• 作成日 : 2025年8月19日

株式分割とは?株価への影響やメリットを解説

企業の財務戦略の一つとして注目される「株式分割」。ニュースなどで耳にする機会はあっても、その仕組みや株価に与える影響について、正確に理解している方は多くないかもしれません。

株式分割は、企業の成長性を示すシグナルとして市場に受け取られることもあり、投資家にとってはその動向を注視すべき事象といえます。本記事では、株式分割の基本的な概念から、近年の増加背景、株価への具体的な影響、そして投資家と企業双方の利点と注意点について、2025年現在の情報を踏まえて詳しく解説していきます。

株式分割とは?

株式分割とは何か、その基本的な仕組みについて解説します。

株式分割の仕組み

株式分割とは、既にある1株をいくつかに分割して、発行済株式総数を増やす制度です。例えば、1株を2株に分割する場合、株主が保有する株式数は2倍になりますが、それに伴い1株あたりの株価は理論上2分の1になります。

このとき、企業の資本金や純資産といった企業価値そのものに変動はありません。したがって、株主が保有する資産の総額も、株式分割の前後で変わることはありません。パンを半分に分けても、全体の量が変わらないのと同じようなイメージです。

株式併合との違い

株式分割とは反対に、複数の株式を1株に統合することを「株式併合」と呼びます。例えば、5株を1株に併合すると、発行済株式総数は5分の1になります。

株価は理論上5倍になりますが、この場合も企業価値や株主の資産総額に直接的な変化はありません。株式併合は、株価が低くなりすぎた場合に管理コストを削減したり、企業の再編を行ったりする目的で実施されることがあります。株式分割が株式の数を「増やす」のに対し、株式併合は「減らす」という点で明確な違いがあります。

株式分割を行う企業が増えている理由

近年、株式分割を発表する企業が増加傾向にあります。その背景には、市場環境の変化や企業の戦略的な意図が関係しています。ここでは、企業が株式分割を選択する主な理由を掘り下げていきます。

投資家層の拡大

株式分割の最も大きな目的の一つが、最低投資金額を引き下げて、より多くの個人投資家が株式を購入しやすくすることにあります。

日本の株式市場では、通常100株を1単元として取引されるため、株価が高い銘柄は最低でも数百万円の資金が必要となる場合があります。株式分割によって1株あたりの価格が下がれば、これまで資金的な制約で投資できなかった層にも門戸が広がり、新たな株主の獲得につながります。

株式の流動性向上

株式の流動性、すなわち市場での取引のしやすさを高めることも、株式分割の重要な目的です。分割によって株価が下がり、個人投資家が参加しやすくなると、市場で売買される株式の量が増加する傾向にあります。

取引が活発になれば、売りたいときに売れ、買いたいときに買えるという安定した市場環境が形成されやすくなります。これは、適正な株価形成にもつながるため、企業にとっても投資家にとっても好ましい状態といえるでしょう。

新NISA制度の影響

2024年から開始された新NISA(少額投資非課税制度)は、株式分割の増加を後押しする一因となっています。新NISAでは、生涯にわたる非課税保有限度額が設けられ、個人の資産形成への関心が一層高まりました。

これを受けて、企業側も個人投資家の旺盛な投資意欲に応えるべく、株式分割によって自社の株式をNISAの投資対象として魅力的なものにしようと考えています。最低投資金額を下げることで、NISAの非課税枠内で投資しやすくなるという利点があります。

株式分割による株価への影響

株式分割の発表は、株価にどのような影響を与えるのでしょうか。短期的には市場の期待感が先行し、長期的には企業の本来の実力が問われることになります。ここでは、時間軸を分けて株価の動きを考察します。

短期的な株価の動き

株式分割が発表されると、株価は上昇する傾向が見られます。これは、株式分割が「流動性の向上」や「投資家層の拡大」といったポジティブな印象を与え、企業の将来性に対する期待感が高まるためです。

また、「株式分割ができるほど、会社は成長している」というシグナルとして市場に受け止められることもあります。分割によって買いやすくなることを見越した投資家の買いが集まることで、効力発生日を前に株価が上昇するケースは少なくありません。

長期的な企業価値との関連性

株式分割自体は、企業の収益力や資産を直接的に高めるものではありません。そのため、短期的な株価上昇が一巡した後は、企業の実際の業績や成長性が株価を左右することになります。

分割による人気で上昇した株価も、その後の業績が市場の期待を下回れば、元の水準に戻るか、あるいはそれ以下に下落する可能性もあります。長期的な視点で見れば、株価は企業の本来の価値に収束していくため、投資判断においては、分割の事実だけでなく、その企業の事業内容や財務状況を分析することが不可欠です。

