• 更新日 : 2025年6月9日

プライベートエクイティとは?投資の種類や事例、メリット・デメリットを解説

企業の成長や事業再編といったM&Aの現場で、「プライベートエクイティ」という言葉を耳にする機会も多いのではないでしょうか。しかし、その具体的な内容や仕組みについて、詳しく理解できていないという方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、プライベートエクイティとは何かを分かりやすく解説します。

プライベートエクイティとは?

プライベートエクイティとは、未上場企業の株式そのもの、またはその株式に対する投資活動全般を指します。その中心的な役割を担うプライベートエクイティファンド、プライベートエクイティ投資について解説します。

プライベートエクイティファンド

プライベートエクイティファンド(PEファンド)とは、投資家から集めた資金を、未上場企業の株式に投資することを目的とした投資ファンドのことです。一般的に、成長期や成熟期にある企業に対して、比較的規模の大きな資金を提供するのが特徴です。

PEファンドは、機関投資家や年金基金、事業会社、個人などの様々な投資家から資金を募り、その運用はファンドマネージャーが行います。集められた資金は、投資先の企業価値を高めるために活用され、最終的には株式公開(IPO)やM&Aによる売却を通じて利益を獲得し、投資家に分配することを目指します。PEファンドの運営は、資金調達から始まり、投資先の選定、投資の実行、価値向上支援、そして投資回収という一連のプロセスを経て行われます。このサイクルを通じて、PEファンドは投資家へのリターン最大化を図ります。

プライベートエクイティ投資

プライベートエクイティ投資とは、文字通り、未公開企業の株式に投資する行為を指します。上場企業の株式とは異なり、証券取引所での取引は行われません。このような未公開株式は、流通が限られるため、一般的な株式評価よりも高い水準で取引されることも少なくありません。そのため、非上場企業にとっては、資金調達や経営改善の手段として、プライベートエクイティ投資を受けるという選択肢が生まれます。PE投資は、未上場企業の株式を安価で取得し、企業価値が向上した時点で売却することで利益を得ることを目指すため、一般的にハイリスク・ハイリターンの投資とされています。

プライベートエクイティ投資の対象企業

どのような企業がプライベートエクイティ投資の対象となりやすいのかを解説します。

プライベートエクイティ投資は、その目的や投資戦略によって、様々なタイプの企業を対象としています。主な対象企業としては、大きく以下の3つに分類できます。

ベンチャー企業・スタートアップ企業

まず、創業期や成長期にあるベンチャー企業や設立後間もないスタートアップ企業が挙げられます。これらの企業は、将来的な成長が期待されるものの、まだ経営基盤が安定していなかったり、資金調達が困難であったりするケースが多く見られます。PEファンドからの投資と経営サポートによって、IPO(新規株式公開)や売却を目指すことが可能です。

大企業の子会社・ノンコア事業

次に、大企業の子会社やノンコア事業も対象となります。大企業が経営資源を中核事業に集中させるために、子会社や非戦略的な事業部門を売却する際に、PEファンドがその将来性に着目して投資を行うことがあります。PEファンドの経営ノウハウや資金注入によって、これらの事業が独立して成長する可能性があります。

中小企業

そして、オーナー経営の中小企業も重要な投資対象です。特に、後継者不足に悩む中小企業にとって、PEファンドは事業承継の有効な手段となり得ます。PEファンドの投資により企業価値を高めた後、M&Aによる売却を目指すケースが増えています。

その他にも、一時的な経営不振に陥っているものの、将来的な成長が見込まれる企業や、ある程度の市場規模や価値があるにも関わらず業績が低迷している大手企業なども、プライベートエクイティ投資の対象となることがあります。PEファンドは、これらの企業の潜在能力を引き出し、経営を立て直すことで企業価値の向上を図ります。

