- 作成日 : 2025年9月9日
最終契約とは?最終契約書の項目や作成手順を解説
企業の買収や合併において、交渉の集大成となるのが最終契約の締結です。デューデリジェンスを経て条件が固まり、いよいよM&Aが実現に向けて動き出す重要な節目となります。
しかし、最終契約書(DA)は法的拘束力を持つ重要な文書であり、その内容次第でM&A後の成否が左右されることもあります。この記事では、最終契約の基本概念から具体的な作成手順、注意すべきポイントまでを解説します。
目次
最終契約とは?
最終契約とは、M&Aに関する最終的な合意内容を反映させた契約のことを指します。M&Aでは、各プロセスにおいて秘密保持契約や基本合意などさまざまな合意の締結が必要ですが、このような流れの最終段階で締結するのが最終契約です。
最終契約は、M&Aの各プロセスにおいて当事者間で協議し、決定された内容を総合的に見直して、最終的に確定させる意味を持ちます。基本合意書で留保していた事項を確定し、デューデリジェンス(DD)で発見された課題に関する再交渉や契約条項での手当を反映させて、最終的な取引条件を定める重要な役割を担います。
最終契約書(DA)を交わす目的は、双方の最終的な合意内容の確定です。これにより、M&A取引における権利義務関係が明確化され、取引の実行に向けた法的基盤が整備されます。
最終契約書(DA)とは?
最終契約書の意味・目的、タイミング、基本合意書との違いについて詳しく解説します。
意味と目的
DA(Definitive Agreement、最終契約書)は、最終合意事項を盛り込んだ契約書であり、記載された内容には法的効力があります。そのため、締結後に契約破棄や誠実義務に反する行為があった場合には、相手方は契約解除や損害賠償を請求することが可能です。
最終契約書の主要な目的は以下の通りです
取引条件の最終確定
基本合意書段階では仮の条件であったものを、デューデリジェンスの結果を踏まえて最終決定します。
法的拘束力の付与
DA(最終契約書)締結後に一方が契約を破棄した場合、相手方は損害賠償を請求することができます。
リスクの明確化と分担
表明保証条項や補償条項により、M&A後のリスク分担を明確に定めます。
タイミング
最終契約書を締結するのは、買い手がデューデリジェンスを完了し、さらに最終契約書に盛り込む内容の交渉が終わった時点、すなわち最終契約日です。
実務上、最終契約を締結するには、その前提として株主総会や取締役会による承認決議が必要です。この承認を得た後、当事者が契約書に署名・押印することで正式に契約が締結されます。特に社外取締役がいる上場企業では日程調整に時間がかかるため、売り手の理解が必要となります。
最終契約書締結の前提条件として、以下の要素が満たされている必要があります。
- デューデリジェンスの完了
- 譲渡価格の最終合意
- 主要な契約条項の交渉完了
- 必要な社内承認手続きの完了
基本合意書との違い
最終契約書と基本合意書(LOI・Letter of Intent)の違いは、法的拘束力の有無です。
- 仮契約のようなものであり、例外部分を除き法的拘束力がない書類です
- M&Aの基本的な条件について中間的な合意を確認するもの
- 違反があったとしても違約金や損害賠償の請求ができないことに留意しましょう
(原則として取引条件そのものに法的拘束力はありませんが、独占交渉権や秘密保持義務といった一部の条項には法的拘束力を持たせることが一般的です。そのため、これらの条項に違反した場合は、損害賠償請求の対象となりえます。)
- 法的拘束力を持つ正式な契約書
- 取引の最終決定事項として機能
- 契約違反に対して損害賠償請求が可能
項目 | 基本合意書 | 最終契約書 |
---|---|---|
法的拘束力 | 基本的になし(一部例外あり) | 全条項で有効 |
内容の詳細度 | 基本的な条件のみ | 詳細な条件まで規定 |
変更可能性 | 比較的容易 | 困難(要相互合意) |
損害賠償 | 原則として請求不可 | 請求可能 |
最終契約書(DA)の種類
M&Aの手法によって異なる最終契約書の種類について説明します。
M&AにおけるDA(Definitive Agreement)は、最終的に締結される正式契約書を指します。株式譲渡のケースでは「株式譲渡契約書(Stock Purchase Agreement)」、合併のケースでは「合併契約書」といった具合に、スキームごとに名称が変わります。
