• 作成日 : 2025年8月19日

実績PBRとは?予想PBRとの違い、計算方法、投資での使い方を解説

株式投資において企業の株価が割安か割高かを判断する際、PBR(株価純資産倍率)は広く用いられる指標の一つです。そして、そのPBRには「実績PBR」と「予想PBR」の二種類が存在することをご存じでしょうか。この二つの違いを正確に理解し、適切に使い分けることは、投資判断の精度を高める上で欠かせません。

この記事では、「実績PBR」の基本的な定義から、予想PBRとの違い、具体的な計算方法、そして投資分析への活かし方までを、専門用語をかみ砕きながら解説します。

PBR(株価純資産倍率)の基本

実績PBRを理解するためには、まずその根幹にあるPBR(株価純資産倍率)の概念を正確に把握しておく必要があります。PBRは、企業の資産面から株価の価値を測るための指標であり、多くの投資家がPBRを利用しています。

PBRとは何か?企業の解散価値を示す指標

PBR(Price Book-value Ratio)は、現在の株価が企業の「1株あたり純資産(BPS: Book-value Per Share)」の何倍であるかを示す指標です。純資産とは、企業の総資産から負債を差し引いた、いわば「株主の持ち分」です。仮に企業が活動をやめて解散した場合、株主に分配されるべき資産がどれくらいあるかを示すため、「解散価値」とも呼ばれます。

PBRの計算式と見方(1倍が基準)

PBRは以下の計算式で求められます。

PBR=株価 ÷ 1株あたり純資産(BPS)​

例えば、株価が1,500円で、1株あたり純資産が1,000円の企業であれば、PBRは1.5倍となります。PBRは1倍が理論上の一つの基準とされます。PBRが1倍の状態は、株価と企業の解散価値が等しいことを意味します。もしPBRが1倍を割り込んでいる場合、その企業の株を全て買い占めて解散させた方が、理論上は利益が出るという、極めて割安な状態を示唆します。

「実績PBR」とは?

PBRの基本を理解したところで、いよいよ本題である「実績PBR」に焦点を当てていきます。「実績」という言葉が示す通り、この指標は企業の過去の財務データに基づいて算出されます。なぜ過去のデータを用いるのか、そしてそれを見ることの利点と注意点は何かを詳しく見ていきましょう。

実績PBRの定義と計算方法

実績PBRとは、直近に確定した決算期の純資産(実績値)を基に算出したPBRのことです。計算式自体は通常のPBRと同じですが、分母となる「1株あたり純資産(BPS)」に、前期末などの確定済み財務諸表から得られる実績値を用います。

実績PBR=現在の株価​ ÷ 前期末などの実績BPSこの指標は、すでに公表され確定した客観的なデータに基づいているため、誰が計算しても同じ数値になるという信頼性の高さが特徴です。

なぜ「実績」の数値を見るのか?

投資家が実績PBRを確認する最大の理由は、その信頼性にあります。企業の業績予想には、時として希望的観測が含まれたり、外部環境の急変によって大きく変動したりする可能性があります。一方で、実績値は過去の経営活動の結果として確定した動かぬ事実です。この確定した数値を基準とすることで、現在の株価が過去の資産に対してどのような評価を受けているかを、客観的に把握できます。

実績PBRを活用するメリット

実績PBRを活用するメリットは、その客観性と安定性にあります。決算が確定しているため、数値のブレがなく、異なる企業間の比較や、同じ企業の過去との比較を公平に行うことができます。特に、業績が安定している成熟企業や、景気の影響を受けにくいディフェンシブな銘柄を分析する際には、信頼性の高い実績PBRが有効な判断材料となります。

実績PBRを見る上での注意点・デメリット

実績PBRの最大の注意点は、あくまで「過去」のデータであるという点です。企業は常に変化しており、過去の資産状況が将来の収益性を保証するわけではありません。例えば、大規模な設備投資や事業再編を行った企業の場合、過去の実績値が現状を正確に表していない可能性があります。実績PBRだけを見てしまうと、企業の成長性や将来の変化を見逃すリスクがあることは認識しておくべきです。

「実績PBR」と「予想PBR」の違いと使い分け

PBRには実績PBRの他に、もう一つ「予想PBR」という指標が存在します。この二つは、時間軸の捉え方が根本的に異なります。実績が「過去」を映す鏡であるのに対し、予想は「未来」を映す鏡といえるでしょう。両者の特性を理解し、投資戦略に応じて使い分けることが、より洗練された企業分析につながります。

予想PBRとは?未来の価値を織り込む指標

予想PBRとは、企業が公表する業績予想や、証券会社のアナリストが算出する予想値を基に計算されたPBRです。計算式の分母に、今期末や来期末に達成されるであろう「予想1株あたり純資産(予想BPS)」を用います。

