欧州サッカー日本人選手の税金事情 2018年は所得税がかからない国も!

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アジアカップも終わり、ヨーロッパでプレーする選手も各チームに戻り、各国のリーグ戦も終盤戦になってきました。今回は、ヨーロッパでプレーする日本人選手の税金事情を2回にわたってお伝えしたいと思います。

前編はドイツ、フランス、オランダです。サッカー選手の移籍金は原則クラブに入るお金ですので、今回は選手自身の税金事情についてご説明します。(執筆者:公認会計士・税理士 國井隆)

独ブンデスリーガ やっぱりきっちりしている?

長谷部誠選手や大迫勇也選手、原口元気選手らが活躍する、欧州5大リーグの1つであるブンデスリーガ。ドイツの個人所得税は累進課税で15~45%です。日本とそれほど変わりません。

ドイツに移籍して、日本との違いを一番感じるのは確定申告の時期ではないでしょうか。日本では翌年3月15日までとなっていますが、ドイツでは自分自身で申告する場合は翌年5月31日までです。会計事務所に依頼する場合は、年によっても違いますが、通常12月31日まで申告期限が延長されます。

ドイツは「夫婦合算申告(夫婦で収入及び費用を合算して申告する制度)」もあるので、その点も大きく違いますね。

また、「連帯付加税(所得税の5.5%)」という税金があります。これは東西ドイツ統一にあたり、旧東独支援を目的として創設され、個人の所得に対しても課されています。日本でいう「復興特別所得税」に近いものですね。

このほかに日本の消費税にあたる「付加価値税(原則19%)」や、自治体によって税率が異なる地方税の「営業税」というのもあります。

日本人選手がドイツでプレーする場合には、ドイツの所属クラブを担当する現地の会計事務所に依頼してしまうケースもありますが、日本とは税制も異なりますので、概略だけでも理解しておきたいですね。ドイツだけでなく、ヨーロッパの国々とは租税条約が締結されていますので、その適用についても十分な注意が必要です。

個人的には、ドイツの税務当局はイメージ通りきっちりしている感じです。

仏リーグ・アン 2018年は所得税がかからない

フランスのリーグ・アンでは、名門マルセイユの酒井宏樹選手らが活躍していますね。

フランスの税率は0~45%の累進課税ですので、この国も日本と大きくかわりませんが、高額所得者は「特別課税制度(一定金額以上に対して3~4%)」があります。

2019年はフランスにおいて大きく税制が変わった年でした。日本をはじめ諸外国で導入されている所得税の源泉徴収制度を2019年1月から開始しました。これにより、2019年は2018年分の申告所得税と2019年分の源泉所得税がダブルでかかってくることになるので、マクロン政権は2018年分の通常の給与などの分について課税しないことにしています。

ただし株や不動産の売却益、利子所得や配当金などの所得に関しては課税することにしています。2018年の給与には一生税金がかからないとは……ちょっと不思議な感じですね。国の税収から見れば、2018年と2019年で税収はそれほど変わらないということになっています。

また、フランスに駐在する外国企業の従業員や役員には優遇税制があり、日本人サッカー選手も該当する場合があります。これは、日本ではサッカー選手は「個人事業主」ですが、多くのヨーロッパの国ではサッカー選手も「労働者(日本でいう給与所得者)」としてクラブに雇用されているという考え方になっているからかもしれませんね。

フランスには財産課税制度である「富裕税」という税金があるのも特徴的です。「付加価値税」も原則20%と、税金の高いイメージのある国ですね。実務でいうと、日本の確定申告制度と違い、申告書提出時に納税の義務はなく、後日、国税当局から税金の通知書が送られてくるあたり、賦課課税制度としての所得税のイメージですね。西側諸国でありながら、社会主義的な国だなぁと感じます。

一方で、個人主義的な部分もあり、税務行政機関のスタッフも夏のバカンスは1カ月以上もザラで、比較的時間がかかることも少なくない印象です。

蘭エールディヴィジ 外国からの労働者は30%免税

日本代表の堂安律選手らが所属するオランダの一部リーグは、最近日本人サッカー選手も増えていますね。

オランダの所得税は36.5~52%の累進課税になっていますが、特徴的なのは国民社会保険料を確定申告と一緒に申告する点ですね。「付加価値税」は原則21%とこちらも高めの税率です。一部「財産課税(財産の金額に応じて課税)」として税金もありますので、日本とは少し違いますね。

オランダは、ヨーロッパの中で小国ですが、税制的には存在感のある国です。高い社会保障費用とは別の視点で、税制上のメリットを制度化し、外国からの企業誘致や労働者の受け入れを積極的に行っています。

サッカー選手に関係する部分では、いわゆる「30%ルーリング」といって、外国からの労働者については一定期間について、収入の30%部分を免税にしましょうという制度があります。日本人サッカー選手にも該当するケースがありますが、私は以前に、この制度を適用しようとした際に、隣国のドイツのチームからの移籍で国境からの距離が近すぎて適用できなかったという苦い経験があります。

このルールの適用には、過去2年間において、オランダ国境から150km以内で16カ月以上就労していないことや特別な専門技術を所有していることが条件になっているのです。サッカー選手は特別な専門技術を有しているとみなされるでしょうが、国境を接しているドイツやベルギーのチームにいる選手は注意が必要です。

この「30%ルーリング」も2019年改正で適用できる年数も5年に縮小されましたので、税制改正には注目しておきたいところです。

余談ですが、オランダ人の英語力は優れていて、かなりの方が英語を流暢に操って仕事をしています。さすが資源のない小国が他の国と対等にやりあう中で、国全体の語学スキルも高くなるのだなあと感心したことを覚えています。

まとめ

ヨーロッパでプレーするサッカー選手にとって税金計算も自分ではできないので各国の専門家に依頼することになりますが、EUという地域統合体の中でも税制は各国で大きく違います。税額や税率でチームを選ぶことはありませんが、税制は国家の成り立ちによって大きく違いますので、その点を踏まえてチームと各国税金事情を見てみると面白いと思います。

【参考】
ドイツ連邦財務省
フランス公共財政総局
オランダ国税・関税庁

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執筆:國井隆(公認会計士/税理士/行政書士/公認システム監査人/FP)

税理士法人オフィス921代表社員/一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構理事
1965年生まれ、東京都出身。筑波大学大学院ビジネス科学研究科企業法学専攻前期博士課程修了。1988年に早稲田大学卒業後、旅行会社勤務を経て、1991年に公認会計士2次試験合格。同年に青山監査法人/プライスウォーターハウス入所。1996年に公認会計士・税理士國井事務所設立及び株式会社オフィス921設立。
スポーツ関係では、公財)日本オリンピック委員会加盟団体審査委員会調査チームメンバー(平成24年)、 公財)日本スポーツ仲裁機構「スポーツ団体のガバナンスに関する協力者会議」委員(平成26年~平成27年)、新国立競技場整備計画経緯検証委員会(第三者委員会)委員、国会内の超党派のスポーツ議員連盟「スポーツ・インテグリティPT」アドバイザリーボードメンバー、スポーツ庁「スポーツ審議会スポーツ・インテグリティ部会」専門委員などを歴任し、統括競技団体、クラブ、球団、マネジメント会社に対する会計・税務コンサルティングのみならずメジャーリーガー、ブンデスリーガ、国内プロスポーツ選手などはじめ数多くののプロスポーツ選手の税務・ファイナンシャルプランニングを担当している。



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