新型コロナウイルスの第5波は一旦落ち着いたものの、ビジネスシーンでは、いまだに思うような経済活動ができない業界も少なくありません。
このような環境下で、会社の倒産や人員整理により、もともとはそのつもりがなかったけれど起業に踏み切る「アクシデンタルアントレプレナー」と呼ばれる人や、市場環境が変わって方針転換を余儀なくされながらも、果敢に起業にチャレンジする人たちがいます。
厳しい環境でも成功する起業の秘訣を探るべく、創業融資サポートで多くの実績をもつ株式会社SoLaboの田代さんと、実際にコロナ禍で創業した合同会社チャンスの田中さんにお話を伺いました。
コロナ禍で増えているアクシデンタルアントレプレナーとは
株式会社SoLabo(ソラボ)は資金調達支援を中心に、企業の創業および事業運営支援を実施。経営革新等支援機関(認定支援機関)の認定を受けた支援機関として、これまでに4,500件以上の資金調達をサポートしている。
―本日は、起業を検討している方にとって参考になるアドバイスをいただければと思います。SoLaboさんでは多くの企業の融資申請を支援なさっているそうですが、創業の際に融資を受けるポイントを教えていただけますか。
ご存知の通り、融資とは、企業が事業を行うために必要な資金を調達する方法の一つです。
起業して新しく事業を始めるときの「創業融資」の申し込みができる金融機関は、主に政府系の「日本政策金融公庫」と、民間の信用金庫、地銀などが候補とされています。お金を借りる方法は他にもありますが、低金利の創業融資というと、まずはこれらが挙げられます。
創業融資を受ける際の金融機関の審査で、最も見られるポイントが、①経験、②自己資金、③信用情報(ローン、クレジット)の3つです。
①の「経験」は、起業する分野での就業経験がまったくなかったり、短かったりすると審査が通りにくくなります。経験は審査ではかなり重要なポイントです。経験不足というだけで落ちることも多いため、当社では事前に経歴書も用意するようにご案内しています。
②の「自己資金」は、よく借入希望額の最低10分の1の自己資金があればよいと認識されていますが、現在はコロナ禍ということもあり、なるべく自己資金に余裕があるほうが有利です。
また、計画性もチェックされます。例えば、300万円の自己資金がある場合でも、それがコツコツ貯めた300万円か、無駄使いして残ったのが300万円なのか、といったように通帳の入出金記録などを確認され、審査での見られ方が変わる可能性もあります。
③の「信用情報」は、クレジットカードや住宅ローン、携帯電話代金等の支払いで、過去に遅延などがないかのチェックです。そうした過去の情報は「信用情報機関」という、個人のローンやクレジットカードの契約内容、借入状況、返済状況などの情報を収集・管理する機関に記録されています。
その他にも、融資の希望額が不必要に大きすぎるのもマイナスです。例えば、事業を始めるのに1,000万しか必要ではない方が3,000万で申請すると、審査する側は「計画性がない管理のできない人」と見なします。また、資金使途が事業計画で必要とされる内容と整合性が取れていることも重要です。
創業した後でも創業融資の申し込みは可能ですが、お金に困ってから融資申請すると、本当に返せるのか返済能力を厳しく見られてしまうことがあります。タイミングには注意してください。
融資の審査が通らない(借り入れに失敗する)パターン
- 起業分野での実務経験がない
- 自己資金がない、もしくは計画性がない
- 過去にクレジットカードや住宅ローン等の支払い遅延したことがある
- 事業計画に比べて融資申し込み額が大きすぎる
- 資金使途が事業計画からズレている
- お金がなくなってから融資を申し込む
それから、これもありがちなんですが、ご自身で融資申し込みをしたものの審査が通らず、当社を通じてもう一度融資を申し込みたいとご相談にこられるケースも厳しいです。ご本人は「挽回したい」一心ですが、同じ金融機関にNGが出た後すぐに再チャレンジして審査が通ることは、ほぼないです。審査落ちという実績が残ってしまうのはいいことではないため、事前にご相談いただければ対処法があったのにと感じるケースもありますね。
―最近ではコロナ禍で状況も変わっていると思うので、事前知識のあるなしが命取りになりそうですね。コロナ前と現在では、融資関連の動向に変化はありましたか?
