- 更新日 : 2025年10月6日
M&A業務に必要な資格とは?選び方や学習方法を解説
M&Aに携わるうえで「資格は必要なのか?」「どの資格を取るべきか」と疑問を抱く人もいるでしょう。実際にM&Aの実務に必須となる資格は存在しませんが、基礎知識の習得やスキルの証明、顧客からの信頼性向上を目的に多くの人が関連する資格取得を目指しています。
本記事では、M&Aに携わるうえで代表的な資格の特徴をはじめ、関連資格や目的別の選び方、学習方法について紹介します。
目次
M&A業務における資格の必要性とその理由
M&Aの実務において、資格は必須条件ではありません。一方で、資格を取得することで知識やスキルを客観的に証明でき、顧客や取引先からの信頼を得やすくなります。
また、試験勉強を通じて法務・会計・税務など幅広い分野を体系的に学べるため、実務スキルの底上げにもつながります。
M&Aは複数の専門分野にまたがるため、資格はあくまで補助的に活用し、実務での経験と組み合わせることが望ましいでしょう。
M&A業務の理解を深められる
資格学習では、M&Aの基礎から法務・会計・税務まで一通りを体系的に学べます。これにより、実際に案件に関わった際の理解がスムーズになり、教育コストの削減や早期の戦力化にもつながります。
さらに、資格は知識習得の証明としても有効であり、社内や転職市場において「必要な基礎知識を持っている人材」と認識されやすいです。とくに若手や異業種からの転職希望者にとっては、学習意欲やスキルをアピールできる有力な材料になるでしょう。
依頼者側からの信頼が得られやすい
M&Aをはじめて経験する経営者や中小企業オーナーは、専門性が見えにくい相手に不安を抱きやすい傾向があります。資格を持っていれば、実務知識と誠実な対応力を備えた人材としての証明となり、信頼関係を築きやすくなります。
条件交渉や契約締結といった重要な場面でも「有資格者」として関与することで相手から専門家として認められやすく、交渉もスムーズに進めやすいでしょう。
資格は、まだ実績を語れない段階でも専門性を示せる看板として役割を果たします。初対面の人との信頼構築や顧客・取引先から安心感を得られるきっかけとして有効です。
代表的なM&A関連の資格一覧
M&Aに関連する資格はいくつか存在しますが、その中でもとくに代表的なのは以下の3つです。
- M&Aエキスパート認定資格
- M&Aスペシャリスト資格
- JMAA認定M&Aアドバイザー
これらはすべて民間資格であり、M&A業務を行ううえでの必須資格ではありません。しかし、いずれもM&A業務に必要な知識を体系的に学べ、専門性や信頼性を客観的に示せる点で評価されています。
M&Aエキスパート認定資格
M&Aエキスパート認定資格は、M&Aに必要な基礎知識を体系的に学べる入門資格として位置づけられています。
項目 | 内容 |
---|---|
運営団体 | 一般社団法人金融財政事情研究会/日本証券アナリスト協会 |
受験資格 | 誰でも受験可能 |
試験科目 | M&A概論・関連法規・会計・税務など |
認定条件 | 金融業務2級「事業承継・M&Aコース」の合格が必須 |
資格区分 | エキスパート→シニアエキスパート |
認定を受けるには「金融業務2級 事業承継・M&Aコース」に合格する必要があり、誰でも受験可能です。
試験範囲はM&A概論、関連法規、会計・税務など幅広く、合格後は「エキスパート」として認定されます。さらに実務経験を積むことで、「シニアエキスパート」にステップアップも可能です。
M&Aスペシャリスト資格
M&Aスペシャリスト資格は、実務経験者向けの内容が多い傾向です。M&A現場でスキルをさらに高めたい人や、資格を通じて専門性を継続的に磨きたい人に適しています。
項目 | 内容 |
---|---|
運営団体 | 一般社団法人日本経営管理協会(JIMA) |
受験資格 | 誰でも受験可能 |
取得方法 | 検定試験合格+入会申請書提出+審査 |
更新制度 | 毎年の研修受講+3年ごとの更新 |
難易度 | 実務経験者向けでやや高め |