プライベートエクイティ投資の流れ

プライベートエクイティ投資がどのように始まり、投資した資金が回収されるまでの一般的な流れを具体的に解説します。

プライベートエクイティ投資は、一般的に以下の段階を経て進行します。

1. 投資フェーズ

まず、PEファンドが投資家から資金を調達する「資金調達(ファンドレイズ)」が行われます。その後、投資対象となる企業を探し出す「ソーシング」というプロセスに入ります。ソーシングでは、PEファンドの投資方針に合致する企業が選定され、オーナー経営者へのアプローチ、M&A仲介会社からの紹介、企業への直接的な提案など、様々な方法で案件が発掘されます。投資候補となる企業が見つかると、その企業価値の評価や財務状況、法務面などの詳細な調査を行う「デューデリジェンス」が実施されます。この調査を経て、PEファンドは投資の意思決定を行い、買収条件などを交渉し、最終的な契約を締結します。

2. 経営支援フェーズ

次に、PEファンドは投資先の企業価値向上に向けて積極的に関与します。これには、経営戦略の策定、業務効率化、コスト削減、新規事業の展開、人材の紹介など、多岐にわたる支援が含まれます。PEファンドは、自社の専門家チームを派遣したり、外部の専門家を活用したりすることで、投資先の成長をサポートします。この段階で、PEファンドは投資先企業の経営権を獲得することが一般的であり、経営陣に対してアドバイスや助言を行うことで、企業価値の最大化を目指します。

3. EXIT(回収)フェーズ

最後に、企業価値が向上した投資先企業の株式を売却し、投資資金を回収します。主なEXITの方法としては、株式公開(IPO)とM&A(他の事業会社やPEファンドへの売却)があります。近年では、M&AによるEXITが増加傾向にあります。EXITが成功すると、PEファンドは投資家に対して元本と利益を分配し、ファンドの運用期間が終了します。一般的に、PEファンドの投資期間は3年から5年程度、ファンド全体の運用期間は10年程度とされています。

プライベートエクイティ投資の種類

プライベートエクイティ投資は、投資対象となる企業の状況や投資戦略によって、主に以下の4つの種類に分類されます。ここではプライベートエクイティ投資の主な種類について解説します。

バイアウト投資

バイアウト投資は、成熟した企業や事業部門の株式の過半数または全部を取得し、経営権を掌握することを目的とした投資です。PEファンドは、投資先の経営に積極的に関与し、業務効率化やコスト削減、事業再編などの施策を通じて企業価値の向上を図ります。中小企業で後継者がいない場合や、大企業のノンコア事業のカーブアウトなどがバイアウト投資の対象となることが多いです。比較的短期間での投資回収を目指す傾向があります。

ベンチャーキャピタル投資

ベンチャーキャピタル投資は、設立間もないスタートアップ企業や、高い成長ポテンシャルを秘めたアーリーステージの企業に対して行われる投資です。これらの企業は、革新的な技術やビジネスモデルを持っていることが多いものの、資金調達が難しいという課題を抱えています。ベンチャーキャピタルは、資金提供に加えて、経営ノウハウやネットワークを提供し、企業の成長を支援します。主なEXITの方法はIPO(新規株式公開)であり、ハイリスク・ハイリターンの投資と言えます。

再生投資

再生投資は、経営不振や業績悪化に陥っている企業に対して行われる投資です。PEファンドは、資金注入だけでなく、経営戦略の再構築、事業構造の改革、財務体質の改善など、徹底的な経営改善を通じて企業の再生を目指します。金融機関や公共機関が設立に関わるケースも見られます。バイアウト投資と比較して、よりリスクが高い一方で、再生に成功すれば高いリターンが期待できます。

ディストレス投資

ディストレス投資は、再生投資よりもさらに深刻な経営危機に瀕している企業、例えば破綻寸前や破綻後の企業を対象とした投資です。PEファンドは、これらの企業の債券や株式を安価で取得し、徹底的なリストラクチャリングや事業再建を通じて再生を図ります。再生投資と同様にハイリスクではありますが、成功した場合のリターンは非常に大きい可能性があります。専門的な知識と経験が求められる投資分野です。

