- 作成日 : 2025年6月13日
株主総会の特別決議とは?普通決議との違いや決議事項を解説
この記事では特別決議とは何か、普通決議や特殊決議とどう違うのか、どのような事項で必要になるのか、そして実際の株主総会での流れや注意点まで、分かりやすく解説していきます。特別決議について正しく理解し、重要な局面でスムーズな意思決定ができるよう、ぜひご一読ください。
目次
特別決議とは?
M&Aや組織再編など、会社の将来に大きな影響を与える意思決定。そのプロセスで「特別決議」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。これは、株主総会における特に重要な決議方法の一つです。
普通決議との違い
株主総会の決議には、いくつかの種類があります。最も基本的なものが「普通決議」です。では、特別決議と普通決議は何が違うのでしょうか?一番大きな違いは、決議が可決されるための条件(決議要件)です。
決議の種類 | 定足数 | 決議要件 | 主な決議事項の例 |
---|---|---|---|
普通決議 | 議決権を行使できる株主の過半数が出席 (定款による変更や排除も可能) | 出席した株主の議決権の過半数の賛成 | 役員の選任・解任(※)、剰余金の配当 |
特別決議 | 議決権を行使できる株主の過半数が出席 (定款によって1/3以上の割合を定めることも可能) | 出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成 | 定款変更、合併、事業譲渡など |
(※会社法上、役員の解任は普通決議ですが、定款で特別決議と定めている会社もあります)
このように、特別決議は普通決議よりも可決のハードルが高く設定されています。これは、特別決議で決める内容が、株主にとってより重要な影響を及ぼす可能性があるため、より慎重な判断を求める趣旨があるからです。
特殊決議との違い
さらに、特別決議よりも厳しい要件が課される「特殊決議」というものも存在します。これは、特定の種類の株式(例えば、譲渡制限株式など)を持つ株主に不利益が生じる可能性がある場合など、ごく限定的なケースで用いられる決議方法です。
特殊決議の要件は、内容によって2種類の要件があり、「議決権を行使できる株主の半数以上が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成」や、「総株主の半数以上が出席し、総株主の議決権の4分の3以上の賛成」といった、特別決議よりもさらに厳しい条件が定められています。特殊決議が必要となる場面は限られていますので、まずは普通決議と特別決議の違いをしっかり押さえておくことが大切です。
特別決議が必要な決議事項
ここでは、どのような場合に特別決議が必要になるのか、具体的な例を見ていきましょう。会社法で定められている主な決議事項は以下の通りです。
これらの事項は、会社の経営方針や株主の権利に大きな影響を与えるため、より多くの株主の賛同を得る必要があるとされ、特別決議が求められているのです。
特別決議における株主総会の流れ
ここでは、特別決議を行う際の株主総会が、一般的にどのような流れで進むのかを確認しましょう。基本的な流れは普通決議の場合と大きく変わりませんが、特に慎重な進行が求められます。
- 招集通知の発送:株主に対して、会議の日時、場所、目的事項(特別決議が必要な議案を含む)などを記載した招集通知を送ります。特に特別決議の議案があることは明確に記載する必要があります。
- 株主総会の開会:定刻になったら、議長が開会を宣言します。
- 定足数の確認:議長または事務局が、特別決議の定足数(議決権を行使できる株主の過半数の出席)を満たしているかを確認し、報告します。定足数を満たさない場合は、決議を行うことができません。
- 議案の説明:会社側から、特別決議を要する議案の内容、提案理由、株主への影響などを詳しく説明します。分かりやすく、丁寧な説明が重要です。
- 質疑応答:株主からの質問を受け付け、丁寧に回答します。疑問点を解消し、理解を深めてもらうための大切なプロセスです。
- 採決:議案に対する賛成・反対の意思表示を求めます。拍手や投票用紙、挙手など、会社が定めた方法で行われます。
- 決議結果の宣言:賛成票を集計し、特別決議の可決要件(出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)を満たしているかを確認します。議長が結果を明確に宣言します。
- 議事録の作成:株主総会の議事の経過と結果を正確に記録した議事録を作成します。特別決議については、決議要件を満たしたことを示すために、定足数や賛成数を明記することが一般的です。
- 閉会:全ての議事が終了したら、議長が閉会を宣言します。
このように、特別決議を含む株主総会では、法的な要件を満たしつつ、株主への丁寧な説明とコミュニケーションを心がけることが、円滑な進行の鍵となります。
