骨太の方針2026「戦略17分野」が経理部門に与える影響とは?

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電子帳簿保存法インボイス制度、新リース会計基準、取適法(改正下請法)。ここ数年、経理財務部門は「新たに公布、施行された法制度に対応する」というサイクルでの業務改革を迫られる場面が多かったのではないでしょうか。

しかし、2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針2026)」は、これまでとは少し性質の異なる業務改革のきっかけとなる指針です。

従来の制度対応は、対象企業に対して法令対応の義務が課される「対応義務型」でした。一方、今回の骨太の方針が示すのは、特定の業界・業種を投資対象として成長を促進し、国内外での競争力強化を図るという「成長対応型」の変化です。

つまり、「今の業務を回すために法令対応をする」のではなく、「自社や業界がこれから成長していくために、バックオフィスの側から備える」という制度の性質や目的に違いがあります。経理財務部門にとっては、単なる法制度への義務としての対応ではなく、企業成長を支えるための業務変化が求められる局面といえるでしょう。

本記事では、骨太の方針2026の核となる「戦略17分野」の概要から、企業の経理財務部門を中心としたバックオフィス領域にどのような影響があるのかを見ていきます。

※本記事は骨太の方針2026に基づくビジネス上の気づきを提供するものです。個別の投資・会計・税務判断については専門家にご相談ください。

【執筆者】
株式会社マネーフォワード
ERPドメインリサーチャー
合江 篤

2019年に株式会社マネーフォワードに入社。Fintech研究所にて金融制度、年金制度、海外金融サービス動向を中心とする調査研究をはじめ、弊社Fintech研究所Blogにおける海外Fintech企業の動向の発信や、金融財政事情などの金融専門誌への寄稿などを行う。

2022年から電子帳簿保存法・インボイス制度対応など法制度関連のマーケティング施策に従事。2024年12月からERPマーケティング本部にて企業のバックオフィス業務効率化・DXを推進する取り組みや、企業の経理・財務領域を中心としたバックオフィスパーソンへの情報発信を行っている。

骨太の方針2026の核となる「戦略17分野」とは?

骨太の方針2026において、内閣は官民で優先的に投資・支援することが必要と策定した分野を「戦略17分野」と定めました。具体的には、2040年度までに官民合計370兆円超の投資を、17の戦略分野において特に強化することが盛り込まれています。(※1)

その中で、17分野の内訳は、AI・半導体、デジタル・サイバーセキュリティ、情報通信、量子、防衛産業、航空・宇宙、海洋、造船、マテリアル(重要鉱物・部素材)、合成生物学・バイオ、創薬・先端医療、資源・エネルギー安全保障・GX、フュージョンエネルギー、防災・国土強靱化、港湾ロジスティクス、フードテック、コンテンツが挙げられています。

ここで注目すべきは、公表された「戦略17分野」による投資の影響が直接的な投資対象の企業にとどまらないという点です。投資対象のサプライチェーンとなる企業(たとえば、データセンター建設を請け負う建設・設備会社、電設工事、物流企業など)への波及も十分に考えられます。

「対応義務型」と「成長対応型」――今回の変化はどこが違うのか

電子帳簿保存法やインボイス制度は、企業が要件に該当する場合に定められた要件に対応しなければペナルティが発生しうる「対応義務型」の変化でした。一方、戦略17分野は「対応しないと罰則がある」わけではありません。

骨太の方針によって業種・業界に投資が強化されることで、サプライチェーン全体の取引量が増加する可能性が高まります。受注が増えれば請求書の発行数が増え、大型設備投資が実施されれば固定資産の登録・減価償却計算が増え、補助金を受領すれば区分経理・実績報告・証憑管理が必要となります。

バックオフィスにおいて「事業内容や業務内容は変わらないのに、日々の業務の負荷が増えてきた」と感じられた場合、それは社内に「成長対応型」の業務変化が求められているサインといえるのかもしれません。

バックオフィスに強く影響が出るポイントは3つ

「骨太の方針2026」が経理財務部門に与える影響は、大きく3つに整理できます。

影響①:取引量の増加

戦略17分野への投資が本格化するにつれ、対象となる業種の企業が増産・新工場の建設・新規受注など拡大局面に入ります。そのサプライチェーンに連なる企業では、受注・請求・仕入などの取引量が増加します。属人化した経理業務や「表計算ソフトでの手管理」のまま変化が来ると、処理が追いつかなくなるリスクが生じます。

影響②:お金の管理の複雑化

骨太の方針2026では、従来「予算措置は原則3年以内」とされていた国の基金ルールの抜本的な見直しを明記しました。複数年度にわたる補助金・支援策が制度として担保されることで、企業が中長期の設備投資をしやすい環境が整います。(※2)

ただし、補助金は受け取れば終わりではなく、区分経理・実績報告・証憑の保存義務など、受領後の経理処理が伴います。

影響③:AIの導入・活用が「国策の前提」になる

骨太の方針2026の成長試算では、DXやGX(グリーントランスフォーメーション)などによる生産性の向上を前提としており、AI活用はその実現手段の一つと位置づけられています。

これは、社内でDX投資の予算を経営層に説明する際の「説得材料」にもなります。

自社への影響を確かめるための3つの問い

以下の3つのテーマについて、まず自社の現状を確かめるところから始めてみてください。

その1:最低賃金1,500円が実現したとき、人件費はいくら増えるか

【こんな場面を考えてみましょう】

4月の昇給交渉シーズン、人事から「今年もベースアップをお願いしたい」と言われるが、全社的な人件費への影響試算を求めても「昨年比数%増で見ている」という返答しか返ってこない。翌年度の予算策定で人件費の数字を入れるとき、根拠のある積み上げではなく、前年踏襲ベースで「なんとなく合わせる」ことになっている。