株式分割のメリット・デメリット

株式分割は、投資家と企業それぞれに異なる影響をおよぼします。ここでは、双方の立場から見たメリットと、留意すべき点について整理します。

【投資家側】メリットと注意点

投資家にとって最大のメリットは、少額から投資を始められるようになる点です。これまで高嶺の花であった銘柄にも手が届きやすくなり、分散投資などポートフォリオの柔軟性を高めることにもつながります。

一方で、注意すべきは、株式分割が直接的な資産価値の増加を意味するわけではないという点です。また、分割によって単元未満株(100株未満の株式)が発生した場合、証券会社によっては売買時の手数料が割高になることがあるため、取引条件を確認しておくのが賢明です。

【企業側】メリットと注意点

企業側のメリットは、前述の通り、投資家層の拡大と株式の流動性向上です。株主数が増えることは、安定した経営基盤の構築にもつながります。さらに、株価が下がることで、敵対的な買収を仕掛けにくくする効果も期待できます。

一方、デメリットとしては、株式分割に伴う登記変更などの事務手続きにコストが発生する点が挙げられます。また、株主数が増加することで、株主総会の運営や株主への通知といった株主管理業務が煩雑になる可能性も考慮しなくてはなりません。

株式分割の流れ

企業が株式分割を実施する際には、会社法に定められた手続きを順守して進める必要があります。主な流れは以下の通りです。なお、取締役会設置会社を前提とします。

1. 取締役会での決議

まず、株式分割の実施について、取締役会で決議を行います。定款に別段の定めがない限り、株主総会の決議は不要です。 この決議では、以下の事項を定めます。

  • 株式分割により増加する株式総数の、分割前の発行済株式総数に対する割合(分割比率)
  • 株式分割の基準日
  • 株式分割の効力発生日

2. 基準日の設定と公告

次に、株式分割の権利を得る株主を確定させるための「基準日」について、その日の2週間前までに公告しなくてはなりません。

公告では、「基準日」と「その基準日によって株主がどのような権利を得るのか(今回は株式分割を受ける権利)」を明示します。公告の方法は、定款で定められた方法(官報、日刊新聞紙、または電子公告)で行います。

3. 効力発生

取締役会の決議で定めた「効力発生日」を迎えると、法的に株式分割の効果が生じます。この日をもって、株主名簿に記載されている株主の保有株式数が、決議された比率に応じて増加し、会社の「発行済株式総数」も変更されます。

4. 変更登記の申請

株式分割の効力が発生した後、法務局への登記申請が必要です。効力発生日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局へ「発行済株式の総数」の変更登記を申請します。この手続きをもって、一連の法的な対応が完了します。

株式分割の事例

近年、多くの有名企業が株式分割を実施しています。ここでは、2024年以降の代表的な事例を取り上げ、その背景や市場の反応を見ていきます。

2024年以降の注目事例

2024年1月1日付で、株式会社NTT(日本電信電話)は1株を25株にするという大規模な株式分割を実施しました。これは、新NISAの開始を見据え、国民の資産形成への貢献と幅広い世代への投資機会の提供を目的としたものです。

この分割により、最低投資金額は大幅に引き下げられ、多くの個人投資家がNTT株を手にしやすくなりました。その他にも、大手商社や製造業など、さまざまな業種の優良企業が株式分割を発表しており、市場のトレンドとなっています。

事例から見る株式分割の効果

NTTの事例では、分割発表後に株価が上昇し、個人株主数が大幅に増加しました。これは、株式分割が投資家層の拡大という目的を達成した好例といえるでしょう。多くの事例において、株式分割は企業の成長期待を高め、株価に対して短期的にプラスの影響を与えています。

しかし、その効果が持続するかは、あくまで企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)に依存します。事例を分析する際は、分割の発表だけでなく、その後の業績推移と株価の相関関係を見ることが肝要です。

株式分割を理解し、投資判断に活かす

この記事では、株式分割の仕組みから株価への影響、近年の動向までを解説しました。

株式分割は、株式の最低購入金額を引き下げ、流動性を高めることで、企業と投資家の双方に利益をもたらす可能性があります。特に、企業の成長に対する自信の表れとして市場に受け止められ、株価上昇のきっかけとなることも少なくありません。

ただし、株式分割そのものが企業価値を直接向上させるものではないという点は、常に念頭に置くべきです。短期的な株価の動きに一喜一憂するのではなく、その企業がどのような意図で株式分割を行い、将来的にどのような成長戦略を描いているのかを見極めることが、賢明な投資判断につながります。

企業のIR情報などを確認し、分割という事象の裏にある本質的な価値を分析する姿勢が、これからの資産形成において求められるでしょう。


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