インボイス制度でも請求書がいらない場合があるって本当? 交付を受けることが困難な場合とは?

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インボイス制度施行も残り数ヶ月。皆様、準備は進んでいますでしょうか。

インボイス制度においては、適格請求書等(インボイス)の様式や保存がより厳格になり、これまで以上の実務負担が懸念されております。

今回はそんな実務負担を少しでも軽減すべく、インボイスの保存がいらないケースについて見ていこうと思います。

「3万円特例」の廃止

現行制度である区分記載請求書等保存方式の下では、3万円未満の少額な取引や請求書等の交付を受けなかったことにつきやむを得ない理由があるときは、一定の事項を記載した帳簿の保存のみで、仕入税額控除の要件を満たしていることとなっております。

しかしながら、インボイス制度が開始されると、原則、仕入税額控除を受けるために帳簿および適格請求書(インボイス)の保存が必要になります。つまり、これまでのいわゆる「3万円特例」が廃止されることになります。

ただし、インボイス制度施行後も、「売手から請求書等の交付を受けることが困難である」などの理由により、次の取引については一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることとなります。

現行の「3万円特例」は廃止されますが、ここでのキーワードはやはり「3万円」となってきます。

請求書等の交付を受けることが困難な取引

①3万円未満の公共交通機関による旅客の運送

②適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引

③古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの一定の古物の購入

④質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの一定の質物の取得

⑤宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの一定の建物の購入

⑥適格請求書発行事業者でない者からの一定の再生資源および再生部品の購入

⑦3万円未満の自動販売機および自動サービス機からの商品の購入等

⑧適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする一定の郵便・貨物サービス

⑨従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当および通勤手当)

帳簿の記載方法への影響について

帳簿のみの保存で仕入税額控除の適用を受ける場合、帳簿の記載事項に関し、通常必要な記載事項(下記参照)に加え、次の事項の記載が必要となります。

通常必要な帳簿の記載事項(現行と同様)

    1.課税仕入れの相手方の氏名又は名称
    2.取引年月日
    3.取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
    4.対価の額

追加で必要な帳簿の記載事項

    1.帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入に該当する旨
例:
上記①に該当する場合「3万円未満の鉄道料金」
上記②に該当する場合「入場券等」
上記⑨に該当する場合「出張旅費等」

 

    2.仕入の相手方の住所又は所在地(一定の者(下記参照)を除きます。)

帳簿に仕入れの相手方の住所又は所在地の記載が不要な一定の者の範囲

イ 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送について、その運送を行った者

ロ 適格請求書の交付義務が免除される郵便役務の提供について、その郵便役務の提供を行った者

ハ 課税仕入れに該当する出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)を支払った場合の当該出張旅費等を受領した使用人等

ニ 上記の③から⑥の課税仕入れを行った場合の当該課税仕入れの相手方
(上記の③から⑤に係る課税仕入れについては、古物営業法、質屋営業法又は宅地建物取引業法により、業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外のものに限ります。上記⑥に係る課税仕入れについては、事業者以外の者から受けるものに限ります。)

「3万円」に関する留意点

ここでの留意点として、上記①公共交通機関による旅客の運送については3万円未満とする金額基準がありますが、上記⑨従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費については金額基準がありません。

つまり上記⑨については3万円以上でも帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められるということになります。ですので、ここで留意すべきは、自社として「通常必要と認められる」という範囲をどういった基準で定めるか、ということになります。

なお、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる「通常必要であると認められる部分」については、所得税(基本通達9-3)に基づき判定します。所得税が非課税となる範囲内で、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることになります。

つまり、裏を返せば、「通常必要と認められない部分」として、所得税法上も「給与所得」として課税対象となってしまった旅費については、インボイス制度上も「帳簿のみの保存」で仕入税額控除が認められないため、インボイスの保存が必要になるということになります。

これらについては、具体的な範囲の定めがないため、多少混乱するところではありますが、これまで「出張旅費規程」を適切に定め運用を行なってきた企業については大きな影響はないのではないかと思われます。

まとめ

今回はインボイスの保存が必要ないケース及びその留意点について、解説いたしました。これらの特例制度をきちんと理解することが、実務運用の負荷をできるだけ抑えることにつながると考えます。今回のお話が皆様の今後の参考になれば幸いです。

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