サステナブルな地域社会の実現へ 〜F・マリノススポーツクラブ バックオフィスチームの挑戦〜

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サステナブルな地域社会の実現へ 〜F・マリノススポーツクラブ バックオフィスチームの挑戦〜

2022年にクラブ創立30年目という節目を迎える横浜F・マリノス。「オリジナル10」としてJリーグ発足当時から現在までトップリーグに名を連ねる名門でありながら、近年では日本のプロサッカーチームとして初めて外国資本とパートナーシップ提携を結ぶなど革新的な取り組みが注目を集める都市型クラブです。

群雄割拠のJ1リーグにおいて毎年優勝争いをする強豪チームとして躍進するF・マリノスですが、その傍らには、Jリーグが掲げる地域に根ざしたスポーツ文化の振興活動『Jリーグ百年構想』を推進すべく、チームとは別に組織化された「一般社団法人F・マリノススポーツクラブ」(以下、FMSC)の存在と活動があります。今回は、そのFMSCのバックオフィスを支える管理本部の小柳慶太郎経理部部長にお話を伺いました。

一般社団法人設立の目的は「サステナブルな地域社会」の実現

“スポーツのチカラ”で地域社会の活性化を目指す

――一般社団法人設立に至った経緯と目的を教えてください。

「一般社団法人F・マリノススポーツクラブ」は、2020年11月に設立しました。
設立した目的のひとつは、法人組織を「サッカーをみる・みせる領域」である横浜マリノス株式会社と、「サッカーをする領域」を中心とした一般社団法人とに分けることでした。

「みる・みせる領域」は、興行としてのサッカーがメイン。対して「する領域」は、世界で活躍できるサッカー選手や地域の将来を担っていくような人材を育てる普及・育成事業をコアにしながら、行政や地域の方々とともに“スポーツのチカラ”でよりよい地域・コミュニティづくりを目指す地域貢献活動が業務のメインとなります。

もともとF・マリノスをサポートしていただいている企業様には、トップチームの興行を通じて自社をPRする「スポンサー」と、F・マリノスの地域貢献活動を支えようという企業様の2つのタイプがありました。そのサポートいただける部分を2つに分けて、活動を明確化することがFMSCを発足したきっかけです。

――一般社団法人化することで、FMSCとFMSCをサポートする企業様にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

近年、企業によるSDGsに対する貢献やESGの観点からの経営が求められてきていますが、貢献しようにも何をしてよいのかわからない、貢献していてもそれが世の中にうまく伝わらないという企業様が実はかなり多いのです。

それが、FMSCの活動をサポートいただくことにより「●●社がF・マリノスの社会貢献活動に協賛している」というファクトが可視化され、一般の方々にも企業の姿勢が伝わりやすくなります。企業側も自社の協賛がどういったSDGsの貢献につながっているかということが明確になります。スポンサードされた資金の使いみちがクリアに見えるところに意味があるのです。

また、一般社団法人化したことにより、思いがけない企業様が我々の理念に共感されスポンサードいただいた例がいくつもあります。例えば、ECC様にはサステナブルグローバル人材育成パートナーとなっていただき、スクールにおける英語のクラスをセットにしたプログラムの開講や、コーチ、アカデミー生を対象とした英語のレッスンの提供を始めました。より幅広い企業様から協賛していただけるようになったことは、一般社団法人化したことの大きな成果と言えるでしょう。

――一般社団法人化することにより、組織の中に変化はありましたか?

一般社団法人になると、社会からオールラウンダーであることを求められます。

実際、スクールのコーチが地域やスポンサーのイベントへ参加したり、知的障がい者チーム「横浜F・マリノス フトゥーロ」の監督・スタッフがスポンサー営業に関わったりすることなど各自が専門外のことにも挑戦していかなくてはなりません。

また、日産スタジアムの運営への参加や、横須賀市の企業版ふるさと納税事業への参画などで行政の方々との接点も増え、一般社団法人化以前ではできなかったことにまで活動の幅が広がっています。

これらの活動は、横浜F・マリノスというクラブの存在意義を訴えることにもつながります。一般社団法人化したことにより、自分たちの活動でクラブや地域・コミュニティが活性化し、それがさらに大きく発展していくという希望や使命感を持てるようになりました。

サッカー選手の育成という循環型ビジネスモデル

――サッカー選手の育成が地域貢献にどうつながるのか教えてください。

まず前提として、FMSCは企業様による協賛のほか法人・個人による賛助会員の会費によって支えられています。個人賛助会員の会費は1口3,000円ですが、ひとりで10口以上申し込まれる方も多々おられます。それは、アカデミーの選手を育てるなどでクラブの一員となって応援することへの期待値の高さを表しています。見返りを求めずに応援してくれる賛助会員の方々がいることが、アカデミーの原資となっているのです。

また近年では、アカデミー出身の選手が成長することで、億単位のお金をクラブにもたらすという先進的なビジネスモデルも確立されてきています。日本代表にも選ばれた遠藤渓太選手がドイツのクラブに移籍した際には、クラブを通じてFMSCにもトレーニング費用という形での収入がありました。

