• 作成日 : 2025年6月24日

建築における「桟」とは?役割、種類、框との違いまで徹底解説

建築の現場や図面で使われる「桟(さん)」という言葉。特にドアや窓、障子といった建具には欠かせない部材ですが、その正確な意味や役割、種類について、改めて説明するとなると戸惑う方もいらっしゃるかもしれません。この記事では、建設業に携わる皆様に向けて、建築における「桟」の基礎知識から、構造的・意匠的な役割、様々な種類、混同しやすい「框」や「枠」との違い、使われる材料、現場での注意点、さらには英語での表現まで、わかりやすく丁寧に解説していきます。

建築における「桟(さん)」とは?

建築における「桟(さん)」とは、主に建具(ドア、窓、障子など)や家具などの骨組みを構成する、比較的細い部材を指します。

面材(ガラスや板、障子紙など)を支えたり、骨組み全体の強度を高めたり、あるいはデザイン上のアクセントとして設けられます。

水平方向に取り付けられるものを「横桟(よこざん)」、垂直方向に取り付けられるものを「縦桟(たてざん)」と呼び分けるのが一般的です。

桟(さん)と桟木(さんぎ)

建築で使われる「桟(さん)」と「桟木(さんぎ)」は指すものが異なります。「桟(さん)」は、障子や窓、ドアといった建具の框(かまち)の内側にある細い骨組み部材の「名称」です。障子の組子(格子)や窓ガラスを分割するバーがその代表例で、面材を支えるなどの意匠的な役割を担います。

これに対し「桟木(さんぎ)」は、特に下地材として用いられる細長い「角材そのもの」を指すことが多いです。具体例には、屋根に瓦(かわら)を葺く際に瓦を引っ掛けて固定するための「瓦桟(かわらざん・かわらさんぎ)」、壁や外壁のボード・サイディング下地となる「胴縁(どうぶち)」、天井板を支える「野縁(のぶち)」などが挙げられます。

「桟」が建具の特定の「部品」の名称であるのに対し、「桟木」は屋根、壁、天井など様々な場所で下地として活躍する「角材」を指す言葉、と理解するとわかりやすいでしょう。

「桟」の英語表現

 日本語の「桟」にぴったりと当てはまる英単語を見つけるのは難しいですが、文脈によって使い分けられます。

Muntin (マンティン):窓ガラスを分割している細い装飾的な桟。

Bar (バー):一般的な棒状の部材。”Window bar”、 “Glazing bar”(ガラス押さえの桟)など。

Rail (レイル):ドアやパネルの水平方向の桟(横桟)を指す。

Stile (スタイル):一般的には縦框(たてかまち)を指すことが多い。

Lattice (ラティス)、Grille(グリル):格子状に組まれた桟全体を指す。

建築の桟の主な役割

建築における「桟(さん)」は多様な役割を担っています。まず、ガラスやパネル、障子紙などを確実に保持し、建具全体の強度や剛性を高め、反りやねじれを防ぐ構造的な支えとなります。加えて、大きな面をリズミカルに分割したり、障子の組子(くみこ)のようにそれ自体が装飾となったりするデザイン上の側面も持ち合わせ、空間の印象を変えます。

さらに、ルーバーの桟のように角度を変えて採光や通風を調整したり、障子で光を柔らかく拡散させたりといった機能的な役割を担うこともあります。

建築の桟の種類と具体例

ここでは建築で使われる家や建物、建具の桟について具体例を挙げて解説します。

横桟(よこざん)と縦桟(たてざん)

桟はその取り付けられる方向によって、基本的な区別があります。

  • 横桟:水平方向に取り付けられる桟のことです。部材(ガラスやパネル)を上下で支えたり、水平ラインを強調するデザイン要素となります。ドアの中桟(横中桟)などが代表例です。
  • 縦桟:垂直方向に取り付けられる桟のことです。部材を左右で支えたり、垂直ラインを強調します。ドアの縦中桟(縦束)や、窓の縦格子などがこれにあたります。