弊社の場合でお話しすると、コロナ前は全体の半分以上が創業融資サポートでした。しかし、ここ半年を振り返ると、月によって変動がありますが、少ない月だと創業融資は3割程度というときもあります。反対に増えているのは、既存の事業者が事業の継続や新事業のチャレンジの為に融資を受けたいというご相談ですね。
ただ、やむを得ず起業を選択するという人も出てきています。会社の業績が悪くなって早期退職を余儀なくされたけれど転職も厳しいため起業したい、というような深刻な相談は以前より増えていて、そのような人は「アクシデンタルアントレプレナー」と呼ばれるようになってきています。このような人達の増加がコロナ以降の一つの現象ですね。
アクシデンタルアントレプレナーが失敗するケース
―起業って勢いだけではできないものだと思うのですが、窮地に立たされて起業するアクシデンタルアントレプレナーってうまくいっているのでしょうか?
あくまで「融資」の観点からですが、アクシデンタルアントレプレナーには審査が厳しいというケースがコロナ禍で増えているようです。というのも、自己資金が少ない中での創業融資申請となると、コロナ関係なく審査通過は難しいものとなります。それに加えて、経験分野ではない別事業での起業となると、さらに審査のハードルが高くなってしまいます。
一方で、自己資金はあるけど、未経験で事業を始めたいという方の相談もあります。その中には、フランチャイズ(FC)に加盟して事業を始めるケースの相談も増えました。
例えば「希望退職制度で割増退職金などが出たりして、ある程度の手元資金があるうえに、FCに加盟すれば未経験でも経営できると言われたので起業したい」という相談もありました。しかし、融資の審査では、FCのノウハウが提供されるから「経験あり」とみなしてくれることはなく、基本はご本人に経験がなければ「経験なし」と判断されることが多いです。加えて、「とりあえず自己資金を投じて未経験の事業をスタートしたけれど、資金がすぐ底をついてしまいそうなので融資申請したい」といったパターンだと、計画性などの観点から審査は非常に厳しいものとなります。
経験のある方が事業の確度を高めるためにFCを活用する、というのであれば審査が通りやすいですが、「未経験でもFCに入れば創業融資が簡単に受けられる!」というような認識だと難しいことが多いですね。
―逆に、アクシデンタルアントレプレナーで融資を受けられた事例などはありますか?
弊社のお客様で、コロナ禍でも飲食店を開業し、頑張っておられる方々がいます。いずれの方も、ご自身が長年勤務していた飲食店が新型コロナの影響で継続が難しくなり起業をしたという、まさにアクシデンタルアントレプレナーです。新たな店舗をいちから始めた事例もあれば、お店と従業員の雇用を守るために融資を活用して、勤めていた店舗を引き継ぐ形で起業されたというケースもありますね。
融資審査通過のポイントはその分野での業務経験が十分にあったことと、また不慮の出来事とはいえ自己資金を貯蓄などで形成できていたことでした。もちろん、根本にあるのは、お客様や従業員のためにもお店の灯を消さない、という強い想いだと思います。
―これから起業したい人が成功できるように、気を付けるべきことを教えてください。
「社会が大変な状況なんだから創業融資だって簡単にしてもらえる」と強気で相談に来られる方が多いのですが、現実はそう甘くありません。とくに今は「コロナだから助けてくれるだろう」という救済的な発想ではなく、「コロナなのに自分はこうやって創業して成功できる」という説得力が必要な状況になっています。今の会社に勤務している間にできる限りの準備をし、必要な融資についても創業前から金融機関や専門家に相談することをおすすめします。
着実な準備で、コロナ禍であっても順調に起業
SoLabo田代さんのお話から、創業時の融資にまつわるポイントや、コロナ禍での起業の傾向が見えてきました。さらにコロナ禍での起業の実態に迫るべく、2021年に介護支援専門員(ケアマネージャー)として起業した、合同会社チャンスの田中秀和さんにお話を伺いました。
ケアマネージャーの経験を生かして、2021年2月に独立起業(オンラインにてインタビュー)。
― 起業前はどのようなお仕事をされていて、いつ頃から起業を考え始めたのでしょうか。
起業の直前まで、ケアマネージャーとして勤務していました。7年前にケアマネージャーの資格を取って、その頃から将来独立することも視野に入れていました。起業したのは、自分の判断で事業をやってみたいという気持ちがあったからです。独立を見据えた準備としてFPの資格取得をし、確定申告などもこれまで専門家を頼らずにやってきました。
―個人事業主ではなく法人化された理由はなにかあったのですか?