それぞれの特徴とメリット・デメリット

投資の種類特徴メリットデメリット主な対象企業主なEXIT戦略
バイアウト投資経営権の取得を目的とした投資。成熟企業や事業部門が対象。比較的短期間での価値向上、経営への積極的な関与が可能。買収資金の調達が必要、既存経営陣との対立の可能性。後継者不足の中小企業、大企業のノンコア事業。M&Aによる売却、IPO。
ベンチャーキャピタル投資高成長ポテンシャルを持つ設立初期・成長期の企業への投資。高いリターンが期待できる。投資回収までの期間が長い、投資先の倒産リスクが高い。スタートアップ企業、アーリーステージの企業。IPO、M&Aによる売却。
再生投資経営不振や業績悪化に陥っている企業の再生を目的とした投資。企業の立て直しに貢献できる、成功時のリターンが大きい。再生の失敗リスクが高い、事業再編に伴う痛みを伴う可能性。経営不振に陥っている企業、過剰債務を抱える企業。M&Aによる売却、事業譲渡。
ディストレス投資破綻寸前や破綻後の危機的な状況にある企業への投資。安価での資産取得が可能、再生成功時のリターンが非常に大きい。極めて高いリスク、専門的な知識と経験が必要。破綻寸前の企業、破産手続き中の企業。事業再建後の売却、資産売却。

プライベートエクイティ投資のメリット・デメリット

この章では、プライベートエクイティ投資が企業側と投資家側のそれぞれにどのようなメリットとデメリットをもたらすのかを解説します。

企業側のメリット

プライベートエクイティ投資を受ける企業側の主なメリットは、まず豊富な資金提供を受けられるという点が挙げられます。銀行融資とは異なり、原則として返済義務や金利負担がないため、資金繰りの安定化に繋がります。

また、経営に関する手厚いサポートを受けられることも大きなメリットです。PEファンドは、様々な業界での投資経験や経営ノウハウを持っており、戦略策定、業務改善、人材育成など、多岐にわたる支援を提供することで、企業の成長を加速させます。

事業承継問題を解決できる可能性もあります。後継者不足に悩むオーナー経営者にとって、PEファンドへの株式譲渡は、事業の継続と成長を両立させる有効な手段となります。

さらに、IPO(新規株式公開)やM&Aに関するサポートを受けられることもメリットとして挙げられます。PEファンドは、これらのプロセスに関する専門知識や経験を持っており、企業価値の向上を通じて、より有利な条件でのEXITを支援します。

その他、投資家からの監視の目が入ることで、経営の透明性やガバナンスが強化されるという側面もあります。また、PEファンドの持つネットワークを活用することで、新たなビジネスチャンスや人材の紹介に繋がる可能性もあります。

投資家側のメリット

プライベートエクイティ投資を行う投資家側の主なメリットは、高いリターンが期待できることです。未上場企業の成長ポテンシャルを見抜き、企業価値を高めて売却することで、大きなキャピタルゲインを得る可能性があります。

また、ポートフォリオの分散効果も期待できます。上場株式や債券といった伝統的な資産とは異なる特性を持つプライベートエクイティを組み入れることで、リスク分散を図ることができます。

特にベンチャーキャピタル投資においては、アーリーステージで投資することで、将来的な大きな成長の果実を享受できる可能性があります。

企業側のデメリット

一方で、プライベートエクイティ投資を受ける企業側には、いくつかのデメリットも存在します。まず、経営の自由度が制限される可能性があります。PEファンドは、通常、株式の過半数以上を取得するため、経営に関する重要な意思決定において、ファンドの意向が強く反映されることになります。

また、いずれはEXIT(投資回収)をしなければならないという点が挙げられます。PEファンドの目的は投資資金を回収し、利益を投資家に還元することであるため、一定期間後には株式の売却が行われ、経営体制が変わる可能性があります。

事業再生のためにPEファンドの支援を受ける場合など、借り入れを行った際には返済義務が発生することもあります。

さらに、期待したほどの経営支援を受けられない場合や、PEファンドとの間で意見の衝突が生じる可能性も否定できません。自社の求めるPEファンドを慎重に選ぶことが重要となります。