横桟と縦桟は、それぞれ単独で使われることも、組み合わせて格子状に用いられることもあり、その組み合わせ方で多様なデザインと機能性が生まれます。

障子の桟

障子では、「組子(くみこ)」と呼ばれる細かな格子状の桟が特徴です。これは障子紙を支える骨組みであり、多様なパターンを持つ装飾として和の空間を演出し、光を柔らかく拡散させます。

窓の桟

窓では、ガラス面を分割する桟が「格子(こうし)」としてデザイン目的で用いられることが多くあります。洋風や和モダンな外観・内観を作り出し、材質は木製のほかアルミや樹脂サッシが一般的です。

戸(ドア)の桟

ドア(特に框戸)では、框(かまち)の内側に「中桟(なかざん)」が設けられます。水平方向の「横桟(よこざん)」や垂直方向の「縦桟(たてざん)」が内部を区切り、パネルやガラスをはめ込む区画を作ります。これによりドアのデザインが構成され、強度も高まります。

家具・造作の桟

建具以外にも、家具の扉や、「欄間(らんま)」「衝立(ついたて)」「格子戸(こうしど)」といった造作物にも桟は応用されます。これらは装飾となるとともに、空間を仕切ったり、目隠しとなったりする役割を持ちます。

桟(さん)と框(かまち)、枠(わく)の違い

建具の話をする際、「桟」と並んで「框(かまち)」や「枠(わく)」という言葉がよく出てきますが、これらは形状や役割が似ている部分もあります。違いについて解説します。

框(かまち)とは

框は、ドアや障子といった建具そのものの、外周を形作る比較的太い骨組みのことです。建具の上下左右(上框・下框・縦框)を構成し、全体の形を保ち強度を確保する主要な部分となります。多くの場合、「桟」はこの框の内側に取り付けられる、より細い部材を指します。

枠(わく)とは

枠は、建具本体ではなく、建具が取り付けられる壁の開口部側に設置される部材です。「窓枠」や「ドア枠」がこれにあたります。建具を壁に固定し、スムーズな開閉を助けたり、壁との隙間を塞いだりする「受け」の役割を持ちます。材質は木、金属、樹脂など様々です。

桟・框・枠の関係性

桟・框・枠の関係は、どこに何のために取り付けられているかで整理できます。

  1. まず、壁の開口部に取り付けられるのが「枠」です。
  2. 次に、その「枠」の中に納まる建具本体の、外側の太い骨組みが「框」です。
  3. そして、その「框」の内側で、ガラスやパネルを支えたり、装飾の役割をしたりする細い部材が「桟」です。

つまり、壁 → 枠 → 框 → 桟 の順で、建物から見て内側に入っていくような位置関係にあるとイメージすると、それぞれの違いと役割がわかりやすくなります。

建築の桟に使われる材料

「桟」の代表的な材料である木材、金属、樹脂について、それぞれの特徴やメリット、選定や使用にあたっての注意点などを解説します。

木桟(もくざん):温もりと加工のしやすさ

木製の桟は、温かみのある質感と加工のしやすさが大きな特徴です。障子や板戸といった伝統的な建具や、木の風合いを活かしたいデザインによく用いられます。

木目や色合いを活かしたデザイン性の高さが魅力であり、比較的高い断熱性やある程度の湿度調整効果も期待できます。

注意点としては、天然素材のため湿気による伸び縮みや反りが生じやすい性質があることです。また、紫外線による変色や、設置場所によっては腐食・虫害のリスクがあり、美観や耐久性を保つためには定期的な塗装などのメンテナンスが必要になる場合があります。

金属製(アルミ等):耐久性とシャープなデザイン

アルミなど金属製の桟は、耐久性の高さとシャープな見た目が特徴で、現在の窓サッシなどによく使われています。軽量でありながら強度が高く、さびにくい特性から、メンテナンスの手間が比較的少なく済む点が利点です。現代的なデザインにもよく調和します。

