国税庁OB袖山税理士が語る!令和3年度税制改正大綱とデジタル化社会の展望とは(後編)

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「2025年の崖」まであと4年となった2021年。自由民主党が令和3年度税制改正大綱を発表しました。その中には デジタル社会の実現や経済のデジタル化への国際課税上の対応、円滑・適正な納税のための環境整備なども盛り込まれています。

また2021年9月には、新たにデジタル庁も創設される予定です。今後、大企業だけではなく中小企業でもデジタル化がますます進んでいきそうですが、同時に多くの課題も残っています。税制改正や企業の経理業務のデジタル化などこれからの展開について、国税庁OBで現在SKJ総合税理士事務所の所長である、税理士の袖山喜久造さんにお話をお聞きしました。

前編はこちら:国税庁OB袖山税理士が語る!令和3年度税制改正大綱とデジタル化社会の展望とは(前編)

取材ご協力:
袖山 喜久造(そでやま きくぞう)
SKJ総合税理士事務所 税理士。中央大学商学部卒業後、長年に亘って国税庁や東京国税局調査部において大企業の法人税調査事務等に従事。平成24年に退職し、税理士事務所を設立。税務コンサルティングや税務調査対応を行うとともに、電子帳簿保存法に精通した国内屈指のスペシャリストとして、経理書類や証票のペーパーレス化、電子化を普及・促進する。

「2025年の崖」で企業は大きな経営判断を迫られる

―大企業も含めて経産省は「2025年の崖」を言っていますが、この件についてはどうお考えですか。

レガシーシステムを使用している企業は、現状では金融系や製造系、流通系などをはじめ非常に多くなっています。いつかは変えていかなければならないと認識していると思いますがただ、業務システムの刷新はコストが膨大であり大きな経営判断が必要です。

―電子化を進める上で、大企業や中小企業の業務は現状の運用と何が変わるのでしょうか。

現在の日本の申告納税制度は税務調査に強い権限を持たせることによって一定の適正申告を維持してきました。皆さんの会社でも税務調査対応で何をすべきかなど検討していたことと思います。
国税側も提出された申告書や収集した多数の資料情報を名寄せして調査対象の会社を選定して税務調査を行ってきました。税務調査による是正は全ての納税者に行われているわけではありません。

近年国税庁で実施される税務調査件数は年々減少しています。コロナの影響もありますが、1件の税務調査には前よりも時間がかかるようになっています。税務調査手続きの法制化により手続等に時間がかかることや、調査で解明する事実の分析や確認は企業のグローバル化、ITを駆使した脱税スキーム、タックスプランニングなどにより複雑困難化しています。これに対応する国税庁の職員は国家公務員の定数削減により減少し続けています。

このため、国税庁は税務調査の必要性がない納税者を増加させる方針に切り替えています。適正申告を行うべき社内体制が整備されていると判断された納税者に対しては調査実施を緩和或いは調査期間を短縮するという税務に関するコーポレートガバナンスの評価制度の運用を始めています。
現在は国税局の所管する大規模法人が中心ですが今後は全ての納税者に対して運用が開始されることになるでしょう。

―すべてスマート税務行政に繋がっていく話ですね。インボイス制度に関してですが、事業者側の負担は増えるかなと思うのですが、インボイスが始まると申告が正しいものに近くなるので、国税側もその部分の負担は減るのでしょうか。

インボイス制度が導入されれば厳格な仕入れ税額控除をすることになりますが、申告内容の確認調査をすべての納税者について行うことは不可能です。今後消費税率を上げる際にも、現在きちんとした消費税の徴収制度が機能していることが前提になります。

インボイス制度において、適格請求書は書面だけではなくデータで交付し保存することが可能になります。データで交付される適格請求書を電子インボイスと呼んでいますが、この電子インボイスにより適切な発行と受領、そして適切な会計処理を行うことが必要です。そうすれば、請求書の発行や経理業務の負担は軽減されかつ適切な会計処理ができるようになります。

電子インボイスについては、現在電子インボイス推進協議会でそのフォーマットを統一し、どのシステムにおいても共通フォーマットで発行や受領ができるよう検討されています。昨年末、中間報告があり電子インボイスのデータ形式はPepool(ペポル)にすることが決まっています。今後インボイス制度への対応は電子インボイスで行うことが必要になってくるだろうと思います。その際に統一フォーマットで適格請求書を授受する方法を採用することが必要になり、対応できるシステムを使用することとなるでしょう。

適格請求書には領収書なども含まれます。特に経費精算で受領した領収書などは電子インボイスで対応できるでしょうか。領収データを自動連携できる方法や、適格請求書に記載すべき事項をどのようにデータ連携するかなど、経費精算システムにおいて解決すべき課題はまだまだあると思います。

デジタル庁創設によるトレンドの変化

―今年はデジタル庁創設もありますが、今後2~3年でどんなトレンドになっていきそうでしょうか。

デジタル庁は行政側の電子化の推進についてスピード感をもって実現すること、が優先的な課題であると思います。このため7割くらいはマイナンバー制度の活用、行政手続きの電子化などの業務になろうと思います。

民間企業の電子化についても、まずはインフラ構築が必要になってきます。最近ではキャッシュレス決済、電子契約サービス、クラウドの活用など様々なサービスにおいて電子化が可能となっています。こうした電子化サービスは多数の事業者が立ち上げていますが、それぞれやり方も違い、複数の方法を採用するとかえって煩雑になっていたりします。

電子化のプラットフォームの構築の方針などについてはデジタル庁に主導して検討いただければと思います。そしてこれらの電子取引サービスによるデータの活用について、国民が利便性を十分に享受できるようにすることです。

セキュリティ面のリスクが便利な世の中の推進を妨げる?

―個人情報などセキュリティの問題などで、便利になるシステムがなかなか活かされていない面もあると思うのですが、今後このような議論はされていくのでしょうか。

電子インボイス推進協議会は電子インボイスのフォーマットなどを検討していますが、電子取引を安全に行うためデジタルトラスト協議会ではデータセキュリティについて検討をしています。令和3年度の電帳法改正では電子取引データを改ざんして不正が行われた場合、重加算税を45%にする改正が行われます。データで授受するということはこうした不正のリスクがあります。重加算税への対応だけではなく、企業内で適正な処理が行われる運用体制だけではすべてを担保できるわけではなく、電子署名やタイムスタンプなどの措置をする必要があるデータも含まれると思います。
現在総務省では組織を証明する電子証明書(eシール)の制度作りをしています。2021年度中には制度化され、法人格を証明する電子証明書が利用できるようになります。電子化と同時にこうしたデータセキュリティの観点からの検討をすることも必要であろうと考えています。

2年後に迫ったインボイス制度の展望とは

―インボイス制度もいよいよ2年後と開始時期が迫ってきましたが、これからどんな展開が予想されますか?

インボイス制度への対応のキーワードは電子インボイスですね。電子インボイスをどのように発行しどのように保存するのか、電子インボイスに代わる領収書をどのようにデータ連携していくのか、今後の皆さんのようなベンダの取り組みが非常に気になります。

編集後記

今回の大綱について詳しくお話を伺い、大企業だけではなく中小企業にとっても電子化しやすい環境になったことがよくわかりました。ただし、今後は各社にとって適切な内部統制を構築することは必須です。経理部門の担当の方も情報感度をあげていく必要があるのだなと感じました。

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