• 作成日 : 2025年6月5日

TOBで株はどうなる?株価変動と株主がすべきことを徹底解説

TOB(株式公開買付け)という言葉を聞いたことはありますか?企業買収のニュースなどで耳にするかもしれませんが、実際に自分が株を持っている会社がTOBの対象になったらどうなるのか、具体的に知っている方は少ないかもしれません。

この記事では、TOBが発表された際の株価の動きや、株主としてどのような行動を取るべきかについて、詳しく解説していきます。TOBは、株主にとって大きな転機となる可能性があります。ぜひこの記事を読んで、いざという時に冷静な判断ができるように備えましょう。

TOBとは?

TOBとは、「Takeover Bid」の略称で、日本語では「株式公開買付け」と呼ばれています。これは、ある株式会社の経営権を取得したり、影響力を強めたりしたい買い手(買付者)が、「この価格(買付価格)で、この期間内に、これだけの株数を買います」と宣言(公告)し、市場の外で株主から直接株式を買い集める方法です。証券取引所を通さずに、不特定多数の株主に対して行うのが特徴です。

買い手は、株主に対して魅力的な条件(多くの場合、市場価格よりも高い価格)を提示することで、目標とする株数を効率的に取得しようとします。

TOBが行われる目的は様々ですが、主なものとしては以下のようなケースが考えられます。

  • 経営権の取得:会社の支配権を握り、経営方針を大きく変えたい場合。
  • 子会社化:すでに一定の株式を持っている会社の株式をさらに買い増し、完全子会社化や連結子会社化を目指す場合。
  • 資本業務提携の強化:提携関係にある企業の株式を取得し、より強固な関係性を築きたい場合。
  • MBO(経営陣買収):経営陣が自社の株式を買い集め、非公開化(上場廃止)を目指す場合。

近年、企業再編や事業ポートフォリオの見直しが活発になる中で、TOBはM&Aの有効な手段として活用される場面が増えています。

TOBが発表されたら株価はどう動く?

次に、TOBが発表された後の株価の一般的な値動きや、過去の事例、そしてTOB価格が市場価格にどう影響するのかについて解説します。

TOB発表後の株価の一般的な動き

TOBが発表されると、対象となった会社の株価は、多くの場合、TOB価格(買付価格)に近づくように上昇する傾向があります。これは、市場価格よりも高い価格で買い取ってもらえるという期待感から、投資家の買い注文が集まるためです。

ただし、必ずしもTOB価格まで上昇するとは限りません。TOBが成立する可能性(買付予定数の下限を達成できるかなど)や、他の株主の動向、市場全体の状況などによって、株価の動きは変動します。TOB価格を少し下回る水準で推移することが一般的です。

過去の事例から見る株価変動のパターン

過去のTOB事例を見ると、いくつかのパターンが見られます。

  1. TOB価格付近への急騰:最も一般的なパターンです。発表直後にTOB価格近くまで株価が上昇し、TOB期間中は比較的安定した値動きになります。
  2. TOB価格を超える上昇:稀なケースですが、他の買い手候補(対抗TOB)が現れるのではないかという期待感や、TOB不成立のリスクが低いと判断された場合などに、一時的にTOB価格を超えることもあります。
  3. TOB価格に届かない動き:TOB成立への不確実性が高いと市場が判断した場合や、TOB期間が非常に長い場合などには、TOB価格よりも低い水準で推移することもあります。

これらのパターンはあくまで傾向であり、個別のTOB案件ごとに状況は異なります。

TOB価格が市場価格に与える影響

TOB価格は、その後の市場価格の「目印」のような役割を果たします。多くの場合、株主はTOB価格と現在の市場価格を比較して、TOBに応募するか、市場で売却するかを判断します。そのため、市場価格はTOB価格を強く意識した値動きになりやすいのです。TOB価格が市場価格に対してどれだけプレミアム(上乗せ幅)を持っているかが、株価の反応の大きさに影響を与える重要な要素となります。

