
今回のテーマは、ずばり「新リース会計基準」への対応。そしてみなさんの「本当のお悩み」の原因になりがちな「税務調整」にスポットを当てます。監修いただいたのは、会計・経理のBPO(* )サービスを25年以上行っている、CSアカウンティング株式会社 代表取締役の中尾篤史さん。多くの会社の経理の現場を見てきた、「経理業務のプロ中のプロ」です。
* BPO……ビジネス・プロセス・アウトソーシングの略称。業務の一部または業務プロセスの全体を外部委託するアウトソーシング形態を指します。
2027年4月1日以後開始事業年度から強制適用される新リース会計基準。多くの企業で準備が進められていることでしょう。新基準への対応というと、つい「会計」の作業、つまりリース取引のオンバランス化(使用権資産とリース負債の計上)に意識が向きがちですが、本当に頭を悩ませるのはその後の「税務調整」です。
新リース会計では、今まで税務上オフバランスだった法人税法上の賃貸借取引(以下、「オペレーティング・リース取引」とします。)が会計上はオンバランスされるため、会計と税務の考え方が一致しない部分が生じます。このギャップを埋めるための税務調整が、決算期の経理担当者を大いに悩ませる要因となります。
この課題は、「事前の備え」と「実務テクニック」によって解決できます。どのように対応すればよいかのヒントを、今回のTipsでお伝えします。また、新リース会計適用後の法人税、消費税、外形標準課税の税務調整をスムーズに行うための具体的な方法を解説いたします。
会計の作業はシステム化で効率アップ!
新リース会計への対応において、まず検討すべきはシステムの導入です。特に、減価償却システムやリース管理システムは、オンバランス化されたリース取引の会計処理を大幅に効率化してくれます。
例えば、以下のような作業が自動化され、決算早期化に大きく貢献します。
- 契約情報の自動計算:リース契約の情報を入力するだけで、使用権資産やリース負債の帳簿価額を自動で計算してくれます。
- 契約変更時の再計算:契約内容に変更が生じた場合も、新しい情報を入力すればリース負債の見直し計算を自動で行ってくれます。
- 仕訳の自動生成:リースに関する仕訳を自動で生成し、会計システムと連携させることで、手作業による入力ミスや工数を削減できます。
まだこうしたシステムを導入していない場合は、この機会に検討してみることをお勧めします。会計処理の大部分をシステムに任せることで、人間はより複雑な税務調整に集中できる環境を整えましょう。
税務調整を効率化する実務テクニック

会計処理はシステムである程度自動化できても、税金計算のための税務調整は、現状のシステムでは完全に自動化することが難しい場合があります。しかし、ここでも「会計システム上のマスタ設定や仕訳の工夫」によって、作業効率を格段に上げることができます。
鍵となるのは、法人税法上の賃貸借取引(オペレーティング・リース取引)と、税会一致する法人税法上のリース取引(いわゆる「ファイナンス・リース取引」)を明確に区別し、必要な調整だけをスムーズに抽出できるようにしておくことです。
ここでは、多くの企業でリース取引に該当して使用権資産の計上等をすると思われる、不動産の賃貸契約における借手側の処理を前提に考えてみます。
1. 法人税調整の効率化
簡単な設例として、
月額支払額が1,000,000円
追加借入利子率 8%
リース期間 5年
という条件かつ会計仕訳を以下のように処理している前提で考えます。
【リース開始時】
| 使用権資産 | 47,913,000円 | リース負債 | 47,913,000円 |
【1年目リース料支払い時】
| リース負債 | 8,167,000円 | 現金預金 | 12,000,000円 |
| 支払利息 | 3,833,000円 | ||
| 仮払消費税 | 1,200,000円 | 現金預金 | 1,200,000円 |
【1年目決算日】
| 減価償却費 | 9,582,600円 | 減価償却累計額 | 9,582,600円 |