ケアマネージャーとして居宅介護支援事業所を開所するには法人であることが条件となっているんです。個人事業主というのは制度上無理だったため、法人化一択でした。
― 会社設立の準備、手続きにはどの程度時間を要しましたか。また創業のための費用はどのようにして工面されましたか?
退職を決めた2021年1月から設立の準備を開始して、2月9日には法人登記が完了しました。2月、3月は引き継ぎなどに充てて3月に退職し、4月から自分の会社の経営を無事にスタートできました。
とりあえず何でも自分でやってみようと思う性格なので、法人登記も行政書士に任せず、直接法務局に行き、結局自分の力だけで全てできてしまいました。ですが、周りに起業する人がいたらもっと効率的な方法をとるよう勧めます(笑)。
ケアマネージャーの仕事は特別な設備などは必要なく、初期投資がほとんどかからないので、当初資金調達は考えていませんでした。
たまたま自分がお世話になっている整体師の方が、「すぐに必要はなくても融資は受けられるときに受けたほうがいい」とアドバイスをくれました。それで商工会議所に相談に行って、250万円の創業融資を受けました。
創業後数ヶ月は収入が無くても大丈夫な自己資金は準備していましたが、体調不良や何かあったときのために資金に余裕があるのは安心感があります。今後従業員を増やすタイミングで、また追加融資を受けようかと考えています。
― コロナ禍での起業は勇気が要ったのではないでしょうか。半年間会社経営をされてみて、今どのように感じますか?
現在の環境に少し心配はありましたが、介護という仕事はコロナであろうとなかろうと、絶対に必要な社会インフラだという考えはありましたね。
起業して半年がたち、会社経営って暗中模索の中でも自分で判断して突き進むものだと感じます。100%の答えがない経営というものを、苦戦しながらも前向きに楽しめています。
起業前、勤務先で貴重な体験がありました。私の勤務していた法人の併設デイサービスで新型コロナウイルスクラスターが発生し、関係各所からの情報も十分得られない中、お客様やそのご家族に、現状や今後の対応についてどのように説明して安心してもらうのか、たくさんのジレンマを抱えながら仕事をしていました。
会社で働いていれば会社の方針に従うしかありません。しかし、経営者になった今は自分の判断で対応できます。あの時の経験があったからこそ、窮地に立たされた時に的確な判断をしたいと強く思えるようになっています。
これからも、起業したからこそできることにたくさんチャレンジしていきたいです。
最後に
田中さんの場合、資格取得など起業後を見据えて着実に準備してきたことが、コロナ禍であっても順調に起業できた土台になっているという印象を受けました。やはり、念入りな準備がプラスに働くことは間違いありません。
一方、SoLabo田代さんが成功事例として挙げてくれた飲食業で起業した方は、コロナ禍がなければ起業していなかったというように、決して十分な準備ができたわけではありません。しかしながら、その分野で長く実務経験を積んでいたこと、また会社の中で培ってきた実績や良好な人間関係があったからこそ短期間で必要なリソースを確保し、いい形で開店できたものと思われます。
今いる職場で真摯に職務に取り組み、良い経験、良い人間関係、周囲からの良い評価を作ることが起業後の成功のカギと言えそうです。
弊社マネーフォワードでは「マネーフォワード クラウド会社設立」というサービスをご提供しています。フォームに沿って入力するだけで、簡単に会社設立に必要な書類作成ができ、創業時の事務手続きを効率化できます。これから会社を設立しようと考えている方にご活用いただき、本業に集中して事業の成功を目指していただきたいと思います。
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