TOB発表後、株主が取るべき行動

TOBが発表された際に、株主として考えられる主な選択肢(応募、市場売却、保有継続)それぞれのメリットとデメリットを整理します。

TOBが発表されると、株主の皆さまはご自身の保有株について、いくつかの選択肢の中から判断を迫られることになります。主な選択肢は、「TOBに応募する」「市場で売却する」「そのまま保有し続ける」の3つです。それぞれの特徴を見ていきましょう。

TOBに応募する

TOBに応募するということは、買付者が提示した価格(TOB価格)で株式を買い取ってもらう手続きをすることです。

  • メリット:
    • 多くの場合、市場価格よりも高いTOB価格で売却できる可能性があります。
    • TOBが成立すれば、確実に提示された価格で買い取ってもらえます(※応募株数が買付予定数を超えた場合は、按分比例になることがあります)。
    • 市場での売買手数料がかからない場合があります(証券会社によります)。
  • デメリット:
    • TOB期間が終了するまで、代金を受け取ることができません。
    • TOBが不成立となった場合、売却できずに株式が手元に戻ってきます。その後の株価は下落するリスクがあります。
    • もし市場価格がTOB価格を上回った場合、市場で売却した方が有利になる可能性もゼロではありません(ただし、一般的ではありません)。

市場で売却する

TOB発表後、上昇した株価を見て、証券取引所を通じて通常通り売却する方法です。

  • メリット:
    • すぐに現金化できます。TOB期間終了を待つ必要がありません。
    • TOBの成否に関わらず、売却が成立すれば確実に代金を受け取れます。
    • ごく稀に、市場価格がTOB価格を上回る局面があれば、より高い価格で売却できる可能性もあります。
  • デメリット:
    • 通常、TOB価格よりも少し低い価格でしか売却できないことが多いです。
    • 証券会社への売買手数料が発生します。
    • TOB成立を見込んで株価が上昇しているため、もしTOBが不成立になれば、売却しない場合と同様に株価下落のリスクに晒されます(売却タイミングを逃した場合)。

保有し続ける

TOBに応募もせず、市場での売却もせず、そのまま株式を持ち続ける選択肢です。

  • メリット:
    • もしTOBが不成立になり、かつその企業の将来性に期待できる場合、長期的な株価上昇の恩恵を受けられる可能性は残ります。
    • TOB後も上場が維持される場合(買付者の意向によります)、引き続き株主としての権利(配当、株主優待など)を享受できます。
  • デメリット:
    • TOBが成立し、その結果として上場廃止になると、市場での売買ができなくなり、株式の流動性が著しく低下します。
    • 上場廃止後、スクイーズアウト(後述)により、強制的に株式を買い取られる可能性があります。その際の価格がTOB価格と同じとは限りませんが、実務上は同額になることが多いです。
    • TOBが不成立になった場合、株価がTOB発表前の水準、あるいはそれ以下に下落するリスクがあります。

3つの選択肢の比較

選択肢メリットデメリットこんな方におすすめ
TOBに応募
  • 有利な価格(TOB価格)で売れる可能性
  • 成立すれば確実に売却できる
  • 現金化まで時間がかかる
  • 不成立リスク
  • 按分比例の可能性
  • 確実にTOB価格で売りたい方
  • 手続きの手間を惜しまない方
市場で売却
  • すぐに現金化できる
  • TOBの成否に関わらず売却できる
  • 通常、TOB価格よりやや低い価格になる
  • 売買手数料がかかる
  • すぐに現金化したい方
  • TOBの手続きが面倒な方
保有し続ける
  • 将来的な株価上昇への期待(不成立/上場維持の場合)
  • 株主権利の継続(同上)
  • 上場廃止リスク(流動性低下)
  • スクイーズアウトリスク
  • 株価下落リスク(不成立の場合)
  • 会社の将来性に強く期待し、リスクを取れる方

どの選択肢が最適かは、株主さまご自身の投資方針、リスク許容度、そしてTOBの条件や背景によって異なります。

TOB成立後の株価と株主への影響

TOBが無事に成立した後、株価や株主の立場がどう変化するのか、特に上場廃止やスクイーズアウトについて解説します。

TOBが成立すると、買付者は目標としていた株式数を取得することになります。その後の展開は、買付者の意向(完全子会社化を目指すのか、上場を維持するのかなど)によって大きく変わってきます。