法人税法上、オペレーティング・リース取引に係る支払額は、債務が確定した部分のみが損金算入の対象となります。一方、新リース会計では使用権資産の減価償却費と支払利息が計上されます。このズレを調整するために、申告書の別表4と別表5(1)で加減算処理が必要です。
- 別表4(加減算調整)
- 会計上の減価償却費9,582,600円と支払利息3,833,000円を加算。
- 税務上の賃借料12,000,000円を減算。
- 別表5(1)(資産負債の調整)
- 使用権資産47,913,000円を留保・減。
- 減価償却累計額9,582,600円を留保・増。
- リース負債47,913,000円を留保・増、8,167,000円を留保・減。
この調整を効率的に行うため、使用権資産、リース負債、減価償却費、支払利息といった科目に、あらかじめ「補助科目(例:税務調整オペレーティングリース)」を設定しておきましょう。これにより、決算時にこれらの科目だけを簡単に抽出でき、調整作業がスムーズになります。
2. 消費税調整の効率化
新リース会計でオンバランスされたリース取引のうち、オペレーティング・リース取引に該当するものは、消費税の分割控除が適用されます。つまり、リース開始時に一括で控除することはできず、リース料の支払うべき日ごとに控除額を計算する必要があります。
ここで有効なのが、以下の仕訳例にある「賃借料の両建て計上」という実務テクニックです。
【リース料支払い時】
借方 貸方 リース負債(補助:税務オペリース) 8,167,000円 現金預金 12,000,000円 支払利息(補助:税務オペリース) 3,833,000円 賃借料(補助:税務オペリース、課税仕入) 12,000,000円 諸口 12,000,000円 仮払消費税 1,200,000円 現金預金 1,200,000円 諸口 12,000,000円 賃借料(補助:その他、消費税は対象外) 12,000,000円 【賃借料の両建計上】
上記には以下の仕訳が含まれています。- (借方)賃借料(補助:税務オペリース、課税仕入)12,000,000
- (貸方)賃借料(補助:その他、消費税は対象外)12,000,000
この仕訳をすることで、以下のように業務が効率化されます。
- 消費税の分割控除:借方で仮払消費税を認識して、リース料の支払いごとに仕入税額控除額を計算できます。
- 会計上の賃借料のゼロ化:借方と貸方で賃借料を両建て計上することで、会計上の最終的な賃借料をゼロにできます。これにより、新リース会計基準が想定する決算数値と合致します。
3. 外形標準課税調整の効率化
外形標準課税の計算においても、オペレーティング・リース取引に関する調整が必要です。
- 純支払利子:オペレーティング・リース取引に係る支払利息は除外します。設例の場合は3,833,000円です。
- 純支払賃借料:オペレーティング・リース取引である家賃分を別途加算します。法人税法上、税務上減算調整した分で、説例の場合は12,000,000円です。
ここでも、支払利息と賃借料に補助科目を設定しておくことが重要です。これにより、外形標準課税の計算時に必要な金額を正確に抽出し、スムーズに調整できます。
まとめ
新リース会計は、単なる会計基準の変更ではなく、法人税、消費税、外形標準課税といった多岐にわたる税務調整を伴うものです。
会計処理の効率化にはシステムの導入を検討し、税務調整の効率化には勘定科目への補助設定や仕訳の工夫を実践することで、決算作業の負担を大幅に軽減できます。
強制適用までまだ時間がある今だからこそ、自社の経理システムや業務フローを見直し、十分な備えをしておきましょう。この準備が、今後の経理業務の安定につながるはずです。
<シリーズ記事>
「経理の実務Tips」集Vol.1 経理DXの第一歩!「手入力ゼロ」を目指す実践的アプローチ
「経理の実務Tips」集Vol.2 手戻りゼロを目指す! 後工程を見据えた「マスタ設定」実践テクニック
「経理の実務Tips」集Vol.3 新リース会計適用前に税務調整に十分な備えをしておこう(本記事)
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