球春到来! 今年もプロ野球各球団の春季キャンプが2月1日から始まります。新人選手が合流することもあり注目度も高いですね。一方、華やかな世界の裏には、昨シーズン限りで戦力外になった選手たちもいます。彼らはその後、どのような生活を送るのか――長年、スポーツ選手のファイナンシャルプランニングを手掛ける中で見えてきた、現役引退したスポーツ選手のキャリアや金銭事情についてお話します。(執筆者:公認会計士・税理士・FP 國井隆)
戦力外通告を受けた選手の生活
「戦力外通告」は、プロ野球で使われる言葉です。日本のプロ野球では、各球団の支配下登録選手の上限は70人までとなっています。戦力外通告は、選手に「翌シーズンは支配下登録選手の構想外である」ことを告げる時に使われます。
戦力外通告を受けた選手は、他の球団等でのプレーを希望する「自由契約」(野球協約第58条)、現役を引退する「任意引退」(野球協約第59条)となります。他の球団や独立リーグでプレーする選手はそんなに多くないのが実情です。
プロ野球選手の平均数千万の年俸といった世界から、違う世界になるので、生活も大きく変わることになりますね。2018年のプロ野球で自由契約選手および任意引退選手として公示された方は145名でした。厳しい世界ですね。
一方、サッカーでは「プロサッカー選手の契約、登録及び移籍に関する規則」で翌シーズン契約しない場合には、原則リーグ戦終了後5日以内に通知することになっています。戦力外通告という言葉ではなく、「ゼロ円提示」という言葉が使われます。「契約更新に関する通知書」に翌シーズンはゼロ円と記載され、つまり契約しませんという意味ですね。
サッカーは、JリーグのカテゴリーでもJ1からJ3まであり、その下のJFL(日本フットボールリーグ)、さらには地域リーグ、都道府県リーグと裾野が広いため、他のチームでプレーする選択肢はやや多いようです。
ゴルフなど選手生活が長いスポーツもありますが、他のスポーツでも20代後半か30代半ばになると選手生活にピリオドをするが多いのが実情でしょう。
戦力外選手はどんなキャリアに進むの?
プロ野球選手生活にピリオドを打った元選手たちの次のキャリアは様々です。2017年の「戦力外選手/現役引退選手の進路調査結果」をNPB(日本プロ野球機構)が公表していますが、野球関係が70%、野球関係以外が30%になっています。ただし、この中には他球団、独立リーグ、社会人野球などの現役続行組も含まれていますので、これら以外だと約半数は野球とは関係ない職種に就いています。
サッカーの場合でも、指導者ライセンス制度はあるものの、サッカー界以外の職種に就くケースも結構あると思います。
世間一般的には、スポーツ選手は引退後に「セカンドキャリア」を歩むもの、つまりキャリアチェンジするものだとイメージしがちですよね。
プロ野球選手で平均7~8年、プロサッカー選手で3~4年と言われるように、現役生活は短いものになります。そのため、早い段階から現役引退後のキャリアも見据えておくことが重要になります。
最近では、“人としてのキャリア”と“アスリートとしてのキャリア”を並列的に考えていく「デュアルキャリア」という概念が取り上げられています。スポーツ選手としてのアスリートライフ(パフォーマンスやトレーニング)に必要な環境を確保しながら、現役引退後のキャリアに必要な教育や職業訓練を受け、将来に備える意識も重要になってきますね。
金銭面のギャップに適合できるかが第一関門
よく言われることですが、日本の住民税の徴収は、実際の所得を得た翌年に課税されることになっています。具体的には、前年度の所得に対して、1月1日の住所がある市町村で課税され、所得の多寡に応じて税額が決まる「所得割」と、一定金額の「均等割」を合計した金額になります。所得割は、現在10%になっていますので、選手の最後の年に稼いでいた方は、住民税にびっくりする元選手も多いのです。
また、プロ野球選手に限らず、高額な賞金やスポンサー料を稼いでスポーツ選手が引退すると、解説者やタレントになる一部の選手を除いては、収入が大きく下がるケースがほとんどですので、今までとお金の面では大きく異なります。その金銭面のギャップにうまく適合できるかが次のステージへの第一関門ですね。
現役引退後の税金の心配ごと
大きく所得が減った場合には、先ほどの住民税の他に、所得税や消費税の予定納税も考慮しておかないといけません。これらは前年度の金額をベースに算定されますが、減額申請といって実際の所得金額を申告することも可能ですので、忘れずに申告をしておくことが肝要ですね。
また、個人事業主が加入している小規模共済に加入している選手は、選手引退とともに廃業ということになりますので、共済金を受け取ることができます。一括で受け取る場合、退職所得扱いとして通常の所得とは別に計算され、収入金額から退職所得控除額(20年以下の場合は40万円×勤続年数、80万円に満たない場合には80万円) を控除した後の金額の1/2が課税対象になりますので、税務上の大きなメリットがありますね。
勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × A (80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (A – 20年) |
国民健康保険は、前年度の所得に対して保険料が決定されるため、引退した翌年は健康保険料も重くのしかかりますね。
金銭感覚を戻すのは時間がかかる
長年、選手の税金やファイナンシャルプランニングをやっていると、「金銭感覚を戻すのには結構時間がかかるなぁ」というのが率直な感想です。金銭的に余裕があると、ついつい不要なものにも出費するのは、プロのスポーツ選手でなくとも、私たちにも当てはまりますね。「お金は天下のまわりもの」などと言わずに、しっかり金銭管理できるようにしておきたいものです。
お金は使ったら忘れしまいがちです。カードの明細を見て、これ何の支払いだったかなあと言っている方も多いと思います。お金は「記憶」で管理しないで、「記録」でしっかり管理しましょう。
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