株式譲渡に関する契約書
株式譲渡契約書(SPA:Stock Purchase Agreement)
中小企業のM&Aで最も多く利用される手法です。株主が保有する株式を買い手に譲渡することで、会社の経営権を移転させます。
事業譲渡に関する契約書
事業譲渡契約書
会社組織は残したまま、特定の事業や資産、権利義務、従業員などを買い手に譲渡する際に用いられます。
組織再編に関する契約書
合併契約書
複数の会社が一つになる合併を実行する際の契約書です。
会社分割契約書
会社の事業を分割して、他の会社に承継させる際に締結されます。
株式交換契約書
親会社・子会社関係を作るために、子会社となる会社の株主が親会社となる会社の株式を受け取る契約です。
株式移転計画書
複数の会社が共同で持株会社を設立し、その傘下に入る際の契約書です。
スキーム別の特徴
M&Aスキーム | 契約書名 | 主な特徴 |
---|---|---|
株式譲渡 | 株式譲渡契約書 | 最も一般的、手続きが比較的簡素 |
事業譲渡 | 事業譲渡契約書 | 特定事業のみ譲渡、債務承継の選択可能 |
合併 | 合併契約書 | 会社法上の法定記載事項あり |
会社分割 | 会社分割契約書 | 事業の切り出しと承継 |
株式交換 | 株式交換契約書 | 完全親子会社関係の構築 |
株式移転 | 株式移転計画書 | 共同持株会社の設立 |
最終契約書(DA)に記載する項目
最終契約書に含まれる重要な記載項目について体系的に解説します。
基本項目
- 前文・定義
取引対象となる株式や事業、価格、価格の調整方法、代金の支払方法・時期を定めます。DAの中心的な内容となります。 - 取引対象と価格
具体的な譲渡対象(株式数、事業範囲等)と譲渡価格を明記します。例えば価格調整を行わない場合には、「1株当たり10,000円で100株、合計100万円で譲渡する。クロージング日に、売主指定の銀行口座へ振り込みにより支払う。」といった内容を定めます。
価格調整条項
価格調整とは、DAで定めた価格を基準に、クロージング時点で対象会社の価値に変動があった場合、事後的に取引価格を修正する仕組みを指します。
- 正味運転資本による調整
例えば、あらかじめ基準となる正味運転資本の額を合意しておき、クロージング時点の正味運転資本がその基準を2,000万円上回った場合には、買収価格を同額の2,000万円増額するといった価格調整が行われます。 - 純資産による調整
クロージングまでに大きな純資産の増減が見込まれる場合に、純資産を価格の調整項目として設定することがあります。 - 純有利子負債による調整
純有利子負債は、「有利子負債―現預金残高」で計算することができます。純有利子負債の増減が重要な意味を持つ場合には、買収価格の調整項目として設定されることがあります。
表明保証条項
表明保証は、M&Aにおける最も重要な条項の一つです。売り手が買い手に対して、対象会社に関する一定の事実について真実であることを表明し、保証するものです。
- 財務諸表の正確性
- 簿外債務の不存在
- 重要な契約の継続性
- 法令遵守状況
- 訴訟等の不存在
- 知的財産権の適正保有
誓約事項
クロージングまでの間およびクロージング後に当事者が遵守すべき事項を定めます。
- 通常の事業運営の継続
- 重要な意思決定の事前協議
- 従業員の流出防止策
- 競業避止義務
- 秘密保持義務
- 経営移行支援
クロージング条件
最終契約書に基づく取引実行の前提条件を定めます。
- 表明保証の真実性
- 誓約事項の履行
- 重要な許認可の取得
- 第三者の同意取得
補償条項
表明保証違反や契約不履行があった場合の損害賠償について定めます。
- 補償対象損害の範囲
- 補償金額の上限
- 補償請求期間の制限
最終契約書(DA)の作成手順
最終契約書作成の具体的なプロセスについて段階的に説明します。
1:準備段階(1-2週間)
基本合意書の確認
最終契約書は、基本合意書を基準に作成しましょう。基本合意書には交渉で決まった内容の大枠が記載されているからです。
デューデリジェンス結果の分析
デューデリジェンスの結果に応じて、内容を変更するようにしましょう。発見された課題について、契約条項での手当や価格調整での対応を検討します。