資格取得後も、毎年の研修受講や3年ごとの更新が義務づけられているため、資格を持っていること自体が「最新の知識と実務能力を維持している証明」となります。
受験資格に制限はなく、検定試験に合格したうえで「JIMA入会申請書(兼職務経歴書)」を提出し、協会資格審査委員会の承認を受けると認定される仕組みです。
JMAA認定M&Aアドバイザー
JMAA認定M&Aアドバイザーは、誠実かつ堅実に職務を遂行できるアドバイザーの育成を目的とした資格です。取得には講座の受講と試験合格に加え、JMAA正会員として入会することが必要です。
項目 | 内容 |
---|---|
運営団体 | 一般社団法人日本経営管理協会(JIMA) |
受験資格 | 誰でも受験可能 |
取得方法 | 講座受講+試験合格+正会員入会 |
更新制度 | 会員制度にもとづく継続学習あり |
特徴 | 実務に直結、顧客対応力を証明できる |
資格取得後も会員制度を通じて定期的な研修や学習があり、常に最新の知識を身につけられます。最新の動向に対応できる知識を備えている人材であると、実際の面談や交渉の場でもアピールできるでしょう。
その他のM&A業務に役立つ資格
M&Aの現場では、固有資格だけでなく、法務・税務・会計・人事労務といった幅広い分野の専門家が関与します。
主な資格の役割や活用シーンは、以下のとおりです。
資格名 | 主な役割 | M&Aにおける活用シーン |
---|---|---|
弁護士 | 契約書作成 法務デューデリジェンス 紛争対応 | 契約交渉 表明保証条項の確認 コンプライアンス対応 |
税理士 | 税務DD 組織再編税制の設計 | 事業譲渡の税務影響 事業承継税制の活用 |
司法書士 | 登記手続き 株式移転関連業務 | M&A後の会社登記 役員変更登記 |
公認会計士 | 財務DD 企業価値評価 監査対応 | 財務分析 のれん算定 監査的レビュー |
社会保険労務士 | 労務管理 制度統合支援 | PMIにおける人事制度・就業規則統合 |
事業承継士 | 事業承継全般の支援 後継者育成 | 中小企業の事業承継型M&A案件 |
ファイナンシャルプランナー | 相続 資産承継のコンサルティング | オーナー個人の相続や資産承継に関連するM&A |
とくに中小企業の事業承継案件では、弁護士や会計士、税理士などの士業が加わることで、取引の信頼性や安全性が大きく高まります。
さらに、事業承継士やファイナンシャルプランナーといった資格も、オーナー経営者の課題解決や相続・資産承継の支援に役立つため、重宝される資格といえるでしょう。
M&A資格の選び方
M&Aに関連する資格は種類が多く、内容や学習負担が大きく異なります。そのため、自分の立場やキャリアの方向性を踏まえて、もっとも効果的な資格を選ぶことが重要です。
M&A業務で役立つ資格を選ぶ目安は、以下のとおりです。
目的 | 適した資格 | 学習時間/難易度 |
---|---|---|
転職目的 |
| 【M&Aエキスパート】 学習時間:100〜150時間(経験者は50〜70時間程度) 難易度:初心者向け/合格率高め 【公認会計士】 【税理士】 |
実務での活用 |
| 【M&Aスペシャリスト】 学習時間:200時間程度 難易度:実務経験者向け・やや高難度 【JMAA認定M&Aアドバイザー】 |
中小企業の経営者・後継者・承継支援専門家向け |
| 受験資格が税理士・会計士・弁護士・司法書士など国家資格保有者のみのため、難易度高 |
M&A資格を取得するための学習方法
M&A資格取得の学習方法は、人によって向き不向きがあります。大切なのは、自分のライフスタイルや目的に合わせて方法を選び、無理なく継続することです。
独学でコストを抑えて取り組む人もいれば、資格予備校に通って体系的に学ぶ人もいるでしょう。また、近年はオンライン学習の選択肢も増え、場所や時間を選ばず効率的に学べる環境が整っています。
次項では、M&A資格を取得するための学習方法について解説します。
- 独学
- 資格予備校
- オンライン学習
