扱い開始のお知らせ」『SBI VCトレード株式会社 公式サイト』、2025年3月25日、https://www.sbivc.co.jp/newsview/2mjic5dcvjtv(最終閲覧日:2026年7月15日)
※4 出典:JPYC株式会社「日本円ステーブルコイン「JPYC」、シリーズB 2ndクローズ 28億円を追加調達」『JPYC株式会社 企業サイト』、2026年4月20日、https://corporate.jpyc.co.jp/news/posts/series-b-second-close(最終閲覧日:2026年7月15日)
※5 出典:企業会計基準委員会「実務対応報告第45号「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い」等の公表」『企業会計基準委員会公式サイト』、2023年11月17日、https://www.asb-j.jp/jp/practical_solution/y2023/2023-1117.html(最終閲覧日:2026年7月15日)

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