交渉方針の策定
修正が必要な内容を一覧にし、それぞれの希望を明確にしておきましょう。希望する条件のなかでも、優先順位をつけておくことで、交渉が進みやすくなります。
2:ドラフト作成(1-2週間)
契約書ドラフトの作成
通常は買い手側またはそのアドバイザーが初回ドラフトを作成します。基本合意書の内容をベースに、デューデリジェンスで発見された課題を反映させます。
法務チェック
専門家による法的チェックを実施し、記載内容の妥当性や法的リスクを確認します。
3:交渉・修正(2-4週間)
条件交渉
売り手・買い手間でドラフト内容について交渉を行います。特に以下の項目は重要な交渉ポイントとなります。
- 譲渡価格および価格調整条項
- 表明保証の範囲と期間
- 補償条項の内容と限度額
ドラフト修正
交渉結果を反映してドラフトを修正し、合意形成を図ります。
4:最終化・署名(1週間)
最終確認
全ての条項について最終確認を行い、誤記や矛盾がないかチェックします。
社内承認
各社で必要な社内承認手続き(取締役会決議等)を完了させます。
署名・締結
契約書に署名・押印し、最終契約が成立します。
最終契約書(DA)における注意点
最終契約書作成・締結時に特に注意すべきポイントについて解説します。
デューデリジェンス結果の適切な反映
デューデリジェンス(買収監査・企業調査)は、譲渡企業より開示された情報や資料の正確性と隠れたリスク(簿外債務など)の有無の洗い出しの為、実施するM&Aにおいては非常に重要なフローとなります。
重要な注意点
注意点は、デューデリジェンスの結果は売り手には開示されない点です。契約条件を変更する際には、買い手がその必要性を丁寧に説明し、相手方に納得してもらわなければなりません。
発見されたリスクについては、以下のアプローチで対応を検討します。
- 価格調整による反映
- 表明保証条項での手当
- 補償条項での保護
- 取引条件の変更
表明保証条項の慎重な検討
表明保証はM&A後のトラブルの主要な原因となることが多いため、慎重な検討が必要です。
- 表明保証の範囲を過度に広げない
- 知りうる限りという限定を付ける
- 補償期間と金額の上限を設定
- 重要なリスク項目の漏れがないか確認
- 表明保証違反の立証方法を検討
- 実効性のある補償条項を盛り込む
クロージング条件の明確化
一般的なクロージング条件としては、「表明保証の内容が真実かつ正確であること」と「譲渡日までに誓約事項(義務)が履行されていること」が挙げられます。
クロージング条件については以下の点に注意が必要です。
- 条件の具体性と測定可能性
- 条件充足の確認方法
- 条件未充足時の対応
専門家の活用
最終契約書を作成する際は、細部まで検討することが重要です。M&Aの最終契約書は複雑で専門性が高いため、適切な専門家の支援を受けることが不可欠です。
- M&A専門の弁護士
- 公認会計士・税理士
- M&Aアドバイザー
契約後の対応体制
最終契約締結後も以下の点に注意が必要です。
- クロージング実行の準備
- 統合プロセスの計画
- 従業員・取引先への適切な説明
最終契約の成功への道筋
DAには、取引対象や基本条件に加えて、クロージング条件、表明保証、誓約事項、補償条項など、交渉上の論点となり得る事項が多数含まれます。基本合意書を締結したからといって安心せず、重要度に応じて優先順位をつけ、交渉に臨むことが重要です。
最終契約は、M&Aプロセスの集大成であると同時に、M&A後の統合プロセスの出発点でもあります。慎重な準備と適切な専門家のサポートを得ながら、Win-Winの関係を築ける契約内容の実現を目指すことが重要です。
特に、DAの前段階である初期的検討、トップ会談、基本合意、デューデリジェンスの内容が総合的にDAに集約されることになります。M&Aプロセスに費やしてきた時間と労力を無駄にしないためには、これまでの議論を反映した抜けのないDAを作成することが不可欠です。最終契約の重要性を十分に理解し、細心の注意を払って臨むことが成功のポイントとなります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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