中小企業が今こそ取り組むべき「人事評価制度」改革とは

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会計 中小企業が今こそ取り組むべき「人事評価制度」改革とは
【プロフィール】
株式会社OAGコンサルティング
取締役 大谷洋一郎 様

⼈事・税務会計顧問、経営コンサルティングを行う。全国各地で、経営幹部をはじめ、経理・営業担当者などを対象に講演、セミナーでの講師も務める。「財務の視点からの⼈事制度構築」および「税務を活かしたキャッシュフロー経営」といった内容の、明快で実践的な解説には定評がある。

コロナ禍で急激にテレワークが広がり、「人材育成」や「人事評価制度」のあり方が大きく変わらざるを得なかった昨今。中小企業の課題が多岐に渡るなか、前例のないコロナ禍において、「人材難」「人手不足」「働き方改革」など人材に関する問題は、棚上げにされたままくすぶり続けています。
今こそ人材活用が非常に大事であると語るOAGコンサルティングの大谷洋一郎さんに、中小企業の「人事評価制度」の課題と、その解決法についてお話を伺いました。

OAGコンサルティングの事業概要

――OAGコンサルティングは「企業のポテンシャルを引き出すパートナー」をモットーに掲げていらっしゃいますが、どのような活動をおこなっているのか概要を教えてください。

OAGグループは母体が税理士法人でして、中でも財務面のコンサルティングに特化しているのが弊社「OAGコンサルティング」です。

ここ10年くらいで、中小企業の経営者のニーズが変わってきています。以前は、自社の財務状況を「見える化」することに課題感を持つ企業が多く見受けられましたが、今は1つフェーズが進んで、新たな知見を得て成長していく戦略を求めている企業が多いと感じます。

具体的には、業務時間やコストを削減するデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するために、どのように事業計画とITシステムを絡めたら良いかや、企業の成長を前提とした事業承継や上場、人の活用方法などをコンサルティングしてほしいというニーズですね。特に、ここ10年ほど人材活用にフォーカスが絞られていると感じていましたが、コロナ禍で一気にそのご相談が増えた印象があります。

コロナ、OAG、大谷洋一郎

コロナ禍を経て中小企業が取り組むべき「人事評価制度」改革

いま中小企業が抱えている課題とは


――コロナ禍で拡大したテレワークによってオフィスのあり方が変わり、コミュニケーションやマネジメントも変化してきています。今、中小企業が抱えている課題とはどのようなものでしょうか?

まず、世の中的にはテレワークが拡大していると言われていますが、実は多くの中小企業はテレワークにシフトできていない状況です。東京商工リサーチによると、「テレワークが制度化」された企業は、資本金1億円以上の大企業が53.7%だったのに対し、中小企業が23.6%。つまり中小企業の約76%が、この変化に対応できていないということです。

理由としては、中小企業は大企業のように「業務の切り分け」ができない会社が多いことが考えられます。なぜなら中小企業は、大企業のように組織的に仕事が動かされることが少なく「これは○○さんの仕事」といった属人的な仕事が多いからですね。また普段パソコンを使い慣れていないミドル層、シニア層がテレワークにうまくアジャストできないという面もあるでしょう。

このように中小企業は大企業と比べてテレワークに適応しづらいのですが、そうであれば、中小企業なりの対策をしなればならないということですね。

そこでよくご相談をいただくのが「人材の質」についてです。
中小企業は人材に流動性がありませんから、今いる従業員の生産性をどう上げていくか、またどうやってよい人材を確保するか、ということにフォーカスを当てています。
例えば、中小企業には就業規則や有給休暇が整備されていないなど、労務面での問題があると、いい人材は入ってきません。ですから、福利厚生や労働環境を会社の魅力にできるよう、子育てサポートが優良な事業者に与えられる「くるみん」や女性活躍推進事業者の「えるぼし」といった認証の取得に取り組む会社もあります。

様々な企業とお会いしましたが、やはり、中小企業は「人材の質」を上げることに注力する必要があると考えています。

経営における「人事評価制度」の重要性

――先ほど、「人材の質」を上げていく事が必要だとお聞きしました。まずは「人材の質」を可視化することが必要だと思われますが、経営では「人事評価制度」がその役割を果たすのでしょうか?

そうですね。そもそも中小企業には、人事評価制度がない会社もたくさんあります。社長が人事評価っぽいことをしているだけといったケースですね。それですと不公平感が出てよろしくないということで、人事評価制度を導入することを決めます。ここで重要なのが、『人事評価制度というものは導入すればすぐ運用できるシステム的な制度ではなく、さらに、従業員を判定するための制度でもない』ということです。人事評価制度の本質は、「会社の理念を浸透させるための制度」。つまり、会社の経営理念を具現化できる人材を育成するための仕組みづくりなのです。

もし事業計画や経営理念が策定されないまま人事評価制度を入れてしまうと、スタッフはなにを目標に仕事に取り組めばいいのか、「あるべき姿」はどうなのかが分かりません。何をどう評価されるかわからないようでは、スタッフのストレスにしかならない。ですから、会社の理念や状況によって理想の人事評価制度の形はそれぞれ違うと言えます。

中小企業にとっての「人事評価制度」

――中小企業の「人事評価制度」は、どのような課題を抱えているとお考えですか?