上場廃止となる場合の影響と注意点

買付者が対象企業の全株式取得(完全子会社化)を目指している場合、TOB成立後にその企業は上場廃止となることが一般的です。上場廃止になると、証券取引所での株式の売買ができなくなります。

株主にとっての主な影響は以下の通りです。

  • 流動性の喪失:自由に株式を売買できなくなるため、換金性が著しく低下します。
  • 株価情報の非公開化:市場価格がなくなるため、自身の保有株の価値を把握しにくくなります。
  • スクイーズアウトの実施:多くの場合、上場廃止後にスクイーズアウト(後述)という手続きが行われ、残りの少数株主から強制的に株式を買い取ることになります。

TOBに応募しなかった株主は、上場廃止になると売却の機会が極端に限られるため、注意が必要です。

上場維持される場合の株価の推移

買付者の目的が完全子会社化ではなく、一定の議決権比率の確保にとどまる場合など、TOB後も上場が維持されるケースもあります。この場合、株主は引き続き市場で株式を売買できます。

しかし、大株主(買付者)の意向が経営に強く反映されるようになるため、株価の動きは以前と変わる可能性があります。市場に出回る株式数(浮動株)が減少することで、流動性が低下し、株価の変動が小さくなったり、逆に少しの売買で大きく動いたりすることもあります。株価は、買付者の今後の経営方針や市場の評価によって推移していくことになります。

スクイーズアウトとは?

スクイーズアウトとは、日本語で「締め出す」という意味合いがあり、M&Aにおいては、買付者がTOBなどで大多数の株式を取得した後、残りの少数株主から、その保有する株式全部を強制的に金銭等を対価として取得する手続きのことです。これにより、買付者は対象企業を100%子会社化できます。

日本の会社法では、主に「株式等売渡請求」や「株式併合」といった手法が用いられます。スクイーズアウトが行われる場合、少数株主は否応なく株式を手放すことになり、対価として現金を受け取ることになります。この際の買取価格は、多くの場合、TOB価格と同額に設定されますが、法的に保証されているわけではありません。

TOBに応募しなかった株主は、最終的にこのスクイーズアウトによって株式を手放すことになる可能性が高い、ということを認識しておく必要があります。

TOBに関する注意点とリスク

TOBに関連して株主が特に気をつけるべき点、情報収集の方法、そしてTOBに応じなかった場合に考えられるリスクについて説明します。

TOBは株主にとって大きなイベントですが、いくつか注意すべき点やリスクも存在します。冷静な判断のためにも、これらを理解しておきましょう。

TOBに応募する際の手続きと注意点

TOBに応募する場合、通常、対象株式を預けている証券会社を通じて手続きを行います。証券会社によって手続き方法や締切時間が異なる場合があるため、早めに確認することが重要です。

主な注意点は以下の通りです。

  • 申込期間:TOBには必ず期間が定められています。この期間内に手続きを完了させる必要があります。
  • 必要書類:証券会社から送られてくる「公開買付応募申込書」などの書類に必要事項を記入し、提出します。
  • 代理人:TOBには「公開買付代理人」として指定された証券会社があります。原則として、その証券会社に口座を開設し、株式を移管した上で応募する必要があります(※証券会社によっては、他の証券会社に預けたままでも取次ぎしてくれる場合があります)。
  • 撤回:一度応募すると、原則としてTOB期間中は撤回できません(※公開買付者がTOB条件の変更などを行った場合は、撤回可能になることもあります)。

