スキャナ保存の対象・要件・運用方法をおさらい|本当に対応できている?電帳法対応の再点検⑤

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前回に引き続き、電子帳簿保存法における「スキャナ保存」を取り上げます。今回は、スキャナ保存の要件を中心にご説明します。

なお、こちらで記載している要件は、令和5年度の税制改正による改定後の要件(2024年1月1日以降の要件)となっていますのでご留意ください。

スキャナ保存とは

スキャナ保存とは、取引の相手方から受領もしくは自分で作成した紙面の証憑を、スキャナ機器を使用して電子データに変換し、それを保存することをいいます(紙面の方は破棄します)。ここでの証憑とは、領収書請求書、契約書といった書類を指します。

スキャナ機器には、スキャン専用機や複合機のスキャナ機能を利用します。デジタルカメラやスマートフォンのカメラ機能も利用可能です。

スキャナ保存は、紙面のものを電子データに変換して保存する点に大きな特徴があります。変換点において不正や誤謬が発生する可能性が高いと考えられていることから、それを防止するための規制が多く設けられています。

スキャナ保存の対象

スキャナ保存の対象は、領収書、請求書、契約書といった証憑書類です。

貸借対照表損益計算書仕訳帳総勘定元帳といった決算書類や帳簿書類はスキャナ保存の対象になりません。これらの書類は電子帳簿保存法の別カテゴリで電子保存の対象になっています。

スキャナ保存の対象書類は、「重要度」によって以下の3つに分けられ、運用上、「重要書類」と「一般書類」の2つに分類されています。


国税庁「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】問2」 から抜粋して作成

スキャナ保存の要件

主な要件として、以下の8つがあります。

1.入力期間の要件

請求書などの書類を取引先から受領したあと、それをスキャンして会計システムに登録(電子帳簿保存法ではこれを「入力」と表現しています)するまでの期間のことを、入力期間と呼んでいます。

つまり、取引先から受け取ってからいつまでに登録を完了させなければいけない、という要件です。

重要書類と一般書類に分けて規定されています。

(1) 重要書類
重要書類については、2つの方式が認められています。

① 早期入力方式
受領後、速やかに(おおむね7営業日以内に)行う方式です。

② 業務処理サイクル方式
受領後、業務の処理に係る通常の期間(最長で2か月)を経過した後、速やかに(おおむね7営業日以内に)行う方式です(合わせて、最長で2か月+7営業日)。ただし、業務の処理(受領から入力までのそれぞれの事務処理)に関する規程を会社として定めておくことが必要です。

通常は、②の方式が採用されます。

(2) 一般書類
重要度が低い一般書類については、「適時に入力」、すなわち、入力期間の制限なく入力することができます。

2.スキャナの機能

解像度が200dpi以上、カラーでスキャンできること、という要件です(一般書類についてはグレースケールでも可)。現在市販されているスキャナ機器やスマートフォンであれば問題なく要件を満たすと考えられます。

3.タイムスタンプの付与

タイムスタンプとは、ある時刻にその電子データが存在していたことと、それ以降改ざんされていないことを証明する技術です。

タイムスタンプに記載されている情報とオリジナルの電子データから得られる情報を比較することで、タイムスタンプの付された時刻から改ざんされていないことを確実かつ簡単に確認することができます。

タイムスタンプを付与する方法は、1.との関連で、以下の2つの方式が認められています。

①早期タイムスタンプ付与方式
受領後、速やかに(おおむね7営業日以内に)タイムスタンプを付与する方式です。

②業務サイクルタイムスタンプ付与方式
受領後、業務の処理に係る通常の期間(最長で2か月)を経過した後、速やかに(おおむね7営業日以内に)タイムスタンプを付与する方式です(合わせて、最長で2か月+7営業日)。

ただし、業務の処理(受領から入力、タイムスタンプ付与までのそれぞれの事務処理)に関する規程を会社として定めておくことが必要です。

なお、タイムスタンプは下記の要件を満たすものが必要となっています。

  • 保存したデータが変更されていないことを確認できること
  • 任意の期間を指定して一括で検証できること

タイムスタンプについては、例外規定があります。第三者が提供するシステム上に同等の機能(保存日時、改ざん有無の確認)が備えられている場合には、タイムスタンプは不要となります。

この点については電子帳簿保存法取扱通達で細かく説明されていますので必要に応じてご参照ください。

4.訂正情報を保持できること

いったん保存した情報を訂正または削除できないこと、もしくは、訂正または削除した場合、その情報(ログ)がシステム上残され、あとから確認できることが必要となります。

5.帳簿との関連性を保持しておくこと

重要書類について、スキャンした書類とそれに関連する帳簿との間で、相互にその関連性を確認できるようにしておく必要があります。通常、スキャンした書類は何らかの仕訳もしくは補助記録と結びつけて保存されますので、そのような仕組みが整っていれば問題ありません。

6.閲覧環境の整備

パソコン、ディスプレイ、プリンタとそれらの操作説明書を備え付け、速やかに出力できる状態にしておく必要があります。

7.検索機能の確保

下記の要件が必要となります。

① 取引年月日、取引金額、取引先名称を検索条件として設定できること
② 日付または金額について、範囲指定ができること
③ 2つ以上の項目の組み合わせで検索できること

なお、税務調査時にデータを提出できるようにしている場合には、①のみが必要な要件となります。

会計システムにこれらの検索機能が備わっている場合は、それを利用することで問題ありません。なお、取引先名称はスキャンした画像データ上で確認できるだけでは不十分ですので、会計システム上にテキストデータで入力しておく必要があります。

8.会計システムの関連書類の備付け

下記の書類の備付けが必要となります。

① システムの概要書
② システムの開発関係書類(仕様書、設計書など)
③ システムの操作説明書
④ スキャナ保存に関する事務手続を明らかにした書類

他社が開発した会計システムを使用している場合は上記の①および②は除かれます。会計システムの使用を他者に委託している場合は③が除かれます。④に該当する書類は会社で作成しておく必要があります。

スキャナ保存の運用方法

このように、スキャナ保存については要件が多数定められています。運用面では、受領から登録までを期限内に完了させるプロセスを確立することや、それを規程化しておくことが必要になります。

また、システム面ではスキャナ保存の要件に合致した会計ソフトやスキャナ機器を利用する必要があります。

とくに、タイムスタンプ(同等機能を含む)や検索機能、帳簿との関連性の確保については会計システムの仕様が重要になると考えられます。

最近では会計システムと連動する経費精算システムなどがリリースされていますので、スキャナ保存を運用する際には、これらを一体として利用することもお勧めです。

まとめ

電帳法の規定の一つである「スキャナ保存」の要件を紹介しました。スキャナ保存の利用により情報を電子化することのメリットはかなり大きいと考えられます。ただし、要件が厳格に定められていますので、導入の際には慎重な検討が必要です。

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