独学
独学は公式テキストや過去問題集を中心に、自分のペースで学習を進める方法です。受験料とテキスト代程度で済み、学習内容も自分のスケジュールに合わせて柔軟に調整できます。
出題範囲が体系化されている資格に向いており、費用を抑えられる点が大きなメリットです。一方で、自己管理力が必要だったり、疑問点を質問できない点がデメリットといえます。
資格取得までの道のりを自力で乗り越えられる自信がある人にとっては、効率的な選択肢となるでしょう。
資格予備校
資格予備校に通う方法は、専門講師の指導を受けながらM&Aの基礎から実務まで体系的に学べる点が魅力です。
試験対策のカリキュラムが整っており、効率的に合格を目指せます。さらに、同じ目標を持つ仲間と学べるので、モチベーションも維持しやすいです。
一方で、受講料が数万円から十数万円と高額になりやすく、通学に時間もかかります。仕事や家庭と両立している人にとっては、スケジュール調整が課題となるでしょう。
短期間で集中的に学びたい人や、直接質問しながら理解を深めたい人にとって効果的な選択肢といえます。
オンライン学習
オンライン学習は、動画講座やeラーニングを使って自宅や移動中に学習できる方法です。時間や場所を選ばないため、忙しい社会人でも取り入れやすいのが魅力です。
費用も安価で数千円から数万円程度で受講できます。スマホやPCを活用してスキマ時間でも学習に充てられます。
一方で、自習形式のため強制力が弱く、サービスによって教材の質に差があることや、試験傾向が十分に反映されていないケースがある点には注意が必要です。
自主性を持ってコツコツ学べる人にとっては、有効な学習手段となるでしょう。
M&A資格に関するよくある質問
M&Aに関する資格は年々注目度が高まっていますが、「資格は必須なのか」「仲介業務に必要なのか」「転職で有利になる資格はあるのか」といった疑問を抱く人もいるでしょう。
法律で取得が義務づけられている資格はありませんが、スキルの証明や信頼性を高められる観点から役立つ場面が多くあります。
ここでは、M&A資格取得に関する代表的な質問に答えていきます。
M&A業務を行ううえで資格取得は必須ですか?
M&Aを行うにあたって、法律上必須となる資格は存在しません。弁護士や税理士のように、業務独占資格が定められているわけではないため、資格がなくても業務に関わることが可能です。
ただし、M&Aに必要な基礎知識を体系的に学んだ証明として資格取得は有効です。とくに、初心者や未経験の人にとっては一定の理解度を示せる指標となり、取引先や社内からの信頼を得やすくなります。
資格取得を通じて学んだ知識は、業務に携わる際にも役立つでしょう。
M&A仲介業務を行ううえで資格取得は必須ですか?
M&A仲介業務とは、会社を売りたい側と買いたい側をつなぎ、条件交渉や契約締結までを支援する仕事です。
現状では、この仲介業務に資格は必須ではありません。しかし、M&Aエキスパート認定資格やM&Aスペシャリスト資格のように、法務・税務・財務・交渉などの知識を体系的に学べる資格は、スキルの証明として役立ちます。
また、資格を持っていることで顧客からの信頼性が高まり、実務で活用できる場面も増やせます。国や業界団体で仲介資格制度の導入が検討されており、資格の保有が今後のキャリア形成における強みになる可能性もあるでしょう。
M&A業界への転職に有利な資格はありますか?
M&A業界への転職では、M&Aエキスパート認定資格や事業承継士などの民間資格に加え、公認会計士・税理士・弁護士といった国家資格が評価されやすいです。
これらの資格は、財務・法務の専門知識があることを示せるだけでなく、案件対応力を証明する材料にもなります。
とくに、金融や会計業界からのキャリアチェンジを考える人には、転職活動を有利に進められる要素になるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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