アカデミーはFMSCのなかで最も経費を要する部門ですが、育成した選手がトップチームに入団することで資金面でもクラブに還元できますし、F・マリノスというブランドを高める大事な存在でもあります。

目標は、アカデミーの活動が活性化することで、地元出身の優秀な選手が増えていくという有機的なサイクルを完成させること。元クラスメイトやチームメイト、同じ学校の先輩・後輩が世界で活躍したら地域は盛り上がるでしょう。サッカーを通じて人材を育て、その人が世界で活躍して地元を元気にしてくれる。そんな循環型の未来を描いています。

FMSCを支えるバックオフィスの業務改革

「プロジェクト化」と「ツール活用」で業務を効率化

――FMSCの活動を最大化させるために組織として取り組んでいることを教えてください。

FMSCは、選手を育成する「アカデミー」、小学校などに出向きサッカー指導をする「スクール・ふれあい」のほか、「地域連携本部」「施設運営本部」「スポーツ事業本部」といった部門で組織されています。それぞれの業務は関わる部署が多岐にわたることから横軸でプロジェクトチームを編成して問題解決にあたっています。現在3つのプロジェクトが始動しており、どれも効率的に機能していると言えます。

――バックオフィス業務はどのように効率化されていますか?

全体のうち、管理業務を行うバックオフィススタッフの割合は、フロント9に対してバック1くらい。人員としては数名しかいませんが、『マネーフォワード クラウド』などの最新ツールの導入、業務作業のクラウド化、紙から電子化への移行などを積極的に行い、効率化を図っています。

とくに経理部門ではマネーフォワードクラウド会計の仕訳一括アップロードの機能を有効に活用することで、スタッフの労務費などの煩雑で時間を要する仕訳作成作業から解放され、業務をかなり改善させることができました。また、前払費用未払費用など、毎月定常的に発生する通過勘定の振替処理を一括処理できるようになったことも効率化につながっています。

変わるバックオフィスの意識と環境

――ツールの具体的な活用法と、それによって得られた効果を教えてください。

マネーフォワードの部門別集計表の機能を活用し、毎月の会計情報を事業部毎に集計しています。アクセス権を各部門の主要スタッフに付与することで、事業部毎に会計情報をタイムリーに見ることが可能となり、自部署の損益に対する意識が著しく高まりました。その結果、部署毎に改善点を提案したり、互いに問題を指摘し合ったりすることで経費についての意識付けが強くなりました。

マネーフォワードの部門別集計表の機能を活

それまでは、会社の「PL(貸借対照表)」や「BS(損益計算書)」 は経理が作るものという意識がありましたが、部門別会計ツールの導入によって、自分たちの入力したデータがそのまま損益となってアウトプットされる、つまり自分たちのパフォーマンスが数値化されていく過程を理解することで、収益に対する意識が変わり始めたことは大きな収穫です。

――現状の課題や、さらなる効率化のために考えていることを教えてください。

マネーフォワードはネットワークを使った決裁プロセスが備わっており、また電子帳簿保存法にも対応しているので、今後の働き方にあわせた使い方の検討をしていきたいと考えています。ただし、便利さを重視する一方で社内のコンプライアンスの遵守がおろそかになる恐れもあり、そこはバランスをとりながら進めていきたいと思っています。

FMSCが描くサステナブルな未来

持続可能な事業体から地域のプラットフォームへ

――SDGs達成のためにバックオフィスチームが果たす役割をどのように位置づけていますか?

SDGs達成に向けた活動としては、限りある資源をいかに効率よく消費するかという点に配慮しています。
また地域に貢献するために非営利事業を行う組織として、活動で得た利益は地域のための再投資に回すことが責務。一般社団法人の収益は、地域の方々の思いを実現するために大事に使う必要があります。そこにおけるバックオフィスの役割としては、金銭出納の一連の流れを可視化して透明性を高めることが重要だと、スタッフ全員が強く意識しています。

――FMSCが目指す未来像や成し遂げたいことを教えてください。

FMSCとしての当面の目標は、財政的に独り立ちすることではないかと考えています。独り立ちすることによって、自分達で判断できる領域が広がってきます。それは、世界で活躍する選手を数多く育てるための設備を充実させることかもしれませんし、地域のために何か新しいことをチャレンジすることかもしれません。

4月からは、知的・発達障がい児を対象にしたサッカースクール「にじいろくらす」が開講されます。また、横須賀市においてはふるさと納税を活用した学校訪問も本格化してきます。FMSCの活動はSDGsの普及に直結しています。SDGsの普及がFMSCの自立につながり、活動を広げていくことでさらなる地域への再投資へとつながる。そんな好循環がうまれてくれればいいと願っています。

「一般社団法人F・マリノススポーツクラブ」が地域のプラットフォーム的な存在となって、やがてより広い範囲でサステナブルな地域社会が実現することが最終的な目標であり、我々のミッションであると考えています。

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