投資家側のデメリット

プライベートエクイティ投資を行う投資家側にもデメリットがあります。まず、投資リスクが高いという点が挙げられます。投資先の未上場企業が必ずしも成長するとは限らず、場合によっては投資資金を回収できない可能性もあります。特に、ベンチャーキャピタル投資や再生投資、ディストレス投資は、その傾向が顕著です。

また、流動性が低いという点もデメリットです。未上場企業の株式は、上場株式のように容易に売買することができないため、投資資金をすぐに回収することが難しい場合があります。

さらに、未上場企業の評価は難しく、透明性が低いという課題もあります。投資判断を行うための情報が限られているため、専門的な知識や分析能力が求められます。

ファンドの運営期間が長く、中途解約が困難な場合があることも、投資家にとっては考慮すべき点です。

プライベートエクイティ投資によるM&A事例

ここでは、日本国内におけるプライベートエクイティ投資によるM&Aの具体的な事例をいくつか紹介します。

近年、プライベートエクイティファンドは、M&Aの買い手としてその存在感を増しています。2023年には、米国投資ファンドによる西武・そごうの買収や、アジア系投資ファンドによるSOYOKAZE(旧ユニマット リタイアメント・コミュニティ)の買収などが注目を集めました。

国内の事例

国内の事例としては、日本産業パートナーズ(JIP)を中心とする国内企業連合による東芝の非公開化は、2兆円規模の大型買収として大きな話題となりました。フォートレス・インベストメント・グループによるそごう・西武の買収や、産業革新投資機構(JIC)によるJSRの非公開化のように、アクティビストが関与していた企業をPEファンドが買収するケースが増加しています。

事業再編の事例

事業再編に伴うPEファンドの関与も活発です。例えば、日立製作所はグループ会社の建材機器メーカーである日立機材をPEファンドに売却しました。また、日産自動車グループの部品メーカーであったカルソニックカンセイは、KKRによる買収を経て、自動車部品業界における独立した地位を確立しています。

特定の事業部門に焦点を当てた投資事例もあります。資生堂は、パーソナルケア事業をCVCキャピタルパートナーズに譲渡しました。オリンパスも、デジタルカメラなどの映像事業を日本産業パートナーズに売却しています。

介護業界の事例

介護業界においては、カーライルによるソラスト(旧日本医療事務センター)への出資、ベインキャピタルによるニチイ学館への投資、さらにはMBKパートナーズによるツクイホールディングスへの関与など、PEファンドによる積極的な投資活動が顕著になっています。これらの投資は、介護サービスの質の向上や事業規模の拡大に貢献しています。

製造業の事例

製造業においても、PEファンドによるM&Aは活発です。アポロ・グローバル・マネジメントによる昭和電工および三菱マテリアルのアルミ事業の統合や、ブラックストーンによるアリナミン製薬傘下の悠香ホールディングスの買収などが、例として挙げられます。

また、中小企業の事業承継においても、PEファンドが重要な役割を果たしています。後継者不足に悩む中小企業が、PEファンドの傘下に入ることで、事業の継続と成長を目指す事例が増えています。

プライベートエクイティの可能性

この記事では、プライベートエクイティの定義、種類、投資の流れ、メリット・デメリット、そして具体的なM&A事例について解説してきました。

プライベートエクイティは、未上場企業にとって重要な資金調達の手段であると同時に、経営改善や事業成長の強力なパートナーとなり得る存在です。バイアウト投資、ベンチャーキャピタル投資、再生投資、ディストレス投資といった多様な投資戦略を通じて、様々な状況にある企業に対して、それぞれのニーズに合わせたソリューションを提供しています。

日本国内においても、プライベートエクイティファンドはM&A市場においてますます重要な役割を果たしており、その活動は多岐にわたります。事業再編、後継者問題の解決、成長戦略の実現など、様々な目的でプライベートエクイティが活用されています。

プライベートエクイティの可能性を正しく認識し、自社の状況や目標に合わせて適切に活用していくことが、今後の企業成長や事業発展の鍵となるかもしれません。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事