特別決議における注意点と対策
ここでは、特別決議をスムーズに進めるために、特に気をつけておきたい点と、その対策について考えてみましょう。
定足数の確保
特別決議は普通決議と同じく、議決権を行使できる株主の過半数(定款によって1/3以上の割合を定めることも可能)の出席が必要です。株主数が多かったり、連絡が取りにくい株主がいたりすると、定足数を満たせないリスクがあります。
対策:事前に株主リストを精査し、出席が難しい株主には委任状の提出を依頼するなど、早めのアプローチを心がけましょう。株主との良好な関係構築(IR活動)も重要です。
賛成票の確保
出席者の3分の2以上の賛成が必要です。特に反対意見を持つ株主が多い場合、可決が難しくなる可能性があります。
対策:議案の内容や必要性について、事前に主要株主や機関投資家などに対して十分な説明を行い、理解と協力を得られるよう努めましょう(事前の根回しや対話)。議案に反対する株主の意見にも耳を傾け、可能な範囲で懸念を解消することも大切です。
手続きの適法性
招集通知の記載漏れや発送時期の誤り、当日の議事進行の不備など、手続き上のミスがあると、後々決議の有効性が争われる可能性があります。
対策:会社法や定款の規定を再確認し、招集手続きから議事録作成まで、法令に則って慎重に進めましょう。必要であれば、弁護士などの専門家に相談し、手続きの適法性をチェックしてもらうのが確実です。
株主への説明責任
決議事項が株主に与える影響が大きいだけに、分かりやすく、丁寧な説明が求められます。説明不足は、株主の不信感を招き、反対票につながる可能性があります。
対策:株主の視点に立ち、専門用語を避け、図やグラフを用いるなど、分かりやすい資料を作成しましょう。質疑応答の時間も十分に確保し、誠実に対応する姿勢が重要です。
これらの点に留意し、周到な準備と丁寧なコミュニケーションを行うことが、特別決議を成功させるためのポイントと言えるでしょう。
特別決議に関するQ&A
特別決議に関してよく寄せられる可能性のある質問について、Q&A形式でお答えします。
Q1. 定款で特別決議の要件を厳しくしたり、緩くしたりすることはできますか?
A1. はい、可能です。会社法では、特別決議の定足数(議決権の過半数)について、定款でこれを上回る割合を定めることや1/3以上の割合に緩めることができます。また、決議要件(出席議決権の3分の2以上)については、定款でこれを上回る割合を定めることができますが、決議要件を下回る(緩める)割合を定めることは認められていません。つまり、より厳しくすることは可能ですが、基本的には緩めることはできない、と覚えておきましょう。
Q2. 特別決議の定足数を満たさなかった場合、どうなりますか?
A2. 定足数を満たさない場合、その株主総会で特別決議を行うことはできません。その日の総会を延期または続行(後日、改めて同じ目的で会議を開くこと)する、といった対応が考えられます。再度、株主への出席や委任状提出の呼びかけを行う必要があります。
Q3. 特別決議が必要な議案なのに、普通決議で可決させてしまいました。どうなりますか?
A3. それは重大な手続き違反であり、その決議は法的に無効となる可能性が非常に高いです。株主から決議取消しの訴えを起こされるリスクもあります。必ず、議案ごとに必要な決議要件を確認し、正しい手続きで決議を行う必要があります。
Q4. 特別決議について、どこに相談すれば良いですか?
A4. 手続きの適法性や具体的な進め方については、弁護士や司法書士といった法律の専門家に相談するのが最も確実です。また、M&Aに関連する特別決議であれば、M&Aアドバイザーや公認会計士、税理士なども、それぞれの専門分野から特別決議が必要な場面を教えてくれるでしょう。自社だけで判断せず、必要に応じて専門家のサポートを得ることをお勧めします。
特別決議を理解し、適切に活用しよう
この記事では、株主総会の特別決議について、普通決議との違いから具体的な決議事項、総会の流れ、注意点、Q&Aまで幅広く解説しました。
特別決議は、定款変更やM&Aといった、会社の根幹に関わる重要な意思決定を行うための手続きです。普通決議よりも厳格な要件が課せられているのは、それだけ株主への影響が大きいからです。
M&Aなどに携わる担当者の皆さまにとっては、特別決議のプロセスを正確に理解し、適切な準備と対応を行うことが、プロジェクトを成功に導く上で不可欠となります。定足数や賛成票の確保、手続きの適法性、そして何よりも株主への丁寧な説明責任を果たすことを常に意識しましょう。
もし手続きに不安がある場合や、複雑な案件の場合は、決して自己判断せず、弁護士などの専門家に相談することも重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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