手続きの詳細については、必ずご利用の証券会社や、公開買付説明書で確認してください。

TOBに関する情報収集の重要性

適切な判断を下すためには、正確な情報を集めることが不可欠です。以下の情報を確認しましょう。

  • 公開買付説明書:買付者から提示される、TOBの目的、買付価格の算定根拠、買付期間、買付予定数、買付け後の経営方針などが詳細に記載された最も重要な書類です。金融庁のEDINET(電子開示システム)や、買付者のウェブサイトなどで確認できます。
  • 対象会社の意見表明報告書:TOBに対して、対象となる会社が賛同するのか、反対するのか、中立なのかといった意見と、その理由が記載されています。こちらもEDINETなどで確認できます。
  • 証券会社の情報:ご利用の証券会社からも、TOBに関する案内や手続き方法についての情報が提供されます。
  • ニュース報道:M&Aに関する専門メディアや経済ニュースなども参考になりますが、情報の正確性には注意が必要です。

これらの情報を総合的に検討し、ご自身の判断材料とすることが大切です。

TOBに応じない場合のリスク

前述の「保有し続けるリスクと機会」でも触れましたが、TOBに応募しない、あるいは市場で売却しないことを選択した場合、以下のようなリスクが伴います。

  • 株価下落リスク:TOBが不成立に終わった場合、プレミアムが剥落し、株価がTOB発表前の水準かそれ以下に下落する可能性があります。
  • 上場廃止・スクイーズアウトリスク:TOBが成立し、買付者が完全子会社化を目指す場合、上場廃止となり、最終的にスクイーズアウトによって強制的に株式を買い取られる可能性が高いです。このプロセスには時間がかかる場合があります。
  • 流動性リスク:上場廃止になると、自由に売買できなくなり、換金が困難になります。

これらのリスクを十分に理解した上で、保有し続けるかどうかを判断する必要があります。

Q&A:TOBに関するよくある質問

TOBに関して株主さまから寄せられることの多い質問について、簡潔にお答えします。

TOB価格はどうやって決まる?

TOB価格は、買付者が対象会社の企業価値を評価し、それに一定のプレミアム(上乗せ額)を加えて決定されます。企業価値の評価には、DCF法(将来のキャッシュ・フローを現在価値に割り引く方法)、類似会社比較法(似ている上場企業の株価指標を参考にする方法)、市場株価法(過去の市場株価を参考にする方法)など、様々な手法が用いられます。

友好的なTOBの場合は、対象会社の経営陣と協議の上で価格が決定されることもあります。最終的には、買付者が「この価格なら目標の株数を集められるだろう」と判断した価格が提示されます。

TOBに応募した場合の税金はどうなる?

TOBに応募して株式を売却した場合の税金は、基本的に、通常の株式売却と同様に扱われます。売却によって得た利益(譲渡所得)に対して、申告分離課税として所得税・住民税・復興特別所得税が課税されます。

特定口座(源泉徴収あり)を利用している場合は、原則として証券会社が計算・納税を行ってくれるため、確定申告は不要です。ただし、他の口座との損益通算や損失の繰越控除を行う場合などは、確定申告が必要になります。

税金の取り扱いは個別の状況によって異なる可能性があるため、詳細については、税務署や税理士にご相談いただくことをお勧めします。

TOBに応募する際、どこに相談すればいいですか?

TOBへの対応について迷った場合、まずは株式を預けている証券会社に相談するのが一般的です。手続き方法や、TOBに関する基本的な情報を提供してくれます。

ただし、証券会社はあくまで中立的な立場であり、「応募すべきか」「市場で売るべきか」といった投資判断に関する具体的なアドバイスは行えません。

もし、より専門的なアドバイスが必要な場合や、保有株数が多く判断の影響が大きい場合などは、独立系のファイナンシャル・アドバイザー(IFA)や、場合によっては弁護士、税理士などの専門家に相談することも検討しましょう。

TOBが起こったら、冷静に判断してどうするかを決めましょう

TOBの発表は、株価の急騰など、株主にとって大きなインパクトのある出来事です。しかし、周囲の雰囲気や短期的な株価の動きに惑わされず、まずは冷静になることが大切です。

公開買付説明書や対象会社の意見表明報告書などの一次情報をしっかりと読み込み、TOBの条件、背景、そしてご自身の状況(投資目的、リスク許容度など)を照らし合わせて、最適な選択肢は何かをじっくり検討しましょう。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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