予想PBR=現在の株価 ÷ 今期末などの予想BPS​

純利益の計上による純資産の増加を先取りして評価するため、実績PBRよりも低く算出される傾向があります。

信頼性の「実績」か、成長性の「予想」か

実績PBRと予想PBRのどちらを重視するかは、何を評価したいかによります。実績PBRは「確定した事実に基づく信頼性」が魅力であり、企業の現在の資産価値に対する株価の評価を堅実に測れます。一方、予想PBRは「将来の成長性」を織り込んでいる点が特徴で、企業のポテンシャルを含めて株価の割安度を判断したい場合に有効です。ただし、予想はあくまで予想であり、達成されないリスクも内包しています。

投資スタイル別に見る使い分けのヒント

両者の使い分けは、投資家のスタイルによっても変わってきます。例えば、企業の資産価値に着目し、長期的に安定したリターンを目指すバリュー投資家は、信頼性の高い「実績PBR」を重視する傾向があります。一方で、企業の将来の成長性に賭けるグロース投資家は、未来の価値を反映した「予想PBR」を参考に、株価の上昇余地を探ることが多いでしょう。

実績PBRを投資判断に活かす方法

実績PBRという一つの指標だけを見て投資を決定するのは賢明ではありません。その数値を多角的に解釈し、他の情報と組み合わせることで、初めてその価値が発揮されます。ここでは、実績PBRを実際の投資判断にどのように組み込んでいくか、具体的な分析アプローチを紹介します。

業界平均や同業他社との比較

実績PBRの絶対値だけで割安・割高を判断するのは困難です。なぜなら、適正とされるPBR水準は、業種によって大きく異なるからです。例えば、大規模な工場や設備を必要とする製造業は純資産が大きくなるためPBRが低めに出やすく、逆にITサービス業のように有形資産が少ない業種はPBRが高めに出る傾向があります。したがって、同じ業界の平均値や、競合他社との比較が不可欠です。

過去のPBR推移(時系列分析)との比較

その企業自身の過去の実績PBRの推移を確認することも、有効な分析手法です。これを時系列分析と呼びます。例えば、ある企業の実績PBRが過去5年間の平均レンジ(例えば1.2倍〜1.8倍)の下限に近い水準にあれば、過去と比較して株価が割安な状態にある可能性を示唆します。逆に、過去のレンジを大きく上回っていれば、過熱感が出ているサインかもしれません。

PBR以外の指標(PER, ROE)と組み合わせた多角的な分析

PBRは企業の「資産」の側面から株価を評価しますが、企業の「収益力」は評価できません。そこで、収益力を測る指標であるPER(Price Earnings Ratio、株価収益率)やROE(Return On Equity、自己資本利益率)と組み合わせて分析することが、企業の全体像を捉える上で極めて有効です。例えば、PBRが低くても、ROEも著しく低い場合、それは資産を有効に活用して利益を生み出せていない「万年割安株」の可能性があります。

近年の市場動向とPBRへの注目:東証の要請を読み解く

近年、日本の株式市場において、PBRという指標がかつてないほどの注目を集めています。そのきっかけとなったのが、東京証券取引所(東証)による上場企業への異例の要請です。この動きは、投資家がPBR、ひいては実績PBRという指標を再評価する大きな転換点となっています。

PBR1倍割れ問題とは何か

東証は2023年以降、PBRが継続的に1倍を割り込んでいる上場企業に対して、その改善に向けた具体的な方針や目標を開示するよう強く要請しました。PBRが1倍を割れている状態は、市場がその企業の事業価値よりも解散価値の方を高く評価している、つまり「事業を続けるよりも解散した方がマシ」と判断しているに等しいと見なされます。この深刻な状況が、日本市場の魅力低下の一因と指摘されてきました。

東証が企業に求める資本コストや株価を意識した経営

東証の要請の背景には、日本企業が株主から調達した資本(資本コスト)に見合うだけのリターンを生み出せていない、という問題意識があります。企業に対して、自社のPBRやROEの水準を正しく認識し、資本効率を高め、株価を意識した経営を実践することを促しています。これには、成長投資、株主還元の強化(増配や自社株買い)、不採算事業からの撤退などが含まれます。

投資家としてこの動きをどう捉えるか

この東証の動きは、投資家にとって大きなチャンスとなり得ます。これまでPBR1倍割れで放置されてきた企業が、本腰を入れて改善策に取り組むことで、企業価値が向上し、株価が見直される可能性があるからです。実績PBRが低い銘柄の中から、本気で変革に取り組む意思と能力のある企業を発掘できれば、大きなリターンを期待できるかもしれません。

実績PBRを多角的な企業分析の出発点に

実績PBRは、企業の過去の財務状況という確定した事実に基づき、現在の株価の立ち位置を客観的に示してくれる信頼性の高い指標です。しかし、それはあくまで企業の「資産」という一面を切り取ったものに過ぎません。

その数値の背景にある企業の収益力(ROE)や成長性(予想PBR)、そして市場全体の動向を考慮に入れることが不可欠です。実績PBRを多角的な企業分析の出発点と位置づけ、様々な情報を組み合わせることで、より高い精度で投資判断を行うことが可能になるでしょう。


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