骨太の方針2026は、実質賃金の年1%程度上昇を社会通念として定着させ、最低賃金を2030年代前半に全国平均1,500円に引き上げる方針を明記しました。(※3)

現在の最低賃金から1,500円まで、自社の最低給与水準との差はどのくらいあるか。引き上げた場合、年間の人件費総額はいくら増えるか。それは現在の営業利益の何%に相当するか。

この試算を「今」やっておくかどうかが、3〜5年後の経営判断の質を変えることになるでしょう。

【社内で確かめておきたいこと】

  • 自社の現在の最低給与水準と、最低賃金1,500円との差額はいくらか
  • 全社員を対象に、段階的な引き上げをシミュレーションしたことがあるか
  • 人件費上昇を織り込んだ中期の損益・資金繰り計画が存在するか

その2:補助金を受け取った後の経理処理について、今の運用できちんと回せるか

【こんな場面を考えてみましょう】

省力化投資に関する補助金の採択通知が届き、担当者が喜んでいる。しかしいざ実績報告の時期が近づくと、「どの支出が補助金対象だったか」「領収書はどこに保存したか」「証憑の形式は合っているか」という問いに誰も即答できない。あわてて経理部門に書類を集めてもらうが、会計システムとの突き合わせに想定外の時間がかかる。

骨太の方針2026では、基金ルールの抜本的な見直しにより複数年度にわたる補助金・支援策が増える方向性が示されています。(※4)活用機会が広がることは良いことですが、補助金の経理処理は「もらった後」の管理が本番です。

申請段階から区分経理の設計をしておくこと、会計システム上で補助金対象支出と通常支出を明確に分離できること、実績報告に必要な証憑が整理・保存されていること。この3点が整っていないと、採択されても実績報告段階で多大な労力が発生します。

【社内で確かめておきたいこと】

  • 現在受給中・申請済みの補助金の一覧と、それぞれの実績報告期限を把握しているか
  • 補助金対象支出を、会計システム上で通常支出と分離して管理できているか
  • 今後申請を検討したい補助金の要件と、自社の投資計画を照らし合わせたことがあるか

その3:変動金利の借入が多いが、金利が上がったときの試算・想定はあるか

【こんな場面を考えてみましょう】

借入金の管理資料を開くと、変動金利の借入が大半を占めている。「金利が低いうちは変動で十分」という判断が続いているが、金利が1%上昇した場合の年間利息の増加額を具体的に試算したことはない。経営会議で「金利リスクはどうか」と問われると、「現状は低水準なので問題ありません」という定性的な回答にとどまっている。

骨太の方針2026では、政府の財政運営の目標が変わりました。これまでの「単年度のプライマリーバランス黒字化」は、いわば毎年の家計簿を単年度で黒字にする発想です。新しい目標「債務残高対GDP比の安定的な低下」は、借金の総額ではなく、経済規模(GDP)と比べた借金の重さを、時間をかけて軽くしていくという考え方です。経済成長率が金利を上回るペースで拡大すれば、単年度で赤字でも借金の相対的な重さは減っていきます。

押さえておきたいポイントは、変動金利借入の一覧化や、利息率が上昇した場合の影響試算(例:+1%上昇時の利息増加額)、そしてそれを経営層へ定期的に報告するという仕組みづくりの準備などが挙げられます。「金利管理は財務担当の仕事」という感覚のままでは、いざという時の判断が遅れる可能性があります。(※5)

【社内で確かめておきたいこと】

  • 全借入金の金利条件(変動金利/固定金利、返済期間など)が一覧で把握できているか
  • 金利+1%シナリオでの年間利息増加額を試算したことがあるか
  • メインバンクと固定金利への切り替えについて最近対話したことがあるか

大切なのは「自社の経理財務は、成長に耐えられるか」という問いを立てること

今回取り上げた3つの問いには、共通するポイントがあります。どれも「今すぐ義務が生じるわけではない」けれど、「答えられない状態のまま変化が来ると、現場が立ち行かなくなるおそれがある」というものです。

最低賃金1,500円の影響試算ができていない企業は、賃上げが現実になった時点で初めて損益への影響に気づくことになるかもしれません。補助金の区分経理が設計できていない企業は、採択通知が届いてから証憑管理の不備に直面することになるでしょう。金利リスクの試算をしていない企業は、借入コストが変動し始めてから財務担当者が慌てることになりかねません。

いずれも「後から気づく」ことのコストは大きく、「先に確かめておく」コストは小さいのに、優先度が上がりにくいという共通点があります。

骨太の方針2026が示した国家の成長投資は、企業の経理財務部門にとって対応義務が速やかに発生するというものではありません。ただ、「自社の経理財務は、成長に耐えられる体制か」という問いを立てる良いタイミングではあります。上述の3つの問いに記載した「社内で確かめておきたいこと」を、まず一つから始めてみてください。それが、成長の波をバックオフィスで受け止める準備の第一歩になります。

【出典・参考文献】
※1 出典:内閣府『経済財政運営と改革の基本方針2026』(内閣府、2026年)24頁、https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/2026_basicpolicies_ja.pdf(最終閲覧日:2026年7月27日)
※2 出典:同上 26,27,38頁
※3 出典:同上 11頁
※4 出典:同上 26,27,38頁
※5 出典:同上 24,25頁

※ 本記事は2026年7月時点の情報に基づいています。政策の詳細・各種基準額は今後変更される可能性があります。最新情報は内閣府ウェブサイト(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/)をご参照ください。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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