ただし、熱を非常に伝えやすいため断熱性は木や樹脂に比べて劣り、その結果として特に冬場などに結露が発生しやすい傾向がある点には注意が必要です。(近年は、この点を改善するために樹脂と組み合わせた複合サッシなども増えています。)

樹脂製(PVC等):高い断熱性とメンテナンス性

樹脂製の桟(主に塩化ビニル樹脂)は、非常に優れた断熱性が最大の特徴で、近年の高性能な窓サッシなどに多く採用されています。熱を伝えにくいことから冷暖房の効率を高め、結露の発生を大幅に抑えることができます。耐候性にも優れ、腐食の心配がなくメンテナンスも容易で、様々な色が選べるのも魅力と言えるでしょう。

その反面、製品によっては金属ほどの強度がないため補強材が使われることや、長期間強い紫外線にさらされることによる劣化や変色の可能性もゼロではない点も考慮しておくとよいでしょう。

建築の桟の取り付け・施工時のポイント

桟の取り付けは精度が求められる

桟の取り付けにおいては、何よりも精度が求められます。寸法や角度が正確でないと、建具の開閉に支障が出たり、隙間が生じて気密性や断熱性が損なわれたり、見た目の美しさが損なわれたりします。

特に障子の組子のような細かな桟は、歪みなく組み上げることが仕上がりに直結します。框や他の桟との接合方法は、材質や強度、デザインに応じて、ほぞ接ぎ、だぼ接ぎ、ビス止めなどを適切に選択する必要があります。

木桟を使用する場合は、材料の反りやねじれを事前に確認し、十分に乾燥したものを使用する、あるいは現場での養生を適切に行うことが、後の変形を防ぐために大切です。

メンテナンスと交換は定期的に行う

桟、特にガラスやパネルとの接合部は、埃や汚れが溜まりやすい箇所です。美観を保ち、建具の機能を維持するためには、定期的な清掃が欠かせません。

木桟の場合は、表面の塗装が劣化すると吸湿しやすくなり、変形や腐食の原因となることがあります。傷や塗装の剥がれを見つけたら、早めに補修や再塗装を行うことで、寿命を延ばすことができます。

もし桟が破損してしまった場合、その部分だけを交換できるかどうかは、建具の種類や構造によって異なります。障子の組子などは部分的な補修が可能な場合もありますが、サッシの桟などは建具メーカーや専門業者による対応が必要となることが多いです。

建築における桟の歴史

「桟」は、飛鳥時代の寺院に使われた格子戸から始まったとされています。平安時代は寝殿造の障子に取り入れられ、室町・桃山期には書院造の欄間や町家の出格子となり、風と光を調整する役目を担いました。

江戸時代には茶室で釘を使わない繊細な木組みが磨かれ、明治以降は洋風建築の影響で鉄や銅、戦後はアルミへと素材が移り変わります。

現在は断熱性に優れた樹脂や複合サッシが主流ですが、社寺や茶室では今も木の桟が伝統を守っています。

「桟」を理解し、建築の質を高めるために

この記事では、建築における「桟」について、その基本的な意味から役割、種類、関連部材との違い、材料、現場での注意点まで幅広く解説してきました。

「桟」は、建具や造作において、単に部材を支えるだけでなく、デザインのアクセントとなり、時には光や風を制御する役割も担う、奥深い部材です。

木材の温もり、金属の耐久性、樹脂の断熱性といった材料ごとの特性を理解し、框や枠との違いを認識した上で設計・施工にあたることが、建築物全体の品質向上につながります。

一見小さな部材である「桟」ですが、その一つ一つに対する深い理解と丁寧な仕事が、お客様の満足度を高め、より良い建築を生み出すための基礎となるでしょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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