個人がマルチに活躍しないといけない分、本来よりいっそう人材ケアへの注力が求められるのが中小企業です。しかし中小企業の評価者となる課長や係長クラスの人たちは、とても忙しいですから、しっかりとした評価者研修を受けていないことが多いんですね。そうすると人事評価制度があったとしても、「あいつはよくやってるからA」「言うことを聞かないし飲みにも来ないからB」といった「判定」になってしまうわけです。

現状、新入社員の3人に1人が3年以内に離職してしまうと言われています。そしてその原因は「評価者である上司から認められなかったから」と答える人がとても多い。スタッフのモチベーションを維持し、生産性を上げるアプローチの基本は「期待を伝える」「環境を用意する」「褒める」の3点です。しかし、中小企業では、「企業理念がなく期待が明確にならない」「戦略がなく環境づくりができない」「職人気質で褒めるのが下手」と反対方向に3拍子揃ってしまっている場合が多く見受けられます。

例えば、「7年働いたし君は課長だ!」などいった理由で昇進して上司となり評価者となると、彼ら自身も自分の職責がわかっていないという事態が起こります。
これは人事評価制度が、評価者の職責を判定することではなく、経営者の理念の代弁者としてチームを作ることである、といったことが定まっていない代表例だと思います。

大谷洋一郎、OAG、人事改革

失敗しない「人事評価制度」のコツ

――自社を理想へと近づける人材を育成し、生産性向上を果たすための「人事評価制度」はどのように作ればよいのでしょうか。その勘所を教えてください。

係長、課長クラスの「一次評価者」が人事評価制度を完全に理解しない限り、制度はうまく運用できません。私たちは制度づくりと運用が2:8の割合になるよう、マネジメント研修に力を注いでいます。研修では、半分以上自社について考えるワークの時間をとります。そしてアクションプランを設定し、半年後にそのプランの振り返りをするところまでをセットにしています。

それでも中小企業の評価者を、評価=育成という認識に変えるのは時間がかかります。私たちは評価者にも納得感をもってもらうことが大切だと思っていますので、まず「エンゲージメントの見える化」をします。「この1週間で褒められたか?」といった各種指標を全社員にアンケートするんです。ちなみに「褒められたか?」のエンゲージメントはどの会社も低いですよ。研修ではあえて、高いエンゲージメントを出した項目から取り組みます。低いところを改善するのではなく、高い項目をより伸ばしていくことで、おのずと人事評価制度全体が本質的により高レベルなものに変わっていきます。

ある管理職の方が「褒められたか?」のエンゲージメントが低いのが気になって、早速改善に取り組んだそうです。なにかと褒めまくったんですね。すると半年後「褒められたか?」のエンゲージメントはさらに下がりました(笑)。意味も分からず褒められても気持ち悪いだけなんですね。期待を伝えたうえでスタッフが行った行動を評価して褒めなければ意味がない。褒めるというのは、本来手間暇をかけないといけないものなのです。

では、そのスタッフに伝えるべき期待値や目標はどのようにして導き出せばよいのか。OAGグループは税理士法人が母体となっていることから、財務的な目線で人事評価制度を立案します。人事評価制度自体と財務がしっかりリンクしているということです。数値をもとにした「定量評価」に耐えうる評価基準を作っています。

たとえば細かいですが「売掛金の回収日数」や「在庫の回転率」など、スタッフが責任を負える指標に関して、財務分析したデータからリアルな数値に落とし込んで目標を設定します。人事制度は基準が定まっていない「定性評価」のイメージが強いと思うのですが、そこに財務を組み入れることで、よりリアルで経営者にもスタッフにも納得感のある「定量評価」での制度設計を進めることができます。

コロナ禍を経てこれからの企業戦略とは

――コロナ禍を経て、今後中小企業がとるべき企業戦略を教えてください。

今はなんとなくなんでも「コロナ禍が原因で」と言える雰囲気ですが、アフターコロナになってみたら、人材難、国は借金まみれ、労働生産性は低いと、想像しただけでも恐ろしい状況かもしれません。労務環境の整備、評価者の研修制度構築、働き方改革などは急務となるでしょう。中小企業こそ人にフォーカスして、人材のエネルギーを活かしていくことに活路を見出してほしいと思います。

財務の帳簿だけなら、どんどんコストカットすれば一応よく見せることはできます。しかし、同じくらい大切な「人の価値」は簿外資産のようなもので、数字には出てきません。人材的にも財務的にも危機的な状況にあった事業者でも、人事評価制度を正しく取り入れ、人の価値を時間をかけて高めていこうと取り組んだ結果、3~4年で大きく持ち直した例もあります。そのくらい人材育成は大切なことであると言えます。

人事評価制度で大切なのは、目的・ビジョンを明確にすることです。流行りのシステムを入れたりExcelで複雑な評価シートを作ったりしても、途中で活かしきれなくる会社が多いのは、目的が明確になっていないためです。その段階でお困りの事業者さんには、決して「システムを弊社のものに変更してください」などとは無理強いはしませんから、目的をクリアにするためにも、我々のところに相談に来ていただければと思います。

※掲載している情報は記事更新時点のものです。

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